商人から買った道具を整理し、束の間の休息を終了する。
先ほど買ったばかりの弓を構え、火炎壷を投げつけてくる亡者に向かい弓を放つ。しかし弓は相手に届かない。何故ならそれは……
「遠すぎるか……」
そう、単純に距離が離れすぎていた。
確かに小さな弓だし、屋根の上と言う上を狙ってはいるのだが……道具を使った矢の射出よりも素手での投擲の方が長い距離を飛ぶと言う事実を前にし、最早呆れるしかない。
「そうなるとやはり……道沿いに抜けるしかないか」
弓矢を仕舞い、代わりにアストラの直剣を鞘から抜く。
腰にはバトルアクスが何時でも抜けるように装着されており、先ほど買った投げナイフも抜きやすい位置に固定している。虎の子の火炎壷もバトルアクスと共に腰に吊るしてある。実用的に持ち運ぶ事ができるのは三個が限界ではあるが、様々な状況で役立ってくれるだろう。
タリスマンは盾と共に握りこんでおり、何時でもフォースを発動することが出来るようにしてある。
――準備は万全だ。
最期に己に気合を入れ、大きく息を吸い込むと共に一本道になっている道を全力で駆け抜ける。そうして走り抜けた背後で何かが割れるような音が何度か響くが、それを無視して建物の中に滑り込む。
……しかし火炎壷の届かぬ建物の中は、当然のように亡者に待ち伏せされていた。
視界に映る敵はバトルアクスを構えた亡者が二人。
一人は既に斧を振り上げこちらに跳躍しようとする直前であり、今から回避は間に合わない。
無理をし大きく動けば回避する事は可能だろうが、それではもう一体の亡者の的である。
しっかりと大地を踏みしめ、体重の乗ったバトルアクスの一撃を盾で防いだ――その瞬間であった。
バタンッ!
亡者のバトルアクスの一撃を受け、もう一体の亡者の一撃も受けようとした時を見計らうように、建物の中に存在していた扉が向こう側から開いた。
そこから現れたのは盾と剣を構えた亡者であり、こちら目掛けて剣を突き刺そうと突進してくるのが盾越しの視界にチラついた。
「―■■―」
流石に、今亡者が放とうとしている突きとバトルアクスの一撃を同時に受ける事はできず、フォースの物語を読み上げる。
衝撃波が走り三人の亡者を押し返す。
その隙を突き一番危険であると判断した剣と盾を持つ亡者を切りつける。
しかしアストラの直剣で斬りつけたにも拘らず亡者は倒れない。
「―■■―」
これは、まずい。
もう一度フォースの物語を読み上げ再度衝撃波を走らせる。
同時に剣と盾を持つ亡者を蹴りつけて距離を開け、怯んでいたバトルアクス持ちの亡者を切りつける。するとこちらの亡者は簡単に倒れ付した。
そして一対一になったことで、剣と盾を持つ亡者と純粋な技量の勝負になったのだが……やはりと言うべきか、所詮は亡者。技と言うものは既に無く、一方的な戦いとなっただけであった。
アストラの直剣からバトルアクスに持ち替えて力任せに盾を叩き、その際に踏ん張ろうとした足を払って地面に叩きつける。
そして倒れた亡者の盾を蹴り飛ばし胸にバトルアクスの一撃を叩き込むと、胸を砕かれた亡者はそのまま動きを止めた。
……
敵の居なくなった周囲を見回すと、俺が走りこんできた一本道と錆び付いた鉄の扉で閉じられた道、そして剣と盾を持った亡者が開いた木の扉が存在していた。
鉄の扉を開けようとしたが、どうやらこの扉は向こう側から鍵をかけるタイプのようでありこちら側からは開かない。
そうなると残った道は亡者が開け放った扉だけであり、必然的にその先に進むしかなくなる。
そのまま亡者が開けた扉を潜り、先に向かって足を進める。
扉を潜って少し進むと右側にドアの壊れた家が佇んでいた。
――何か使えるものがあるかもしれないな。
家の中を少しだけ漁ってみると、そこには大事そうに置かれた道具箱が存在していた。
開けられた形跡は無く、中身が未だに健在である事が簡単に理解できる。
逸る心を抑えながら、ゆっくりと道具箱を開ける。
すると中には黒い壷で作られた火炎壷が綺麗に並べれて8個入っていた。
