臆病者の讃歌   作:ろくす

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第2話

 ゲームがクリアされ、現実に帰還した後は大変だった。一応軽く身体を動かしてくれてはいたようだが寝たきりだった身体はやせ衰え、当初は起き上がることすらできなかった。そのために社会復帰する前にリハビリをする事になった。

 

 5ヶ月間のリハビリも順調に進み、もうすぐ退院も視野に入ってきた頃に事件は起きた。

 スロープを伝っての歩行訓練が終わったことでベンチで一息ついていたら、突然ものすごい力で引き倒されたのだ。

 

「どうしてあんたが帰ってきて伸治が帰れないの!あんたのせいなんでしょ!伸治を返して!返せ!」

「落ち着いてください!」

「おい!引き離せ!」

 

 訳が分からなかった。僕のほかにも数人がリハビリをしていたのに何故僕だけが攻撃されたのか、何故僕が悪いと責められているのか。このとき僕はとにかく盾が欲しかった。あの世界で唯一の味方だった僕の盾が。

 髪の毛を振り乱した、幽鬼のような形相の女性は家にしたら凶悪なモンスターにしか見えなかった。隠れる場所も、身を守る武具もない僕はただ身体を丸めることしかできなかった。

 

「空くん怪我はないっ!?」

「は、はい……」

 

 女性はすぐに取り押さえられたが、彼女の言葉は鋭いトゲを伴って突き刺さった。伸治という名前に聞き覚えはなかった。僕を虐げていたやつらの母親ではないことは確かだ。でも、まるでやつらの母親に言われたような気分だった。

 付き添いの看護婦によるとあの女性は情報が拡散される前にナーブギアを取り外してしまった213人の1人なんだそうだ。自分の手で子供を殺してしまったのだと思いつめて心を病んでいったらしい。

 

「空くん、気に病まないで。空くんは何も悪くはないわ。茅場以外、誰も悪くなかったわ。ただ、運が悪かったの」

 

 看護婦さんの言葉が痛かった。僕は、やつらを見殺しにした。心の中の誰かが、僕は人殺しの犯罪者なのだと囁きかけてきた。

 

 リハビリは大体完了していたことと、女性による襲撃もあり僕は安全な実家に帰ることになった。二年間ろくに過ごしていない家族のもとへと。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」

「……ただいま」

 

 二年ぶりの我が家はよそよそしかった。固い笑顔の両親、窓から伺っている野次馬、住人の居なくなった犬小屋などを目にすると改めて僕は異物なのだと突きつけられた気がした。すっかり動かし方を忘れていた頬の筋肉を引っ張って笑う。

 ここは僕の家なんだ。もう襲ってくる敵は居ないし、笑顔で裏切ろうとするプレイヤーもいない。必死に自分に言い聞かせたけど、肩の力は抜けなかった。

 大きくお腹の膨れた母さんは僕の帰還を喜んでいるようには思えなかった。

 

 この家に、もう僕は必要無いのだと突きつけられた気がした。

 

 

 僕が再び引きこもりになるのには1ヶ月しかかからなかった。

 心無い第三者達は僕の心に傷をつけることで何か報酬を得ているのではないのかと疑いたくなるほど執拗で、悪質だった。善意という皮を被ったナイフに何度も斬りつけられた。それに対して僕が何か反応すると、まるで不当なことのような反応をされる。

 身勝手な感情による言葉の攻撃は僕の心に傷を残したし、両親は僕という爆弾の扱い方がわからずおどおどと顔色を伺ってきた。その様子はまるで暴君に仕える家臣のようであり、その態度にまた僕は傷付いた。

 

 もう傷付きたくなかった。

 始まりの街で誰にも会わないで引きこもり続けた時のように誰にも会いたくなかった。誰も僕なんか気にしない、優しい世界が欲しかった。

 学校の遅れを取り戻す為と称して通信教育の教材に没頭する日々。部屋から出ようとしなかった僕を両親は無理に引っ張り出そうとはしなかったので気がついたら家に帰ってから2ヶ月も経っていた。本当にこのまま誰にも会わないで逃げ続けて良いのか。そう悩み出したころ、再びフルダイブ型のゲームが出るのだという情報を手に入れた。

 

 

 

 

 

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