世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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2.天より降りて最果てへと向かう

 

 

 アンドロイドの体となった我はまず、今いる世界樹の麓の国へ向かうことにする。

 麓の国は、かつて我についてき、そして偽りの大地で死ぬことを選んだ者たちの子孫がいる国だ。

 

 子孫である者たちのために何かをするつもりはない。彼らは子孫であって、あの時代の者たちではないからだ。

 

 ゆえに、麓の国ではただ情報を集めることのみを行うつもりだ。

 

「麓に降りるまでの間に、この体の戦闘チェックは済ませておきたいものだな」

 

 今の我に足りぬものは時間、情報。情報も大きく分けて三つ。世界樹に関して、この時代の常識に関して、戦闘技術に関して、だ。

 

 世界樹に関しては言うまでもない。今の我の目的に繋がるものだ。

 

 常識に関しては人の世に馴染みやすくなるために必要だ。馴染むのが早ければ早いほど、世界樹に関してだけでなく、何かと有用な様々な情報が集まりやすくなるだろう。

 

 そして戦闘技術。これは全盛期の体を討ち倒した冒険者達に並ぶものが望ましい。世界樹に向かうということは、溜まりきった汚染と相対することも視野にいれなくてはならない。それでなくても、少なくともヘカトンケイルや幼子を超える力が必要なのだ。哀れな彼らの解放のためにも。

 そのためには力がいる。神となりし我を超えた、人のまだ見ぬ可能性の力が。そこに我の叡智を混ぜれば幼子を超えることができるだろう。

 

 研究、調査のためにも時間は無駄にはできぬ。

 世界樹を降りきるまでにこの体のスペックくらいは調べられる。

 テスト相手は事欠かない場所であるからだ。

 

「ふむ……」

 

 SSA-1相手にテストしてみるか。丁度そこにいることだ。それにあの野蛮な冒険者たちは緋緋色の剣兵と呼びながら慌てて襲ってきた。冒険者にとってかなり警戒を要する相手ということだ。ならばテスト相手として申し分ない。

 

 手にもつは二振りの剣。

 どちらも、いつか回収された死体が持っていたもの。やはり体は違えど全盛期の記憶データから二刀流が最適だと考えたからだ。

 

 機械兵は襲ってこない。

 我がこの城の主だとしっかり識別できているからか。

 と、なれば普通の戦闘チェックは難しい。何をしようとこの機械兵は反撃しないであろう。ならばできるのは、我の力の単純な出力チェックぐらいか。

 

 かつての体の時同様に、二振りの剣を交差させるように斬りつけた。頭の中で技名を浮かべながら。

 

 山行水行。

 我が一撃を、あるがままに受け入れよ。

 

 SSA-1は荒事を抑圧するために特別頑丈な造り。いくら我の一撃といえど、ましてやアンドロイドの身となっている攻撃であっさり破壊されることはない。

 

 ……そのはずだったのだが。

 

「……修復不能なまでに破壊できるとは」

 

 斬ったというより圧壊したような残骸。

 剣が特別性というわけではなさそうだ。単純にこの体の出力が想定以上だった。

 

 思えばこの体は、我を信じたあの者たちが入るかもしれなかった体。あらゆる災厄に抗えるようにその時持てる限りの技術を注ぎ込んだものだ。いわば特別性のアンドロイド。

 

 となれば、戦闘面は問題なしと判断してよいだろう。

 強さと不死性を除き、限りなく人に寄せるために装甲は控え目になっているが、そこは当たらなければ問題ない。堅牢な敵を撃破できる力があれば充分。

 

「我は冒険者としての才覚までも備えているようだな」

 

 人格データは人に寄せてコピーされているが、このような考えが出るということは、それはどう足掻いても抗いようのない事実ということなのだろう。

 

「む……? 樹海地軸……想定していたよりも早くついたか」

 

 かつてはこの地軸を使い、彼らに地上と似た風景を堪能してもらっていたが、今となっては世界樹に足を踏み入れる冒険者達の移動手段である。

 

 かつて彼らと四季を眺めた時を想い、ノスタルジーな感覚に襲われたが寄り道はすまい。

 世界樹の最下層、夏の階層に行き先を定めて起動する。

 

 この技術も今の世では再現は出来ぬものだろう。今の時代の者はこの地軸の仕組みを理解して使っているのだろうか。理解せずに使っているのだとしたら、その蛮勇さは理解できぬものだ。