保存状態も良く、今すぐ使用する事も可能であろうと思われるこの黒い火炎壷は使われぬまま主を失った道具であり、大事に保管されているだけに哀愁すら漂っているように感じられる。
しかしまあ、こんな世界のこんな場所である。
貰える物は貰っていこう。
軽い家捜しを終え、道沿いに進むように階段を昇っていく。
すると階段を上り終えた所に火炎壷を構えた亡者とバトルアクスを構えた二人の亡者、計三人の亡者が行く手を遮るように開けた空間に陣取っていた。
亡者の奥には閉じられた扉が存在しており、この三人の亡者はそこを守っているようにもみえる。
しかし前衛二人と後衛一人と言うこの布陣……これは一人で挑もうと思えば、それなりの脅威である。あるのだが……ここは狭く見通しの悪い屋内ではなく、開けた空間の屋外だ。
――盾も構えず突っ立っているだけの存在など、的以外の何者でもない。
投げナイフを手に取ると、素早く亡者の頭目掛けて投擲する。
反応の鈍い亡者では投げナイフに反応する事ができず、三人とも頭蓋を穿たれ地面に倒れ付す。
三人の亡者が存在していた場所からは、屋根の上から火炎壷を投げつけてきた亡者たちの場所に繋がるであろう梯子と螺旋階段を持った小さな監視塔、そして階段を下りながら本来の道沿いに進むであろう道が存在していた。
当然、未だに扉の役目を果たしているドアを持つ家も存在している。
もうこちらの事を見ていない亡者は無視し、まず螺旋階段を持った小さな塔を昇った。
塔の頂上には会談に背を向け、クロスボウを構えた亡者が存在していた。
こちらに気がつき澱んだ瞳を向けてきたが、相手の腕が腰に差した剣を抜く前に素早く胸を切り裂く。
亡者は力なく崩れ落ち、何かを見張るように造られた小さな監視塔はその役目を終えた。
未だに形の残る扉に手をかけると、その扉には鍵がかけられていることに気がついた。
何度かドアノブを回してみたり、押したり引いたりしてみたが鍵は硬く固定されており開く気配が無い。
――そう言えば商人から鍵を買っていたな。
そんな事を思い出した俺は軽い気持ちで鍵束を取り出し、この家の鍵穴に合致するものが無いのか調べていく。
かちゃり
幾つかの鍵を調べると、その内の一本がぴたりと嵌った。
捻った事で鍵が開く音が聞こえる。
そのまま家の中を調べてみたのだが、家の中には何も無い。
僅かな落胆を覚えながら、家の中を通って外に出ると……理由は分からないが、外に道具箱が置いてあった。
家の中からではないと取れない配置ではなく、普通に屋外に置かれている。
腰ほどまである段差を越えれば鍵が無くとも道具箱を開ける事が出来るだろう。
――とは言え、せっかく見つけた物だ。中身が入っていれば貰っておくか。
そんな事を考えながら道具箱を開けると、その中には松脂が収められていた。黄金に光るその見た目は、珍しいと噂の黄金松脂なのだろう。……実物は始めてみた。
適当な場所に置かれていたわりにはずいぶんと珍しい物を見つけることが出来た。これだけでも鍵を買った価値はあっただろう。
そしてこの屋外から見える場所には盾を構えた亡者が存在していた。
しかしどちらの亡者もこちらには気付いていないようであり、端的に言えば唯の的である。
投げナイフを引き抜き亡者の頭を狙う。
俺が放ったナイフは亡者の頭に吸い込まれるようにぶつかり、亡者二人の命を刈り取った。
亡者が地面に倒れた事を確認し、そのままその場で視線を彷徨わせる。すると近くの階段を昇った場所に、階段を塞ぐように置かれた樽をの後ろに隠れている亡者が存在しているのが確認できた。
下にも階段が続いているが、流石にこの場所からでは先がどうなっているのかは確認できない。
――先に視界に映る亡者を始末しよう。
そう結論付けはしたが、この距離からでは投げナイフは効果が薄い。そのためショートボウをとりだしてで狙いを定める。しかし樽と階段の手すりが邪魔であり、うまく亡者を狙う事ができない。
仕方が無いので亡者が隠れている樽目掛けて火炎壷を投擲する。
――どんな武器を隠し持っているのかは知らないが、壁さえ消えてしまえば亡者などどうとでもなる。
