~また、あれから二時間~
俺は石で作られた石段の上に座りながら再び、マッカン擬きを飲みながら本を読んでいる。キリトは少し離れたところで、何故か分からないが両手剣を振っている。
ハチマン「…………」ペラペラ
ハチマン「…………」ゴクゴク
ハチマン「ふぅ……」ペラペラ
アスナ「くしゅんっ!」
ハチマン「ん?」
なんとも可愛らしいクシャミが聞こえたので、そちらを振り向くと猫のように丸くなって眠っていたアスナがモゾモゾと動きだし、そして次第に意識が覚めたのか起き出す。
また、その時の彼女の顔は今までに知っている顔とは裏腹に何とも間の抜けた顔で涎を垂らしながら辺りを確認している。
アスナ「んん………ふぇ……?」
ハチマン「…………」
アスナ「ふぇっ………なっ………あっ……ど、どう……」
ハチマン「え、えっと…………おはようございます?」
アスナ「…………」キッ!
ハチマン「ひぃっ!?」
俺がそう返すとアスナは即座に立ち上がり、左腰に納めているレイピアを引き抜こうとするので、俺も全力で逃げようとすると…………。
キリト「よっ!よく眠れたか?」
満足のいく素振りが終わったのか、キリトがアスナに呑気に声をかけながら帰ってきた。
今回はマジでキリトに助けられたわ。あの、ままだったら、確実にアスナのレイピアに穴を開けられていた。
アスナ「はぁ~、ごはん一回。//////」プルプル
キリトによって場がしらけ、羞恥心からなのか顔を赤くしながら呆れた様なため息を吐き、レイピアから手を離した。
ハチマン「え?」
キリト「は?」
アスナ「ごはん!なんでも、いくらでも一回奢る。それでチャラ、どう?」
ツンデレ状態のアスナさんの言葉を変換すると…………
『眠っている間、守っていてくれたからお礼にごはんを何でも一回、ご馳走します』
…………とのことのようだ。
ハチマン「俺は養われる気はあるが、施しは受けない主義なんで遠慮します」キッパリ
キリト「だから、それは何が違うんだ?」
アスナ「バカみたい」
キリト「取り敢えず、その提案には乗らせてもらうよ。57層の主街区に、NPCレストランで美味い店があるんだが、そこでどうだ?」
アスナ「私は構わないわ」
キリト「よし、決まりだ!」
ハチマン「あの……………キリトさん?なんで、俺には聞いてくれないの?なんで?」
キリト「そんなのハチマンは俺と一緒に決まってるだろう?相棒なんだから?それじゃ、店に行こうか」
そうして、俺はキリトに襟首を捕まれ、ズルズルと引き摺られてドナドナされて行った。
ハチマン「ドナドナドナドナ~、ド~ナ~」ズルズル
キリト「子牛を連れ~て~♪」
アスナ「それだとハチマンくんが売りに出されるわよ?」
てな訳で来ましたのは第57層《マーテン》の主街区の中にある、キリトがオススメするNPCレストランだ。
アスナ「ここ?」
キリト「ああ。ここのオススメは肉より魚だ」
ハチマン「…………」
スイングドアを押し開け、一番窓側の端の席に俺たちは座ることにした。それならNPCにキリトが言った通りに俺たちは魚料理を頼むことにした。
料理を頼んだら、席に座った時に出されたお冷を飲む。しかし、俺は違う。俺は持参した、マッカン擬きを飲む。
この世界だと糖尿病の心配がないため、いくらでも飲んでいられる。それに関してはマジで楽園なんだがな…………。
そんなことを考えていると周りの野次共がアスナを見てざわめきだす。
「《血盟騎士団》のアスナ、じゃないか?」
「あれが……【閃光】の……」
「もう一人の……黒ずくめの奴は……?」
おい、一人じゃないだろう!俺のこと忘れんな!
なに?ステルスヒッキーで見えないの!?認識できないの!?それともしたくないんですかね!?
キリト「…………プッ!」クスクス
アスナ「…………」プルプル
ハチマン「おい、てめぇら」
キリト「な、なんだ、ハチマン」クスクス
アスナ「……なにかしら」クスクス
ハチマン「笑ってんじゃねぇよ」
キリト「悪い悪い」
アスナ「ごめんなさい」
笑いを堪えていた二人はなんとか真面目にになり、アスナが口を開いた。
アスナ「えっと……その、今日は……ありがとう」
「「は?」」
俺たちは、彼女からの発言に驚愕した。
アスナ「何よ……人がガードしてくれたことにきちんとお礼の言葉を言ってたのに」
キリト「い、いや、そんなお礼を言われるようなことじゃないし」
ハチマン「俺はキリトの提案に仕方なく乗っただけだ。あのまま、放置して何かあったら今後の夢見が悪くなるしな」
「「相変わらず捻ねデレだな(だね)」」
ハチマン「誰が捻ねデレだ!」
アスナ「でも、本当にありがとう。あんなに寝たのは久しぶりだから」
キリト「久しぶり?」
アスナ「普段は長くても三、四時間くらいで目が覚めちゃうから…………」
キリト「それは、アラームで起きるんじゃなくてか?」
アスナ「ううん。不眠症って程でもないし…………原因は怖い夢を見て、飛び起きちゃうの」
キリト「…………そっか」
アスナ「でも、ある人にあることをされた日は、そんな怖い夢は見なかったの……」チラチラ
アスナはそう呟きながら俺の方をチラチラと見ている。
何故だ?何故、こちらを見る。それに少し顔が赤いような…………。
キリト「まぁ……その……なんだ、また外で昼寝をしなくなったら俺たちに言えよ」
ハチマン「おい、キリト。何故、俺に聞かないで『俺たち』にしたんだ?」
キリトの提案を聞いたアスナは微笑み、頷いた。
また、その微笑みを俺たちはアスナと出会い知り合ってから始めてみた純粋な彼女の微笑みだった。
アスナ「そうね。また同じくらい最高の天候設定の日がきたら、お願いするわ」
ハチマン「ねぇ、何で無視するの?ねぇ、ハチマンナイチャウヨ」
それからは俺たちがマッピングした、59層の迷宮区で最も危険なポイントやトラップ、モンスターハウスなどの分岐点などをマップを見せながらアスナに説明する。
説明がある程度、終わるとNPCが持ってきた前菜のサラダを食べるとキリトがあることを言い出した。
キリト「考えてみれば、この世界だと栄養とか関係ないのに、なんで生野菜なんか食べてるんだろうな?」
アスナ「えー、美味しいじゃない」
キリト「まぁ、そうなんだけど。せめて、マヨネーズくらいあればなぁー」
ハチマン「俺は胡麻ドレだな」
アスナ「あー、それは私も思う」
キリト「あとソースとか……ケチャップとかさ……それに……」
「「「醤油!」」」
この時、三人同時に同じことを口にしたので俺たち、まだ同時にプッと吹き出してしまった。
しかし、その瞬間…………
「きゃあああああ!?」
ハチマン「!?」
キリト「!?」
アスナ「!?」
その叫びに俺たちは自分の得物に手を伸ばし、臨戦態勢になってしまった。
そして、アスナが鋭い声で囁いた。
アスナ「店の外からだわ!」