 だがそれも冒険者として必要な要素なのかもしれない。全盛期の我を滅ぼした者たちもそうだったに違いない。見知らぬ果実を食べたり、あからさまに古そうな水を飲んだり、ただのザリガニと意味のない戦闘を繰り広げたりしそうな顔であった。

 

 我もあの者たちを見習って、時には蛮勇になるのもいいかもしれない。それで壊れてしまってはもとも子もないから、この体でなら無害そうなことまでにしよう。食べ物の毒味とか。

 アンドロイドの身ではあるが、味覚機能は実装されている。そのため不味いものは口にしたくはないが。

 

「あれ? 君、一人ですか?」

「む……?」

 

 樹海地軸による転移が終わり、緑生い茂る階層につくと鎧を着こんだ者が声をかけてきた。

 

 ……冒険者、というわけではなさそうだ。

 

 鎧の者の背後にも同じ格好で統一された者達がいた。装備の統一性、装飾につけられた紋章から国の兵士といったところか。

 

「はぐれたのですか?」

「何を言っている。我はもとより一人だ」

 

 そういえば冒険者というのはたいてい複数人で活動していたな。それで先程の質問があったのだろう。

 

「えぇ? 一人で冒険しているってことは凄腕なんだろうけど……ていうか声低……」

「なんだ、人よ」

「えと、君、ギルド名は?」

 

 ギルド名。

 もしや冒険者というのはある程度国に管理されているのか。管理識別のために各々で名称が登録されているとしたら、我の立場はどう見えるか。

 

 樹海地軸を使って戻ってきた冒険者と思ったら、冒険者として国に登録されていない謎の人物。

 

 最悪、不法入国者扱いもあり得るやもしれぬ。

 

 しかし元々この世界樹はこの者共の国の物ではない。人が活動できるように我が内部を改造し、管理し、そして城と偽りの大地の通路としたものだ。つまりは我の物といっても過言ではない。

 にも関わらず、その我が不法入国者など納得できるはずがない。

 

「我はギルドになど所属していない」

「え、えぇ……?」

「それで、汝らは我をどうするつもりだ?」

 

 返答次第では強硬突破も視野に入れている。

 

 我の言葉に戸惑っていた兵士が、他の兵士と相談をし始めた。

 

「どうしよ……とりあえずギルド長に報告か?」

「いや、そんなことしたら俺達がちゃんと出入り管理出来てないってことで絞られるぞ……」

「う……またあのしごきは受けたくない……」

「じゃあこっそり街に帰ってもらうか?」

「でもまた入られでもしたら……」

「それじゃとりあえず注意で留めておこう。ただし報告にはあげない方向で」

「賛成」

「異議なし」

「目指せ平和な衛兵」

 

 丸聞こえだ。

 

 だが、この者達の意識の低さは助かる。面倒ごとは避けたいし、何よりもこの者達は自ら弱味を晒した。

 ならば協力を取り付けるのはスムーズにこと運ぶだろう。

 

 兵士の相談もこれ以上は進展ないと判断したのか、最初の者が我のそばにやって来た。

 

「えっと……とりあえず今回は見逃すけど、次回からはちゃんとギルドに入ってから世界樹に入ってね。今回見逃したことは内緒だよ」

「ギルド長の耳にいれるのが嫌だからだな」

「ま、まあそうだけども……」

「ならば我に協力せよ」

「へ?」

 

 間抜けな声をあげるものだ。しかしこの男、この我がギルド未所属とわかってから口調が砕けすぎではないか。

 

「なに、難しいことではない。我は今、別の世界樹に赴きたいのだ。そのためいくつか知りたいことがある。それに答えればよいだけだ」

「ああ、そんなことなら大丈夫だよ。といっても答えられる範囲でだけどね」

「良い心掛けだ。では問おう。スペインという単語に聞き覚えはないか」

「すぺいん?」

 

 反応を見るに初めて聞く単語のようだ。他の者と話し合いだしたが期待はできない。

 世界樹の制御を目指していたスペインも、やはり制御ができず滅びたか……。それか汚染によって滅びたか。

 

 しかしなんらかの資料は残っているかもしれぬ。それに我の叡智ならスペインの世界樹から新たな発想を掴めるかもしれぬ。

 よって目的地に変更はない。

 

「すぺいん、ねえ……俺は聞いたことないな」

「ていうか変わった子だなぁ。しゃべり方とか、質問とかあの格好とか」

「そうだなあ。あの角みたいなのなんだろな。今の若い子の流行りなのかな」

 

