冒険者ギルドに向かって足を進める。
仲間になってくれる人を探しに、ではなく樹海の脅威排除の前準備、としてなのが本来の用途と違う感じがする。
それはそれとして、自由奔放な冒険者稼業をしている人たちをまとめる場所だ。そこのギルド長となればすごく怖い鬼教官のような人か、それともテキトーな人か。どちらが出てくるだろうか。
鬼が出るか蛇が出るか。そんな気持ちで冒険者ギルドの扉を開ければ───
「ムゥンッッ!!」
───ハゲがいた。
「……おっと、客人が来ていたのか。すまんな、少し鍛錬に熱が入り過ぎたようだ」
「えと、ギルド長、でしょうか……?」
他にもちらほら人はいるが、この人ほど存在感を放っていない。この人はもうあれだ。いるだけで眩しいくらいの存在感だ。
頭頂部は光り輝き、その体はまさに鍛え抜かれたといってもいいくらい暑苦し……あ、いや。屈強な筋肉で構成されている。肌は健康的な小麦色の肌で、そしてやっぱり暑苦……気迫のある顔つきだ。
「いかにも、ワシが冒険者ギルドの長だ。お前らは冒険者志望か?」
「我らは樹海の脅威排除のミッションを受けた」
「む? しかしお前らを冒険者ギルドで登録した覚えはないが……」
「い、一応辺境伯に認めてもらいました!」
「我はここで人を集う必要はなしと判断した。ゆえにここには足を運んでいない」
登録してないから認めないって言われる前に、辺境伯の名前を出す。
「む、そうか。本来であればここに来てほしかったが、まぁいい。それでお前らのギルドはなんという名だ?」
「あっ」
考えてないってば。
ていうか二人しかいないのにギルド名って必要なんだろうか。
「えと……まだ決まってなくて……」
毎回これを言うのも心苦しい。というか面倒くさい。いや、申し訳なさはあるのだけど、やっぱりこう、何度もあると面倒なのだ。
「なので決まってからでもいいで───」
「ギルドとはいわば冒険者が掲げる旗印のようなものだ。掲げる旗印もなしに樹海へ入れさせるわけにはいかん。たとえ辺境伯がなんと言おうとだ」
「はい! 今すぐ決めます!」
気球艇の時といい、ギルド長といい、やっぱり関わりが深い立場の人ほどそういったものにはこだわりがあるみたいだ。
条件反射のように元気よく決めます宣言をしてしまった。けど仕方ないのだ。決めないと冒険者として認めないと言われかねないし。
「い、イシュ、何か候補ってないかな……?」
「我としては何でもいいが……汝は思いつかぬのか」
なんでもいいって言いながら絶対変な名前だと拒否するでしょイシュって。
そんな感じの雰囲気がするし。
「だって急に言われても……」
「昨日から言われてたではないか……ならば我が名付けよう」
「決まったか? 後から変更します、なんて出来ないからな。よく考えてからでもいいぞ」
よく考えてからって言っても決めるまでミッション参加認めてくれなさそうなくせに。
「ニーズヘッグ、だ」
「すごい悪そう!!」
「何を言う。我に、そして汝にも合う名前のはずだ」
「名前の意味はわからないけどなんか悪そうな響きに感じたんだもの!」
「ニーズヘッグか。よかろう。その名に恥じぬお前たちの活躍に期待する」
決まってしまった。
まぁそうそうそのギルド名で呼ばれることはないと思うけど、決まっちゃったかぁ……
「それで、お前らはミッション参加者だな。すでに話は聞いていると思うが、連携をとっての行動だ。だが安心するがいい。これを受け取れ」
「地図、か?」
「樹海の地下二階の地図だ。すでに探索済みのところまで描かれている。まだ調査の届いてない場所はあるが……これに……」
描かれた地図は西のあたりが埋まっていない状態だ。途中で引き返したのか、まだ道は続いている描き方だ。
その地図をギルド長は赤い筆で無造作に塗り込んでいく。
「ああっ!!」
「むっ? どうした」
「そんなべっちゃりと……ああああ、線からはみ出て……信じられない……」
「す、すまん……」
「……アルメリアのことは放っておけ。続けよ」
「ウ、ウム」
「あ、あああ……ああ…………」
ギルド長は地図の北側を赤く塗っていく。
枠線は黒いから、地図としてはまだ使えるけどこれはあんまりだ。
「その赤く塗ったところがお前らの探索範囲だ」
「他の場所はいいのか」
「他の冒険者が塗られていない場所を当たる。分担、というよりローラー作戦だな。血の裂断者がいるとすれば西側。背後をとられぬようにローラーのごとく進行を進める。見つければ笛を吹き周囲に知らせ、笛の音が聞こえた者は現場に急行、そして囲む」
作戦はわかったけど……この地図の扱いはあんまりだ……ひどすぎるよ……
「ミッションの参加人数は今のところどの程度か」
「お前らも合わせて今のところ六つのギルドだな。危険と分かりながらも参加するだけあってどいつも腕に覚えがあるやつらだ」
六つ。
