世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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11.汝の呪いは何処より来たる

 

 

 

 

 説明する間もなく医療班のいるところまで連行されたイシュと私。

 

 大丈夫だと言っても信じてもらえず、さらにはあの赤毛の熊について報告する必要もあるため、一度タルシスに戻るべきだと言われ、連行されてる次第です。

 

 イシュは不満そうだけど、私としては丁度良かったりする。

 ほんっとうにクタクタなのだ。もしもいきなり走れと言われたら、膝が勝手に折れ曲がるレベルだ。

 

「あの、私たちの気球艇は置いていって大丈夫なんですか?」

 

 手の空いてそうな兵士さんに気になっていたことを聞いた。現在タルシスへ向かっているこの気球艇はノアではない。兵士さんの気球艇なのだ。

 

「君たちの気球艇なら他の兵士がタルシスまで移動させてくれるよ。それより今は君の仲間の心配をしてやったほうがいい……腕を落とされるなんて……」

「そ、そうですね……」

 

 さっき見たときはもうひっつきかけてたけど……

 

「他の人たちもボロボロですね……」

「ああ、森の破壊者の群れにやられたやつの怪我はまだいい。だが、あの赤熊にやられたやつは……」

「……」

 

 森の破壊者の群れと戦う前に、兵士の一団は赤い熊と交戦をしていたらしい。その際に半壊、そしていつの間にか赤い熊はいなくなっていたそうな。

 

「おそらくあの赤熊は、森の破壊者のリーダーだ。姿を見せたということは、樹海の調査が進んでいる証拠でもあるが……被害を見れば喜べないだろうな」

「樹海の調査打ち切り、とかになる可能性も……?」

「辺境伯の判断次第だな……」

 

 森の破壊者のリーダー。

 調査の打ち切りにならなければ、きっと問題ないはずだ。不意打ちでイシュが怪我をしたとはいえ、だいぶ余裕そうだったし。

 

 他の冒険者や兵士の怪我人のうめき声が聞こえる中、そんな風に考えてしまう私はひょっとしたら、イシュの考え方に影響を受けているかもしれない。

 

 夕焼けに染まるタルシスが見えてきた。

 

 辺境伯はどう考えるのか、とりあえず調査打ち切りではありませんように。

 

 

 

 

 

 

 タルシスの街に戻って気づいたのは、今までと雰囲気が全く異なる兵士の一団。

 ピリピリしているというか、ギラついているというか……どこか怖い。

 

「アルメリア、無事みたいだね。それから、そこのも」

「ワールウィンドさん」

 

 そこのもってイシュのことでしょうか。早速喧嘩はやめてくださいお願いします。

 

「あの兵団は、兵士を襲った魔物の討伐に燃えているんだ。しばらくは碧照ノ樹海の立ち入りは制限されるよ」

「えっ!」

「辺境伯は今回の騒動を重く受け止めてるってことだよ。あの樹海の脅威が去るまでは、調査は中断」

 

 去るまでは、ということはあの兵団の頑張り次第だろうか。

 でもそんなの待っていられない。イシュもそれまで黙っていたが、口を開いた。

 

「脅威を排除すればよいのだな」

「ああ。脅威の排除、つまりは熊どもの頭を潰すこと。マルク統治院でそのミッションが今発令されている。ミッションを受けた者は樹海へ行くことを許可される」

「何をするにおいても、統治院へ足を運べということか」

「今回はいつもの自由行動じゃない。脅威の排除、冒険者同士の連携も求められる。冒険者ギルドにも行くようにきっと言われるぜ」

 

 それじゃ、また後で。とワールウィンドさんは街中を歩いていった。

 

「冒険者同士の連携って、他のギルドの人たちと一緒に行動ってことですかね」

「我が知るよしもない。だが、樹海で大人数での行動など襲ってくれと言っているようなものだ」

 

 そういうものなんだ。

 兵団は結構な人数で行動するみたいだけど、イシュから見れば愚かな、みたいなことを考えちゃうのだろうか。

 

「じゃああの兵団の人数は危険ってことですか?」

「少人数に求めるのは調査であり戦闘ではない。自衛できるだけの能力があればそれでいいだろう。一方で大人数では戦闘、そして示威。だが、大人数であれば当然魔物も気づく。そして幾度となく襲うだろう。となれば、継戦能力も必要とされる」

「えっと……つまり、すごい危険?」

「……大人数であればあるほど、連携は必須だ。だが付け焼刃の連携では焼け石に水そのもの。日ごろから団体で行動している兵士なら問題はないだろう。だが、冒険者はそうではないはずだ」

「じゃあ危険じゃないってことですね!」

「魔物に対抗できる能力を持っていれば、の話だがな」

 

