《sideハチマン》
クラインたちが聖竜連合を食い止める間に俺は目的地である、大きなモミの木の下にいる。
ハチマン「まだ、出現してないのか………ッ!!」
その言葉を溢した瞬間、背後から視線を感じたので咄嗟に剣を引き抜き、構える。
キリト「そう、ピリピリするなよ。もう、お前を止めたり、戦闘に介入したりしないよ」
ハチマン「なら、何が目的だ?」
キリト「そんなのは、お前が死なないようにするのが目的だ」
ハチマン「止めもせず、戦闘に介入しないのにか?」
キリト「それ以外にもあるだろう?アイテムの提供とか」
ハチマン「俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はないぞ」
キリト「なら、未来投資として、または身勝手で自己満足な落とし主とでも思ってくれ。落とし物なら、施しには入らないだろう?」
ハチマン「捻ねくれ者が」
キリト「そのまま、そっくり返す」
久しぶりにキリトと他愛のない言い合いをしていると視界の端の時計が零時を示した。すると、何処からともなく【シャンシャンシャン】と鈴の音か響いてくる。
キリト「来たか」
ハチマン「…………」
鈴の音が止むと空から黒い影が飛び降りてきて、盛大に雪を蹴散らして着地した。その黒い影の正体は背丈が俺やキリトの三倍はあろうかというサンタの格好をした、化け物だった。
ニコラス「Gigaaaaaaa」カタカタカタカタ
ニコラスは地面に着地すると、ジブ◯の言霊みたいに首を180度回転させ、カタカタと右、左と頭を半回転させながら通常の頭が真っ直ぐの状態に戻る。
キリト「あれが、背教者ニコラス……」
ハチマン「…………」ダッ
俺は背教者ニコラスが出現したので一気に駆け出し、ニコラスが構える前に攻撃を仕掛ける。
ハチマン「リャアアアアッ!!」
ハチマン「セラアアアッ!!」
ニコラス「Gigaaaa!!」
ハチマン「ッ!!」
ニコラスはこちらに気が付くとその左手に持つ、頭陀袋を振り回し、俺の攻撃をパリィされ体に宙に浮く。それによって出来た隙に右拳でがら空きの腹部に一撃入れられる。
ハチマン「ガッ!!」
キリト「ハチマン!?」
無防備な空中でがら空きの腹部に攻撃を喰らい、二、三回ほど雪の地面にバウンドしながら受け身の体勢を取る。
ハチマン「平気だ。だから、手を出すな!」
キリト「ッ!!」
ハチマン「ウオオオァァァ!!」
再び、ニコラスに向かって駆け出す。現在、俺は右手にしか剣を持っておらず、普通なら左手には盾を装備するのが片手剣の強みだが、俺はそうは思わない。片手だけでも空いていれば、それなりの戦法がある。
例えば、片手剣ソードスキルを発動すると見せかけて投擲スキルで相手の目を潰すとか……。
ハチマン「ハッ!」
俺は左手でアイアンピックをニコラスの目に目掛けて投擲スキルの《シングルシュート》で投擲する。
そして、投擲されたアイアンピックは上手い具合にニコラスの目に命中する。
ニコラス「Gigaaaaa!?」
ニコラスは目に命中したアイアンピックが痛いのか、その場で頭陀袋を振り回す。ニコラスが頭陀袋を振り回しているパターンを観察し、擦り付けるようにニコラスに近付き、片手剣ソードスキルの《デットリー・シンズ》を決める。
ハチマン「ハアアアアッ!!」
ハチマン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ニコラスに目潰しで隙を作り、《デットリー・シンズ》を決めてから、既に二時間が経過している。その間にニコラスのHPバーを残り一本にまで減らした。
キリト「ハチマン、大丈夫か?」
ハチマン「ああ……大丈夫だ」
キリト「…………」
ハチマン「ウオオオァァァ!!」
本当は、今にでも倒れてしまいそうな身体に鞭を打ち。雄叫びを上げて一気に身体を奮い立たせる。
─死ねないんだ……─
ハチマン「セラアアアッ!!」
─彼女の……─
ハチマン「ハアアアアッ!!」
─サチの最後の言葉を聞くまでは!─
ハチマン「ウアアアアッ!!」
─どんなことを言われてもいい─
ハチマン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
─俺はそれだけの……─
ハチマン「あと、少し……」
─ことをしたのだから─
ハチマン「これで!」
キリト「ハチマン、ダメだ!」
ハチマン「!?」
色んな思いを剣に込めて振っていて、冷静さを失っていたのか、ニコラスの行動パターンの変化に気が付かなかった。
武器は頭陀袋だけだと思っていたら、残り数ドットのところで頭陀袋の中から斧を取り出していたのか、俺の攻撃が頭陀袋で弾かれて、その隙に斧で吹き飛ばされてしまった。
ハチマン「ガッ!!」
ハチマン「ゴホッ、カハッ!!」
ニコラスのオノでエリアの中にある木に吹き飛ばされ木に背中を叩き付けられる。その衝撃で肺の中から酸素が吐き出される感覚に襲われ意識が朦朧とする。
