エスト瓶を一口煽り守る者の居なくなった門の前の道へと、死角を慎重に確認しながら先に進む。
やはりと言うべきか、予想通り通路の死角に隠れていた盾と槍を構えた亡者の盾を蹴り、体勢が崩れたそいつの胸を切り裂き命を絶つ。がちゃがちゃと金属が鳴る音が聞こえ、それが亡者の接近を許している事を伝えてくる。
振り返った視界に映ったのは、剣と盾を持ちこちらに向かって走り込んで来ている最中の亡者であった。
脇が開き、盾の構えも甘く、腰の入っていない突きの姿勢。
……亡者ゆえに仕方の無い事なのかもしれないが、その動きは最早素人のそれである。
亡者の突きを半身にずれて回避する同時に足を払う。
すると走り込んで来た勢いのまま亡者は前のめりに倒れこんだ。しかし顔面から地面に倒れこんだ亡者は倒れた事すら久しぶりなのか、素早く起き上がることすらできないようだ。
俺はその後ろ首を踏み抜いた。枯れ木のような外見通り、瑞々しいしなやかさなど無い亡者の首があっさりと折れる。
……本当に、強い者と弱い者がはっきりと分かれている世界である。
ソラールや黒騎士、牛頭の怪物や巨大な飛竜。
強い者はとことん強く、この亡者のように弱い者は盾が一つあれば三、四人に囲まれても無傷で切り抜ける事ができそうなほど弱い。
――まあ、困らないから構わないのだが。
向かって右手側にある、盾と槍を持った亡者が塞いでいた小さな階段を昇る。
しかしその先には亡者の死体と……中に僅かなソウルが残っている頭蓋骨――投げて頭蓋を砕く事でソウルを求める亡者を誘き寄せる事ができるそれ――を大事そうに抱えている裸の死体しかなく、見るべきものはなさそうだ。
一応裸の死体が持っていた四つの誘い頭蓋を頂いておき、息絶えている亡者を下に落としておく。
再度下に降り周囲を見渡すと、建物の影で見えにくくなっていたが下に向かって続いている通路を見つけた。
おそらくここから先に進む事ができるのだろうが…………まあ、先にやるべき事をやっておくべきだろう。
死した亡者が腰に巻いていたぼろぼろの腰巻を奪い取り、見せる者は居ないが見せ付けるようになっていた下半身を覆い隠す。依然殆ど隠す事ができていないこれを着衣とは口が裂けても言えないが……まあ、全裸よりかはいくらかましだろう。
ついでに亡者が持っていた盾も頂いておく。恩人のブルーシールドと比較すれば性能が一段階も二段階も落ちてしまうが無いよりはましと言うやつだ。
同時に死んだ亡者の亡骸を漁って使えそうな物を選び、以前やったように黒騎士の剣を背中に背負っておくための鞘も作っておく。
アストラの直剣を腰に差し、黒騎士の剣を背中に背負う。
亡者の盾を左手で構えタリスマンを握り込んでおく。
そして右手には飛竜の剣。
体を隠す物が亡者が使っていた腰巻しかないのは少しあれだが、武器だけなら一流品ばかりだ。一応盾も手に入った事だし、この先に居るのが此処まで出会った雑魚亡者と同等であれば十分すぎるだろう。
階段を下る。
階段の幅はそこそこ大きく作られており、三人であれば同時に入れそうな大きさであった。しかし階段を降りきった先にある通路は人一人が通れる程度の大きさしかなく、同時に進むのは難しい。
そんな通路の先の開けた場所には、腰布と折れた剣を持った亡者が居た。
その亡者はこちらの姿を確認すると、俺に背を向け逃げるように走り出す。
――……幾らなんでも、これは分かり易すぎるだろう。
盾を構え、ゆっくりと歩みを進める。
開けた場所――朽ちてしまった大机と長椅子から見るに食堂か休憩所に近い何かであったのであろう――には数人の亡者が待ち構えていた。
しかしその亡者のどれもが腰布と折れた剣しか持っていない最下級の亡者である所為か、全く脅威を感じない。
