俺は最前線に復帰したあと、偶然にも三十五層の『迷いの森』にクリスマスイブの日の深夜24時に蘇生アイテムが手に入るイベントがあると四十九層で情報を得た。
しかし、今のレベルでは死ぬ可能性が高いため、今まで以上にレベル上げに時間を費やすことにした。睡眠時間は最低でも5日間は迷宮区でレベル上げをして1日寝るのサイクルにしている。
ハチマン「あと5日か……」
現在、レベル上げしている場合は第四十六層の南にある、『軍隊蟻の洞窟』という名のダンジョンだ。その名のとおり、洞窟の中には軍隊の様な数の蟻型モンスターと接触して戦闘になる。
最初のマップ探索の時に血盟騎士団が発見し、情報屋にそのダンジョンの情報が渡り、他のプレイヤーにも渡ったのだ。
そして、そのダンジョンをチャレンジするに当たってルールが設けられた。
①,ダンジョン内にいる、蟻の女王を倒してはならない
②,1パーティー、二時間までがチャレンジの制限時間で他のパーティーと交替する。
①は、単純に過去にバカなパーティーが誤って女王蟻を倒してしまい、3日ほど軍隊蟻がリポップしなかったため、女王蟻を倒してはならないというルールができた。
②は独占させないため。軍隊蟻と接触すると仲間を呼ぶため、モンスターの出現効率が良く、迷宮区でレベル上げをするよりも効率が良いのだ。
ハチマン「あっ、回復ポーションも切れた……。少し早いが交替するか」
俺は松明を持って、軍隊蟻の洞窟の外に出て他のパーティーと入れ替わる。
ハチマン「次、いいぞ」
「え?いいのか?まだ時間はあるが……」
ハチマン「回復ポーションが切れたんだ。だから、仕方なくだ」
「そうか。なら、使わせてもらうわ」
そう言って、俺の次の番のパーティーが『軍隊蟻の洞窟』に挑んで行った。
俺は毎回、ある程度アイテムストレージが一杯なると商人職プレイヤーで一番信頼ができる、エギルの店に向かう。
ハチマン「よう、エギル。また、頼む」
エギル「ハチマン。お前さん、またか?」
エギル「この頃、お前さんの所為で軍隊蟻の素材アイテムの需要が減ってきてるぞ?お前さんの供給が多すぎる」
ハチマン「仕方ないだろう?レベル上げをしてると勝手にストレージに入ってるんだがら。捨てるにはもったいないから、商人職プレイヤーで一番信頼できる、エギルの店に俺は来ているんだがな」
ハチマン「それとも何か?他の店にでも移ったほうがいいか?」
エギル「それを言われるとな……」
ハチマン「だったら、文句を言わないで鑑定を頼む」
エギル「仕方ねぇな」
それから、約30分ほどエギルの店で休んだあと。また、『軍隊蟻の洞窟』に向かいレベル上げを繰り返す。
途中、転移門でキリトとクラインに出会った。
キリト「おっ、ハチマン」
クライン「本当だ、ハチマンじゃねぇか!」
ハチマン「おう、キリトにクラインか……」
クライン「なんだよ、人が挨拶してやってるのに」
ハチマン「俺は頼んでないぞ」
キリト「…………ハチマン」
ハチマン「なんだ?」
キリト「お前……大丈夫か?」
ハチマン「は?」
キリト「なんて言うのかな……?今のお前は少し危ない気がするんだ」
ハチマン「!?」
キリト「いや、俺の気の所為ならいいんだが。俺にはそう感じたから」
ハチマン「そうか…………。一応、その忠告は頭の隅に残して置く。じゃあな」
キリト「ああ……。」
クライン「おう、またな」
キリトとクラインと別れたあと、ひたすらに『軍隊蟻の洞窟』でレベル上げを続ける。深夜になれば、他のパーティーは宿屋で眠ってしまうため、俺の独り占めになるが……。その分、回復ポーションの減りが早くなる。
ハチマン「やっと70か……。まだまだ足りないな」
ハチマン「セラアアアッ!!」ガシャン
ハチマン「ハアアアッ!!」ガシャン