キリト「ハチマン!?」
ハチマン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
キリト「……チマン!」
ハチマン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
キリト「……マン!逃げろ!」
キリトが何やら、こっちに走りながら叫んでいるが意識が朦朧として、ちゃんと聞くことができない。
ハチマン「はぁ、はぁ(俺……ここで、死ぬのかな?でも、もう疲れたよ……俺は……)」
そんな弱気なことを思っていると、ニコラスが俺の前まで来て、その手に持つオノを振りかぶる。
それを目にした俺は目を瞑り死を待ったが……。しかし、俺の頭の中で今まで、このデスゲームで生きて還る理由である家族が泣きながら俺のことを叫ぶ声が響いた。
小町『死なないで……死んじゃいやだよ!小町を一人にしないでよ、お兄ちゃん!!』ポロポロ
ハチマン「ッ!!」カッ
俺の生きる理由で、最愛の妹である小町の声が俺の意識を一気に浮上させ、目を見開き生きる活力を復活させる。
ハチマン「こんなところで…………」ググググ
ハチマン「死んでたまるかあぁぁぁぁぁ!!」
俺は本当に最後の力を振り絞り、ニコラスが斧を振り下ろす前に渾身の片手剣ソードスキルの《ヴォーパルストライク》をニコラスの心臓部分に目掛けて放つ。
ニコラス「Gagggggg....」
ニコラスは《ヴォーパルストライク》をその身に受けると、壊れたステレオのように『ガガガガガガ』と音を立て始め、やがて、その音が止むと共に動きも止まり……。
──────ガシャン
ポリゴンとなり、ガラスが割れた音と共に消滅した。
ニコラスを倒したあと、俺はその場で倒れてしまう。左上のHPバーは残り数ドットまで減っていた。つまり、あの時、頭の中に小町の声が響かなければ……確実に俺は…………死んでいた。
キリト「動けるか?」
ハチマン「悪い、無理だ……」
キリト「そうか……。取り敢えず、ヒール!」
キリトは俺に今までニコラスを倒すまでに提供してくれた回復アイテムで残っている回復結晶を使い、俺のHPを全快にさせてくれた。
回復が終わると、ニコラスとの戦闘リザルトが表示される。
しんどい身体を起こし、戦闘リザルトを確認していく。そして、目当てのラストアタックボーナスが少し遅れて表示された。それは《還魂の聖晶石》という名前だった。
ハチマン「…………」
直ぐにストレージから還魂の聖晶石をオブジェクト化させて、彼女の名前を何度も呼ぶ。
ハチマン「サチ……サチ……サチ!」
ハチマン「なんで……だよ……」
ハチマン「なんで、サチが蘇らない!」
ハチマン「何でだよ!蘇生アイテムなんだろう?だったら……」
俺は何でサチが蘇らないのか知りたくなり、還魂の聖晶石のアイテムテキストを見て、このデスゲームで二度目の絶望を味わった。
ハチマン「そんな……そんなことって……」
キリト「ハチマン?」
ハチマン「…………」フラフラ
アイテムテキストを読んだ俺は、もうこの場にいる意味が無いのでフラフラとした足取りでホームに戻ることにした。
キリト「おいハチマン、何があったんだよ!?」
ハチマン「何があった?クッハハハハ」
キリト「…………」
ハチマン「やっぱり、死人を蘇生することなんて出来なかったのさ。欲しいならくれてやるよ」
俺は手に持っている、還魂の聖晶石をキリトに放り投げる。
キリト「おい!」
ハチマン「…………」フラフラ
キリト「これは!?」
フラフラしながら、クラインたちが要るであろうエリアに戻ると、クラインたちギルド『風林火山』のメンバーは地面に手をついて座り込んでいた。
クライン「おう!ハチ……マン?」
ハチマン「…………」フラフラ
クライン「おい、ハチマン?どうしたんだよ」
クラインが話しかけてくるが、それを後ろからキリトが止める。
キリト「クライン、今は止めてやれ」
クライン「おう、キリト。で、蘇生アイテムはどうだった?」
ハチマン「…………」
キリト「…………」フルフル
キリトはクラインの言葉に無言で首を左右に振り、否定の意味を示した。
クライン「そんな……」
キリト「アイテムテキストには蘇生できるのは10秒以内と書かれていたんだ……」
クライン「嘘だろ……」
俺はクラインのその言葉の後に、雪の上を【ザクザク】と音を立てながら街に戻ろうとすると、後ろから手を引かれた。
クライン「ハチマン……ハチマンよぅ……」
ハチマン「…………」
クライン「お前ぇは……お前ぇは生きろよ!もしも、お前ぇ以外の全員が死んでも、お前ぇは生きろよ……生きてぐれ……」ポロポロ
ハチマン「サンキューな、クライン」
クライン「!!」ポロポロ
ハチマン「キリトも、サポート、サンキュー」
キリト「ああ……」
キリトとクラインにお礼の言葉をかけ、今度こそホームに戻った。