地に落ちた英雄は諦めない   作:風見 桃李

14 / 21
今回は短いです、それとサー・ナイトアイ誕生日おめでとう!


No.14 瞳を開けて未来を見て

 

ピッピッと機械的で高い音、一定のリズムでその鼓動を心電図は伝える。手術による麻酔の為、八木典花は病室で、魘されることもなく、人工呼吸器を付けて、彼女は静かに眠っている。

USJ翌日の雄英高校は臨時休校となっていた。飛んでいった脳無も、めり込み埋まりきった脳無も、既に逮捕されている。生徒たちは無事、心配事はとりあえず無いとわかっている。

しばらくは平気だと分かっているかのように、麻酔が切れている筈の時間になっても、彼女は目を覚まさなかった。

 

昼前になり彼女の病室に一人の人が男がやってきた、グラントリノだ。誰にも説明をしては居ないが、根津の要請により戸籍を作る際、グラントリノは彼女の身元保証人として名前が入っている。その為、彼女が入院する際にグラントリノに連絡が入って来た訳だ。

グラントリノは着くやいなや椅子を引き寄せ、彼女の側に座る。じっと見れば顔や腕、足、全体に包帯が巻いてあるのに気付いた。

「やれやれ、まだ寝取るのか。…まったく、ここまで人様の分の怪我を一人で負わんくても、俊典ならそう簡単に死なないぞ、典花」

 

辛うじて包帯から出てる髪の付近を、グラントリノはワシャワシャと撫でる。起きていたら良いリアクションをしてくれる筈だ、そう思うとグラントリノは気持ちの整理とお見舞いの品を買っていなかった為、病院内のコンビニへと向かった。

 

そこへタッチの差でまた一人病室へ人がやってくる。

ずっと動いていたのか、スーツが少し草臥れてしまったサー・ナイトアイだ。彼女の同居人の為、普通なら連絡が入っているがその場に彼はいた、向かった病院先を前もって聞いていた。

病室に入り、寝ている典花に近付き、彼はベッドに手を置いた。

「手術は成功と聞いていたが、麻酔が切れてないのか?まだ、まだこんなにもゆっくりと寝ているのか。…未来は変わった、か(…ふかふかのベッド、か。怪我をしないで寝てほしかった)」

「おぉ、ナイトアイか」

「グラントリノ?」

 

片手にどらやき、片手にコンビニの袋を携えグラントリノが帰ってきた。病室に入るな否や、グラントリノはどらやきを食べ始める。

「まだ目は覚めとらんぞ、麻酔はとっくに切れている筈だがな。あむっ」

「そうですか、まあ怪我が怪我なので…」

「腕は粉砕骨折、顔面は骨折、足はヒビ、他にも切り傷とか沢山ある」

「そ、そんなに…!?」

「元オールマイトとは言え負い過ぎだ、これから先について話し合った方がいいだろうな。どうせしっかりと話しとらんだろ」

 

二人がそう話していると鳥のさえずりのように小さい声が聞こえた。ここは…と言うか細い声と共に、グラントリノがベッドに近付く。ベッドに寄せていた椅子に座り、グラントリノは八木典花の顔を覗き込む。

まだ眠いのか、まだ意識がハッキリとしていないのか、しっかりと開けていない虚ろな目で、また眠りそうな典花に対し、グラントリノは大きな声で話しかけた。でなければ、そのままずっと、寝てしまいそうだとグラントリノは思ったからだ。

「起きたか!!」

「グラン、トリノ…ははは、お元気で、何より」

「笑ってる場合か!ワシの心配より自分の心配をしろ」

「申し訳、ありません」

「医者を呼ぼう、グラントリノ」

「サー、君も…居たのか」

 