北側を私たちが担当するとして、あとはパッと見では南側と中央帯。
単純に二つのギルドが同一の探索範囲になるのかな。
「だが六つのうち、五人で探索をしているのは……二つだけだ。あとはひとりで探索をする変わり者が三つ、そしてお前らが一つ」
「変な人もいるんですね……」
「…………まあいい。予測される危険度から担当範囲の人数にばらつきはある。だが他のギルドと行動を共にする可能性があることだけは考えておくことだ。北側はあまり必要ないかもしれんがな」
何か言いたげなギルド長の顔だったが気のせいだったようだ。
それから、遭遇したら使うようにと、白い笛を受け取って話は終わった。
ローラー作戦と言う性質上、時間を合わせる必要があるので明日の午後1時に地下二階へ行くようにとのこと。
白い笛は私が持っておこう。イシュに持たせたらまず吹かないだろうし。
冒険者ギルドを出たのはもう夕飯時と言ってもいい時間になっていた。
今から帰ってご飯を作るのは面倒だ……あ、そうだ。
「イシュ、イシュ」
「どうした」
「セフリムの宿だったよね。ウィラフさんが言ってたところって」
「それがどうしたというのだ」
ウィラフさんがご馳走するからおいで、と言っていたのだ。せっかくだし今日ご馳走してもらおう。
「ご飯食べにいきましょ!」
「汝の家でいいではないか」
「宿に出るご飯を食べにいきましょ!!」
「明日の準備はいいのか」
「ご飯を食べて元気になるのが一番の準備ですよ!!」
「まぁ我はなんでもいいが……」
クラントロがどんな風に調理されてるのかも気になるし、それにミッション参加者のひとりギルドって絶対ウィラフさんだろうし話もしておきたい。
一石二鳥とはまさにこのことだ。
街中の看板を頼りに私たちはセフリムの宿へと向かった。
セフリムの宿は冒険者が多く利用している施設だ。
タルシスの街には様々な地から冒険者が訪れる。そのため宿は重要施設だ。冒険者にとっても、街にとっても。
おかげでいくつもの宿が大きな宿となっているのだけど、中でも評判がいいのがこのセフリムの宿。
ウィラフさんは中にいるだろうか。まだ戻ってきてなかったらどうしよう。今更すぎる悩みが出てしまった。
とりあえずウィラフさんの名前を出そう。それから考えよう。
それに評判のいい宿なのだ。きっと女将さんも優しくて素敵な人に違いない。
いざ、セフリムの宿へ、だ。
「すみませー……」
「はーい?」
「…………」
中に入ると、血まみれで笑顔の人が出迎えてくれました。
「ほ、ほひゃあ……」
「初めての方ですねぇ。ようこそ、セフリムの宿へ。私はここの女将をさせていただいてます。……あらあら、私ったら。返り血をまず拭うのが先決ですよね」
「返り血!?」
思っていた宿と違う。
もっと優しくアットホームな宿を想像していたのに、なんで返り血笑顔の女将さんが出てくるの。
「お恥ずかしいです。少し新しいメニューのチャレンジをしてて、血抜きを怠り過ぎちゃったんですよ」
「りょ、料理の結果ですね……!」
心臓に悪いわ。
ウィラフさんが微妙な感じの言い方してた理由がなんとなくわかったわ。この人が原因だわ。
「あの……ウィラフさんって戻ってきてます?」
「ウィラフさんなら……」
「アルメリアにイシュじゃない。お昼ぶりだね、どうしたの?」
「丁度戻ってきましたねー」
「さっそくご馳走になろうかなと思いまして……へへ……」
いざ言うと恥ずかしさがこみ上げる。なんていうか卑しさ全開じゃないだろうか。でもここまで来ちゃったからにはご馳走になる。じゃないとなんのためにあんな返り血女将と遭遇したのかわからなくなってしまう。
「あー、なるほどね。でも、地下二階への件でお礼はいいって言ってたのに」
「それを言われるとつらいです……! でももうご飯作る元気がなくてぇ……」
「あはは、いいよいいよ。あなたたちのおかげで私も安全に依頼をこなせたんだし、階段の場所くらいじゃお礼としては物足りないしね。女将さん、今日の夕飯、二人追加できる?」
「大丈夫ですよー。少し増えたくらいでからっぽになるようなやわなお鍋は使ってませんから」
やわな鍋とはいったい。
ともあれ夕飯確保できた。いや、金欠と言うわけではないけども、なんにしろ節約は大事だから、うん。誰に私は言い訳しているのやら……
「ウィラフといったな。汝も明日、樹海のミッションに赴くのか」
「ええ、あなたたちも受けたみたいだね」
イシュの問いかけによる答えを聞いて、やはりひとりギルドの変わり者はウィラフさんだと判明。
あとはワールウィンドさんが確定だとしたら、もうひとりは誰だろ。
「疲れが溜まっているんですかねぇ……」
「女将さんどうしたの? やっぱり追加は辛い?」
返り血を拭い終わった女将さんが突如として呟いた。
表情はおっとり笑顔なんだけどなぁ……