しかも、待ち構えるにしても地形が悪い。
見破られるどころか、多少警戒されていれば何の役にも立たない場所で待ち伏せをするなと言ってやりたい。
亡者が待ち伏せしていた事を確認した俺は、盾を構えながらじりじりと背後に下がる。
するとどうだろうか。
二人以上通る事のできない狭い通路に、何の技量も無い素人の方がまだましな動きをする亡者が一列に並ぶ事となる。
……起こるのは、最早単なる作業だった。
胸を一太刀撫でるだけ倒れていく亡者。
本当にそれだけだ。
この、元食堂だか休憩所だか分からない場所に潜んでいた全ての亡者を切り伏せ、動かなくなった人型を漁る。
得られたのは切り伏せた亡者分の腰布と僅かばかりのソウル、そして何処に使うのかも分からぬ鍵であった。
鍵は簡易的な作りである。
そうなると重要な場所に施された鍵ではなく、もっと簡易的な場所のもののはず……と、そこまでは分かる。だがまあ、分かるのはそこまでだ。
周囲に鍵を使わなければいけないような場所はないようなので、此処ではない何処かで鍵をかけた後、ここで息絶えたのだろう。
ちなみに……亡者から奪い取った腰布は腰巻しかない腰に巻きつけておいた。
見た感じはスカートのようになってしまったが、俺の太ももを見せ付けるように晒しているよりかはましだろう……たぶん。
亡者が存在していた休憩所を抜けると、そこは先ほど銀の猪が陣取っていた通路が一望出来る石造りの橋であった。
橋の一部は崩れて手すりが無くなってしまっているが、それでも高い場所から見える風景はとても幻想的である。
その橋を渡りきると道は二股に分かれている。
左手側には上に向かう階段があり、右手側は建造物の外側に向かっているようだ。
――閉じた城門が左側にある以上、進むべき正解は左で間違いないだろうが……さて、どちらを選ぶべきか。
一瞬だけ思考を巡らせ、俺は右側に向かって足を進めた。
先が続いているようなら左に進み直せばよいし、そうでないなら確認だけでもできるだろうと、そう思ったからだ。
右側の通路は、ある意味予想通りにすぐに終わっていた。
短くは無いが長くも無い通路の先には、赤いマントを靡かせた騎士鎧を纏った人物がこちらに背を向けている。
……
…………あの鎧とマントは見覚えがある。
確か、バルデルと呼ばれた国の騎士が用いたものだったはずだ。
――バルデル
騎士王として名高いレンドルの故国であり……俺の時代では、既に滅び去った国だ。
詳しい文献が残っていないため当時の事は知らないが“ある時を境に”多くの不死を生み出し、そのまま滅び去ったらしい。
とは言えそれはバルデルの騎士たちが弱かったわけでも技術に難があったわけではない。バルデルの騎士たちが使ったと言われる刺突剣と盾は独特の形状をしており、今では殆ど見る事ができない程だとか。
そんなバルデルの騎士。
その実物が目の前に居る。
声をかけるべきか否かを迷いながらバルデル騎士に近づき、飛竜の剣をソウルにしまって黒騎士の大剣を背中から引き抜く。そして突けば当たるという間合いで足を止め、バルデル騎士に声をかける。
「なあ、ちょっといいか?」
俺の言葉に振り返るバルデル騎士。
兜から除くその顔は墨のように黒ずんでおり、最早人間ではない事を語っている。そして何より、向けられた殺意が例えこの騎士が人間であったとしても俺の“敵”である事を告げていた。
バルデル騎士が手に持った小型の盾など意に介さず、全力で放った黒い刺突を見舞う。
バルデル騎士はそれを受け流そうとしたが、俺が黒騎士に対してそう思ったように、この肉厚な剣を受け流すのは至難の技だ。
黒騎士と俺では振るえる力の桁が違うが、中型の盾を使って万全の状態で受け流した俺と振り返ろうとしたバルデルでは条件が違う。
