世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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引き続きウーファン視点です




22.巫女の守り手たち

 

 

 

 

 シウアンが里の外に出ている。

 

 浅い層だから、やつらはいないだろうがそれでも魔物はいる。里の外は危険だと言い聞かせたのに、何故外に出ているのだ。

 

「歌声……?」

「里が近いってことかな」

 

 私が戻ってこなかったからだろうか。だとするなら、己の不甲斐なさが情けない。

 だめだ。今は一瞬でも早くシウアンのもとへ行かなくては。

 

「……っ!」

「ちょ、急に走らないで!」

 

 人間の案内などより、シウアンの身の安全が何よりも優先される。

 のろのろと歩いている間にシウアンが魔物に襲われでもしたらと思うといてもたってもいられるか。

 

 進むにつれて唄声がよりよく聴こえてくる。

 

 世界樹と語っているのか、それとも子守唄を聞かせているのか。

 この唄は……語りの方か。

 

 そういえば、瘴気の森に来た存在を世界樹に知らされていたな。

 少しばかり落胆してしまう。

 シウアンが里の外にまで出てきたのは、戻ってこない私を心配してくれたからと考えたが、世界樹に言われた存在が気になって、ということだからだ。

 もちろん、シウアンは私の身を心配もしてくれているだろうが、他の思惑もある可能性を考えてしまうともどかしく思う。勝手な思いだとはわかっているが。

 

 だが今はそれよりも、シウアンのそばに行かなくては。もうすぐそこだ。

 

「シウ……、……」

 

 姿を見てすぐに名前を呼びたかったが、その衝動を堪える。

 慣れぬ空の移動で気が弛んでいたのだろう。自身のするべきことを見失うなど。

 シウアンは……巫女は今、世界樹と語っておられるのだ。それを邪魔するわけにはいかない。

 私に許されることは、語りの最中に魔物が来ないようにするまでだ。

 

 私は、巫女の付き人なのだから。

 

 

「! ウーファン! よかった!」

 

 

 しばらくして、巫女は私が来たことに気づき唄をやめてしまった。

 

「巫女よ、語りの邪魔をしてしまい申し訳ありません」

「ううん、そんな風に謝らないでよ。あのね、世界樹がここにいればウーファンが連れてきてくれるって教えてくれたの」

「瘴気の森にいた存在ですね。その事について話すのは、ひとまず里に戻ってからにしましょう」

 

「───っと、追いついたぁ……!」

「ウーファン、殿、急に走って、いったいどうしたのかね……」

「辺境伯、大丈夫かい」

「あ、ああ」

 

「え……にんげん……?」

「……」

 

 置いていくつもりではなかったが、追いついたことが少しばかり気にさわる。

 

「巫女よ、この者たちについては後で話します。ひとまず里に戻り───」

「ワールウィンドさん!? 人間の子供がいます!?」

「ひゃ……!」

「アルメリア、その子が驚いてるから落ち着くんだ」

 

 言葉を遮るあの奇声はなんなのだ。

 

「あ、ごめんなさい!」

「にしても驚いたな。迷子……ってわけじゃなさそうだね。もしかしてウロビトの里には他にも人間がいるってことか?」

「貴様ら、説明は里でしてやる。今は黙っ───」

「ウーファン! 人間だ! 私とおんなじだよ!!」

「シウアン、今は一度里に戻っ───」

 

 言葉の途中、背中を強く押された。

 勢いのまま、シウアンまでも巻き込んで転倒する。

 

 

「なにを───!」「いたっ!」

 

「伏せろ!!」

 

 

 男の怒声が聞こえると同時に頭上を過ぎ去る雷の槍。

 この術は知っている。

 ウロビトとは異なるこの術は……

 

 

「ホロウだと!?」

 

「知り合い……にしては物騒だな」

 

 

 二体のホロウがいつの間にかそばまで来ていた。何故こんな表層に。

 

「アルメリア、辺境伯を守るんだ」

「は、はい!」

 

 ワールウィンドが指示を出しながらホロウに対し、白兵戦に持ち込もうと接近した。

 その恐ろしく速い剣撃はただの魔物であれば回避することは叶わないだろう。だが、相手が悪すぎる。

 

