その場所は先日まで最前線であった。第28層のフィールド、狼ヶ原。ここは名前の通り、オオカミ型のモンスターが出現し、そのモンスターは仲間を呼ぶので少し危険だ。
ハチマン「…………」テクテク
ハチマン「キリトにクライン………」
狼ヶ原にたどり着くとそこには第1層からの知り合いが二人がオオカミ型モンスターの【Blood Wolf Leader】を追いかけていた。
クライン「…………」
キリト「クライン、スイッチ!」
クライン「おう!」ガキン!
キリト「セヤアアアッ!!」ガシャン
クライン「ナイススイッチ、キリト」
キリト「サンキュー」
キリトとクラインは拳を合わせて互いに労っているのを、ふとした拍子でクラインがこちらを見た。
クライン「おっ、ハチマンじゃねえか!おい、雑魚は任せたぞ」
キリト「ハチマン!?」
そして二人はこちらに走ってやってくる。
クライン「最近、見かけないと思ったら、こんな夜更けにレベル上げかよ?」
キリト「よっ、ハチマン。それとそのマーク」
ハチマン「ああ、俺もギルドに入ったんだ。ちょっとした、成り行きだが、いいギルドだ」
キリト「そうか……」
ハチマン「じゃあな、二人とも」
俺はそう言い残し、フィールドの奥に進んでいく。
キリト「…………」
クライン「まだ、気にしてるのか?キリト」
キリト「だって、あの時、俺が何とかしていれば今頃、ハチマンは……」
クライン「だったら、アイツが辛い時には支えになって、恩返しをしてやれよ」
キリト「ああ、そうだな」
キリトたちと別れた俺は、二時間ほどレベリングをしてから、ギルドのホームに帰るために転移門から転移すると、ケイタからメッセージが届いていた。
ハチマン「ケイタ?」
~~~~~~~【Massage】~~~~~~~
『ケイタです。
サチが出ていったきり帰ってこないんだ。
僕らは迷宮区に行ってみる。
ハチマンも何かわかったら知らせてほしい』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ケイタからのメッセージを見て、これまでのサチの表示や仕草などを思い出した。その思い出した記憶には時々、サチが暗い顔をしているのがわかった。サチは自分が恐怖しているのがギルドのみんなの足手まといになると思い、その恐怖の感情を今まで胸の奥底に隠し我慢していたが、その我慢が今、限界を迎えたのだ。
ハチマン「まさか、サチ………お前は……」
何故、気が付かなかった。周りの人間の仕草や動作を常に確認するのはボッチの専売特許だろうが!なのに、俺は…………。
ハチマン「クソッ!今は考えたって仕方がない、サチを探すことが先決だ」
すぐに索敵スキルから派生する《追跡》スキルを使用してサチを探す。そして、そのまま俺たちが泊まっている宿屋まで行き、サチの足跡を探すと一つの足跡が薄緑色に光って残っていた。
俺はそれを辿っていくと、迷宮区とは逆の主街区の外れにある水路の中に消えていた。
ハチマン「…………サチ?」
サチ「ハチマン。どうしてこんな所が判ったの?」
ハチマン「ボッチを舐めるなよ?サチは今まで時々、辛そうな顔をしていたろう?だから、そんな辛い顔をしているのをみんなには見せたくなかったんだろ?」
サチ「そっか……ハチマンは凄いな」クス
サチは俺にかすかに笑ったあと、膝を抱えてその上に顔を伏せてしまう。
ハチマン「ケイタたちが心配してる、戻ろう」
サチ「ねぇ、ハチマン。一緒にどっか逃げよ」
ハチマン「逃げるって……何から?」
サチ「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから………SAOから」
ハチマン「逃げれたらいいよな」
サチ「え?」
俺はサチの場所を月明かりが分けているギリギリのラインに座りサチに話す。
ハチマン「仮に逃げたとして、サチは後悔しないか?友達を見捨てて、逃げて。もしかして俺たちが逃げたことでケイタにササマル、テツオにダッカー、この中の誰かが攻略中に死んでしまうかもしれない」
サチ「…………」
ハチマン「もし、そんなことになってゲームがクリアされても、俺たちはアイツらに顔向けができるのか?」
サチ「それは…………」
ハチマン「俺はできないと思うし、それは欺瞞だ。本物じゃない」
サチ「本物?」
ハチマン「ああ。それが何なのかは俺自身でも分からないけど、俺が追い求めるものかな?」
サチ「…………私。死ぬのが怖いの。怖くて、この頃あんまり眠れないの」
ハチマン「そうか……」
サチ「ねぇ、何でこんなことになっちゃったの?なんでゲームから出られないの?なんでゲームなのに、本当に死ななきゃならないの?あの茅場って人はこんなことして、何の得があるの?こんなことに、何の意味があるの……」
