キリトとクラインと会ってから既に5日が経ち、今日はクリスマスイブ。そう、念願の蘇生アイテムが手に入るイベントの日だ。
そして、俺が今いるのは第49層にある、《ミュージェン》と呼ばれる街の中のモミの木がある広場でベンチに座り、ある人物を待っている。
???「持たさせたカ?」
ハチマン「ああ、大いに待った」
???「そこは今来たところだ、とか言えないのカ?」
ハチマン「知るかよ。生まれてこの方、ずっと一人ボッチだったもんでな」
???「そうかよ。でもお前さん、かなり無茶なレベル上げをしているそうじゃないカ」
ハチマン「そんなことはいいから、あれから新しい情報は見つかったのかよ?アルゴ」
アルゴ「金を取れるようなもんはないナ」
ハチマン「まったく、使えねぇ情報屋だな……」
アルゴ「ベータテストにもなかった初めてのイベントだ、情報の取りようがねぇヨ。クリスマスイブ、つまり今日の深夜にイベントボス、【背教者ニコラス】が出現すル」
ハチマン「それは知ってる」
アルゴ「あるモミの木の下にナ。有力ギルドの連中も血眼で探してんぞ」
ハチマン「だろうな」
アルゴ「ハー坊。お前、目星が付いてんだろう?」
ハチマン「だとしたら?」
アルゴ「マジにソロで挑む気か?死ぬぞ」
ハチマン「アルゴ、お前は仕事に私情を持ち出すのか?俺とお前は依頼人と請負人の関係だろう?それ以上でもそれ以下でもないはずだ」
アルゴ「それは…………」
ハチマン「それじゃな」
アルゴ「死ぬなよ、絶対に死ぬなよ!死んだら許さないからナ!」
ハチマン「当たり前だ、そんなの……」ボソッ
アルゴとの情報交換を終えたあと、俺は一度ホームに戻り装備とアイテムの最終チェックをする。
アイテムストレージからポーチに回復・解毒クリスタルとポーション類を入るだけアイテムポーチに入れる。これで一々、システムメニューを開かなくて済む。次に、装備を今装備している剣より強い剣を出し、数回振ってから装備する。また、レザーコートを含む、胸当て、グローブ、ブーツ、ベルトも全て一番防御力か高く耐久力がある物に変える。
全ての準備が終わると、ふと手を動かし自分のアイテム欄の上を見つめる。そこには《Self》と書かれており、つまり俺自身のアイテム欄を示すタブと並んで《サチ》と名前が表示されている。
ハチマン「……サチ」
これは、仲はいいが結婚に至っていないプレイヤー同士が設定するもの。これにより、共通アイテムストレージが生まれるのだ。これは問答無用で金やアイテムなどストレージにあるもの全てが共通設定になってしまう結婚とは違い、このストレージ内だけが二人の間で共有できる仕組みなのである。
ある時は手を繋いだが、愛の言葉を求めなかったサチが『死ぬ前に作りたい』と言って作ったアイテムストレージ。そこにはサチが死ぬ時まで入れていたアイテムはそのまま今も残してある。
彼女が死んだ今でも、このストレージとフレンドリストにはサチの名前が残っている。
何故、残しているかは一か八かでも蘇生できる可能性がゼロパーセントでは無い限り諦めたくなかかった。
ハチマン「行くか……」
転移門で第35層に転移し、ゲートを出ると最前線とは打って変わり広場は静まりかえっていた。しかし、それでもチラホラと見えるプレイヤーの目を避けるように、コートの襟を引き寄せながら、早足で街区から出ていく。
十分くらい走っていると目的のダンジョンである、『迷いの森』の入り口にたどり着く。そこのはダンジョンは無数の四角いエリアに区切られ、それぞれに繋がるポイントがランダムに入れ替わる、地図アイテムがなければ『迷いの森』から出ることは難しい。
けれど、俺は地図アイテムを広げ、マーカーを付けてある区画を見て、そこへたどり着く道を駆ける。
そして、数回の戦闘を終え、白い息を吐きながらやっとのことで最大目的地である、モミの木があるエリアのひとつ手前まで到達した。
俺は後方の方にチラホラ複数の気配が感じた。また、気配には知ってる奴がいるので振り返らず言葉を放つ。
クライン「よう」
ハチマン「尾けてきたのかよ……。クライン、キリト」
クライン「まあな。うちのギルドに追跡スキルの達人がいるんでな」
ハチマン「で、なんのようだ?」
クライン「お前ぇをソロで行かせるのを止めに来た」
ハチマン「止めに?」
クライン「そうだ!ソロ攻略とか無謀なことは止めろ!俺らと組んで、蘇生アイテムはドロップさせた奴の物で恨みっこ無し、それで文句ねぇだろう!」
キリト「ハチマンが全滅したギルドのために蘇生アイテムを狙ってるのも理解してる。けれど、それで死んだら、死んでいったギルドメンバーが悲しむだけだ!」
ハチマン「うるせぇよ……」
キリト「どうしても、お前がソロで行くって言うなら……俺は全力でお前を止める!友達が死にに行くのを見過ごせるほど薄情な奴じゃないんでな!」
キリトは背中から片手剣を引き抜き、その剣先を俺に向ける。キリトの目には強く、『お前を止める』という意思が見受けられる。
ハチマン「キリト……俺は…」
俺は目の前にいる、俺のことを友人と……友と言ってくれる奴のことを【斬り殺し】てでも、レッドプレイヤーになってでも、蘇生アイテムを手に入れると……そんな思いが一瞬頭をよぎったが、その瞬間に第三者の侵入によって最悪のケースを逃れることができた。
ハチマン「お前たちも尾けられたみたいだな」
クライン「ああ、そうみてぇだな……」
約50メートルほど離れたエリアの端から、ここしばらくの間に『軍隊蟻の洞窟』でよく見かけた奴らが幾人も混じっていた。
「ギルマス、アイツら『聖竜連合』だ」
「アイツら、レアアイテムの為なら、どんな汚ない手も辞さない奴らですよ」
キリト「どうする、クライン?」
クライン「クソッ!くそったれが!」
クライン「行け、ハチマン!ここは俺らが食い止める!お前はボスを倒して必ず帰ってこい!俺の前で死んだら許さねぇぞ、ぜってぇ許さねぇからな!!」
ハチマン「…………」
もう時間がほとんどない。俺はクラインに礼の言葉ひとつ口にすることなく、最後のワープポイントに入る。
《sideキリト》
ハチマンが最後のワープポイントをくぐったあと、クラインからハチマンを追いかけるように指示がくる。
クライン「キリト!お前もハチマンを追え!」
キリト「だけど!」
クライン「俺たちを信じろ!もし、ハチマンが死にそうになったら助けてやれ」
キリト「…………わかった」
俺はクラインの思いを受けて、ハチマンを追うことにした。