シリカ「セヤアアアアッ!!」
小高い丘を登り始めてから明らかにモンスターとの遭遇率が高くなった。
現在、シリカは一人で植物型モンスターと戦闘をしている。キリトからもらった装備である程度はダメージを受けても平気だろう。
けれど、やはり普段からパーティーで戦っていたシリカは複数の敵を一人で相手をすると危なっかしくなる。
ハチマン「キリト、タゲよろしく」
キリト「はいよ」
キリトは背中から剣を引き抜き、致命的なダメージは与えずに植物型モンスターの触手のような物を切り落としていく。
そして、俺はというと………………。
ハチマン「フッ!」シュピーン
モンスターたちの行動を観察し、溶解液のような特殊攻撃をしようとする行動をとるモンスターには投擲スキルのシングルシュートで怯ませる。
それだけの簡単なお仕事だ。
それからモンスターとの戦闘を10回ほど突破すると急にモンスターがPOPしなくなり、丘へと続く道も終点に差し掛かっているようだ。
《思い出の丘》の終着点を示すかのように高く繁った木のトンネルを抜けるとそこには、空中の花園。そんな形容がベストマッチするほど花畑が広がっていた。
シリカ「うわあ…………!」
ハチマン「これはスゲーな……」
キリト「本当だな…………ここが《思い出の丘》か」
シリカ「じゃあ、ここに…………その、花が?」
キリト「ああ。話によると真ん中の辺りに岩があって、その天辺に……」
シリカはキリトの説明を聞き終わる前に待ちきれない衝動に駆られたのか丘へと走り出してしまった。
ハチマン「まだ、キリトの説明が終わってないってのに……」
キリト「あはははは……」
シリカの行動に少しばかり呆れていると…………。
シリカ「ない…………花がないよ、キリトさん、ハチマンさん!」
キリト「そんなはずは…………いや、ほら、見てごらん」
シリカはキリトに言われた通りに再び、赤いレンガの地面の上に浮かぶ岩のオブジェクトを見るとそこには…………。
シリカ「あ…………」
少しずつ芽が出て来ており、次第にその芽は純白の綺麗な花を咲かせた。
ハチマン「これが《プネウマの花》か……」
シリカ「綺麗……」
キリト「手に取ってごらん?」
キリトに言われるまま、シリカは花の茎の部分に触れると【チリン!】と鈴の音に似た音ともに《プネウマの花》は茎半ばから折れ、花だけがシリカの手のひらの上に残った。
シリカ「…………これでピナが生き返るんですね?」
キリト「ああ」
シリカ「よかった……」
キリト「でも、この辺は強いモンスターとかが多いから街に戻ってから生き返らせよう?」
ハチマン「俺もそれには賛成だ。せっかく、生き返らせたのに、またモンスターに殺されてはシリカも嫌だろう?」
シリカ「はい」
《プネウマの花》を手に入れた俺たちは主街区を目指して歩を進める。道中、意外なことにモンスターが一体もPOPしなかった。
けれど、小川にかかっている小さな橋の真ん中辺りに近づくに連れて人影は見えないのに視線だけが感じられた。
それも悪意がある視線だ、それも複数。
ハチマン「キリト」ボソッ
キリト「分かってる」ボソッ
橋の真ん中に着くとキリトはシリカの左肩に手を置き、歩くのを止める。
キリト「そこにいる奴ら…………出て来いよ」
キリトがそう声に出すと、一番手前側の木の影から赤髪の女が出て来た。そいつは35層でシリカにちょっかいを出していたオバサンだ。
シリカ「ろ、ロザリアさん!?」
ロザリア「私のハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね、剣士さん?」
ハチマン「おい、まだ居んだろ?出て来いよ。それともこうした方がいいか?」
シリカ「え?」
俺はアイアンピックを両手に三本ずつ持ち、投擲スキルで、まだ木の影に居るであろう、オバサンの仲間をあぶり出す。
すると木の影から六人の破落戸が出て来た。
シリカ「オレンジ!?」
ハチマン「ほら、居るじゃねぇか」
ロザリア「チッ!いつ気づいた?」
ハチマン「そんなの最初からに決まってるだろう。ボッチは視線に敏感なんでな。それも悪意がある視線には滅法な」
ロザリア「ガキだと思って、見誤ったか」
キリト「で、どうするんだ?どうせ、アンタらはシリカが持つ、《プネウマの花》が目的だろう?なぁ、シルバーフラグスを壊滅させた、オレンジギルド、タイタンズハンドのリーダー、ロザリアさん?」
シリカ「でも、ロザリアさんカーソルはグリーンですよ?それに……」
ハチマン「シリカ。世の中はお前さんが思っているほど優しい物じゃない。アイツらの手口はグリーンが獲物を誘き寄せてレッドが狩る、それだけさ。それも数少ない女性プレイヤーとなれば簡単に釣れるだろうさ」
俺はシリカにオバサンどもの手口を簡単に説明した。
キリト「それと昨日の夜に俺たちの話を盗み聞きしていたのもアンタらの仲間だろう?」
シリカ「え?でも、それはハチマンさんが……」
