僕のヒーローアカデミア 〜One's just awakening〜 作:ノボル0624
その真意は未だ分からない。
いつだったかな、ヒーローを志したのは。
パパやママはヒーローだったから、物心がついたその瞬間からなのかもしれない。
ママの仕事を手伝いたい、強いヴィランを倒したい、と語る幼少の俺にママは諌めるように言ったことを覚えている。
確かにヴィランがどんなに強くても、フランクなら簡単に倒せるやろね。
そう言われて嬉しかった。
でもな、ヒーローはヴィランを倒すだけやない。倒すだけならそれは警察や軍隊の仕事。それでも私たちは時代に求められた。なんでか分かる?
俺は無邪気に答えた。
ヴィランを一撃でぶっ潰すパワーが必要やからや!
ママは微笑を浮かべた。子供の僕には分からない、複雑な笑顔で。
ーー
事の始まりは中国軽慶市。
発光する赤子が生まれたと言うニュースだった。
以降各地で超常は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。
いつしか「
世界総人口の約八割がなんらかの特異体質である超人社会となった現在、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。
「誰かぁ!」
曇天のデトロイトに悲鳴が上がる。
引ったくりか、暴行か、女だったからレイプかもしれない。
はるか昔に財政破綻を迎えたデトロイト市民に、他所様を心配する余裕はない。強いて言うならばお零れを狙えないかな、という下賤な欲望だけだ。
ドゴッ!という肉感の強い音がする。ついで、メインストリートに転がったのは一人の男。
「
その男を吹き飛ばした男は口角の片方だけを吊り上げて笑う。
「
誰に言われるでもなく、次の言葉を口にする。
このアメリカの地で育ち、今東の島国で活躍している伝説の男のように強壮たる笑みを浮かべながら。
「
超常に伴い、爆発的に増加した犯罪件数。
法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。
超常からの警備、悪意からの防衛。
彼らは活躍に応じて与えられる。
国から収入を、人々から名声を。
時代は求める、ヒーローを。
だけど、俺は……。
警察署にヴィランを引き渡しながら、心の中で呟く。
ーー
「はい、スタートー!」
そんな言葉で現実に引き戻される。
こんな時でも反射的に動くのは偶然か経験か、それともこの場所が持つ何らかのパワーか。
いずれにせよ、俺は誰よりも早く動き始めていた。
「どうしたぁ?!実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられてんぞぉ?!」
そんな言葉を耳で聞きながらここで状況整理。だが足だけは止めない。立ち止まるよりもがむしゃらに疾走する方が性に合ってる。
ここは雄英高校。その試験会場。俺はヒーロー科入学のために実技試験を受けているところだ。
実技試験内容。制限時間十分。ヴィランロボを倒し続けーー
ドゴォンッ!という轟音と共に金属製のアームが襲い来る。
足の勢いを緩めずに重心移動。頬を掠めるようにして金属製のアームが伸びていく。だが俺を逃したとセンサーが検知したらしい。アームの油圧ジョイントが駆動音を立てて元の位置へと戻ろうとする。
その隙を決して逃さない。
殴るとしたら頭部。露出したアイカメラが弱点。渾身の一撃が装甲ごと内部カメラを破壊するも勢いは止まらず、頭部を丸ごとスクラップにする。
機能の停止を確認しつつも、体はすでに次の攻撃へと移っていた。再び重心を変えて体を回転、己の体で生じた全ての衝撃が爪先へと集中し、胴体へと命中する。
軽い車体は容易に吹き飛び、近くの建物へと命中して動かなくなる。
「確か、一ポイントヴィランやったな。頭部だけで勝利っと」