 それは暗に、赤熊相手には無意味と言った気がした。

 というかそう言ったのだろう。

 

「統治院へ行くぞ。辺境伯も我の知識と力を待っていることだろう」

「……あ、はい」

 

 通りすがりの人の目が「何言ってんだこいつ」みたいな目だった。

 私もなんだその自信って思っちゃうけども。

 

 

 

 

 

 

 マルク統治院はいつもより心なしか、出入りの数が多く感じる。いつも、というほど知らないけども。少なくとも今朝や昨日に比べたらすれ違う人が多い。

 

 それは冒険者姿の人だったり、普通の市民だったり、兵士だったり。

 

 表情は様々で、安堵している人もいれば、不安そうな顔をしている人もいる。義憤に燃えている顔、悲しみに暮れる顔、泣いている人もいた。

 

「ずいぶんと暗い雰囲気だな」

「え……」

「どうした」

 

 イシュがそういった雰囲気を察するなんて、という驚きを正直に伝えていいものか。

 

「あ、えと。イシュはそういうの気にしないと思ってたんで」

「汝は我を全知全能と思っているようだが、我とてわからぬこともある」

「そこまでは思ってないです」

 

 でも自分のことは全知全能だと思ってそうだな、って思ってました。

 

「しかし調査が進んだ証拠だというのに、何故ここは雰囲気が沈んでいるのだ」

「それは……きっと遺族の人たちなんじゃないですかね。赤熊の被害にあった……」

 

 世界樹への謎に一歩近づいたからって、彼らは素直に喜べるわけがないと思う。

 

「だが───」

「死を覚悟している、なんて言っても、だからって死んでも平気な人なんていませんよ」

「……」

 

 現代と古代。

 死生観が違うかもしれない。価値観が違うかもしれない。イシュにとっては不思議でも、ここではこれが正常なのだ。

 

「遺品くらいは、届くといいんですけど……」

「遺品、か……それが届いたところで、いなくなった者は戻ってはこない」

「そうですけど……残された人は、いなくなった人とのつながりを少しでも多く持ちたいものですし……」

 

 イシュは携えた二振りの剣に目を向けだした。

 

 遺品という言葉が出てから見たということは、イシュの時代の人たちの遺品なのだろうか。イシュがこれは自分の遺品になるかも、だなんて考えはしてないと思うし。

 

 

「……兵士や冒険者の遺品となれば、たいていは武具になるだろう。武具であっても、遺族の元に戻すべきだと汝は思うか? 武具であるなら、別の戦える者の手に、とは思わぬか?」

 

「うーん……私の両親も冒険者だったそうなんですよ。剣士だったそうですが」

 

 

 だけど家には剣士の武具はない。

 消息不明となってしまったのだ。なので遺品はない。死体も見つからない。

 

 

「剣なんて使えないけど、それでもやっぱり、その人がいたという証拠として持っていたいですね」

 

「そうか……」

 

 

 イシュは今の質疑応答で、少しは現代の価値観を知ってくれただろうか。

 

 それから辺境伯の部屋の前につくまで、イシュは無言のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「辺境伯よ。この我が報告に来た」

「おおぅ……し、失礼します」

 

 辺境伯の部屋に入って早々ぶちかますイシュだ。さっきまでの無言はなんだったのか。

 

「諸君か。すでに話は聞いている。碧照ノ樹海に新種の熊の魔物の出現。そして森の破壊者が群れをなして行動していたこと。あとは……イシュが腕をもがれたと聞いたのだが……やはり大丈夫なようだね」

 

 どこか呆れるような目線が何とも言えない。

 

「だがすべての者が君のように規格外な生命力を持つわけではない。そこで私は樹海の脅威排除をミッションとして発令した。兵士はもちろん、冒険者もミッションの受領は可能だ。非常に危険な任務だが……」

「我には問題ない」

「君ならそう言うだろうと思ったよ。アルメリア君、君もミッションを受領するかね?」

「え、あ、はい!」

「うん。では冒険者ギルドにも足を運んでくれたまえ。赤い熊の魔物を我々は血の裂断者と呼ぶことにした。血の裂断者は他の魔物より狡猾で知恵も回るようだ。ただ闇雲に動いては警戒されるだけに終わりかねない。そのため今回は異例の作戦行動だ。ギルド長の指示に従って動いてくれたまえ」

「付け焼刃の連携など無駄に終わるとは考えぬのか」

 

 物怖じしないのは、うん。いいことだよね。うん。

 居心地がすごく悪くなることを除けばいいことだよね。うん。

 

 辺境伯はもうイシュがどういう人物なのか知ってるからいいけどね、でもやっぱり辛いんですよ。

 

「無論、その考えがないわけではない。連携といっても単純な内容しかできないということはギルド長にも言ってある。だが、今まで通り各自自由に動けばそれぞれ確固撃破されかねない相手だ。よって最低限の連携は必要だ」

「ふむ」

「……ところで話は変わるが、谷と樹海の入口にある石碑について、何かわかったかね?」

 

 謎の紋章があるあの石碑。

 現状わかっていることは、樹海の入口の石碑はただの石で、谷の入口が特殊……らしい……?