ハチマン「すまんな。ピナを失って落ち込んでる奴に、余計な心配を掛けさせたくなかったんだ」
シリカ「ハチマンさん……」
ハチマン「それに俺たちの目的はお前らを牢獄にぶち込む事だしな」
ロザリア「はぁ?」
キリト「ロザリアさん、アンタは10日ほど前にハチマンがさっき話した、シルバーフラグスと言うギルドを襲ったな?リーダー以外の四人を」
ロザリア「シルバーフラグス………ああ!あの、貧乏な連中のこと」
キリト「リーダーだった男はな、朝から晩まで最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探していた。彼はアンタらを殺すんじゃなく牢獄に入れてくれと言ったんだ。アンタに奴の気持ちが分かるか?」
ロザリア「分かんないわよ。マジになっちゃってバカみたい。ここで人を殺したところで本当にそいつが死ぬ証拠なんて無いし」
ハチマン「いや、証拠なら有るぞ」
ロザリア「は?」
ハチマン「とある攻略組のソロプレイヤーがクリスマスのレアモンスターからドロップした蘇生アイテムには、『蘇生するには10秒以内』とアイテムテキストには書かれていたそうだ」
ロザリア「…………」
ハチマン「これで分かったろ?アンタはその手で人を殺したんだよ。これで話は終わりだ。アンタらを牢獄にぶち込む」
ロザリアにこの世界での死が本物だと言うことを話し、キリトと共に俺は剣を右手に持ち、アイアンピックを三本、左手の指と指の間に挟みながらロザリアたちに近づく。
シリカ「待ってください、人か多過ぎますよ」
キリト「心配ないよ」
シリカ「キリトさん、ハチマンさん!」
「キリト……?」
「ハチマン……?」
「黒ずくめの服、盾無しの片手剣……」
「頭の天辺にあるアホ毛に魚の腐ったような瞳…………それに灰色の服装、右手に片手剣、左手に盾じゃなく投擲武器……」
「まさか……《黒の剣士》……?」
「こっちは……《灰の剣士》……?」
破落戸の二人が俺たちを改めて見て、慌てだした。
「や、やばいよ、ロザリアさん。コイツら、コンビで前線に挑んでる、ビーターとその相棒……攻略組だ!」
破落戸から、俺たちの驚愕の事実が話され、シリカを含めた、この場にいる者、全員がたじろぎ
シリカ「攻略組?」
ロザリア「攻略組がこんな所にいる訳がないじゃない!ほら、とっと始末して、身ぐるみ剥いじゃいな!」
ロザリアの声で破落戸共が俺たちに襲い掛かってくる。それを見たキリトは俺にある程度をしてくる。
キリト「ハチマン。俺が先行していいか?」
ハチマン「…………」コクリ
それを俺は頷いて返答する。返答した俺はその場で足を止める。キリトはそのまま、破落戸共に向かって歩き続ける。
破落戸共との距離が僅かになるとその場で立ち止まり、わざと破落戸共の攻撃を受ける。
ハチマン「…………」
うわ………えげつねぇ……。キリトの奴、破落戸共の精神を折る気だよ。あれ、精神的にかなりクルもんだよな……。
だってっさ………何時間も攻撃してるのにリジェネで相手のHPが減らないんだぜ?減っても、1/10000とかくらいだぜ?やってやれるかよ。
そんな嫌なことを思い返していると破落戸共の精神が折れたようだ。
そして、キリトはポーチから結晶アイテムを取り出し、ロザリアたちに見せる。
キリト「これは俺たちの依頼人が全財産をはたいて買った、回路結晶だ。監獄エリアが出口に設定してある。全員、これで牢屋に跳んでもらう」
破落戸共はキリトによって既に精神が折られているため、その場で武器を落とす。
しかし、ロザリアは諦めが悪いのか転移結晶で逃げようとするが…………。
ロザリア「転……」
ハチマン「させるかよ」
俺はアイアンピックを一つ、シングルシュートでロザリアが持っている転移結晶に当てる。
それを合図にキリトは今出せるAGI全快でロザリアの懐に入り、首筋に剣を合わせる。
ロザリア「ぐ、グリーンの私を傷付ければ、アンタがオレンジに……」
キリト「言っておくが俺はソロだ。1日、2日、俺がオレンジになっても相棒が居れば攻略には何の支障も出ない」
それを聞いたロザリアはやっと抵抗を諦め、その手に持つ槍を手放した。
その後は破落戸共とロザリアが逃げないように注意しながら回路結晶でロザリアたちを牢獄へ放り込む。
キリト「これで依頼完了だな」
ハチマン「だな」
依頼を完了したことで俺たちは拳を合わせる。合わせ終わると俺の所へ一通のメッセージが飛んできた。
ハチマン「誰からだ…………?げっ!」
キリト「どうした?ハチマン」
ハチマン「鬼からのメッセージ……」
キリト「………マジ?」
ハチマン「マジだ」
二人「「はぁ…………」」
このあと、鬼による面倒くさいお説教が決まったことにため息を吐く。
ハチマン「そんじゃ、俺が先に事情を説明と依頼人に依頼の完了を報告してくるわ」
キリト「了解だ」
そう言って、俺はキリトにシリカを任せて最前線に戻るのだった。