 ホロウは魔物とは異なる存在。

 

 魔物でなく、ウロビトでもなく、人間でもない。

 

 見た目こそ脆そうな姿だ。だが幻術の類を得意としており、その姿を見た時点で術中に嵌ってしまう。

 

 

「手ごたえがない……?」

 

「ワールウィンドさん! 右!」

 

 

 攻撃が当たったように、本人には視覚上認識されるが実際はただの空振り。強い幻術ではなく、相手の認識にズレが起きるものだ。そのせいで現実と視界の離反が起きる。

 出鱈目に攻撃すればまぐれで当たることもあるが、その前に雷の槍で貫かれるか、氷の弾で砕かれる。

 

「!」

 

 左右から挟みこみ、ワールウィンドを貫こうと振りかぶるホロウ。 

 

 娘の杖から火の球が飛ぶ。

 二体のうち一体の背後、その足元へと飛んでいくその攻撃は、幻術でズレが起きるなど知らないだろうに爆発で巻き込むことを考慮されていた。ただの偶然か、それとも少しは戦いに工夫をこなせるのか。

 だが、

 

「見もせずに……!?」

 

 ホロウは回避した。

 一切見向きもせずに、正確に。

 

「ウーファン! はやくあの人たちを助けてあげて!」

 

 ホロウが二体、私ひとりであれば手こずる。人間たちは相性こそ悪いが、思いのほか戦えるようだ。

 

「巫女よ、あまり私から離れないようにしてください」

 

 巫女の願いもあることだ。今回は、その相性の悪さを埋めてやろう。

 

 

「今からホロウを封縛する。貴様らはそれまで粘れ」

 

「封縛? なんであれ粘れって言うなら粘ってみるさ。アルメリア、どうもこいつらは変だ。攻撃を当てようとせずにさっきみたいに足元を狙ってくれ」

 

「は、はい!」

 

 

 方陣を展開するまでの時間稼ぎとしては充分なはずだ。

 規模は広すぎなくていい。ホロウ二体を収めれる広さ。ホロウ以外の気を対象から外すように、地脈と方陣の調整を行う。

 

 中心から陣が広がり、この場にいる全員を飲み込む。

 白く光る方陣に人間たちが戸惑いを表した。

 

「なにこれ……」

「貴様らに対して害はない。無駄話は後だ。ホロウを仕留めろ。やつらの立ち位置は幻術で実際の位置と少々のズレが生じる。突きや唐竹ではなく横に薙ぎ斬れ」

 

 脚封の方陣。

 流れる地脈と対象の気を絡ませ、その場に押し留める術。

 これはホロウの幻術に対して単純かつ有効な対抗策となる。 

 

 本来であれば、ホロウの雷の槍や氷の弾への対抗する術も必要だが今はいいだろう。この人間たちの力でなんとかなる。

 

「お、ようやく手ごたえありだ」

「こっちも!」

 

 幻術によって生じていた相性の悪さを方陣によって埋めた効果が大きかったのか、すぐに戦いは終わった。

 

「今のは、魔物……なのかね? それにその子はいったい」

「質問は後にしろ。今は里に入ることが優先だ」

 

 里には報告することが山積みになったな。

 人間たちの存在、表層まで出てきたホロウ、悪魔の存在。それに、人間たちが巫女に何をするかわかったものではない。

 

「里にはもう近いのかい?」

「質問は後にしろと言ったはずだ。まあいい。もう見えてくる」

 

「扉……」

「アルメリア君、どうしたのかね?」

「あ、いえ。碧照ノ樹海でも扉があったのでちょっと気になって」

「そういうことか。だがこの幽谷にはウロビトの里があるのだから、扉があっても何ら不思議ではない」

「そうですよね、ちょっと神経質になり過ぎた」

 

 平時であれば一度里の外に待たせて、先に中のウロビトに説明をしておきたいが今回は止むをえまい。ホロウの出現があるため、共に中に入ってもらう。

 妙な真似をしないように釘を刺してから扉を開けようとすれば、先に巫女が扉を開いた。

 