そう呟きながらも次の行動へと目指す。何せ制限時間はわずか。ヴィランロボも有限。対して受験者は無数。
戦闘能力で彼らに劣るつもりはない。だが索敵能力に関しては他の個性に譲る場面も多いだろう。
「せやから、足で稼ぐ他ないなぁ!」
再び全力疾走。減速はカーブする時だけで最小限に。昔にすこしだけ齧っていたパルクールの知識がここで生きた。この会場では機動力に不足なし。
次の接敵は十秒経ったかどうかだった。
二ポイントヴィラン、三ポイントヴィランの同時接敵。
見ての通り重装型の三ポイントによる攻撃。機銃とランチャーという想像を超えるホンモノの装備に怯みつつも回避。
次に襲いかかるのは二ポイントヴィランの蠍のような尾による攻撃。
回避しつつカウンター気味の一撃。やや不自然な体勢で撃ったのもあるが、その一撃は盾代わりの鉄板を入れられた。鉄板は衝撃で腕部から乖離し、数メートル先にあるビルの外壁に突き刺さる。
同時に視界の端で三ポイントヴィランは受験者の相手をしているところを確認した。
意識を二ポイントに戻す。飛ばされた鉄板は頭部を半壊させていたが、止まる気配はなし。そうと決まれば懐に潜り込んでありったけの拳を叩き込む。装甲はたちまち穴だらけになり、血のようなオイルが噴き出す。
そこまでして三ポイントヴィランに目をやる。さすがと言うべきか複数の受験者を相手にしても一向に怯む気配はなく、むしろ互角であった。
ドゴッ、と背後からの衝撃。ゴロゴロと世界が回転する。視界の端にアームを伸ばした一ポイントヴィランの様子が見える。
それだけを確認して受け身を取りつつ回転して着地。ちょうどヴィランを真正面に見据える形だ。
そこへ追撃を加えるべく、ヴィランは一輪を急発進させて突撃してくる。その突進はアームを回避しつつ、真正面から受け止めた。
いくら小さくて軽いとはいえ、それは他のヴィランロボと比べればの話だ。その威力は軽自動車にも匹敵する。その攻撃を受け止めながら、ひび割れたアスファルトの上で踏ん張り、相手の推力をゼロにする。相手の一輪が道路と摩擦を起こして焦げ臭い匂いがした。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ力を抜く。そうするとヴィランの車輪は空回りしながらも一瞬後にはタイヤをガッチリと捉える。
それを受け流しつつも頭だけは離さない。相手の力を応用してジャイアントスイングの要領で一ポイントヴィランを振り回し、そして三ポイントヴィラン目掛けて投げつけた。
二台のヴィランロボは勢いよく衝突して火花を散らし、それは周囲を巻き込む大爆発となる。
「七。まだまだ」
九、十、十三、十五、十六、十九、二十、二十一……。
言葉に出さずに接敵と撃破を続けていく。拳で、爪先で、踵で、頭で、肘鉄で。叩き潰し、投げつけ、引きちぎる。
十五ポイントで拳から血が噴き出した。二十ポイントでヴィランロボの攻撃が額を直撃した。
だが止まらない。
「せりゃぁっ!三十二!」
三ポイントヴィランの体を鉄パイプが貫き、機能を停止させる。
全身もはやボロボロだが、骨折はしていない。足も疲労感で重いが、動かないわけではない。
「はぁっ、はぁっ……ふぅ」
少し乱れ始めた息を整え、一歩を踏み出しそうとしたその時だった。
大地を揺るがす轟音。天を衝くように打ち上げられた砂煙。
「チィッ!」
こう言った爆発には破片がつきものだ。ここは遠いためか比較的破片も小さいものが多い。だが爆心地はその程度ですむはずがない。
どうやら同じ考えのものがいたようだ。ただし、そいつは空を飛んでいた。
「おい!」
「えっ?わっ、君は!」
出来るだけの大声で呼ぶと、まさか呼びかけられるとは思っていなかったようで面白いくらいに背筋をピンと伸ばして驚く。
小柄な体を浮かす羽が特徴的な女の子だった。翼開長は凡そ三メートルほど。鳥のような羽毛ではなく、どちらかといえば蝶や蛾のような羽だった。