 兵士達の話が確実に脱線していっている。

 どうやらやはりスペインというものを知らなかったということか。

 

 それより角とは……意味もなくつけてしまったコレだろうか……。

 

 頭部につけられた角。特別なアンドロイドとして性能も高まるように験担ぎのような想いからつけた角だ。人だった頃に見たアニメーションの指揮官用ロボのように、三倍の能力になるように。

 だがそれほど長くはない角だ。そのため目立たないと踏んでいたがそうはいかぬらしい。

 後程に頭巾でも被り隠すことにするか。

 

「ごめんね、すぺいんっていうのはみんな聞いたことがないや」

「ならば各地に点在する世界樹が載った世界地図を持ってないか」

「世界地図?」

 

 まさか世界地図までも知らぬというつもりか。

 

「世界地図ってまた渋いねぇ」

「5つくらい前の世界地図なら家にあるぜ、俺」

 

 渋い? 5つ前?

 

「最新版はないけど、それでもいいかい」

「う、うむ」

「んじゃダッシュで取ってくるわ」

「ギルド長に見つかるなよー」

 

 一人の兵士が走り去っていった。

 よくわからぬが世界地図であるならいいだろう。

 

「ていうかこの子もついていってもらったら良かったんじゃ……?」

「ま、今更だし……」

 

 世界地図の目処がたったところで他の問題も解決せねばならぬ。

 

「もうひとつ質問がある」

「あ、まだあったんだね。何かな?」

「遠い地に行く場合、空路などの移動手段はあるか」

 

 どこまで技術が発展しているか我にはわからぬ。しかしスペインまで徒歩であった場合、どれほどの時間がかかってしまうことか。

 

「うーん。空路は難しいかな。なくはないけどそれ相応のコネとか必要だし……王族とかと繋がりがある、とかじゃない……よね……?」

「そのようなものはない」

「よかった。ちょっと焦っちゃった。それなら陸路か海路しかないかな」

 

 ふむ。

 つまりは今の時代にも、一応飛行技術はあるのか。

 

「他に質問はある?」

 

 これ以上は今のところ、聞きたいことはなくなった。

 

「他の質問は地図を見てから行う」

「わかったよ。たぶんそろそろ戻ってくると思うよ」

 

 

 

 その言葉通り、ほどなくして地図を持った兵士が走って戻ってきた。

 

「おつかれさん、見つからず戻ってこれたか?」

「なんとか……酒場の親父に見つかりかけたけどなんとかやりすごした……。あの人なら絶対わざと大声で変なこと言うからさ」

「すげぇ想像できるわー。自分だってギルド長苦手なのに、他の人が絞られるのは見てて面白がるよな」

 

「無駄話はよい。はやく地図を見せよ」

 

 我が促してようやく地図が渡された。

 

「これは……それで、各地の世界樹はどこにあるのだ」

「ええっと、ちょっと待ってね」

 

 渡された地図は、我が記憶しているかつての姿と異なる世界を記していた。

 本来の大地を埋め尽くした偽りの大地の地図。その地図に兵士がペンを持ってチェックをいくつか入れていく。

 

「エトリアとハイ・ラガード、アーモロードに……ゴダムのもいるかな?」

「ゴダムの世界樹は無くなったしいいんじゃないか?」

 

「待て」

「どうしたの?」

「世界樹が、なくなっただと?」

 

 世界樹がなくなるなどありうるのか。それはその国独自に設計された機能なのか、それとも外的な要素によるものなのか。後者であればその要因を用いれば、あの哀れな者達を解放する術があるということ。

 

「詳しく話せ」

「と言われても……誰もよくわかってないんだよ。大きな光の柱が立ったと思ったら、都市ごと世界樹が消えてたそうだよ」

「光の柱……か」

 

 恐らくは衛星軌道上からのレーザーか。汚染が溜まった頃合いに浄化の役目を果たした世界樹ごと処分といったところか。

 この件は我の求めた術ではない。我と我についてきてくれた者達のための城ごと消す方法など、考慮に値しない。

 

「消えた世界樹があった場所も書くのだ」

「わかったよ」

 

 記された世界樹の位置関係を見るに、幸い消えた世界樹は目的のものではなかった。

 

 そして目的地であるスペインの世界樹。その最寄りの地名は……

 

「読めぬ……」

 

