第35層にある、『迷いの森』の中で一つのパーティーの赤毛の女性とツインテイルで頭には小さなドラゴンを乗せている少女が言い争いをしている。
女性「何言ってんだか。アンタはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒールクリスタルを分配しなくていいでしょ?」
少女「そういう貴女こそ、ろくに前衛に出ないのにクリスタルが必要なんですか?」
女性「もちろんよ。おこちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに男たちが回復してくれる訳じゃないもの」
「ちょっと、二人とも…………」
少女「わかりました。アイテムなんか要りません。貴女とは絶対に組まない。私を欲しいってパーティーは他にも山ほどあるんですからね!」
言い争いをしている二人をパーティーメンバーの一人が止めようとするが、少女の方が頭に血が登っているため、冷静な判断が出来ておらず、そのまま一人で森の奥へ進んでしまう。
???「ハチマンさん、ハチマンさん」
ハチマン「なんですか、キリトさんや」
キリト「あの子を放って置いたら危なくない?」
ハチマン「多分な……」
キリト「よし、予定変更だ」
ハチマン「はぁ~、なんでこんなことに付き合ってんだろう、俺は……」
そんなこんなで、俺とキリトは小さなドラゴンと一緒に『迷いの森』の奥地へ入って行ってしまった、ツインテイルの少女を探すことになったのである。
そして、しばらく探していると…………
少女「ピナァァァァア!!」
少女が誰かの名前を叫ぶ声が聞こえて来た。
ハチマン「おい、キリト!」ダッ
キリト「分かってる!」ダッ
俺たちは背中の鞘から剣を引き抜き、全力で少女の叫びが聞こえた方に走る。すると少女の前にゴリラ系モンスターのドランクエイプが三匹立ちはだかっていた。
ハチマン「ハアアッ!」ガシャン
キリト「セヤッ!」ガシャン
キリト「フッ!」ガシャン
ドランクエイプを倒し終わると少女はその場にペタリと座り込んでしまう。
少女「ぁぁ……ピナ……私を……一人に……しないでよ」ポロポロ
キリト「…………」
ハチマン「…………」
少女「ピナ!ぁぁああ、ああ」ポロポロ
キリト「その羽は?」
少女「ピナです……。私の大事な……」
キリト「あっ!」
ハチマン「お前、ビーストテイマーなのか?」
キリト「すまなかった。君の友達、助けられなかった」
少女「いいえ、私がバカだったんです。一人で森を突破できるだなんて、思い上がってたから……。ありがとうございます、助けてくれて」
ハチマン「あー、その羽にアイテムの名前とか付いてないか?」
少女はその手に持つ羽をタップすると、《ピナの心》と表示された。これで、一つの希望が出来た。
少女「ぅぅぅぅ……っぅく……」ポロポロ
キリト「泣かないで。ピナの心が残っていれば、まだ蘇生する手段があるから」
少女「本当ですか!?」
キリト「うん。47層の南に『思い出の丘』というフィールドダンジョンがあるんだ。その天辺に咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらしい」
少女はキリトの言葉で嬉しそうな顔をするが直ぐに顔を曇らせる。
少女「47層……」
キリト「実費だけ貰えれば、俺たちが行ってきてもいいんだが……」
ハチマン「おい、キリト。勝手に俺も行くことにしてんじゃねぇよ」
キリト「けどよ、こんな可哀想な少女を放置しておくのかよ?それでも、お兄ちゃんなのかよ」
ハチマン「はぁ~。多分、あいつなら絶対に言うから付き合うよ」
小町『困ってる女の子を助けないだなんて、小町的にすっっっっごーくポイントが低いよ!ゴミィちゃん!』
ハチマン「はぁ~」
キリト「で、話を戻すけど、そのアイテムは使い魔の主人が直接行かないと咲かないらしいんだ」
少女「情報だけでとっても有難いです。頑張ってレベル上げをすれば、いつかは……」
ハチマン「無理だな」
少女「え?」
ハチマン「《心》と付いた、使いの魔のアイテムは3日すぎると《心》から《形見》になっちまうんだ」
少女「そんな……私の所為で……ごめんね、ピナ……」
ハチマン「多分平気だろう。そこの黒づくめのお兄さんが何とかしてくれるさ」
キリト「俺がやるのか?」
ハチマン「当たり前だろう?言い出したのはお前なんだから」
キリト「分かったよ」
少女「…………」
キリト「安心して、3日もある」
少女を連れて『思い出の丘』に連れて行くのはいいが少女のレベルは、この『迷いの森』で苦戦したということは軽く見積もってもレベルは50以下だ。
47層に挑むには最低でもレベル55は必須。それをたった3日でそこまで上げるには無理がある。
キリト「コレとコレとコレと……」
キリトは少女に5つの装備をトレードメニューで無償で渡していく。
《イーボン・ダガー》、《シルバースレッド・メイル》、《ムーン・ブレザー》、《フェリー・ブーツ》、《フロリット・ベルト》の5つだ。
キリト「この装備で5、6くらいはレベルが底上げできるはすだ。それに俺たちも一緒に行けば、多分なんとかなるだろう……」
少女「なんで…………そこまでしてくれるんですか?」
少女は戸惑いながらもキリトにそう質問した。
少女が戸惑うのも当たり前だ。この世界に善人など極少数しかいないのだから。
大抵は女性プレイヤー目当てで優しくする男性プレイヤーが多い。他にはPK目的、つまりプレイヤーキルをして、そのプレイヤーが持つレアアイテムを狙っているか、その二つが大体だ。
しかし、キリトはその二つには分類されない。極少数の善人なのだ。
