何にしよう?
八木俊典は医者からの話を思い出していた。
『内蔵を一新なんて普通ではあり得ませんからね。だからと言って異常はありませんので退院も可能です、ですが後遺症というには改善されているので後遺症と言うべきか悩みますが…急に胃袋が戻ったことによる違和感、呼吸器官の違和感、他にも体全体に違和感が意識がある時、これから出てくるでしょう。特に子宮が戻ったことによるホルモンバランスの弊害、女性なので急に月経が来たりPMSなど起こしたりするでしょう』
『ぴーえむえす、ですか?』
『PMSです、月経前症候群と言って男性にはあまり聞かない話でしょう。精神面だと憂鬱になったりイライラしたり、身体面だと吐き気や頭痛、ほかにも色々症状がありますね。女性の約9割以上が月経前に症状を訴えますね。他にも色々あると思いますがまずは療養、少しずつ歩いて体力作りと今の体に慣れてください。とりあえず月に一回の通院を。間にも病院は来て良いので体調が悪かったら来てくださいね』
「…女性は大変なんだなぁ、内蔵があればなんてあの時言ったけど。あったらあったでまた大変なんだ」
そう呟きながら彼は典花と共に今近くのドラッグストアに居た。
いつ来るかわからない月経に向けてだ。
男性には縁が無いものだが揃えるべき物が色々ある。
「とりあえず二袋と入れ物とかで良いか、痛みは無かった筈だから薬はいらないとして。俊典!せっかくドラッグストアに来たんだ、他に必要なものあるか?」
すっかり(見た目は)元気な典花を見てこのまま何も起きなければ良いんだけど、と思うが治ったのは内蔵だけ。
体の手術痕や過去の傷痕は消えてない。
「どうせなら治してくれれば良かったのに」
「HEY HEY!話聞いてる?何をなおしてくれればって?」
「君の傷だよ。私が言うことじゃないけど、やっぱり君は綺麗なんだぜ?活動時の傷やその、手術の傷も消えてくれたらって思って」
「おいおいそれは贅沢すぎるぞ。内蔵を一新してくれただけで儲けもんだろ?後さ、私は君なんだ、つまり俊典も綺麗ってことだろ?」
「んんん!ここでは止めて!」
そう言う俊典の顔は耳まで赤かった。彼の心は今ぐらぐらしている。
少し落ち着いて彼女は私と脳内で繰り返した。
壁ドンされてたら危なかった。
「いやぁ、私が言うことじゃないけど俊典はよく照れるね。少し可愛いよ」
「おじさんに可愛いっておかしい!あ、それこそ君も可愛いでしょ!」
「おばさんだから可愛くはないよ、てかさっき綺麗って言ってなかった?」
「典花はおばさんって感じ、しないよ。綺麗系可愛いとかじゃないかな?」
ドラッグストアではそんな不毛な争いが続いた、しかしそんな不毛な争いは日常と化す。
(彼女の心的に)平和なのは物を整える最初ぐらいでその後典花は約10ヶ月、そう、地獄の10ヶ月と言われる期間、八木宅で(強制的)療養を(八木俊典監修で)させられた。
走り込みなし、筋トレなし、散歩はあり。
三食少しずつ食事量を増やされ、食べるものも固形物となり、寝る時間も規則正しく、俊典は緑谷出久のことで日中はいない。
彼女は完全に鈍りきってしまいそうだったし、ストレスが生まれ始めた。
だがそれをさせないのが根津であった。
療養期間中に彼女はしっかり運転免許も取ったし、短期間で教師になるために必要な免許も取らされた。なんだかいらない資格まで取らされた。
そして一番欲しいのだが身体の都合上、まだ今の世界のヒーロー免許の仮も取れない典花、だが根津は前の世界のヒーロー免許を貸してくれと言って貸して数ヶ月、そこに関しては謎のままだった。
ちなみに八木宅に住んでいるので八木俊典に料理など、少しずつ毎日教えて持っている。
お礼として目指せ合格アメリカンドリームプランを過去のことを思い出しながら少しだが口を出した。
そして残りの一カ月のとある二日間から話は始まる。
病院から帰ってきた典花に気付いた俊典はおかえりと言った。家にすっかり馴染んでいる。
そんな彼女の手には一枚の紙。
「見てくれよ俊典!私、来月から病院行かなくて良いんだぜ!生理不順はなくOK!俊典のご飯も美味しい!内蔵不安なし!」