 文字がかつてと異なっているためわからぬ。

 千年の時を経ようと文字の変化はそれほどないと考えていたが……

 

「あ、ええっと……これが今いるハイ・ラガード。で、こっちがエトリアで、これはタルシス。それでここが───」

「そこまででよい。タルシス、だな」

 

 最寄りの地名はタルシスとわかれば充分だ。他の場所の名など不要。それよりも……

 

「何故タルシスは世界樹から離れてあるのだ」

 

 印から離れているのが気になる。

 

「……さぁ?」

 

 遠い地についてまでは一般兵にはわからぬか。

 ならばもう質問することはない。

 

「タルシスに行くつもりなのかい?」

「そうだ。そこに我が求めているもの……それがある可能性が高いのだ」

「今なら丁度いい時期かもね。タルシスでも冒険者急募してるし、タルシスまでの旅費は負担してくれるそうだから」

「我は冒険者などではないが……」

「そうなのかい?」

 

 いや、文字が異なるこの時代。通貨もかつてと異なるだろう。元々金など持っていなかったが。

 旅費が必要ないとなれば、今回は冒険者ということにしてもいいかもしれぬ。

 

「いや、やはり我は冒険者だ。タルシスに赴く冒険者だ」

「それじゃ、交易所で申請資料に記入を……って文字が読めないんだっけ。確か代筆可だから書いてもらうといいよ」

「ふむ。そこまで案内するがよい」

「いいけど。君が世界樹に入ってたのは秘密にしててよ」

「不要なことをわざわざ言ったりはせぬ」

 

 必要であれば言うつもりだが、それを教えるのもまた不要なことだ。

 

 

 

 兵士に連れられて街へと入る。門を越えてすぐだというのに人の往来が多くあった。

 

 生きている人をこれほど一斉に見るのは何年ぶりであろうか。千年近くか。

 

 本来であれば、ここに我を信じついてきてくれた者達もいるはずだったのに。

 

「こっちだよ。この先は広場で、もっと人の行来が多いからはぐれないようにね」

 

 まるで我を年下のごとく扱うのが気になるが、今の我の体を考えれば仕方のないことか。

 

 たどり着いた施設はところ狭しと武具が並ぶ店だった。珍しげに見られるのも少々面倒になるかもしれぬと思い、角を手で隠しながら入る。

 

「ここがシトト交易所。パッと見は武具店だけどいろいろやってるとこだよ。すいませーん! タルシスへの申請の人を案内してきたのですがー!」

「はーい、ただ今ー!」

 

 奥から出てきたのはまだ年端もいかぬ女児。

 

 時代、文明が変われば労働環境も変わるということか……。

 

「申請は、こちらの方ですね?」

「うん、代筆頼めるかな。この人読み書きできないみたいで」

「はいっ」

「それじゃ俺は持ち場に戻るよ。タルシスでも頑張ってね」

 

 兵士は店から出ていった。

 残されたのは我と女児のみ。

 

「それで、我はなにをすればよいのだ?」

「えっ……男の人の声……? あっ! 失礼しました! なんでもありません! で、ではまずお名前を教えてください」

 

 名前……

 

 我が人であった頃の名前は体とともに捨てた。

 機械の体となってからは肩書きを名乗ることはあったが、個を示す名は考えたことはなかった。

 

「あの……お名前を……」

 

 女児が困り顔で言う。

 我が黙ってしまったからか。しかし名前などない。なければ作ればよいのだが、我のことを示す名前となれば様々な候補を出してしまう。

 

 そういえば翼人が我のことを、父なるイシュ、と呼んで崇めていた。全能なるヌゥフとも。

 

「……イシュ。我が名はイシュだ」

「イシュさんですねっ。あと持っていく荷物なんですが、危険物になりそうなのは剣くらいですか?」

 

 危険物になりえるもの……

 この二振りの剣もだが、この体自体が危険物である。荷物というわけではないし言わなくてもよいか。

 

「そうだ」

「はいっ。では明日の正午に噴水広場で馬車が出ますのでこの書類をお見せください」

「これだけでよいのか」

「はいっ。タルシスの世界樹の御触れを出した人が移動費の資金援助してくれるんです。その申請書と証明書ですし、あとはイシュさんがタルシスに到着すれば完了ですっ!」

 

 なんともあっさりとした申請だ。手間が省けるのだから構わぬが。

 

