世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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第一章
1.上帝、其処に再臨す


 

 

 

 時間が足りなかった。

 

 人として残された時間が、圧倒的に。

 

 あの者たちを救うための研究を推し進める時間が足りなかった。

 

 

『我を信じ、ついてきた者たちをあらゆる厄災から守るために!』

 

 

 ゆえに、人の身を捨てた。

 

 あの時の選択は間違いとは今も思っていない。

 

 だが……、人の身を捨ててから、機械の身となってから、間違えたのだ。

 

 新たな体への人格のコピーにエラーが起きたのか、あの体の全能感がそうさせたのか、はたまた人の身から脱却し、それと同時に人の倫理からも脱却してしまったのか。それとも……。

 いや、何れにしても我が間違えたのだ。

 

 

『我、オーバーロードが汝らの旅に終焉を与えよう』

 

 

 あの機械の体を滅ぼした者たちは、この言葉を向けられた者たちは聖杯を求めただけで、我を止めるために来たわけではない。

 

 

『聞くがいい、人の仔よ。我は滅んだ世界からの脱却、新たな世界での未来を夢見た。何人であろうとその邪魔はさせぬ! 人が人であるがゆえの限界を我は越えるのだ!』

 

『神となりし我が力を思い知れ!』

 

 

 彼らは人の限界を越えたはずの我を、人の身のままで越えてきた。

 

 しかし、詰めが甘かった。

 いや、この時代には機械など全くないのだから仕方のないことかもしれない。

 

 彼らは、我を完全に滅ぼすことはできていなかった。

 

 あの体に致命的な異常が来した時、その時点での記憶データが緊急用のボディにバックアップされる。

 

 ゆえに、我は今こうして思考できるのだ。

 

 

「もっとも、我を信じついてきてくれた者たちはもういないのだから、意味のないことか……」

 

 

 以前の体の我は狂っていたのだろう。みながいなくなってもなお、それを認識せずに研究を続けていたのだ。

 記憶データのみで、人格データまでも移されずにすんだのが幸いなことだ。こうして正常に認識できる。

 

 

 いくつものパスコードを記入し、緊急システムの消去を行う。

 

 

 もう研究を続ける意味はない。

 彼らのために行ってきたのだ。その彼らはもういない。

 

 この体も何れ狂うかもしれない。次のデータ移植時に狂うかもしれない。

 そのため終焉の準備をする。

 

 我の終焉を。

 

 彼らがいなくなったのであれば、我が存在し続ける意味はない。

 研究の過程で怪物を産み続けた神……、いや、悪魔は消えるべきだ。

 

 緊急システムを削除したことによって、残された我の記憶データはこのボディにあるだけとなった。

 

 あとはこの体を破壊するのみ。

 

 

「む……?」

 

 

 部屋にある管理機器から電子音が鳴った。

 世界樹内で何者かが死んだことを知らせる発報音。以前であればこの音が鳴れば、翼人に死体の回収をさせていた。今はもうそんな気など起きない。

 

 死体がモニターに表示される。

 

 もう聖杯はないというのに世界樹に足を踏み入れるとは、理解ができない。よっぽどの愚か者だろうか。この世界樹には樹の影響を受けた獣……、魔物が多くいるというのに。

 世界樹の魔物にやられたであろう者たちの姿をモニター越しに見た。

 

 

「……スキュレーにやられたか」

 

 

 スキュレーは世界樹の産み出した魔物ではない。

 

 我が人から作ってしまった魔物だ。

 

 研究のため、そしてさらなる研究のサンプル確保のために冬の階層に配置した魔物……いや、哀れな人の成れ果てだ。

 

 世界樹の遺伝子を取り入れさせたがゆえに、死ぬことも叶わず。そして世界樹の汚染の影響を受け、理性を失った人の成れ果て。

 

 我が作ってしまった負の産物。

 

 スキュレーだけでない。キマイラも、炎の魔人も、ハルピュイアも、ジャガーノートも。

 そして我の管理から外れてしまったヘカトンケイルに、あの幼子も。

 

 我によって死ぬことができなくなった哀れな者たち。

 

 はたして我はこのまま、あの哀れな者たちを放置しながら消えていいのか。

 

 我の救うべき者たちは、かつて我を信じついてきてくれた者たちだけだ。あの哀れな者たちではない。

 

 あの人の成れ果てを産み出した原因が我にある。それを責められるのはなんとも思わない。

 しかし、さらに遡り、我についてきてくれた者たちを原因としてとらえられる、その可能性がある。彼らの罪と捉えられるのは許容できない。

 

 ならば我はこの残された身で、あの哀れな者たちを解放させるべきではないか。

 

 それを遂げて、初めて我は消えるべきではないか。

 

 しかし、あの哀れな者たちに死を与えるには世界樹自体をどうにかしなくてはならない。あの哀れな者たちはもう世界樹の一部となってしまっているのだ。

 

 

 世界樹の生命を止めるか、世界樹の在り方を変えるか。

 

 

 古より培ってきた知識にはそのような方法は、どちらも存在しない。

 