「お、つまり」
「Yes!筋トレだ!まずは走り込みっ!少し鍛えておかないとワン・フォー・オール使用時に爆散なんて笑えないからね」
「えぇ、確かに笑えないけど無理しないでね?」
「それはお互い様だぜ?俊典」
そう喋る彼女は明らかに見違えた。
肉付きは良くなった、ガリガリながらも筋肉のある体は一般女性のように膨らんでいた。
顔も肩も少し丸み帯びた。髪の毛は伸びたし艶が戻って金色の髪はキラキラしていた。
空から落ちてきた時は体の細さも髪型も、パッと見は俊典とそっくりだった。
そんな二人が並ぶと長身で、ガリガリで目立ったがもうそんなことはないだろう。
そう、目立つとしたら。
「(私だけ。本当、自分のように嬉しいや)HAHAHA!やっぱり典花、君、綺麗だぜ?」
「なら俊典、君は格好いいぜ」
「んんん!心境の変化!?」
「何だかんだ9ヶ月、10ヶ月過ごしてるからね。病院以降は根津校長以外は会ってないし。それに近くでヒーローをしてる俊典を見ている、最高に格好いいよ。まぁ血反吐吐きすぎだし無茶しすぎだけどな!ってと、俊典?どこか痛いのか?」
「え?なんで?」
「なんでって、君泣いてるぜ?」
「嘘!?え、涙が、んんん?なんで止まらないかな」
どうやら知らず知らず彼女は八木俊典の心の隙間に入り込んでいたようだ。
お互いに一人、世界でたった一人のヒーロー オールマイトをしてきた。
ファンのように見てくれる人がいてもかけられるそれは憧れ、尊敬、畏怖、敵意。様々な感情のあれやそれ。
本当にオールマイトと対等だった人はいなかった。だからこそ彼女の真っ直ぐな自分と同じ色の瞳で、声は違うけど言われた言葉【格好いい】は彼に響いた。
誉めてほしくてヒーローをしてたわけじゃない。
見てほしくてヒーローをしてきたわけでもない。
名声も富も必要はなかった、平和の象徴として、柱になるためなら全てを捧げてきた。
「ごめんね、典花。情けない話なんだけど、今だけでいいから、私を抱き締めてくれないかい?涙が止まらないんだ」
俊典がそう言うと彼女は微笑み、言った。
「俊典、大丈夫だ。私がいる」
それは普段、彼が言っている言葉だった。
その声に、言葉に、存在感に、酷く安心してしまう。
彼はずっと守る側、守られる側の気持ちが今は少し、わかった気がした。
俊典は止まらないその涙は、大きくなった。
そんな彼を典花は優しく抱き締める。
細い彼を、壊れないように。
傷だらけの彼を、守るように。
一人だった彼を、暖めるように。
オールマイトは、もう一人ではないとわかるように。
「俊典、君が言ったんだ。私達も人間だ、泣いて良いんだって。誰も責めないよ。だから泣いて、休んで、笑おうぜ?」
「だけど、私は…!私はオールマイトだっ!」
「俊典、もうオールマイトは二人いるんだ。泣いていいんだよ。これからは、私も側にいる。君が弱くなった分、私が強くなる」
せめて声は出ないよう、彼は泣き続けた。
現役としての威厳、男としての威厳、他にもあるが何よりまだ死んだことのないからこその生者としての威厳。
オールマイト。
それは彼の威厳。
「(情けない、本当に情けない。私はまだ生きているのに、現役だというのに、彼女の方が不安だろうに。私は嬉しくなって、胸が締め付けられるほど苦しくなるほど格好いいって言葉が嬉しかった!!涙も出るほどに!!!泣き止めよ、私!男だろう!)」
「大丈夫だぞ、俊典。声を我慢するな、私だって泣いただろ?」
「ふぅっ、君は、ぐずっ、声を出してなかったぜ?」
「あー、そうだったかい?」
「そうだったよ!」
典花は困った顔をすると話を変えようとした。確かに思い出すと声は出してなかった、気がする。
良い話題は何か無いか、ふと思い出したことがあった。
「あー、そうだ。俊典、私達どこまで同じなのか話し合わないか?もしかしたら、良い未来への糸口があるかもしれないぜ?」
そう言うとポツリ彼女は言った、それに答えるように彼も言う。
個性。同じだね、ワン・フォー・オールだ。
先代。志村奈菜、同じお師匠だね。
扱いた人。グラントリノ!