「いえ、それは大丈夫ですよー。ただ目に疲れが来てるみたいで、そちらの方が女性に見えてしまって」
「あー……」
あー……
「実際どっちなの?」
「何がだ」
ウィラフさんったらドストレートに聞いてくれた。
いいぞいいぞ。気になる神秘を解明してください。
「あなたの性別。どっち?」
「……ふむ」
なぜ性別を聞かれて考え込むモーションになるのか。自分の性別でしょ? パパッと答えてよ。そしてウィラフさんに今度キルヨネンさんの性別聞いてもらおうっと。
「この体を指すのであれば、性別はない。モデルとなった者は女であったがな」
「? よくわからないけど、女ってこと? 声すごく渋いけど」
「性別はないと言っている。そして声は変声することは可能だ」
「ほへん!?」
後半のセリフは今までと違う声音だった。
渋い男性の声から一転、女性の声に早変わりしたのだ。びっくりして思わず変な声が出た。
「イ、イシュ、声を変えれたんだ……でもなんか違和感すごいですよ。その声もどこか間抜けだし……」
「汝の声だが」
「うそぉ!?」
ウィラフさんが笑いをこらえているのが見える。
何笑ってるんだちくしょうめ。こらえるなら隠し通してよもう。
「ふ……ふふ、イシュって思ってたよりずっと面白いじゃない」
「汝の声にも変化させれるが」
「それはやめて」
本気のトーンだった。ウィラフさんの却下の素早さとトーンがもう本気だった。
「あら? あらあら? 男性じゃなくて女性の声? ……やっぱり疲れてるんでしょうか。何を信じたらいいかわからなくなってきました」
女将さんだけついてこれてない……!
しかもなんでか人間不信になりそうなんだけど……!
「あ、いけないいけない。そろそろ火を止めないと」
パタパタと女将さんは厨房へと消えていった。結局疲れ云々についての誤解をとけないまま。
いやでも、実際疲れてるかもだし、うん。大丈夫だきっと。
それから少し雑談をし、ウィラフさんが取ってきたらしいブラックタウルスと呼ばれる牛のお肉がメインの夕飯にお呼ばれした。
「そういえば二人とも、酒場って行ったことないんじゃない?」
さりげなくクラントロを皿の隅に寄せながらウィラフさんが言った。
酒場。そりゃまぁ行く理由などないし、初日こそはイシュが情報収集しにいこうとしてたけど、今日もするつもりなんだろうか。
「酒場って言ってもお酒が飲めるだけじゃなくて情報交換の場でもあるし、冒険者としては一番実入りのいい仕事の場でもあるから行ってみたらどう?」
「実入りのいい仕事? 酒場でアルバイト、とかですか?」
「冒険者要素どこにいったのさ……」
冒険者要素なんて、酒場でできることは限られているし。
「あのねぇ、私が今回受けてたクラントロを取ってくるのだって、酒場を通して仕事として発生するの。樹海や気球艇を使ってできるような仕事を酒場の主人から紹介してもらえるから、それでお金を稼いでいい武器や防具を買う! かなり基本的なことなんだけど……」
「い、今のところお金にはそんなに困ってなく───」
「我は剣を求める。二本だ」
イシュの剣はまだ大丈夫そうだった気がするけど、どこか刃こぼれをしてたんだろうか。
「今の剣、ダメになっちゃったんですか?」
「この剣は本来、我のものではない。本来の持ち主に返すことはもはや叶わぬが、我が持ち続けることは間違っているだろう」
借りっぱなしでそのまま、ということだろうか。あまり詳しく話してくれないからざっくりとした予測しか立てることができない。
「それで、現在の金銭的には問題ないか」
「えと……買うものに、よるとしか……」
「そうか……」
「まあ、それならやっぱり酒場に行ってきなよ。樹海から何か取ってきてくれって依頼とかもあるんだし。探索ついでにお金も稼げる、そして街の人も助かるってなればもう一石二鳥どころじゃないよ」
「それじゃあ、この後にでも寄ってみます」
「酒場なら踊る孔雀亭、武器や防具が欲しいならベルンド工房に行けばいいからね……ってアルメリアは知ってるか。タルシス育ちなんだし」
「あははー」
タルシス育ちがタルシスのすべてを知っていると思うなよ。
10年はまともに出歩いていなかったんだから。
お腹いっぱいになってからセフリムの宿を出る。
ウィラフさんとはまた明日、と別れた。
毛先すら通さぬ不毛の地をハゲしく照らすは筋肉
がサブタイ候補でした。
ギルド長メインじゃないので断念。あと長いので。
ベルンド工房と孔雀亭は入れると長すぎるので、また次回になりました。
ギルド名決めましたが、この名前の登場率は低いかも。
ニーズヘッグは世界樹の根をかじる蛇だとか。あとなんかラグナロクのを生き延びるやつだとか。
あまり神話を知らないのに使っていきます。うぃきを見ながら決めました。
宿で食レポのごとく色々と書こうと思いましたが私の料理知識では下手に書くとショボい宿になりかねないので省略しました。