 では新たに模索するか。しかしあまり長い時間をかければこのボディの人格も再び狂うかもしれない。

 

 我の知識だけでは足りぬ。

 別の者の知識が必要だ。しかし、この時代の者には期待はできまい。古の時代の知識が必要だ。

 

 そこで思い出す。

 

 

「たしか……、スペインの世界樹計画は世界樹の制御に力を注いでいたな」

 

 

 世界各地にある七つの世界樹。それぞれ大本となる目的はすべて同じだが、いくつか別の目的も各地で取り入れられていた。

 

 ある国では浄化に特化させるために、またある国では樹そのものに方舟としての機能を持たせるために、またある国では溜まった汚染を宇宙に排出する機能を持たせるために、各々が研究を進めた。

 

 我はかつて祖国の世界樹計画から途中で抜けたが、スペインの世界樹計画を少しだけ耳にしたことがあるのだ。世界樹による浄化の被害を最低限に留める制御機能を持たせる。そのスペインの世界樹計画の資料が残っていれば、あの哀れな者たちを解放できる近道となる。

 資料が残ってないにしても、スペインの世界樹について調べる必要があるだろう。

 

 大地のほとんどが世界樹によって偽りの大地と成り果てた。

 だが各地の世界樹の位置関係さえわかれば、どの世界樹が目的のものかわかるというものだ。

 

 まずはこの世界樹から出て、今の時代の地理を把握する必要がある。

 

 新たな使命ができた我は、まずはこの玉座の間から外へ足を踏み出した。

 

 

「ここにも緋緋色の剣兵か! 多いな!」

「む?」

 

 

 玉座の間から出れば何やら冒険者がいた。

 

 ここは叡智をこめた我が居城。勝手に足を踏み入れた者たちに不快さを感じるが、我は新たな使命がある。使命を果たすためにも無用な争いは避けれるなら避けた方がいい。

 

 このボディは予備のもの。ゆえに戦闘力は以前のものより遥かに落ちる。

 さらにはバックアップももうない。この身が破壊されれば新たな使命を果たすことはできない。

 

 城に入った無礼者は今回は見逃してやるにしよう。

 

 いや、待て。

 この無礼者どもにスペインの世界樹について聞いてみてもいい。

 

 我にはこの時代の情報が少しでも欲しいのだ。機会は無駄にはできぬ。

 

「汝ら、我の問いに答え───」

「ぶっ壊れろぉ!!」

「───!? な、何をする!?」

 

 なんだこの野蛮人は。

 この我が友好的に接しようとすれば、突然手にもつ武器で襲ってきた。

 冒険者というのは考えれば様々な地に赴き、資源を奪っていく盗っ人かもしれない。

 我の全盛期の体を滅ぼした奴らも、我の研究の成果である聖杯を奪っていった。

 

「あの猛攻が来る前に早く壊すぞ!」

「くっ───! この無法者め!」

「え!? ていうか喋ってないこの剣兵!?」

「うわ、本当だ!?」

 

 我は天の支配者。その我が喋るなど当たり前のことだろう。何を驚いているのか、なんにせよこの隙に、我は撤退を選んだ。

 

 撤退先はすぐそばの扉の奥。つまりは玉座の間である。

 入ってすぐにセキュリティロックを掛ける。

 神となりし我には戸締まりなど不要という考えから、随分と使っていなかったセキュリティシステムだ。

 

「まったく……以前の体であればあのような者たちなど……いや、考えても無意味だな」

 

 それにしてもオーバーロードたる我を剣兵剣兵と、奴らは何を言っていたのか。剣兵などではなく天の支配者、暁の王、上帝、父なる太陽。様々な呼び名がある我だというのに何故に剣兵。

 

「む……?」

 

 あるモニターに映る景色を見た。そのモニターは玉座の間を映している。つまりは我の現在地だ。

 

 別段それ自体に異常はない。

 

 しかし玉座の間にいる存在がいつもと異なる。

 

 ……これは侵入者排除用の警備アンドロイド、SSA-1だ。特徴としては両手に持つ高熱を発する剣での白兵戦を得意とする機械兵。

 

 その機械兵がモニターに映っている。モニターを眺めている機械兵の姿が……モニターに。

 

「これは……、我か……」

 

 予備の体が何故に量産型の体……

 

 あの全能感に冒されていた我のことだ。予備の体になることなどないと考え、量産型に緊急時の受信先を設定していたのだろう。

 

 一応は多少カスタマイズされているが……これは不味い。

 

 戦闘力の問題もあるが、それ以前にこの体ではとても世界樹について調べることなど難しい。どうみても異形だ。というか機械兵だ。人ではない。

 

 前の体も勿論人ではないが、溢れ出す神々しさでいけると何故か考えていた。ダウンロードされた記憶データが人格にも影響を残してそうだ。

 

 どうしたものか。

 

 このままでは人と出会うたびに戦いとなってしまう。とても世界樹の調査などできぬ。

 この城ごとスペインの世界樹を探しに行こうにも、世界樹の枝や蔦が城に絡まり下手に動かせない。

 