「みんな、ようこそウロビトの里へ!」

「あ、ありがとう」

 

 ……とうとう人間を里に入れてしまった。

 

 物珍し気にあたりを見回す人間の姿が、なおのこと不安を駆り立てる。

 

「人間だと!? 何故ここに!」

「ウーファン、無事だったか! だが何故人間と共にいる! 巫女様まで!」

 

 ウロビトの兵士は弓に矢を番えながらも、私と巫女が共にいることから攻撃まではしなかった。

 巫女がいるにも関わらず攻撃を行うような愚か者はウロビトにいるとは思いたくないが、少しばかり不安だった。

 

「瘴気の森で私が人間を発見した。その後、訳あって人間の街にいた。その事についての説明と、我らウロビトと再び絆を結びたいそうだ」

「人間が我らと再びだと? そんな言葉信用できると思っているのか?」

「我ら個で判断するわけにもいかない。長老会議に決定を委ねるつもりだ」

「だからといってこの里まで連れてくる必要はなかっただろう」

 

「私がウーファンに迎えに行ってあげてって頼んだの!」

 

 巫女の言葉に兵士は口ごもる。

 

「し、しかし巫女様」

「この人たちは悪い人じゃないよ。さっきもホロウから守ってくれたもの」

「ホロウから? っホロウが出たのですか!?」

 

 巫女と兵士のやり取りを見ていた人間たちが何やら顔を見合わせ話始めた。

 

「なんとも歓迎されてるとは言い難い雰囲気だな」

「ああ、だけどこれが普通さ。タルシスみたいに何でも受け入れるのがおかしいだけだよ」

「押し付けるのはよくないことだが、この件に関してはタルシスのあり方を受け入れてもらえるように努力しなくてはな。誰もが協力し合う、そんな未来のためにも」

「前向きだねえ」

「ふ、二人とも、それよりあのミコちゃんって子について気にならないんですか」

 

 この愚かな娘はどこまで愚鈍なのだ。

 

「気安く巫女を呼ぶな、人間。この方は世界樹の巫女なのだぞ」

「世界樹の、巫女?」

 

 そういえばそんな単語を聞いたことがあるような、と小さく漏らしたのが聞こえる。

 思っていた以上に馬鹿だった。

 昨日たしかにこの娘はあの場にいたはずだというのに。

 

 それよりも、

 

「巫女よ、私は長老へ報告に行ってきます。彼らは人間ですが、あなたと同じ善なる者とは限りません。注意してください」

 

 一度長老たちの耳に入れなくてはならないことが複数ある。

 後回しにすれば里中が混乱しかねない。報告前に、兵士に巫女を代わりに守るように言っておくのを忘れない。

 

「ウーファン、大丈夫だよ。この人たちは悪い人たちじゃないよ」

「巫女……」

 

 やはり、同族である人間と共にいたいのだろうか。

 

「貴様ら、妙な真似は決してするなよ」

「それは心得ているとも。ところで報告に私もついていってもいいだろうか。タルシスの冒険者があなたを誘拐したことについて、謝罪に伺いたいのだが……」

「そのことに関しても報告にあげる。謝罪を受け取るかどうかは長老たちが決める。それまで貴様らは何もするな」 

 

「ウーファン! そんな言い方しなくても!」

「巫女、信じることは美徳ですが、人間たちの祖は背を向けて逃げだしたのです。ゆめゆめ、それを忘れなきようお願いします」

 

 巫女は不満そうに頬を膨らませている。なんとも微笑ましくあり、この場から離れることが惜しくなる。だが、強いては里のため、急ぎ報告は済ませなくてはならな───

 

 

「わっ……!」

 

「わひょあ!?」

 

 

 大きな雷鳴が里中に、いや、それよりも広い範囲。幽谷よりも外、大地中に轟いた。

 何人かが空を見上げる。雷雲は付近にない。

 

 

「……雷鳴と共に現る者」

 

「なんだい、それは」

 

「雷を操る竜だ。だが案ずるな。かの竜は空を飛び回りこそするが、わざわざ谷や森に来ることはない」

 

「赤竜と似たようなものか」

 