その5つの質問はサチの胸の中に隠し我慢してきた物だと俺は思った。誰もが、この世界に対して、恐怖、怒り、悲しみ、憎しみ、といった人のいろんな感情が充満している。
サチはその中でも悲しみと恐怖がデカイのだろう。
ハチマン「俺にはわからない。アイツが、茅場晶彦が本当は何のために、このSAOを作ったかのかは、この世界を創造した茅場晶彦、本人にしかわからない。」
サチ「…………」
ハチマン「でもな、一つだけ言えることがある。それは、お前は死なないってことだ」
サチ「なんでそんなことが言えるの?」
ハチマン「……黒猫団は今ままでも十二分に安全マージンを確保している。それに俺から見ても、強いギルドだと思う。それに別に無理に剣士に転向することはない。モンスターが怖いなら、戦闘職以外にもギルドに貢献できることがあるだろう?」
サチは顔を上げて、すがるように俺の方を見てくる。
サチ「……本当に?本当に私は死なずに済むの?いつか現実に戻れるの?」
ハチマン「ああ…………サチは死なないさ。いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで」
しばらくしてからケイタにメッセージを飛ばし、俺とサチは宿屋に戻った。
宿屋に戻った俺はサチを部屋で休ませ、ケイタたちが帰ってくるのを一階の酒場で待っていた。
ケイタ「ハチマン!サチは、サチは見つかったのか!?」
ハチマン「取り敢えず、落ち着け。話はそれからだ」
ケイタ「わ、わかった」
ケイタたちが一息入れて、落ち着いたのを確認してからサチが我慢していたことについて話した。
ハチマン「まず、サチは無事に見つかって今は部屋で休ませてる」
ケイタ「そ、そうか……。はぁ、良かった」
ハチマン「良かっただと?」
ケイタ「え?」
ハチマン「ことの発端は俺たちにあるんだぞ!」
ダッカー「どういうことだよ?ハチマン」
ハチマン「サチはずっとモンスターと戦うことに恐怖していんだ」
「「「「!?」」」」
ハチマン「でも、アイツは…………サチは、俺たちの足手纏いになりたくないから、恐怖を胸の奥に押し殺して俺たちと一緒にモンスターと戦ってくれてたんだ」
ササマル「そんな…………サチは一度も、そんなことは」
ダッカー「そんなの言ってくれりゃ!」
ケイタ「サチは言ってたよ、ササマル、ダッカー。サチは『おっかない』と言ってたのに、それを俺たちは無理矢理、片手剣に転向させようとしたんだぞ?」
ダッカー「それは…………」
ササマル「……」
ケイタ「俺、リーダー……失格だ。サチがそんなことをずっと思っていたなんて、気付いてやることすらできなかった」
テツオ「ケイタ……」
ハチマン「そこで俺は、サチを前衛に上げるのは反対する。もしくは、サチを戦闘職から生産職に転向させることを提案する」
ケイタ「それは……」
ハチマン「無理にやらせて、死んだら元も子もないんだぞ!?だから、俺がサチの分まで前衛をやる」
テツオ「それじゃ、ハチマンの負担が!?」
ハチマン「いい。仲間が死ぬよりはましだ」
ケイタ「すまないが頼むな、ハチマン」
ハチマン「任せろ。それと、このことはサチに黙っていてほしい。もし、サチから言う時が来たら、戦闘職から生産職に転向させてほしい」
ケイタ「わかった、その方針でいこう。三人もいいな?」
「「「ああ!」」」
こうして、最悪のケースを考えて黒猫団のみんなにサチの思いを伝えた。
あとは、サチ。お前次第だ。俺ができるのはここまでだ。
そのあとはみんな、それぞれの部屋に戻って床に着くことにした。
その日の夜、サチが俺の部屋に枕を持ってやって来た
───コンコンコン!
ハチマン「どうぞ?」
サチ「……」ガチャ
ハチマン「サチ?」
サチ「ごめんね、やっぱり眠れなくて」
ハチマン「…………」
サチと俺は背中合わせでベッドを半分こして寝ることにした。
ハチマン「このギルドにいれば安全だ。いつかは現実世界に帰れる日がくる。だから、サチは死なないし、俺が死なせない」
サチ「うん……。ねぇ、ハチマン」
俺はハチマンの方に寝返りをうつ
ハチマン「なんだ?」
サチ「一つだけお願いしていい?」
ハチマン「俺ができることならば」
サチ「それじゃ、私が寝付けるまで頭を撫でてほしいの」
ハチマン「は?」
サチ「だめ、かな?」涙目+上目遣い
ハチマン「うぐっ! わ、わかった」
サチ「ありがとう!」ギュッ
ハチマン「お、おい」
サチはこちらに寝返りをうち、俺に抱きつき胸元に自分の頭を俺の胸元に擦り付る。
サチ「ハチマンの体って大きいんだね」
ハチマン「聞いてねえし、はぁ~」ナデナデ
サチの頭を小町と同じように撫でていると、ほどなくしてサチから規則正しい寝息が聞こえてきた。
サチ「すぅ~、すぅ~」ZZZZ
ハチマン「お前らは俺が必ず守る」