第1層が突破されてから、もう4ヶ月が過ぎた。俺は武器の強化素材が必要なため、最前線よりも10層以上も離れている下の階層に来ている。
そして、現在アインクラッドである名前が轟いている。それは、【ビーター】、それが今の俺の周りからの名前だ。つまり、ベータテスターとしての知識を活かしたスタートダッシュとリスクを考えない、パーティーを組んで安全マージンを確保する奴より、ソロで戦い。リスキーな分、高経験値効率で既に最前線のモンスターと単独でやりあえるほどのレベルまでに達している。これはキリトも同じだ。
ハチマン「腹減ったし、街に戻るか」
第一層での、俺の迫真の演技で、SAOのトッププレイヤーたち、今は攻略組と呼ばれているが、その攻略組に共通の敵、つまり、俺が居ることで、
誰しもが俺よりも我先にと強く成ろうとしたお陰でボス攻略が一気に効率が良くなったのだ。
ハチマン「ん?なんだ、ありゃ。ダメダメじゃねぇか」
街に戻ろうと足を進めていると、モンスターの群れに襲われていながら徹底している。なんともバランスが悪いパーティーが居た。
ハチマン「はぁ~。小町が居たら、助けてあげなよ、とか言うんだろうな」
そのバランスが悪いパーティーに加勢するために声を掛ける。
ハチマン「ちょっと前を支えましょうか?」
俺はパーティーのリーダーらしき、棍棒使いに目を合わせると、その棍棒使いもこちらに目を合わせる。
棍棒使い「すみません、お願いします。ヤバそうだったら直ぐに逃げていいですから」
ハチマン「うっす」
俺は短く返事をして、背中から剣を引き抜くと、メイス使いに背後からスイッチと叫ぶと同時に無理矢理モンスターの前に割り込んだ。
ハチマン「スイッチ!」
メイス使い「スイッチ!」
ハチマン「ハアアッ!!」
ハチマン「ッ!!」ビクッ
この時、俺は一瞬だがソードスキルの発動に躊躇した。それは後ろにいるパーティーの視線だ。
一般的に、ハイレベルのプレイヤーが下層で狩場を荒らすのは御法度なのだ。
長時間、その下層の狩場を荒らしていると上層のギルドに排除依頼が飛んで、そのプレイヤーを散々吊し上げた挙句に情報屋や新聞になんかに自分のことを非マナープレイヤーとして、その手のブラックリストに載ってしまうのだ。
ハチマン「セラアアッ!!」
なので、俺は極力初期のソードスキルを使い、時間をかけて、パーティーメンバーのサポートをした。また、ハイレベルプレイヤーの常識を緊急事態だと自分に言い聞かせてサポートを続けた。
しかし、この行動が取り返しのつかない、過ちだと、この時の俺は知る由もなかった。
そして、時間をかけてモンスターたちを倒した後、俺は偶然助けたパーティーに『是非お礼を!』と言われてしまい、その勢いに俺は折れてしまった。
街に戻り、店に入り、偶然助けたパーティーのムードメーカー的な奴が音頭を取る。
???「我ら、【月夜の黒猫団】に、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
???「でもって、命の恩人ハチマンさんに、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ハチマン「か、乾杯?」
???「何で、疑問系?」
ハチマン「いや、俺はずっとボッチだったから。こういうのは慣れてないんだ……」
俺がそういうと、先ほど音頭を取った奴が俺のことを哀れむような目で見てきた。それを黒猫団のリーダーのケイタが注意する。
ケイタ「おい、ダッカー。その目は、ハチマンさんに失礼だぞ」
ダッカー「わ、悪い」
それからは改めてギルド【月夜の黒猫団】からお礼の言葉をかけられた。そして、最後に黒猫団で唯一の女性プレイヤーに話しかけられる。
女性「ありがとう。本当にありがとう」
ハチマン「たまたま、通りかかっただけだし、それに目の前で人に死なれるのは夢見が悪いからな。お礼を言われるほどのことじゃねぇよ」
女性「すごく、怖かったから。助けに来てくれた時、本当に嬉しかった」
ハチマン「お、おう…………」