 せめて人に見える体を造るなりしなくては───

 

 そこまで思考し、記憶領域からとある情報を引き出せた。

 

 不死の研究で、人と外見が同じアンドロイドを造っていた。

 人の肉体を棄て、なおかつ人としての機能を残し、人格や記憶を移植すればそれは不死へのアプローチなのでは。そう考えて造ったアンドロイドが一基。

 

 しかし使われぬままだったものだ。

 

 彼らは『大地を棄てただけで飽きたらず、人の身までも棄てたくない』と言ってこの計画を拒否したからだ。

 

 

 ───我は彼らのために棄てたというのに。

 

 

 ……! 我は今何を思考した。

 

 我は我自身が考え自ら人の身を棄てた。彼らのせいなどではない。

 

 とにかく、試作品として造られたアンドロイドが一基あるのは記憶データが告げている。廃棄もしていない。となれば、アンドロイドに人格データと記憶データを移せばよい。

 

 強いて問題点をあげるとすれば……

 

 

「女型……」

 

 

 性別などない体となって千年は経っているが、人であった頃は男だった。

 さらに言えば、父なる太陽と呼ばれる身としてはやはり女型だと疑問符が出てしまいそうだ。

 

 だが今は選択の余地などない。

 

 新たなアンドロイドを造るには材料も時間もない。

 以前の体より僅かばかり演算性能までも落ちているこの体では……

 

 古の記憶では『男の娘』というのがあった。それと似たようなものになるだけだ。それに、どのような体であろうと我は我だ。

 

「これより、データのコピーを行う」

 

 移植の際、人格データのみ多少変更する。前の人格ではない。人の世に馴染みやすいように感受性を高めた。また、エラーでも起きて前の人格にならぬように警戒は怠らない。

 

 この機械兵たる体の我はデータ移植後、アンドロイドの我の人格に問題有りと判断すれば即座に破壊するのが役目だ。

 

 全盛期の体からコピーされた機械兵の我。そこからさらにコピーを重ねたアンドロイドの我。

 造った時期から想定すれば、確実に受容器としては劣化している。

 新たな使命と人格に影響がなければ妥協は必要。

 

 

 軽快な電子音が鳴る。

 

 今度のはデータ移植が完了した知らせだ。

 

 今この瞬間、我はこの世に二人、いや二基いることとなる。

 

 上体を起こすアンドロイドの我に呼びかけた。

 

 

「目覚めたか、我よ。異常はないか」

 

 

 同一の存在がいるとは不便なものだなと発覚。正確な呼びかけがなんとも異常な呼びかけとなってしまった。

 

「我に異常はない。強いて言うならば、やはりスペックの低下を感じられる」

「だがその我の体はかつての我が造りしもの。この我の体に劣りはするが世界樹の調査には問題のないレベルだ」

「……我我やかましいな」

「む……?」

 

 何か我らしからぬ言葉が聞こえた気がしたが……

 

「それより、我はスペインの世界樹の調査に向かうが、汝はどうするのだ」

「我に汝と呼ばれるのは複雑だな……。我はしばらくの時が経てば自壊する予定だ」

 

 我は二基もいる必要はない。

 この城に留まり続ける我はまた狂う可能性が高い。ゆえに自壊するのだ。

 アンドロイドの我は人の感性に多少近づけた人格だ。そこに世界樹の調査といえど外の刺激があれば狂う可能性が低くなるだろう。

 

「だがその前に」

「うむ。では聞こう。アンドロイドの我の使命はなんだ」

 

 自壊する前に、女型アンドロイドとなった我の人格を知らなくてはならない。

 狂う可能性がある。もしくは既に狂っている。はたまた、我から乖離しすぎた思想であれば、破壊する。

 

 

「我の使命は、我を信じついてきてくれた者たちの名誉を汚さぬために、あの哀れな魔物と成り果てた者たちを解放すること」

 

「……どうやらエラーは起きていないようだな」

 

 

 後は人の中に馴染めるようにすることだが、その点は我ではなくアンドロイドの我に任せよう。

 

「では我よ、後は任せたぞ」

「必ずやあの哀れな者たちを解放してみせよう。我についてきてくれた者たちのために」

 

 

 玉座の間から出ていく我の後ろ姿に全てを託し、我は自壊処理準備を始めた。

 

 

 

 

 




コピーを重ねると何度も劣化していくものだと思うんです。上帝であろうと。

あと不死にこだわってたので、世界樹3のあの技術は持ってそうだなと思い、アンドロ化しました。

FOEである緋緋色の剣兵は冒険者が名付けたものだし、というわけでそれっぽい名称にSSA-1と名付けてみました。ぶっちゃけテキトー、
Sword Security Armor 01
みたいな。

女型アンドロにしたのはぶっちゃけ趣味です。
なお、声はバーローのままです。つまりイケボ。
声帯というより発声機内蔵みたいな感じなので、好きな声は出せるけどこだわりがないのでそのままの声的な

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