ハチマン「ウオオオオッ!!」ガシャン
ハチマン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。ん?」
女王「キシャアアアアッ!!」
ハチマン「女王が出て来たか……」
左上にセットしたタイマーも、残り5分になっているのと女王蟻が出現したのが合わさり。俺は一度、ダンジョンから出ることにした。そして、ダンジョンの外に出ると、今までの無理が祟ったのか急に視界が霞み、体の力が抜ける。
ハチマン「やべ……」フラ
???「ハチマン!?」ダキ
聞きなれた声がふらついて倒れそうになった俺の体を抱き止め、そのまま俺の肩を担ぐように動きだし、近くの大きな木に寄り掛からせてくれた。
ハチマン「キリト……か?」
キリト「ああ!やっぱり、お前が心配になって来てみたら……これだ」
クライン「ハチマン。お前、何日ベッドで寝てない」
ハチマン「クラインもいるのか……」
クライン「いいから答えろ!」
ハチマン「そうだな……4日は寝てない、かな?」
「「なっ!?」」
クライン「お前……」
キリト「ハチマン……。取り敢えずはコレを」
キリトは後ろ腰にある、アイテムポーチから回復ポーションを一本取り出し、親指で栓を弾くと俺に渡してくれた。
ハチマン「悪いな……」
キリト「気にするな」
キリトから受け取った、ポーションを貪るように呷り、ビンを適当に放る。苦味のあるレモンジュースと似たような味がとてつもなく美味く感じるほど体には疲労が溜まっているのを今になって実感する。
クライン「いくら何でも無茶をしすぎじゃねぇか、ハチマン?」
キリト「こんな危ない狩場で、まともに4日も寝ないでレベル上げをするなんて、気力がなんとかギリギリ出口まで持ったから良かったのものの」
キリト「もしかしたら、死んでたかもしれないんだぞ!」
ハチマン「そんな簡単に死んでたまるかよ……。兄貴が妹を置いて死ねるか。それに待ち時間や回復ポーションが無くなれば街に戻るさ」
クライン「人がいなかったり、アイテムが無くならなきゃ、ぶっ通しなんだろうが」
ハチマン「そのためにわざわざ、こんな時間に来てんだよ。昼間のここは5、6時間は待たされるからな。その間は最前線の迷宮区でレベル上げをするがな」
クライン「ハチマン、お前ってやつは…………」
クライン「……まあ、お前の強さはSAO初日からキリト同様に嫌ってほど知ってるけどよ……。レベル、どのくらいになった?」
ハチマン「さっきので70に上がった」
クライン「……おい、マジかよ。いつの間にか俺よりも10も上になってのかよ……」
キリト「俺よりも5も上か……」
クライン「なら、尚のこと解らねぇよ」
キリト「ああ。エギルにもさっきメッセージで聞いたが、ここ最近のハチマンのレベル上げは常軌を逸してるぞ?昼間は最前線の迷宮区に籠ってるっていうし……。」
ハチマン「…………」
キリト「何でそこまでしなきゃいけないんだ?このデスゲームを早くクリアしたいのは俺たちも理解してる。でも、ハチマン一人が強くなったところで、ボス攻略のペースは血盟騎士団とかの強力のギルドが決めて、安全第一で行われるんだからな」
ハチマン「放っておけよ、お前らには関係ない」
キリト「関係ないって……」
ハチマン「なにか?お前たちは俺の親か?兄弟か?違うだろう。俺たちは赤の他人だろう?」
キリト「いや!俺はお前を友達と思ってる!」
クライン「俺も、お前はダチだと思ってる」
二人は俺の言葉を強く否定し、俺のことを『友』と言ってくれた。けれど、今の俺にはそんなことは理解できないし、どうでもいい。
ハチマン「俺は生まれてこの方、友達だとか、友人とか、出来たことがないから分からない。それに、もう茶番はいいだろう?」
キリト「茶番……?」