 というか、ほとんどわかってないも同然だ。

 

「あの石碑が濃雲に関わっているのは間違いないだろう。石碑については我の時代のものではない……我は印術というものを知らぬ。あの石碑は我には理解できぬ科学、汝らで言うところの術に近いものがある」

「つまり……君の時代にはなかった技術が使われている。そしてそれは、君の時代より後の時代の技術、ということかね?」

「うむ。我の時代と今の時代。その間に意図的に生み出された壁だ」

「その意図について、何か予測は立てれないかね?」

 

 ほとんどわかってないと思っていたのは私だけだったという事実に驚愕しか出てこない。

 なにさなにさ。結構色々わかってるんじゃない。

 

 

「明確な根拠はないが、おそらくは世界樹計画の副作用を恐れた、だろうな」

 

 

 世界樹計画の副作用……それは、

 

 

「私の体のと、同じ……」

 

「本来は古の時代で終わる厄災。だが、調整によって即効性を落とした代わりに、代を引き継ぐ呪いと化したのかもしれぬ。そしてその原因が来ないように、壁をした」

 

 

 世界樹へ行くのを遮る壁ではなく、世界樹から来るものを遮る壁。

 呪いが来ないように……

 

 

「……イシュ。世界樹の呪いは、今なお残っているのかね?」

 

「アルメリアの体に残っている以上、そうであろうな」

 

「……でも、なんで」

 

 

 なんで私の体に呪いがあるんだ。

 

 世界樹との関わりなんて一切ない。世界樹が見える街で生まれ育ったとはいえ、それは大勢がそうだ。

 

 

「汝の体に何故呪いがあるか。未だ推測の域を出ないが、ふたつ考えられる理由がある」

 

「……聞かせてください」

 

「碧照ノ樹海は世界樹だ。世界樹の一部、と言ったところだ。そこから冒険者か誰かが、呪いを持ち帰り、汝に感染した」

 

 

 辺境伯も私も何も言わない。

 今はただ聞くだけだ。

 

 

「もう一つは、遺伝だ。呪いを恐れて壁ができたのであれば、壁を作ったのはこの街の先祖のものだ。その者たちの遺伝子に呪いが刻まれており、アルメリアの代になって表現した。もっとも、この説は弱いがな」

 

 

 可能性として高いのは前者だ、とイシュは言う。

 

 誰かが碧照ノ樹海から呪いを持ち帰った。

 でもそれだと……

 

 

「呪いを持ち帰ったということは、その人物も体が蝕まれているのではないかね」

 

 

 そうだ。私と同じように体が植物に変容していっているはず。

 

 だけどそんな話は聞かない。隠せるものとは思えない。

 

 

「代を経ているからか、調整のおかげか、呪いの感染力自体は弱い。発症まで行かなければ本来持ちえる免疫力で対抗可能なレベルだ」

 

「つまり、呪いを持ち帰った人物は発症はしていない、ということか……」

 

 

 辺境伯が頭を抱えだした。

 

 今の話がもしも事実だとしたら、樹海へ赴いた兵士や冒険者はみんな呪いを持ち帰る可能性がある。樹海帰りに免疫力が低い人物と接触すれば、私と同じ……? あれ?

 

 

「私ってそんなに体弱いのかな……」

 

 

 樹海への調査はもう何年も行われている。なのに私以外発症者はいない。

 つまりここ何年も、私より免疫力が低い人がいなかったことになってしまう。

 

 

「汝の親は冒険者だったそうだな。汝の親が呪いを持ち帰ったという可能性もある」

 

「そっか……それなら私も幼いし、免疫力は低いかも……」

 

 

 というかそうじゃん。子供のころから名医を探してもらったりしてるじゃん、私。

 今の免疫力は関係ないよ。

 

 でも、親が持ち帰った、かあ……

 

 

「……兵士の家族には今のところ、奇病に患ったという話は出ていない。今後出てくる可能性もある、ということになるな……」

 

 

 辺境伯の言葉に、危険性を再認識する。

 世界樹の調査となると呪いを持ち帰る可能性は高い。樹海も世界樹の一部なら、なおのことだ。

 

