クラインたちと別れたあと、俺は今までの目標がなくなりフラフラとした足取りで、いつの間にか自分のホームについていた。
ハチマン「…………」
今までは蘇生アイテムを手に入れるがために無茶なレベル上げをしていたがそれは今日でおしまいだ。
目標が一つ無くなったが俺には、もう一つ目標がある。それは生きてリアルに還ることだ。
ハチマン「ん?」
本来の目標にシフトさせるために頭を働かせていると聞き慣れないアラームが鳴った。部屋の中を見回すが何処にも音源らしい物は見当たらない。
ハチマン「何処だ……?」
ようやく視界の隅に、システムメニューを開くことを促す紫のマーカーが点滅していることに気付いた。
そして、そのマーカーの内容を確認にするとプレイヤーからのプレゼントだった。また、その送り主は…………。
ハチマン「……サチ!?」
俺は何の疑いもなく、サチからプレゼントをオブジェクト化させる。
オブジェクト化されるとそれはひし形の録音クリスタルだった。
クリスタルのスイッチをクリックすると俺が一番聞きたかった、彼女の声が聞こえてきた。
サチ『あ、ああ、テステス。メリークリスマス、ハチマン。君がこれを聞いている時………もう、私は死んでいると思います。でも、自分を責めないで、これは多分、運命なんだと思うの。もし生きていたら、この先のことをクリスマスの前の日に取り出して、自分から言うつもりだったんだけど………』
ハチマン「…………」
サチ『えっと…………、まずは、なんでこんなメッセージを録音しているのかを説明するね。私は、たぶん、長い間生き延びられないと思うの。もちろん、ハチマンを含めた黒猫団のみんなが力不足とか、そういうのじゃなくてね』
ハチマン「…………」ポロリ
サチ『ハチマンは凄く強いし、皆もドンドン強くなってる。でも、この間ね、長い間仲良くしてた他のギルドの友達が死んじゃったの……。歳も私と同じくらいで怖がりで、必ず安心な所でしか狩りをしなかった子なんだけど……』
ハチマン「…………」ポロポロ
サチ『運悪く一人の時にモンスターに襲われて、死んじゃたの。それから、私、すごく考えて、それで思ったんだ』
ハチマン「ぁぁ…ぁぁ……」ポロポロ
サチ『このSAOで生きて行くには、どんなに自分や周りの仲間が強くても、ケイタが言っていたように、本人に生きようとする強い意志がないと絶対に生き残れないんだって』
ハチマン「サチ……」ポロポロ
サチ『私ね、本当のことを言うと、はじまりの街から出たくなかったの……。けれど、黒猫団の皆はリアルでもずっと仲良しだったし、一緒にいるのは楽しかった。けれど、狩りに出るのは嫌だった。』
ハチマン「サチ……サチ……俺は……」ポロポロ
サチ『そんな気持ちで戦ってたら、やっぱりいつかは死んじゃうよね?それは、誰の所為でもない、私自身の問題だし、運命なんだ。だから、あまり自分を追い詰めないで』
ハチマン「俺は…………お前と……君と約束したのに……なのに……俺は……」ポロポロ
サチ『だからお願い、もし私が死んでも、ハチマンは頑張って生きてね?生きて、この世界の最後を見届けて、この世界の生まれた意味を、私みたいな臆病で弱虫がここに来ちゃった意味を、そして私と君が出会った意味を見つけてください』
ハチマン「ああ……その願い……必ず……必ず守る!」ポロポロ
サチ『そして、最後にハチマン。貴方に出会えて良かった。私は貴方のことを愛しています。ありがとう、そして……さよなら』
俺は彼女の最後の言葉で、本当の意味での初恋が誰なのかが分かった。俺の初恋の相手は臆病で弱虫だけれど、優しくて笑顔が眩しい。そんな女の子だった。
ハチマン「ああ、あああああ!!」ポロポロ
ハチマン「サチ……サチ……サチ!!」ポロポロ
ハチマン「俺、今度こそ……守るから……だから見ててくれ」ポロポロ
あのクリスマスの日。サチの遺言を聞いてから改めて、この世界から現実世界に還ることを決心した。
ハチマン「セラアアアッ!!」
キリト「ハチマン、スイッチ!」
ハチマン「スイッチ!」
キリト「ウオオオァァァ!!」
ボス「Uoooooo!?」ガシャン
キリトの掛け声でスイッチをして、キリトと立ち位置を入れ替わる。その勢いのまま、キリトは第49層のボスにソードスキルを決めて、止めを刺した。
ハチマン「お疲れ」
キリト「サンキューッ!」
────パンッ!
ボスを倒したあと、俺とキリトは久しぶりにハイタッチを交わす。
今回はそんなに被害は出なかったが次は第50層。第2クォーターポイントだ。
けれど、立ち止まってなんていられない。俺はサチとの約束と小町の下へ還るためにも、これからも攻略をしていく。
キリト「お~い、ハチマン」
アスナ「置いて行っちゃうよ?」
ハチマン「わあってるよ、今行く!」
俺は螺旋階段を登り、次の層の雪原に新たに足を踏み入れる。すると…………。
─もう、大丈夫だね。頑張ってね、ハチマン─
ハチマン「ん?」
俺は今誰かに声を掛けられたと思い、後ろを振り向くが誰もいない。けれど、49層に繋がる道に積もっていた雪が風で舞い上がり、太陽の光に照らされて、キラキラと光る。
アスナ「ハチマンく~ん」
キリト「本当に置いて行くぞ?」
ハチマン「ま、待てよ!」
俺はキリトとアスナの二人に呼ばれたので慌てて、二人の下へ走り出す。