ケイタ「えっと、ハチマンさん。大変失礼だとは思うんですが、レベルっていくつくらいなんですか?」
ケイタは俺のレベルに聞いてきたので、自分の視界の中にある左上のステータスを見る。現在、俺のレベルは43。
そこで俺はとっさに…………。
ハチマン「35くらい」
ケイタ「35!?」
ハチマン「ああ。元々、今日は上の層で手に入らなかった武器の強化素材を手に入れるために、ここに降りてきたんだ」
ケイタ「ソロで35まであげるなんて凄いなー!」
ハチマン「ケイタ、俺たち、そんな歳も変わらんだろうし、タメで話したければタメで構わない。それとソロって言っても、寝る時間を最低限まで削ってレベル上げをしてるから、あまり効率は良くないぞ?」
ケイタ「そ……そうか。じゃあさ、ハチマン。急にこんなことを言ってなんだけど、俺たちのギルドに入ってくれないか?」
ハチマン「はあ?」
ケイタ「前衛ができるのはメイス使いのテツオだけでさ。こいつ、サチって言うんだけどさ。前衛ができる、盾持ち片手剣士に転向させようと思ってるんだ」
ケイタはサチという、女性プレイヤーの頭を何回か【トン、トン、トン】と叩きながら俺にギルドに入ってほしい理由を述べた。
ケイタ「でも勝手がよく分からないみたいでさ。ちょっと、コーチしてやってくれないかな?」
サチ「何よ、人をみそっかすみたいに」
ハチマン「えっと、サチさん?まだ、みそっかすならまだ良い方だ。俺なんて、リアルの中学校だと菌扱いだぞ、菌!」
サチ「な、何かごめんなさい」
ハチマン「いい。自分で言ってて自分が惨めに感じたから」ショボン
サチ「それにして、ケイタ」
ケイタ「なんだ?」
サチ「いきなり前に出て接近戦やれって言われても、おっかないよ」
テツオ「盾の陰に隠れてれば良いんだって」
ケイタ「まったく、お前は昔から怖がり過ぎるんだよ」
サチ「ぶぅ~」プクー
黒猫団「「「アハハハハ!!」」」
ハチマン「…………」
なんか、温かいギルドだな。最前線みたいにギスギスしてないし。あの時、違う選択肢を選んでいれば、俺もアイツらとこんな風になってたのかな…………?
ハチマン「…………」
その時、ハチマンが思い浮かべたアイツらとは、キリトとアスナにクラインが率いるギルド【風林火山】にエギルだった。
ケイタ「いや~、うちのギルド、リアルではみんな同じ高校のパソコン研究会のメンバーなんだよね」
ハチマン「へぇ~、ケイタたちも高校生なのか」
ケイタ「って、ことはハチマンも?」
ハチマン「ああ」
ケイタ「そっかなら、歳が近いから直ぐに仲良くなれるよ」
ケイタ「なっ、みんな?」
「「「ああ(おお(うん」」」
ハチマン「こんな、腐った目を持った俺なんかで良ければ、その、なんだ、よろしく?」
ケイタ「何で疑問形なんだよ」
サチ「ハチマンって、おもしろいね」クスクス
それからは黒猫団のみんなと改めて自己紹介をしたり、どんなスキルが得意など、いろいろと話した。
黒猫団の仲間になって、早くも一ヶ月が過ぎた。
黒猫団の前衛が増えたことにより、パーティーバランスが大幅に改善され、イレギュラーがなければ安定した戦闘ができるほどだ。
ハチマン「ダッカー、スイッチ!」
ダッカー「おう、スイッチ!」
また、黒猫団のみんなは人が良いのか、俺のHPがみんなより減らないことを気付いているのにも関わらず、何も言ってこない。
また、装備のことを聞かれて、上の階層で偶々、ドロップした装備だと答えた。これも俺を
信じてくれているのか何も言ってこない。
マンティス「キシャアアア!」
ササマル「ヤッ!!」ザシュッ!
マンティス「キシャアアア!!」ブンブン
キラーマンティスはササマルの攻撃で怒ったのかサチに向かって、両手鎌を振り下ろす。
サチ「きゃあっ!?」ガン!
ハチマン「サチ、一度下がれ!」
サチ「う、うん」
サチを一度下がらせて、俺はキラーマンティスの主な攻撃をする手の鎌を両方とも切り落とす。
ハチマン「テツオ、スイッチ!溶解液には気をつけろよ」
テツオ「おう、スイッチ!」
テツオ「デリャアアアッ!!」
マンティス「キシャアアア!?」ガシャン!