 

「……断言はできぬ。気休めにしかならぬが、今のところは問題ないだろう。我が見た限り、人を変質させるような物質は漂っていなかった。奥深くまで行けばまた違うかもしれぬがな」

 

「……君は呪いが見えるのかね?」

 

「千年前、我は祖国が世界樹に呑まれるのを見た。そして世界樹があらゆる生物を植物へ変えていく様を見た。我は……いや、我と同じ時代の者たちは皆が世界樹を受け入れたわけではなかった。幾度となく研究をした。人に作用しない世界樹を模索した……。世界樹が大地を創ってからも、我はあらゆる研究を重ねた……ゆえに人を変えゆく成分は見慣れたものだ。そしてこの体は機械。汝らとは作りが違う。無論、この目もだ」

 

 

 イシュにとっては思いだしたくないことだったのかもしれない。

 祖国が呑み込まれる。きっと文字通りの状況だったのだろう。そのことを語るイシュの顔は険しく、そしてどこか怯えているようで───

 

 

「嫌なことを思いださせてしまってすまない」

 

「……? 汝は何を言っている。我は事実を述べたまでだ」

 

 

 辺境伯も深入りしすぎたと思い謝罪をしたけど、イシュは何を言われているのか理解できていなかった。

 

 時折、イシュは自分の感情もわかっていないように見えてしまう。

 

 機械の体となった弊害かもしれない。機械の体と聞かされたけども、私にはやっぱりただの女の子にしか見えない体だ。声は全然違うけど。丈夫さも。力も。

 

 

「君がそう言うのなら、そういうことにしておこう」

 

「汝がどう思おうと構わぬ。我には関係のないことだ」

 

「それにしても……世界樹には人々を永劫の楽園へといざなう何かが眠っていると語り継がれていたが、呪いとはな……」

 

 

 世界樹の調査の目的は語り継がれていた内容の真偽を確かめること。

 そのため各地から冒険者を集めたのが辺境伯だ。

 

 だけどあるのは呪いなら、世界樹への調査はやめた方がいいのかもしれない。

 

 そう考えているのかも……やめられるのはすごい困る。私としては、だけど。

 

 

「どういうことだ」

 

「? 何か、とは呪いのことじゃないのかね?」

 

「そこではない。語り継がれていたという内容について、我は聞いておらぬ」

 

「ああ、伝承だよ。内容は先に言った通りだ。楽園へといざなう何かが眠っている。それ以外については何もわかっていない」

 

「問題はそこではない。汝らの先祖が壁を作ったのであれば……壁を作ってまで恐れた呪いを楽園にいざなう何かとは言わぬ」

 

 

 イシュのひっかかり。楽園と表現するのは黄泉の国を詩的に表現したとか……?

 

 

「楽園を天国とか、死後の世界っていう意味で使ったとかじゃない……?」

 

「可能性としてはある。だが、遠ざけたものを楽園にいざなうなど、希望を持たせるような物言いで表現するものか」

 

「ふむ。つまり、呪い以外に何かがあると考えているのかね、君は」

 

「楽園にいざなう何かはわからぬ。わからぬが、世界樹の制御についてかもしれぬ。制御ができれば世界樹はまさに楽園を創ることができる存在だ。そしてその制御は、我が求めているものだ」

 

「……ふむ。中途半端につついては危険が降りかかるだけ、か」

 

 

 辺境伯が思案気に呟く。

 さっきまでは調査を打ち切りを考えていたのかもしれない。だけど今はそうではなさそうだ。

 イシュはそのことを考えて伝承にひっかかったわけではないだろうけど、これはラッキーである。

 

「なんであれ、まずは碧照ノ樹海の脅威排除が最優先だ。脅威がある限り調査もままならない……頼めるかね?」

 

 辺境伯がまっすぐイシュを見ながら言った。

 

 なんだろう。辺境伯もイシュのことをかなり信用しだしたように思える。

 

 

「我を誰だと思っている。あの程度、脅威になりえぬ」

 

 

 イシュの返事はこれである。

 それはオッケーなのかノーなのか。よくわからない返事なのですが……

 

 

「冒険者ギルドとやらに行くぞ、アルメリア」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 どうやらオッケーということだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 




 


今更ですがアルメリア視点でずっと続いているし、オリ主タグ入れるべきだろうか。
でもでも、章ごとというか特定の話の区切りごとにキャラの視点変更する予定だったり。

なのでいずれはバーロー視点に戻ります。予定では。

あと私的に主人公はバーローで書いてるつもりなんでオリ主ではないつもり……
ま、まあ「オリ主じゃん」って言われたらつけましょうかね!
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