そんな事を考えながら火炎壷を投げたのだが……火炎壷の炎を受けた樽は一瞬で燃え上がり、僅かな時間で近くに存在していた亡者ごと消し炭になってしまう。
……驚かされたが、まあ結果的には楽が出来たのだからよしとしよう。
亡者が居なくなった事で安全になった下の道に降りる。
先ほど消し炭になった亡者が塞いでいた道は大きな塔に繋がっているようだ。
そして下に続く階段は、何処に繋がっているのか分からないままである。
――この状況で選ぶ道は……まずは下でいいだろう。
そんな風に適当に道を決めゆっくりと足を進める。
そうして階段をおりると……薄暗い道の先には、凄まじい巨躯を持ち、煤けた灰のような暗い色の全身鎧を着込んだ騎士がどこかを見るように佇んでいた。
何時からそうしているのか、ぴくりとも体を動かす事無く、いっそ彫像のように佇んでいる。
――しかし、強い。
全身から発されるのは強者の気配。
歴戦の戦士を思わせるそれは、長くこの世界を戦い抜いてきた証拠なのだろう。
――あれ程の騎士なのだ、知り合っておいて損は無いだろう。
「おい、あんた。ちょっといいか?」
そんな事を考えながら、俺は黒い騎士について深く考える事も無く声をかけた。
するとそんな俺の言葉に反応するように、ギシギシと金属が擦れ合う音を立てながら、騎士がこちらを振り返り……俺と騎士の目が合った。
そしてそうなる事でようやく、俺は己の失敗を悟った。
フルフェイスである騎士の兜から覗くのは、人の目ではなかった。
しかし亡者の目でもない。
もっと人ではない目だ。
亡者よりも亡者らしい目だ。
否、騎士のそれは目ですらない。
凝り固まった怨念が鎧に宿り、たった一つの意思が鎧を突き動かしているかのようだ。その意思は一言で言えば――
黒い騎士が完全にこちらを振り向く。
体に隠れて見えなかった右手に持った剣は大剣と呼べるほどに大きく、誰のものなのか分からない乾いた血が付着している。
兜に存在する角のような装飾はまるで悪魔のようであり、血がこびり付いたままの剣と合わせて見ればまるで死神のようにも見える。
――敵を倒す。それだけであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
がしゃがしゃと金属が擦れる音を出しながら、黒き騎士が距離を詰める。
一歩近づくごとにプレッシャーが増し、否応無しに戦意が高まってくる。
――面白い。この世界の騎士がどれほどのものか、見極めてやる。
未だに距離がある事を利用し後ろに下がりならが火炎壷を投擲する。
しかし黒い騎士は難なく火炎壷を防ぎ、距離を詰めるように走りこんできた。
――熱がる事は無いだろうと思っていたが、少しも怯まないのには流石に驚かされる。
僅かな驚きを感じながら、思考を切り替え間合いに入られる前に素早く剣を抜き放つ。そして黒い騎士を迎え撃つために盾を構え、相手の次の行動をじっくりと観察する。
――突きか、切り払いか、盾での打撃か。体捌きはどの程度なのか。早いのか遅いのか、奇跡や魔術は扱うのか。扱ったとして、それはどの程度のレベルのものなのか。
出来る限りの状況を頭に浮かべ、どんな状況でも対処できるよう集中する。
己の肉体と技量のみを頼りにする正統派の騎士であれば、フェイントなり何なりを混ぜた読み合いなるかと思ったが……黒い騎士は、盾を構えた事など関係ないと言わんばかりに剣を振るおうとしていた。
目にも留まらぬ速度が有るわけでも何でもない、何の捻りもない唯の大振りで、だ。
正直に言えば、俺はそんな真似をする黒い騎士に失望を覚えていた。
このような斬撃などパリィの的でしかなく、牽制にも使えない無意味な動きではないかと。そう思った。
だから俺は、何の疑問もなく黒い騎士の腕を狙い済ましてパリィしようとし……腕を押し返そうとした盾を、逆に押し返された。
とっさに脇を閉め、体全体を使って黒い騎士の斬撃を受けるが、凄まじい衝撃を盾に受け強制的に一歩後ろに押しやられる。
「――!?」
その一撃を受け、ようやく気付く事ができた。
