弔辞があるので今回変わった構成となっています。
御葬式回です、彼闇落ちしそう。
軋視瞳の目の前には空の棺が置いてある。
No.1ヒーローの葬式だ、僧侶が入ってくれば忙しくなる。
参列者の受付は、バブルガールとセンチピーダーの二人に、朝のうちに指示をして任せてある。
メディア向けには少し早めに開放した。
オールマイトファンがもう来ているのか既に線香と花の混ざっている。
「…涙も出ない、か。全く、あぁ、せめて、人並みの感情さえあれば…!!」
空の棺に、消えた遺体。空の心に、消えた
告別式は始まる。
この度は、ヒーロー オールマイトの葬儀に参列して頂き皆様、ありがとうございます。
喪主を務めますは、元サイドキックであり…ヒーローのサー・ナイトアイです。
そのような関係でありましたので本来なら、彼女の意向だと過去に聞いた話ですが葬式はしなくてもいいと、言われてましたが今回は僧侶による読経、焼香、私の弔辞の3つのみとなります。
それでは…。
貴方、いや貴女は素晴らしい人でした。
素晴らしい女性でした、素晴らしいヒーローでした。
ですが貴女は、料理は本当に下手でよく焦がし、切るものは全て繋がり、味は濃すぎるかうす過ぎたりしましたね。
ヒーローとしてのコミュニケーションは完璧なのに、一人の人として関わる時はとても口下手で、…笑顔が本当に眩しい人でした。
今日の陽射しのように、ヒーローとしての笑顔はギラギラとした人。
貴女はNo.1故に、頼れる人がいない。
人前では決して泣く事の無い、愛して欲しい筈なのに、ぬくもりを誰よりも知っているのに、知らない生き方をしてきた人。
オールマイトは、誰よりも孤独な人だったな…!!
私はオールマイトの元サイドキックだ、そして…八木典花の戸籍上の息子だ。
今だけは、少しの間は息子として、皆に言わせてくれ…!
平和の象徴は死して本当の象徴となった?巫山戯るな!
彼女の死を、ヒト一人の死を、誉にしないでくれ!!
血の繋がりの無い、戸籍上の母で戸籍上の息子でしたね。
接し方も関わり方も、育て方も恐らく一般的な親子ではなかった。
私はとあるヴィラン組織のデザインベイビーで、典花さんに救われなければ私は、今頃組織の兵器で、例えばそこのあなた、例えばそちらのヒーローを殺していたかも知れない。
私は欠落している、人の表現を、心を、倫理を。
私は生まれながらに歪んでいる。だが全て、八木典花を見て、あの人みたいなヒーローになりたいと思い、…ここまで来た。
彼女の真似をした、模してみたり、理解する為に何回もシミュレーションもした。
だが典花さんは、教えるが下手で、それでも教えようと、軋視瞳が軋視瞳らしく生きられるようにと言ってくれた言葉がある。
君と私では歩き方が違う、同じ人間だけど違うだろう?君は君らしく歩め、ゆっくりでも良いから歩いて学べば良いんだと。
そんな不器用ながらも素晴らしく、尊敬するヒーローの死を、私の、わたしの母の死をッ!
たたえないで…、ほしい。
…失礼、だいぶ取り乱しました。
生は有限、死は無限。
私はもうあなたに会えません、あなたの師も、あなたの弟子のような生徒達も同僚も、誰も彼もあなたに、永遠に会えない。
いくら体を取り繕い、記憶を継承し、何もかも同じあなたが出てきたとしても、それは八木典花を模したものであり、八木典花では無い。
ここにあるのは空の棺、実はあなたは生きてるかも知れないし、本当に死んだのかも知れない。
…何が言いたいかと言うと、典花さん、オールマイトは本当に死んだな。
遺体は無い、事実の確認も困難で、あるのは少数の目撃と心電図の音。
我々は良くも悪くも前を、一歩を歩み進まなければならない、いや、進んでくれ、進んでほしい。
八木典花なら、そう言うだろうから。
だからどうか、何処かに遺体があるなら見つけますから、生きているなら見つけますから、今はどうか、この想いだけは言わせてくれ。
典花、さん、…ぁ…ぉ…、かあさん今は、やすらかに。
…おやすみなさい、かあさん。
告別式の終わり、出棺となった。
メディア、ファン、ヒーロー、野次馬、参列者。
多くの者がここに集まった。泣き声が聞こえる、叫び声が聞こえる、笑い声が薄っすらと聞こえる。
それらを消すようにクラクションは大きく、何よりも大きく鳴り響いた。
「…ここから、車で30分ぐらい掛かる場所に火葬場があります」
「サー・ナイトアイ、貴様大丈夫か?」
そう言って一歩前に出てきたのはエンデヴァーであった、サー・ナイトアイは首を傾げるとエンデヴァーは彼の顔が真っ白だと静かに言う。
「サー、火葬場までは私とセンチピーダーで誘導と説明しますから休んでください」
「俺もやります、3人いれば平気だと思うんだよね。…
お願いですサー、少しでも休んでください」
「…すま、いや、ありがとう」
「…休め、ナイトアイ。例え30分でも、5分でも、何時間でも、一度立ち止まり、肩の力を抜け」
「あなたはオールマイトが嫌いだったのでは?」
「嫌いではない、超えたかったんだ。だがそのお…、その“女”はあまりにも強かった。俺は男だと思ったから超えたかった。…早くに知っていれば俺は認めただろう、俺は折れただろう」
「あなたが、折れる?」
虚ろな眼だ、未来を予知すると言うには、瞳に光は無かった。
轟炎司はその瞳を持つ人の背を、その手のひらでゆっくりと押し、車に誘導をする。
「ああ、越えられない壁だと折れただろう。そして、今以上に意地でも超えてやろうと思うだろうな」
「折れてないんじゃ…」
「一度は折れるだろう?少しでも諦めてしまったら」
蒼い焔のような瞳を見た、紅い炎を身に宿すにはあまりにも澄んだ焔だ。
軋視瞳はその瞳で未来を見なくてもわかった。
この人が次のナンバーワンとなり、平和の象徴亡き後の先の未来を、燃やし照らすと。
「お前も一度、今折れた。軋視瞳、ヒーロー サー・ナイトアイとして、また立てる時を待っている」
軋視を後部座席に座らせると、炎司は運転席へと座る。
どうやら彼が運転するようだ、火葬場への道は既にナビに入れてある。
「う、あ、あぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
顔を隠しながら、声を上げる。
泣いたことが無いのか、下手くそに泣き叫ぶ。
その場には、寄り添う者は居ない。
その場には、それが何かを伝える人は居ない。
それでもこの涙の意味ぐらいはわかっていた。
人並みの感情が無くとも、それを上回る知識がある、教えてくれた人もいる。
空の棺は、夏の空へと煙となり、溶けていった。
ここまで月日掛けて書いときながら実はまだ【八木典花にどの道を歩ませる】かをまだ決めてないので参考にさせてください。
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