小型の盾を弾き、胸を一突きにする。
胸を貫通した事で前後に血が飛び散り、剣にかかる重さがバルデル騎士の命が消えたことを伝えていた。
剣と盾を取り落として膝から落ちたバルデル騎士の胸を蹴って剣を引く抜き、取り落とした刺突剣を拾い上げる。
――どうやら、唯のレイピアのようだ。
小さな落胆を覚えながら、とりあえずと言った感じでレイピアを貰っておく。
ついでに小盾も貰っていき、さらについでにバルデルの鎧を奪う。
……まあ長い年月でボロボロになっていたバルデルの鎧は、既に内側も鉄だけになっておりとてもではないが着れたものではなかったのだが。
通路の先。
先ほど殺したバルデル騎士が追い詰め、殺したであろう死体は鮮やかな色に輝く盾を持っていた。
最も傷つくはずの盾の真ん中部分に凄まじく細かな装飾が施されたそれは、貴族が用いるような煌びやかさを湛えているのだが……盾の表面についていて然るべきである傷は中央の装飾部分に二つのみ。
それはこの盾の持ち主が攻撃を二度しか盾で受けた事がない証明であった。
この盾を渡された人物がどの様に死んだのかは知らないが…何と言うか、ずいぶんともったいない死に方をしたものだ。
見た感じ、作りは良くも無いが悪くもない。
――つまりは亡者の盾よりはましと言う事だ。
亡者の盾をソウルにしまい、その代わりに鮮やかな色の盾に持ち替えた俺は来た道を引き返した。
左手側にあった階段を昇った先には道が続いていた。
盾と槍を持った亡者が隠れていたが、何のアクシデントも無く切り殺す。
そうして道沿いに足を進めると、先ほどバルデル騎士が居たような通路が視界に映った。
しかしその通路も二股に分かれており、右と左に道が続いている。
――一応警戒しておくか。
一応ではあるが、これも死角ではある。
ゆっくりと安全確認をしながら曲がり角から顔を出し、左右を見る。
するとどうだろうか。
右側に続いていると思われた通路は盾と槍を持った亡者が存在するだけであり、完全に待ちの構えを取っている。
それだけであれば何時もの事かもしれない。しかし問題は左側だ。
左の通路は奥に続いており、そこには先ほどのような黒い顔を晒したバルデル騎士が佇んでいた。しかもそのバルデル騎士、先ほどのバルデル騎士と違い見た事の無い形状の盾と長い刺突剣を持っている。
目が合った瞬間バルデル騎士がこちらに向かって走りこんで来た。
左に控えた亡者に挟み撃ちにされぬよう下がり、飛竜の剣と先ほど手に入れた盾を構える。
階段を駆け上がり、いち早く現れたのはバルデル騎士。
バルデル騎士が放つ気配からは特段強いと言ったものを感じないが、それでも完全に所見の相手だ。バルデルの騎士の戦い方を知らない上、この騎士の持つ見た事の無い刺突剣と盾が名高いバルデルの刺突剣とバルデルの盾であれば油断はできない。
まずは様子見と、防がれる事を想定に入れて右手に握った飛竜の剣を振るう。
バルデル騎士はその一撃を受け、巧みに流す。
大き目の盾は通常の物よりも硬く重量感のある防御を可能とする。
幾ら飛竜の剣の切れ味が良いといっても剣と言う形状を取っている事に変わりは無い。振るう使い手である俺自身の腕力がこの盾の耐久性を上回っていない以上、真っ二つに切り裂くと言う真似は出来なかった。
バルデルからの反撃は、盾の後ろからの刺突。
刺すという機能を突き詰めた刺突剣は防ぐ事と攻めることをほぼ同時にこなす。
力なの無い貴族たちが刺突剣を愛用しているのは見た目が良いと言った理由だけでなく、こういった当たり前の扱いやすさにも起因している。
分厚い鎧を貫くには細い刺突剣では不十分だが、服しか着ていない人間の心臓を刺し貫くには十分だ。
バルデル騎士の刺突を盾で