この黒い騎士が持っていたのは、単純な力だったのだ。
大剣を片手で軽々と振るい、力が乗っていない瞬間を狙って体勢を崩す
振るう太刀筋はその力を生かすための技であり、まるで人外の怪物と戦うために生まれた技のようにすら感じられる。
――ならば狭い場所で戦うのは不利だ。
すぐさまそう判断を下し、黒い騎士に背を向け階段を駆け上がり、そのまま亡者を屠った場所を目指して逃げる。
獲物を追いかけるようにがしゃがしゃとした音が付いてきており、黒い騎士が獲物を逃がすつもりがない事が言葉を交わさずとも理解できた。
広い場所まで逃げる事ができたため背後を振り返る。
するとゆっくりとこちらに走ってくる黒い騎士が目に映った。
この黒い騎士……力は凄まじいが、動きは鈍い。力で勝てない以上、付け込むならばそこしかないだろう。
そう思い剣を握りこむ。
巨躯を覆う全身鎧相手にこの直剣では、少しばかり得物が小さい感が拭えないが……やるしかないだろう。
黒い騎士は盾を構えながら走り込んでくると、ダンと地面に響く音がする踏み込みと共に空気が裂けるような突きを繰り出してくる。
受けた盾ごと串刺しにするような、凄まじい力強さを感じさせる突きだ。
――流石に、正面から受ける事はできない。
体をずらして剣の直撃を避け、盾で剣を押し込んで受け流す。
ぎゃりぎゃりと金属同士が擦れる耳障りな音が盾から聞こえ、受け流している筈なのに腕ごと盾が持って行かれそうになる。
――しかし、流した。
黒い騎士に出来た隙を逃さぬよう、素早く剣を振るう。しかし――
ぎゃりん、と。
金属同士がぶつかり、表面を滑るような軽い音が耳に届く。
手に持った剣から伝わる感覚も軽いものであり、明らかにこの黒い騎士に――黒騎士の命に、届いていない事が理解できる。
そして黒騎士も唯切られるだけでは終わらない。
アストラの直剣の一撃を鎧で受けきった黒騎士は、次は己の番だと言わんばかりにゆったりとした動作で切り下ろしを放つ。
――だが、先ほどの突きほど脅威ではない。
そう判断し足と手に力を込めて攻撃を受ける。
足に力を込めていたため吹き飛ぶ事こそなかったが、その代わりに腕が痺れるような衝撃が盾越しに走った。
しかし耐えた。今度は俺の番だと斬りつけようとしたが、黒騎士はゆったりとした動作ではあるが既に二撃目の準備を終えている。
流れるように放たれようとしている斬撃は、相手に反撃を許さぬままこちらを切り捨てようとする攻めの技。
――連撃か。
唯の連撃ではあるのだが、黒騎士が放てばそれだけで脅威だ。
痺れる腕を我慢し黒騎士の連撃を盾で受ける。
盾を弾かれる事こそなかったが、黒騎士が踏み込んだ分だけ押し込まれてしまう。……そして後ろに押し込まれた事により、丁度良く黒騎士との距離が開いてしまった。
当然のように、黒騎士はその隙を見逃さない。
連撃から繋げるように、衝撃を受けて硬直している俺目掛けて、先ほど見せた突きよりは僅かに劣るが、それでも一撃で命を吹き飛ばすであろう驚異的な突きを繰り出してくる。
その突きを受け流そうと盾を剣に合わせるが……先の連撃を受けた俺の腕は、自分で思っていた以上にダメージを受けていた。
何時もならば出来る細かい動きが上手く行えず、受け流す事無く黒騎士の剣にぶつけてしまう。そしてその瞬間、黒騎士の剣が金属を削るような音を上げた――
――しかし盾の性能のおかげなのか、悲鳴のような音を上げながらも、黒騎士の剣が盾を貫通する事こそなかった。
だがこれ以上黒騎士の剛剣を受ければ、さすがに盾が持たないだろう。しかも盾だけでなく腕にもダメージが蓄積している。長引けば不利だ。
俺の心に僅かな焦りが生まれるが、視界に映っている黒騎士は先の突きを放ってゆっくりと剣を戻そうとしているため隙だらけであった。……しかし、その隙があえて作ったものである可能性もあるためうかつに動く事ができない。
――だが、どの道これ以上黒騎士の攻撃を受けきる事は出来ないのだ。ここで決めるしかない。