キリト「笑わないって……約束するなら…………言う……」
少女「笑いません」
少女は真剣な顔をしてキリトに言った。
キリト「君が……妹に似てるから……」
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ハチマン「ブフーッ!」
キリト「おい!」
ハチマン「だってよ……キリト。今のは草すぎるぜwww 」
少女「アハハハハ、ハハハ」
キリト「君まで……」
少女「あっ!ごめんなさい」
キリト「いいよ。別に気してないから」
少女「あの、こんなんじゃ全然足りないと思うんですが……」
少女はそう言ってトレード欄でコルを対価にしようとメニュー操作するが、それをキリトが止める。
キリト「いや、いいよ。俺たちがここに来た理由と被らない訳でもないから……」
シリカ「あっ!私 、シリカっていいます」
キリト「俺はキリト。そっちの目の腐ったのがハチマンだ」
ハチマン「お前な……。もっと普通の紹介はできんのか?」
キリト「さっきのお返しだ。まぁ、短い間だけどよろしく」
シリカ「はい!キリトさん、ハチマンさん」
シリカと自己紹介を終えた、俺たちは地図アイテムを使い、モンスターを警戒しながら安全なルートで35層の主街区である《ミーシェ》まで歩く。
主街区に着くと、白壁に赤い屋根の建物が立ち並ぶ牧歌的な農村のたたずまいだ。
もっと詳しくいえば、イングランドにあるロンドンに酷似している街並みだ。
そして、ミーシェの中を歩いていると男性プレイヤーにシリカが話しかけられる。
「あっ、シリカちゃん発見!」
「随時遅かったんだね、心配したよ」
シリカ「あ、あの……」
「今度、パーティー組もうよ。好きな所へ連れてってあげるから」
シリカ「お話は有難いですけど……」
ハチマン「なら、 ここよりも10層以上も上の層でも構わないか?」
「「え?」」
ハチマン「俺たち、この子に依頼されてな。明日か明後日中には10層以上の層に行かなきゃ行けないんだ。そんな所へアンタはさっき、『好きな所へ連れてってあげるから』って言ったよな?なら、手伝ってくれよ」
「そ、それは……」
ハチマン「それなら、俺たちも依頼をこなせるし、アンタもこの子とパーティーが組めるからお互いにwin-winだろう?違うか?」
「それはそうだけど……」
シリカ「お誘いは有難いですけど、しばらくはこの人たちとパーティーを組んでいますので、またいつか」
シリカは男二人にそう言いながら、さりげなくキリトの腕を掴んだ。
俺か?俺はボッチだから、集団の二歩後ろを歩くから、そんなラブコメ展開は起きません。
「ここよりも10層以上なら仕方ないか……」
「だな……」
シリカ「すみません」
シリカは社交辞令かもしれないが、男二人に謝りキリトの腕を引っ張る。それを俺は二歩後ろでついていく。
シリカ「すみません……」
キリト「君のファンか?人気者だな……」
ハチマン「それは違うな、キリト。アレは珍しい物を欲しがる輩の目だ」
キリト「そんなのか?」
ハチマン「ああ。大方、あの小さいドラゴンとシリカのセットで欲しがる奴等だ。よく、あるだろう?ファストフード店で◯ッ◯ー◯ッ◯の玩具を欲しがる子供とか」
キリト「ああ……。なるほどね」
シリカ「あはははは」苦笑
キリト「君も苦労してるみたいだな………」
シリカ「はい……。私も思い上がっていた原因の一つなんです。《竜使い》シリカなんて呼ばれて天狗になってたんです。その所為で、ピナが……グスッ」
キリト「心配ないよ、必ず間に合うから」ナデナデ
シリカ「はい!」
ハチマン「…………」
おうおう。出たよ、キリト先生のヒロインが堕ちる秘技その一。『無意識の頭ナデナデ』。無意識に相手の頭をナデナデしてしまうため、相手は強く非難することもできないし、少し『嬉しい』とか思ってしまうのだ。
ハチマン「チッ、リア充よ、砕け散れ」ボソ
シリカ「あ、あの、お二人のホームはどこに……」
キリト「俺たちのホームは50層なんだけど……。面倒だし、俺も今日はここに泊まろうかな。
ハチマンはどうする?」
ハチマン「俺も泊まるかな、ここの階層のチーズケーキは絶品だしな」
シリカ「ハチマンさんもお気に入りなんですか?」
ハチマン「ああ。俺は甘党だからな」
と他愛のない話をしていると宿屋の隣の道具屋からぞろぞろと4、5人のパーティーが出てきた。その中には、先ほど『迷いの森』でシリカと言い争いになった。赤毛の女性プレイヤーもいた。
女性「あら~。シリカじゃない?」
シリカ「…………」
女性「へぇ~。『迷いの森』から脱出できたんだ。よかったわね」
シリカ「…………」
女性「でも、今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ」ニヤニヤ
女性プレイヤーはシリカに向けて、嫌味ったらしいニヤニヤした顔で作り笑顔を向ける。
シリカ「要らないと言ったはずです!私たち急ぎますから」
女性「そういえば、あのトカゲはどうしたのかしら?あっ、もしかして……」
ハチマン「悪いんだけど、そこにいると邪魔なんだけど、退いてくれるか?"オバサン"」
女性「なっ、オバ……」
ハチマン「話し聞いてたか?邪魔なんだよ、オ・バ・サ・ン!」
女性「このガキ!?」
ハチマン「行くぞ、二人とも」
キリト「お、おう……」
シリカ「は、はい……」
俺はオバサンの話を一方的に切り、キリトとシリカの二人に声をかけてから宿屋に歩を進める。それに合わせて二人も後ろからついてくるが二人より後ろで4、5人のパーティーと一緒にいるであろう、オバサンが『キイキイ!』と猿の物真似をしているが無視する。