できるだけ剣と盾の角度が直角になるように――武器を破壊する目的でバルデルの一撃を盾で受け、盾に触れた感触が伝わると同時に相手に向かって体ごと盾を押し込む。レイピアなどの脆い作りの武器であれば破壊する事もできる動きであったが、バルデルの刺突剣は折れていない。
しかし武器を壊される事を恐れて剣を引いたのも事実。押しているのは間違いない。そう思い邪魔な盾を蹴り上げようとした瞬間――
――バルデル騎士は、盾を構えた手で剣を握っていた。
盾を持った手で両手持ちにしているという事実に、一瞬反応が遅れる。
しかし既に斬り付けて来ようとしているその姿を見て、バルデル騎士と俺との間に盾を潜り込ませる事で予想外の一撃をやり過ごす。
――驚いた。と言うか、バルデルの盾の形状はこういう事をするためのものか。
本来は刺すという機能しか持たない刺突剣で斬り付けてきた事も。
盾を持てば、両手で剣を持つなどできなくなるはずなのにそれを可能としたのも。
それを可能とする“作り”こそが、バルデルの刺突剣と盾を有名にしていると言うことだったのか。
――バルデルの刺突剣
先ほどの攻防から通常の刺突剣よりも長く、突く事以外にも使える硬さと切る事が出来る刃を持った剣である事が理解できる。
――バルデルの盾
先ほど見せた盾を持ったまま両手で斬りつける動きは、真ん中で折れ曲がった鉄板のような独特の形状がそれを可能とするのだろう。受け流す事に重点を置いた作りの一般的な盾では、盾の下側が邪魔になり“盾を持ったまま剣を持つ”などと言う事は出来ないのだから。
――……だがしかし、種は分かった。
そして分かってしまえば勝てない相手ではない事も自ずと理解できる。
今度こそバルデル騎士の盾に蹴りを入れる。
板のように曲線の無いバルデルの盾は蹴りやすく、ぐっと押し込むように力を入れればその分だけ後ろに下がらせる事ができる。そして……バルデルの真後ろは、階段である。
後ろに体重をかけて踏ん張っていたバルデルが足を踏み外し、背中から落下し階段を昇りかけていた亡者と絡まり合いながら階段を転がり落ちた。
飛竜の剣と盾を素早くソウルにしまい開いた両手で黒騎士の剣を引き抜くと、そのままの勢いでバルデルの鎧を叩き割る。足裏に衝撃を感じながら再度黒騎士の剣を振り上げ亡者兵にも叩きつけておく。
無残に潰れたバルデル騎士と亡者兵を横目に、俺はバルデル騎士が落とした刺突剣を拾い上げる。
――なるほど、これは価値が出るはずだ。
突くだけではなく切る事ができる。
本来は一つの用途にしか用いる事ができない刺突剣でありながら、この刺突剣は二つの動きが行える。故に戦闘のバリエーションが増え、自分は扱いやすく敵対者にとっては厄介なものになる。
長い刀身を持ちながら、刺突剣の名の通り刀身そのものは細いのだから重量的に見ても取り回しやすい。加え先ほど語ったように、刀身そのものは“長い”わけなのだから刺突剣としての性能でも本来のものの上を行くだろう。しかも刀身に斬る機能がついているというおまけ着きなわけだ。
――しかしまあ、それでも性能だけ見ればアストラの直剣の方が上か。
確かにバルデルの刺突剣の価値は高いが、単品の性能で見る分には選び抜かれた上質な武器の上祝福まで施されているアストラの直剣には及ばない。
バルデルの刺突剣が真に素晴らしい所は、騎士階級であればこの剣を持つ事ができるという部分にある。アストラの直剣を全てのアストラの騎士が持つ事ができないのに対し、バルデルの刺突剣はバルデル騎士であれば誰でも持てるのだろう。
故に凡庸性と言う点においては素晴らしいのだ。これを騎士階級にある殆どの者が持っていたと考えれば、なるほど“バルデルの刺突剣”が有名である事も頷ける。
どちらかといえば盾の方が面白い作りだろう。