「あ、そうだっ」

「む? まだ何かあるのか?」

「余計なお世話かもしれませんが……その、角みたいなのを隠すために必要かなと思って」

 

 そういって差し出してくるのはカラフルな三角形の布。

 そういえば名前を考えるのに集中してしまい角から手を離していた。

 

「私は使わないので、もしよかったら……」

「ふむ。では我が使うとしよう」

 

 赤を基盤にした三角巾で角を隠すように被る。

 

「とても似合ってますよっ!」

「角が隠せているのならなんでもよい」

「そ、そうですか……。タルシスでも頑張ってくださいねっ!」

 

 

 スペインの世界樹、いや、タルシスの世界樹に赴く準備も終えた。

 今のところは順風満帆といったところか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、何事も起きずにタルシス行きへの馬車に乗る。

 

 馬車に揺られながらの旅は数ヵ月ほどに及んだ。

 

 千年ぶりの大地は、かつての面影など一切感じさせない広大な緑の世界だった。

 空は青々と澄んでおり、吹き抜ける風には肺を冒す化学物質など紛れていない。立ち寄る川の水など生に満ちていた。

 

「もうすぐタルシスにつきますよ、旅人さん」

「うむ、そうかそうか」

「そんなに珍しい景色でもないでしょうに……」

 

 この時代のものから見たらそうなのかもしれぬ。だが我から見ればかつて夢見た光景の一部なのだ。

 

 あとはあの者達がこの景色の中にいてくれれば……

 

「タルシスが見えてきましたよ」

「ほう」

 

 御者が示す方角には巨大な風車塔がそびえ立ち、四方を壁で囲んだ街。

 

「あれが最果ての街タルシスです」

「ずいぶん守備に力をいれているようだな」

 

 途中見かけた街などはあのような壁はなかったが。この土地はかつて戦争でもあったのか。

 

「まあこの辺は世界樹に近いですからね。魔物が蔓延ってるんですよ」

「世界樹の影響か」

「ああ、安心してください。魔物と遭遇しないように獣避けの鈴は常に鳴らしてますよ。その効果がない相手には見つからないように走らせてますし」

 

 世界樹の中だけでなく外にまで影響が出ているとは。とても制御できていないように感じるが……

 

 タルシスの街の、はるか彼方に佇む世界樹の姿を見やる。

 ……しかし、

 

「世界樹からずいぶんと離れた場所にあるのだな。タルシスは」

「まあハイ・ラガードと比べたらそうですね。詳しいことはタルシスの辺境伯に聞くのが一番ですよ」

「そうか」

 

 冒険者はまず、街についたら辺境伯に会わなくてはならない。そこで支援を受けるために色々とやるのだと聞いている。

 その時にこの地の世界樹について様々なことを聞けばよいだろう。

 

 街に近づいていく馬車を影が覆い隠した。

 

「む?」

 

 見上げればいくつもの気球が飛んでいる。

 

「あー、あれは」

「ほう、気球か」

「あ、知ってましたか。ハイ・ラガードでは見ないでしょう。ここ数年でできたみたいですよ。あの気球艇」

 

 ……さりげなく訂正されてしまったが、この時代での名称など知らぬのだ。我とてわからぬことはある。

 

「俺には空を飛ぶなんて怖くて仕方ないですね。忘れ物はないですか?」

「問題ない」

 

 馬車による長旅もなかなかどうして新鮮なものだった。このように感じるのも人の感性に近づけてダウンロードした結果か。我ながらいいデータがとれたものだ。

 

 いよいよタルシスに入り、この地の世界樹についての調査を本格的に始められる。我の目的に着実と近づいていくのが実に心地よい。

 

 天候もまるで我の門出を祝うかのように晴天であった。

 

 

 まずは辺境伯とやらの家に行かねばだな。

 

 

 御者に聞くのを忘れていたが、まあ問題あるまい。

 

 この街の領主のいるところだ。この建物の屋根から目立つ屋敷を探せばきっとそこだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アンドロとなったバーローですが、見た目は世界樹4の頭巾ソド子です。金髪の方です。
理由はあれです。趣味だ。

また、今回でしばらくバーロー視点のお話は終わりです。
次回から旅の仲間となる人の視点で進めます。
バーロー視点は「我、我」とうるさいのです。

バーローの能力はラスボス時の能力よりはるかに低下しております。
剣兵を破壊できはしましたが、剣兵はバーローのことを排除対象と認識していないので避けなかっただけだったり。
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