何よりも目につくのはその模様。記憶の中にある南国の蝶のどれよりも鮮やかで派手な色だ。美しさ以上に強度もあるようで、彼女の飛翔は蝶のようなヒラヒラというよりは鳥のように力強い。
「お前、空飛ぶ個性やな!状況報告頼む!」
「えっ……えっと、爆発。煙が飛んでいて視界は最悪!」
彼女の飛翔に並走しながら報告を聞く。
「周囲に受験者は?」
「見えません!」
「建物の倒壊とか、破片とかの確認も無理か?」
「建物は全て健在。無人の広場から現れたみたい。瓦礫もほとんどゼロ!」
考えれば当然だ。実戦に近いものとはいえこれは公立高校の試験。受験者を死なせようものなら、たちまち雄英高校の名前は地に堕ちる。そんなことに配慮をしていない方がおかしかった。
煙の一部が吹き飛ばされて、爆心地の風景が見える。
そこにいたのは巨大なロボだった。身長は三十メートルを越すだろうか。装甲はその辺にいるヴィランロボと同じカラーリング。遠距離を攻撃する武装はない。とはいえ、あの大きさともなるとそれだけで脅威だ。
「なっ、何アレ!」
「驚いてる暇はないぞ!視界が晴れたやろ、受験者の被害状況は?!」
「爆心地付近に人影!ほとんどは想定外のヴィラン出現に逃げ出してる!」
「全員無事か?」
「一人だけ、倒れたまま動かない人がいる!目立った外傷はなし。多分衝撃で気絶してるだけだと思う!」
霞む視界の中、確かに彼女の言う通り受験者が気絶していた。
今すぐにでも踏み潰されそうな場所で。
周囲に受験者はおらず、すでに遠くへ逃げていた。気づいているのは俺たちだけ。ならばやるのが当然だろう。
「お前はそいつの救助をしてくれ!あのヴィランは俺がやる!」
「大丈夫なの?!」
「気ぃ引くだけや!」
そう言いながら駆け出す。そうすると彼女もその顔から困惑の表情が消えて力強く飛翔し始めた。
ヴィランめがけて駆けつつも周囲を見渡す。周囲にあるのはガードレール、壊れた標識、そしてこちらめがけて拳を振り下ろす一ポイントヴィラン。
「お前やぁ!」
懐をすり抜けて背後を取りつつ、ガラ空きの左腕を掴む。突進の勢いを受け流しながらジャイアントスイングの要領で再び振り回す。
「腕は主要部位から遠い。脚部は装甲が厚い。胴体は巨大すぎて効果が薄い。と、なると」
振り回しながらも巨大ヴィランの各部位を思い出しながら想定する。
「そこやぁ!」
十分に溜まった遠心力は一ポイントヴィランの体を浮かせるほどだった。そこへ本気のフルスイング。物理法則を無視したような軌道で一ポイントヴィランは一直線に飛ぶ。
狙いはセンサー群が多い頭部付近。ただし、直撃はさせない。センサー群が故障するとどのような挙動を取るか分からない。俺の任務は無力化ではなく、注意を引くだけ。
ならば狙いは側頭部装甲。
アレだけの巨体を支える装甲だ。防御力に関しては信頼できる。故にここならばセンサー群への影響は軽微なはず。そしてセンサー群近くへの攻撃を加えた相手に優先度は上がるはず。複数ではなく単独ならなおさら。
小爆発が巨大ヴィランの頭部を包む。
その攻撃で巨大ヴィランはビクとも動かなかった。ギラリとアイカメラがあるであろう部分をこちらに向ける。それはさながら、捕食者が獲物の狙いを定めたかのようだった。
こちらの取る選択はただ一つ。反転して全力疾走。
背後からは地響きの音が聞こえてくる。逃げた俺を捉えるために追いかけ始めたのだろう。
だが悲しいかな俺は無力だ。少なくとも俺には巨大ヴィランを破壊する力はない。そもそもこのようなヴィランを相手する前提がおかしいだろ。卒業したら何と戦うってんだ。
直線での勝負は歩幅の差で負けてしまう。それ故コケそうになりながらも右や左と所狭しと逃げ回る。
「あっ……」
思わず足が止まる。