ハチマン「お前たちがアルゴから俺の情報を買ったことを知ってるんだよ。ボッチは視線に敏感だからな、付けていることも気付いたさ」
「「なっ!?」」
ハチマン「クリスマスイベントの蘇生アイテム狙い。これが俺の目的さ。キリト、ベータテスターなら解るよな?俺がなんで蘇生アイテムを狙っているか」ニヒリ
キリト「!!」
キリト「お前……まさか!」
ハチマン「そう、ベータテスターでビーター、なのにギルドに入っている」
キリト「クッ!」
クライン「おい、キリト。どういうことだよ!俺にも分かるように説明してくれよ!」
ハチマン「クラインにはお前から説明してやれ、じゃあな」
俺はそう言って二人から背中を向けて一度街に戻ることにした。
《sideキリト》
ハチマンが街に向かったあと、俺はクラインから先ほどのことを説明するようせがまれた。
キリト「…………」
クライン「キリトよ。さっきのハチマンの言葉はどういう意味なんだよ?」
キリト「クライン、半年くらい前に最前線に近い層で中層のギルドが一つ全滅した噂を耳にしたことはないか?」
クライン「ああ、そういやぁ、そんな噂が流れてたな。なんでも27層のアラームトラップに引っ掛かったとかで…………」
キリト「俺の推測が間違ってなければ、そのギルドはハチマンが所属してたギルドだ」
クライン「なに!?」
キリト「だって、それしか考えられないだろう?今まで、あんなボロボロになるまでレベル上げしてたハチマンを見たことあるか?」
クライン「それは…………」
キリト「だから、ハチマンは自分の所為で死んだと思ってる。ギルドメンバーを一人でも蘇生させようと償いの意味も込めてソロで挑む気だ」
クライン「ソロでだと!そんなの無茶だぜ」
キリト「俺もそう思う……」
クライン「24日の夜まであと5日を切ったから、ボスの出現に備えてちっとでも戦力をあげときたいのは、どこのギルドも一緒だ。さすがにこんなクソみたいに寒い真夜中に狩場に籠るようなバカな連中は少なくともねぇけどよ」
キリト「俺もハチマンがいなかったらホームで寝てるころだ」
クライン「だがな……、うちはこれでもギルメンが10人近くいるんだぜ?充分に勝算があってのボス狙いだ。仮にも、年に一度のレアボスが、ソロで狩れるような柔なもんじゃないことくらい、アイツやお前ぇにだって理解できるだろう?」
クラインは必死にクリスマスイブのレアボスはソロで勝てないと言ってくるが俺にはどうしようもできない。いや、する権利がないのだ。
あの時、第1層でビーターになるのは本来なら俺のはずだった。なのに、ハチマンは俺を庇ってビーターという悪名がつけられた。
それに、もしも、俺がハチマンの立場なら同じことをしたはずだ。自分の慢心が招いたことでギルドメンバーが全滅。
なら、その償いとして一人だけで必ず、蘇生アイテムを手に入れる必要がある。
それが唯一、全滅したギルドメンバーにできる最大の償いなのだから……。
キリト「俺は……」
キリト「もしも、仮にハチマンと同じ立場なら、俺も同じことをしたと思う」
クライン「キリト!」
キリト「だって、アイツが……ハチマンがビーターと呼ばれるようになった原因は俺なんだ!だか、ハチマンを止める権利は俺には無いんだよ!」
俺は今まで我慢していた思いを叫んだ。
クライン「なら、俺が止める」
キリト「クライン……」
クライン「俺は、お前ぇとハチマンのレクチャーのお陰で今のギルメンとここまで来れた。だから、俺はその恩を返すためにアイツを死なせる訳にはいかねぇんだよ」
クライン「キリトも、ハチマンに助けられたなら恩を返せよ。恩を返せないまま、死なせる訳にはいかねぇもだろう?」
キリト「…………ああ!」
こうして俺とクラインは、ハチマンを死なせないためにもレベル上げを必死にするのだった。