キラーマンティスを倒したことにより、俺たちの目の前に戦闘リザルトが現れ、そして…………。
テツオ「おっ、レベルアップ。ヨッシャア!」
ダッカー「マジか!」
ササマル「やったな!」
ケイタ「おめでとう」
サチ「すごい!」
ハチマン「おめっとさん」
テツオがレベルアップしたあとは、何度か戦闘として、ダンジョンの安全エリアでサチの手作り弁当を食べながら、ケイタがweekly argoを読んで声をもらす。
ケイタ「攻略組、第28層突破か…………。それも血盟騎士団のヒースクリフとアスナ、それにソロのキリトの三名による奮闘で此度も犠牲者がゼロ。スゲエーな」
ハチマン「…………。」モグモグ
アイツらは、俺が居なくても頑張ってるんだな。
なんか一安心だ。
ケイタ「ねぇ、ハチマン」
ハチマン「なんだ?」
ケイタ「攻略組と僕たち…………最前線にいる人たちとレベル以外で何が違うんだろうな?」
ハチマン「さぁな?俺にはわからない」
ケイタ「…………」
ハチマン「でも、一般的に見たら、情報力なんじゃないか?」
ケイタ「情報力?」
ハチマン「奴等はどこの狩場が効率がいいとか、どうすれば強い武器が手に入るなんて情報を独占してるからな」
ケイタ「あー、そりゃそういうのも有るだろけどさ…………。僕は意思力だと思うんだ」
ハチマン「意識力?」
ケイタ「仲間を……いや、全プレイヤーを守ろうっていう、意思の強さっていうかな……。僕らはまだ、今は守ってもらう側だけど、気持ちでは負けてないつもりだよ」
ケイタ「もちろん、仲間の安全が第一だ。でも、僕らもいつかは攻略組の仲間入りをしたいと思ってるんだ」
ハチマン「そうか……だといいな」
ケイタ「なんちゃって……」
ケイタがリーダーらしく、俺たちの未来の目標を話していると、ダッカーが上の段差から飛び降りてケイタとジャレ合う。
ダッカー「よっ、リーダー。カッコいい」
ケイタ「おいおい!?」
テツオ「俺たちが聖竜連合や血盟騎士団の仲間入りってか?」
ケイタ「なんだよ?目標は高く持とうぜ。まず、全員レベル30な」
サチ「無理だよー!」
テツオ「それは、ちょっと……」
ササマル「きつくね?」
ハチマン「…………」
コイツらとなら、本当に攻略組の仲間入りをして、その時は今の仮初めの繋がりじゃなくて、本物の関係に成れたらいいな。できれば、そうありたい。
しかし、俺は自分の左上のHPバーを見た。そこには俺のHP9600とレベルが50と表示されていた。
あいつらに本当のことを話しても、拒絶されないだろうか…………。その懸念だけが、いつまでも拭えないでいた。
そして、その夜にケイタから、ある発表があった。それはなんと…………。
ケイタ「みんなに報告がある。えー、今回の狩りで、なんと、20万コル貯まりました」
「「「オオオオオ!!」」」
テツオ「そろそろ、俺たちの家を持つことも夢じゃないな」
ササマル「ねぇねぇ、サチの装備を整えたら?」
ケイタ「そうだな」
サチ「ううん、今のままでいいよ」
ダッカー「遠慮するなよ。いつまでもハチマンにばかり前衛をやらせるのは悪いしさ」
サチ「ごめんね、ハチマン」
ハチマン「謝らなくていい。人に適材適所があるし、逃げることは悪くない。俺なんか、いつもいやなことから逃げてる事まであるし。このゲームがクリアされて、いつか将来は必ず専業主夫になってやる」
ササマル「ハチマン、専業主夫って…………」
サチ「それはどうかと私は思うな……」苦笑
ケイタ「ま、まあ、専業主夫は置いておいて。ハチマン、悪いな無理させて」
ハチマン「平気だ」
ケイタ「サチ、転向が難しいのは分かる。でも、もうちょいだ。みんなで頑張ろうぜ!」
サチ「うん……」
サチは少し暗い顔をしながら頷いた。夜は更けり、黒猫団のみんなが寝静まった頃に俺は自分の部屋を出て、ある場所に向かった。