ナースコールを持ち、ボタンを押さずに思わず固まったサー・ナイトアイ。なんて声を掛ければいいのか、彼は迷っていた。

「手紙、読みました。もしかしたら来るのが今日かもしれない、恐らく怪我をするだろう。…何が、恐らくなんだ…!」

「…ここまで、怪我するのは、…正直予想外だった」

「…私達が何を知って、何を知らなくて。あなたが何を覚えていて、体験していて、どこまで知り得るか。それを踏まえた上で、何処まで誰を巻き込めるか」

「話し合う、必要が、あるよな」

「…当たり前だ」

「だよ、な。(あぁまた、怒らせてしまったな)…すまない、サー」

「オールマイトは確定で巻き込みます。とりあえず一度話し合いをしないと…ん!?」

 

オールマイトに連絡を取る為、メールを送ろうとしたサー・ナイトアイは珍しいリアクションをした。何故なら普段は連絡をしてこない彼からのメールであったからだ。ちなみに現在は昼である。

「お、オールマイトからメールが来ていた。時刻は…昨日の夕方」

「アイツ、待ちぼうけか!」

「珍しいな、サーが、連絡を怠るなんて…」

「あなたを救急車に乗せた後、少し忙しかったんだ。根津校長と共にUSJの内の残党の確認の手伝い、ミリオ…私の所に来てるインターン生の確認、警察からの事情聴取など、携帯を見る暇がなくてな」

「ミリオ…通形ミリオくんか」

「知っとるのか?」

「あぁ、軋視…あちらのサー・ナイトアイに進められたことがある、個性の件でね」

「…そこは同じなのか。まあ、そういう事だ。」

 

呼吸の整ってきた八木典花を見て、携帯を手に彼は改めて思う。話し合い、オールマイトとサー・ナイトアイ、そしてオールライトでする気でいた。

 

だがそれで良いのだろうか?

 

先の“見えない未来”はどうなるかわからない。

二人は感情的で、一人は口が止まってしまうかもしれない。巻き込むと決めた、ならば三人ではなく、信頼出来る人または関わる人を話し合いに巻き込もう。

呼ぶとするならば、あの二人から。まずは近くにいる一人に声を掛けとくべきだ。携帯を握りしめ、意を決する。

「グラントリノ」

「…なんだ、サー・ナイトアイ」

「オールマイトと私と、オールライトの話し合いの場にあなたも居てくれませんか?」

「ワシも?」

「私だと、恐らく恐れから最後まで話せなく、なりそうで、オールマイトとオールライトは話が逸れるでしょう。それに、あなたにも聞いていて欲しい。この話し合いは、一筋縄ではいかないでしょう」

「…まあ、断る理由なんてないからな。いいぞ!(一筋縄な、寧ろ切れてる紐を繋いでいくようなモノだ。それが未来への縄になるとは限らん)」

 

返事とは裏腹に、グラントリノの考えは明るくはない。

未来への道筋の為のヒント、出来事等を繋げていった結果が、避けられぬ悲劇になる可能性を危惧している。

「(俊典と典花、オールマイトとしての攻撃の仕方は同じだった筈。見た感じの笑い方も、恐らく思想も、同じ筈。なんだ?この違和感は)…ナイトアイ、ナースコール押してやれ」

「そうでした、今押します。典花さん、動かないでくださいね」

「ああ、わかったよ」

「起き上がるのもだ、ああ寝ていてください!呼吸器を外さないでくれ!」

 

言葉では言い表せず、何か引っかかるグラントリノは二人のやり取りを見て、今はその違和感を胸にしまい込んだ。

その後、医者やナースが来て慌ただしくなる病室。

壁に寄りかかり、それを静かに見るサー・ナイトアイとどらやきを食べながら見守るグラントリノ。

 

意識レベルや呼吸には問題は無く、早くても明日には車椅子だが退院は出来ると医者は言うが、戦闘行為や激しい動きは控えて欲しいと言うことだった。

足のヒビはリカバリーガールになら、体力が戻り次第すぐに治ると言われたが、治しきれてはいない。特に腕は現状完治がしていなく、一回の手術では完治しきれず、完治しても腕の形が元通りではなく歪んだままの可能性があるということ、眼も何らかの障害が残る可能性があると言い残した。