そう判断を下した俺は、黒騎士の兜に存在する顔……喉辺りに僅かに存在する鎧に覆われていない部分目掛けて剣を突き出した。
今度は弾かれる事なく剣が深く突き刺さる。突き刺した剣からは肉を刺すと言うよりは、泥に剣を突き立てたものに近い感覚が腕に伝わってくる。
同時に人が上げるとは思えない断末魔を上げ、黒騎士は水に濡れた泥のように
アストラの直剣を弾いた硬質な全身鎧は、最初から存在しなかったかのように空気に溶けるように消えてゆく。崩れていくのは鎧だけに留まらず、手に持っていた盾も崩れていく。
そして溶けてゆく鎧の中からは、ソウルと混ぜ合わせたようにも見えるドロドロの白く輝く何かが溢れていく。
――しかし黒騎士が振るっていた剣は崩れる事が無く、乾いた音共に地面に転がった。
黒騎士が唯一残した手掛かりと言うか、戦利品と言うか……まあとにかく、形が残るものとして取り落とした剣が気になり、黒騎士が使っていた剣を拾い上げる。
そうして拾い上げて分かった事だが、この剣――これからは黒騎士の剣と呼ぶ事にする――は凄まじい重量、と言うわけではないようだ。
あれ程の力を持つ騎士が使っていた剣だから、俺では重すぎて使えないのかとも思っていたが……どうやら無用な心配であったようだ。
――祝福や魔法の力を帯びているわけではないが、大きく肉厚であるが故に丈夫な刀身は、アストラの直剣では相手に出来ないような怪物を相手にする際に役立つだろう。
北の不死院で出会った二体の化け物と飛竜の事を思い出しながら、黒騎士の剣を持ち去った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一度篝火に戻って火炎壷と投げナイフを補充し、先ほど拾った黒騎士の剣の簡易的な鞘も作成しておく。
……まあ格好をつけて鞘と言っても、背中に背負うためのベルトに亡者たちから剥ぎ取った金属を固定し、黒騎士の剣をベルトに突っ込んだ際に切れないようにしただけの物なのだが。
亡者の居なくなった道沿いを進み、黒騎士が佇んでいた場所も調べてみる。
黒騎士が佇んでいた場所には、青い宝石の嵌められた指輪を握り締めたまま動かなくなっている誰かが居た。その先は道が崩れており、先に進めそうにない。
……状況的に、俺が黒騎士に出会う前に黒騎士と出会い犠牲になったのだろう。
そのまま道沿いに進み、大きな塔の中に入る。
正面に見えた扉には鍵がかかっていたため入ることができなかったが、塔の中には亡者が居るわけでもなく至って平和であった。
自分の足音が誰も居なくなった空間に響き、無機質な音を反響している。
そしてしばらく進んでいると螺旋階段が終わり、巨大な城壁が道のように続いていた。
どうやら、先に進むのであればあちらに行くしか道はないようだ。
だから、城壁の上を沿っていくように足を進めた。
……そして、城壁の中ほどまで来た時だろうか。
向こう側の塔の上から、巨大な黒い影が城壁に向かって躍り出てきた。
それは人など問題にしない巨躯と、それに見合った巨大な鈍器を持った牛の頭を持つ
その巨躯と人とはかけ離れた外見は不死院に居た化け物を思い起こさせるが、明らかにやつよりも危険そうだ。不死院の怪物がぶよぶよとした肉の塊であったのに対し、この牛頭のデーモンははち切れんばかりの筋肉の塊だ。
化け物の一撃が直撃すればひき肉になるのは何の違いもないだろうが、こいつの一撃は盾で防ぐ事すらできない可能性がある。
加えてこの狭い場所だ。もしこいつが不死院の化け物のように魔法を使えるのであれば……苦戦するではすまないだろう。
そんな事を考えながら盾を構え、アストラの直剣を構えようとした瞬間――――背中に、何かがぶつかるような衝撃を受けた。
唐突な痛みに意識が飛びそうになり、困惑が思考を埋めていく。
――何処から、何をされた?
僅かに残った思考が目の前の怪物から逸れてしまい、様々な意味での無防備を晒してしまう。そして、最初からその隙を狙っていたかのように牛頭のデーモンが巨大な鈍器を振り下ろした。
瞬間、それ以上何かを思考する暇もなく――俺の意識は一瞬で闇に吞み込まれた。