そうだ。所狭しと逃げ回った結果だ。目の前には試験会場を覆う外壁。右や左に逃げ道はない。引き返そうとした瞬間、背後のビルが弾け飛ぶ。ビルの壁を突き破るようにして現れたのは巨大ヴィランだ。どうやら最短ルートで来たらしい。
「はぁ……」
溜息も恐怖に震えているのがわかるくらいか細いものだった。
「チッ」
そんな自分が嫌で舌打ち混じりに頬を叩く。これで気合十分。
「よし、行ける」
巨大ヴィランが拳を振り下ろす。受験生の生死なんて考えていなさそうな勢いだ。それを全力疾走で回避する。
拳が背後に着弾し、背中を押す風圧が体を浮かせた。
宙に浮く体の姿勢を制御しながら着地し、すぐさま反転して拳に飛びつく。腕を持ち上げる勢いで不安定になる足場に懸命にしがみつきながら、巨大ヴィランを睨みつける。
腕に小虫のような存在がついたことを確認したヴィランは、人が小虫に対して行う反応と全く同様のアクションに入る。即ち俺めがけての平手だ。
すぐさま起き上がって全力疾走で駆け出す。平手は背後に着弾し、再び風圧で宙に浮く。
そして、堕ちた。
地上数十メートルほどから。仰向けの体勢で。
巨大ヴィランの頭部と四月の太陽と、嫌味なくらいに青い空が見えた。
胃の奥底が浮かび上がるような感覚が不快だ。全身が竦んでしまう。数瞬後には地面に叩きつけられて死んでしまうのだろうか。
「こんな試験、受けるんやなかった」
後悔が先に立つ。
そんな中、ポツリと太陽に黒点が一つ。
「は?」
もちろん人知を超えた視力を誇る個性を持っているわけじゃない。そして実際に見たのも太陽の黒点ではなかった。
「フランクくぅぅうううん!」
誰だ、俺の名を呼ぶのは?
ドゴォォン!と大きな爆発が起きる。
そして視界に広がったのは極彩色の羽。そして俺を包む優しい感触。スタッ、と地面に降り立つ。衝撃はなく、足にはっきりとした感触が返ってきた。
「あ、ありがとう」
「気にしないで!それに……」
極彩色の彼女は笑みを浮かべる。
「私、もう飛べないから助けて」
「は?」
「鱗粉ないと飛べないの!鱗粉はさっきの粉塵爆発で全部使い切っちゃったから!」
あくまで九死に一生、ということらしい。
頭上の駆動音とともにそちらの方を向く。
どうやらセンサー群に異常があったようでどこか動きは鈍い。それでも、巨大ヴィランは健在だった。
と、そこで。
「試験終了〜!」
プレゼント・マイクの大声が試験会場に響き渡る。
途端、巨大ヴィランは拳を振り下ろそうとした体勢で動きを止めた。
「おわっ……た?」
「みたいやな」
脱力してどっかりと腰を下ろす。気をぬくと全身の疲労が重くのしかかる。切った頬が少し痛かった。
「あれ、あの子」
停止した巨大ヴィランの足元から一人の少女が駆けてくる。
「なんや?」
「あっ、あの……!」
俺たちの前に立つと、その子は息を整える間も無く頭を下げた。桜色の髪が揺れてその相貌が隠れる。
「助けていただき、ありがとうございました!」
時代は求める、ヒーローを。その真意は未だ分からない。
だけど。
少なくとも彼女を救った、その事実だけは紛れもなく正しいことなんだって胸を張って言える。
どうも、ヒロアカの話を書き始めたノボル0624です。
タイトルは「ある正義の目覚め」ってのをガバガバ英語力でそれっぽく考えただけです。正しいかどうかなんて考えたら負けだと思います。
遅すぎる警告かもしれませんがこの作品にはオリ主、オリキャラ、R-15などの要素が含まれていますので苦手な方は回れ右でお願いします。
原作の流れに沿って行きますんでひょっとしたらアニメもしくは原作漫画未視聴の方には、不意打ちみたいな形で設定が登場するかもしれませんのでご注意を。
更新は次週にできたらいいなぁって感じでノンビリやって行くつもりです。エタらないようがんばります。
質問、ご指摘等は感想で受け付けてます。豆腐メンタルなのでお手柔らかにしてくれるととても嬉しいです。