「腕と、眼が…」

「眼か、相澤くんのを私が負ったと言う事か…」

「おい、典花。前に言ったこと覚えとるか?」

「前に言ったこと?」

「怪我治して、体鍛えて、体を万全にしろって言っただろ。今のままじゃ手は貸さんし、死に急ぎてぇのか」

「そ、そんな訳では…」

「焦るな、それと信用しろ、自信を持て」

「わ、私はただ皆を…!」

「ワシらがいる、お前も俊典も、もう一人じゃない。ちったァ頼れ!」

「…よろしいの、でしょうか。ずっと、迷っていて…、私は、私はこの現状でさえ頼り過ぎている。住む所も、居場所も、未来を変えるのも…!この命でさえ、誰かのお陰というのに…!」

「今までが頼らな過ぎなんだ、お釣りが返ってくる」

「…っ!」

 

歯を噛み締め、涙を堪える典花。

彼女はいつから迷い始め、いつから自信を無くし、いつから焦り恐れていたのだろうか。

きっかけはどれだったのだろうか。八木俊典との出会いか、少し未来の変わった受験日か、佐々木未来との出会いか、それとも、それとも。

考えた所で、積み重ねで全てかも知れない。

「グランッ、トリノ…!私がこの怪我を治し終わったら、頼っても、よろしいでしょうか!」

「及第点だが…ま、いいぞ!」

 

「(私は忘れられているのだろうか)」

 

未だ壁に寄りかかり、サイレンマナーモードの携帯を弄りながらその光景をサー・ナイトアイは見ていた。

正直話すタイミングも無く、彼はオールマイトとメールで日程を合わしていた。

「(典花さんが…立ち直れるのならばそれはそれで良いが、正直出るタイミングも逃した)」

 

そう彼が悩んでいたらコンコンと、控えめにノックが聞こえた。

入りますと若い男性の声、入ってきた人物に三人は驚いた。

「八木さん、へい…き?あれ、おじいさんと…」

「ホークス?何故ここに」

「あなたは確か、サー・ナイトアイでしたね。いや、そろそろ時期的に襲撃があるじゃないかと思って、今日コッチに飛んで来たんですよ。俺なら時間さえあれば身軽にコチラへ来れるから来たんですが、すみません遅かった」

「いや、本当なら私が連絡すべきことだった。手間を取らせてすまない、ホークス」

「きっと一人で解決しようとして言わなかったんでしょう、そういうのはダメですよ」

「…あぁ、誰かに相談をするように心掛けるよ」

「まあ生きててよかった。お見舞いになっちゃうなと思って、味気ないですが、はいこれ、ミネラルウォーターです。それじゃ俺、帰ります」

 

お大事にと言い残し、ものの数分でホークスは帰って行った。本当にお見舞いだったようで彼は飲みやすくしたのか温いミネラルウォーターだけ置いていった。そしてその近くにふわりと羽が落ちる。

「あれが早過ぎる男…帰るのも早い」

「いや、そう言う意味での早過ぎるではない」

「だが来てすぐ帰って行ったぞ」

「いや、グラントリノ、寧ろ私達が長居し過ぎなんだ、帰りましょう」

 

サー・ナイトアイはそう言うと明日また来ると言い残し、グラントリノを引き連れ帰って行った。

足は動くもズキズキとまだ痛く、使える腕は右腕のみ、左眼の方には包帯が巻かれている。キャップぐらい開けて置いてもらえば良かったかなと思いつつ、歯で噛んでミネラルウォーターを開ける。

「んぐっゲホッ…あー…駄目だなあ私は。私は、もうオールマイトじゃない…ただアドバンテージとして一つの未来を知っているだけの、オンナ。自覚を…自覚をしなければ…立場を、名を、力を、いつ消えるか、わからない…」

 

病室からの日に照らされ、未だ癒えぬ体と消えぬ疲労により、ウトウトと、微睡みに落ちていった。

 

 

ここまで月日掛けて書いときながら実はまだ【八木典花にどの道を歩ませる】かをまだ決めてないので参考にさせてください。

  • 恋愛
  • 周りと共に救済
  • その拳で未来を捻じ曲げる
  • 自らを盾として矛として突き進む
  • 全てを失う事により、今救える命があるのならば…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。