日中なのに遮光カーテンがかかった、薄暗い部屋だった。部屋の隅っこには高校の教科書やプリントが埃を被ったまま沈黙している。換気もろくにしないから部屋の中はカビ臭かった。
僕がこの部屋に帰ってきてから一ヶ月、この部屋から出ることは一度も無かったし、この部屋に誰かが入ったこともない。
僕は俗に言う引きこもりである。二年間眠り続けて弱った身体の為にリハビリした二ヶ月前の方が健康的だった気がする。
悪夢のようなあの世界から解放された筈だった。なのに僕はまだ、悪夢の続きを見ている。
ソードアート・オンライン。それが、悪夢のような世界の名前だ。
元から内気だった僕はゲームだけが友達だった。
ゲームの世界では現実のことを忘れられたし、ちょっとした優越感が得られた。ゲームの中の法則に従えば僕は弱者じゃなかった。
現実では男子の力のあるグループにこき使われていたから余計ゲームにのめり込んでいた。まだいじめでは無かったと思う。パシリにされることはあってもお金は払ってくれたし、悪いことをするとき連れていかれたりはしなかった。ただ、ちょっと彼らよりヒエラルキーが低かっただけなのだ。
彼らから逃げるようにゲームにはまっていった僕はとあるゲームに興味を持った。
それが、『ソードアート・オンライン』。
βテスターにはなれなかったけど、本チャンで一万分の一になることができたことは嬉しかった。
クラスで僕をパシリにするグループの数人が自慢しているのを聞いたけど、所詮ゲームだしアバター越しなら普通に付き合える自信があった。
それらが覆されたのが、手鏡とデスゲーム開始の知らせだった。
僕の姿は盾とメイスを持った勇気ある戦士のスカイから、自信がなくて内気な伏見空になってしまった。
混乱の中、偶然遭遇したクラスメイト。最初は異国で同郷の者を発見したような気持ちだったのだろう、普段の高圧的な態度は鳴りを潜めているクラスメイトに僕も安心した。
でも、人間とは慣れる生き物だ。
次第にいつもの調子を取り戻した彼等は段段と元の関係に戻っていった。虐げる者と虐げられる者に。
彼等の中に盾持ちが居なかったことと僕が当初タンカー志望だったこともあり、いつしか危険な狩りに連れていかれるようになった。
遅れていたレベリングの為に少し上の狩場に行って、僕がボロボロになっていく側で安全にレベルを上げていく彼等。僕はモンスターの攻撃を防ぐので精一杯でなかなか攻撃が出来ないためなかなかレベルが上がらなかった。
生命線は僕だったから装備品だけはちゃんとしたものをくれたけど、そのせいで僕に収入と呼べる収入は無く、ただ辛い想いをしていた。
どうして僕がこんな目に合わないといけないのか、こっそり泣いたこともある。
僕という踏み台のお陰で急速に力をつけていく彼等はつい、見誤った。
僕が捌ききれない数のモンスターに教われ、あっけなく全滅したのだ。
僕は悪くない。
僕は被害者だ。
そう始まりの街の安宿でずっと自分に言い聞かせて恐怖心を紛らわさせる毎日。
攻略組によってクリアされた時、僕は漸く救われた気がした。
しかし、悪夢は終わらなかったのだ。