アメリカでお世話になった人。デイブ!デイヴィット・シールドだ、元気かな?
サイドキック。サーだね、サー・ナイトアイ。
弟子。緑谷出久、泣き虫なんだ。
宿敵。オール・フォー・ワン、もう一度戦う相手だ。
傷痕。ここは少し違うね、場所は同じだけど貫通している。
性別。これは仕方無いね。
そうだ、ヒーロー名。
「「オールマイト!」」
「流石にそこは同じだね」
「そうだね。…そうだ、俊典。一つ提案があるんだけど、いいかな?」
何か思い付いたのか、急に真顔になった典花に俊典は座り直して典花の方を向いた。
彼女の提案は現状どちらも未知数の中の提案だった。
「緑谷少年と個性無しの手合わせをしたい」
「手合わせを?まだ個性の譲渡はしてないよ?体だってまだだ」
「知っている、だからこその手合わせだよ。それに一日潰す訳じゃない、半日だ。午前から昼の鐘がなるまで、それなら海岸の清掃も間に合うんじゃないか?」
「うぅむ、まぁ彼ならギリギリ間に合うだろうけど…なんで?」
「譲渡した後を知っているからだよ。力の加減は元よりギリギリの器だ。彼は怪我を…する。けど一度、手合わせをしてみれば少しは良くなるんじゃないかと思って。それに前もって心構えも必要じゃないか?そこについては教えてないだろう。戦闘経験無しは少しキツいと思ってさ」
典花の提案は悩ましいものだった。
確かにギリギリの器、急造の器となるだろう。使えばどうなるかは、想像出来る。
だが俊典は体験したことはない、見たことはない。
彼の体は個性の譲渡前から鍛えていた、それに八木俊典はまだその未来を見ていない。怪我をすると彼女は言った。
彼は、緑谷少年は、いったいどんな怪我をするのだろうか?
「…わかったよ。実は明日見に行く予定だったんだ、緑谷少年に連絡するね」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
次の日の朝、海岸には八木典花が座っていた。
緑谷にはこう伝えた。
【わーたーしーがー!メールを送った!こんばんは!緑谷少年!突然なんだが明日は私以外に人が来るから楽しみにしてね!見た目は私と同じ色だからわかるはずだよ!】
朝焼けの海を見ながら黄昏ていた。
辺りはまだまだ寒い、寒さの震えか緊張の震えか、わからなくて良い具合だった。
それほどまでに典花は複雑な心境でいた。
「…少年に会うのは約10ヶ月振りか。正式には世界違うから、初めて…か。改めて思うと複雑だな、緑谷出久も相澤消太も、サー・ナイトアイもグラントリノも、面識のない初対面。…落ち着け、少しずつで良い、焦るなよオールマイト。こちらのオールマイトの予知を反らすんだ。ナイトアイの、予知を、そのために弟子を育てなければ…」
「あっ、あの!」
聞いたことのある声だった、懐かしくもあった、そして懐かしくなっていたのが酷く悲しくなった。
声のした方を見る、朝日に光り揺れるのはたんぽぽの綿毛のような緑の髪。
まだ未熟、まだ弱い、まだ傷のない体。まだ中学生で、彼女がよく知る前の体の、緑谷出久だ。
「オー、じゃなかった、えっと…」
「…初めてだね、緑谷少年。私は八木典花、オールマイトだ」
その日、彼女は自ら、世界は違えぞ再び後継者に会うことを選んだ。
遅くなったがこれは、あり得たかもしれないオールマイトの話。
その人は一度死んでも尚、世界を越えても尚、人を救う。
彼女は会わなくてヒーローをする、という脳内分岐もありました。
けど会ったのでこれから根津校長が裏でアップをし始めました。
そして根津関連でサー・ナイトアイもアップせざる終えない状況になりました。
ここまで月日掛けて書いときながら実はまだ【八木典花にどの道を歩ませる】かをまだ決めてないので参考にさせてください。
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