持てば問答無用で片手が塞がる盾であるが、しかしバルデルの盾は独特の形状を取る事でその問題をクリアしている。
受け流す事が難しい故に消耗が激しいとか、先ほどのように打撃に弱いだとかの問題点はあるだろうが、それが気になるなら別の盾を使えば良い話だ。
バルデルの刺突剣とバルデルの盾をソウルにしまい、道沿いに歩み今にも壊れそうな木造の足場を越えた先に見えたのは教会の裏口だった。
守備兵のつもりなのか、剣と盾を持った二人の亡者とクロスボウを持った亡者がいるが、これぐらいであれば居ないのと変わらない。
走りこんで来る一人目の亡者の足を払い地面にキスさせ、もう一人の突きは受け流す。
受け流した亡者の脇を通り抜けるような動きで腹を深く切り裂くと、倒れた亡者に火炎壷を投げつけて止めを刺しておく。
前衛を失いながらもクロスボウを持つ亡者はクロスボウを放って俺の脇腹を深く貫いたが……幸か不幸か、今の俺はその程度では死なない。
激痛を我慢して投げナイフを放り、喉を穿つ。
「――ッ…………はぁ……痛みは生きてる事の証拠なんて、よく言ったもんだな」
最後の亡者が倒れた事を確認た俺は、そんな事を愚痴りながら腹に突き刺さったボルトを引き抜く。
殆どのボルトには、対象から矢が抜けないように返しがついている。故に体に刺さったボルトを引き抜くのは大抵の場合失敗であり、抜かない事が正解である場合が多い。
しかし、それは人間の話だ。
エスト瓶に入っているエストを一口煽るだけで血を流して激痛を訴えていた脇腹の傷は塞がっている。
さて。
教会の中に向かうか、それともその反対にあるよく分からない建物に足を運ぶか。
深く考える事はせずそんな事を考えていた時であった。
――……――………―…――
「ん?」
何か音が聞こえた気がした。
――……ンッ……カ……カンッ……――
その音は耳を澄ませば教会の反対側から聞こえてくる。
鉄で鉄を叩く甲高い音は、決して戦いによって発生したものではない。
もっとしっかりと、しかし力と魂を込めて丁寧に叩いている。
「……まさか……鍛冶が居るのか?」
――鍛冶
それが俺の頭の中によぎった言葉であった。
もしも鍛冶が居るのであれば、是非知り合っておきたい。
こんな地だ。腕の良し悪しなど問題なく、鍛冶ができる人間と顔見知りになっておくと言う事には凄まじく大きな意味がある。
音に釣られたように、亡者の居ない一本道を進んでいく。
歩みを進める度に音が大きくなり、カンカンと鉄を叩く音がはっきりと聞こえ始める。一定の間隔で発生する音は、鍛冶が居ると言う予想が外れていない事を段々確信へと変えていく。
そこは、崩れ去った教会だった。
座すべき神が消え、次いで祈る者が居なくなり、遂には忘却されてしまった小さな教会。
そんな物悲しさを湛えた、苔生した教会であった。
――音は、さらに下から響いている。
階段を降り火の消えた篝火を見つける。
それに手を翳して火をつけ、俺はそのままさらに下の階層へと歩みを進めた。
そして音の正体を知る事になる。
ハンマーで剣を叩いていたのは筋肉の鎧を纏った大男。
白い髪と髭を無造作に伸ばし、汗を弾けさせながら一心不乱に剣を叩いている。
――間違いなく、鍛冶だ。あとは正気であるかどうかが問題だが……
「なあ! ちょっといいか!?」
「誰だ?」
金属同士がぶつかり合う甲高い音に負けぬよう、大きく張り上げた声で問いかける。
俺の声に反応して腕を止め、低い声を発してぐるりとこちらを向く大男。
その目には理性の光が宿っていた。
「邪魔してすまん。だが、鍛冶を探してたんだ」
「なるほど、新顔って訳か。しかしまぁ、ずいぶん久しぶりだな」
そう言い、大男は本格的にハンマーを置く。
「アストラのアンドレイだ。見て分かると思うが、鍛冶をやってる」