 

 もうすぐ夕暮れだというのに現れるとは。現れる法則など存在しないが、それでも珍しく思える。二日前にも一度現れていた。これほど短期間で出現するのは初めてかもしれない。

 かの竜の在り方など我らには理解はできないことだが。

 

「だ、大丈夫かなあ……」

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

「あ、ううん。ちょっとね。私のえーっと、知り合いが竜に関係しそうなことやってそうで……」

 

 人間の娘に、シウアンが声をかけた。お姉ちゃんと。

 許しがたい。何故そんな愚かな娘をお姉ちゃんと呼ぶのだ、シウアン。

 

「まぁ、さすがに竜相手は危険ってわかってるみたいだったから大丈夫だと思うけど……」

「竜関係ってあいつ、随分と滅茶苦茶なことやろうとしてるんだな」

「ワールウィンドさんは知りません? 孔雀亭にある黒い依頼書」

「ああ、知ってるよ。噂になってるくらいだよあの黒いのは」

 

 

 いかん。人間たちの竜の話よりを聞いているよりも、早く長老への報告を済ませて巫女の元に──────!?

 

 

 

 突然、鎖が千切れるような音が聞こえた。

 

 同時に襲うおぞましい程の寒気。

 

 

 

「っ……なんだ今の音は」

 

 人間が何かをやったのか。

 だが何か妙な動きをしていたわけではなかった。人間どもの独自の術か何かか?

 

「アルメリア!? どうしたんだい、アルメリア!!」

「な、何が起きたというのだ。巫女殿まで」

 

 しかし、人間の娘が頭を抑えて蹲っている。巫女も同じくだ。周囲を見れば何人かのウロビトも今の音による影響か、変調をきたしている。

 

 何らかの攻撃か? しかしこの影響の差はなんだ。

 

「貴様ら、さっきの音はなんだ! 巫女に何をした!」

「お、音? ウーファン殿、音とはいったいなんだ」

「とぼけるのか貴様! 今の音が聞こえなかったわけがあるまい! あれほどの音を!」

 

「…………ウーファン、だめだよ……その人たちじゃないよ」

「巫女! 大丈夫ですか!」

「うん……世界樹がすごく怯えてる」

 

 

 再び雷鳴が轟いた。それは激しく、まるで怒りを表現するかのように。何度も、何度も。

 

 

「いったい何が起きているというのだ……!」

「ウーファン! 何があった!」

 

 異変を察してかウロビトの兵士が状況確認のためやって来た。だが私もわかっていない。

 

「わからない、だが今の音で何人かが不調に」

「音? どんな音だったんだ」

「な……」

 

 聞こえてなかっただと? あれほどまでに身の毛のよだつおぞましい音が?

 あの人間たちだけでなく、ウロビトの兵士までもあの大きな音が聞こえていない。種族に関係なく作用する音に関する術か何かか? ホロウの新たな技術? だがこの雷鳴はいったい。

 

「……ぅ」

「アルメリア! 気がついたかい!」

 

 人間の娘も気づいたようだ。いつの間にか身の毛のよだつ不気味さがなくなっている。

 

「今の、は……?」

 

 他のウロビトたちも気がつき始めたのか、少しずつ不安と動揺が広がりだしている。

 

「……私は長老に報告へ向かう。今の件について、巫女が気になることを仰られた。その事も含めてな」

「あ、ああ」

「そこの人間たちが原因ではないらしいが、警戒を怠るな」

「わかった」

 

 里の中を進んでいると、どうやら先ほどの音で不調をきたした者は方陣師として優れた者ばかりのようだ。

 

 もしも今、ホロウが襲ってきていたらどうなっていたか。

 

 

 

 報告に向かってもなお、空では激しく雷鳴が轟いていた。

 

 

 

 

 

 




 


次回、少しアルメリアに戻します。
視点コロコロはよくないってわかってるのですが、情報が少なくなりがちなので……

このお話では竜関係がゲームと違います。竜は今後もちょいちょいでますが、戦闘関係になるのはかなり先の予定です。

今回も主人公不在です。
今回ホロウは幻覚で回避が高い、としてますが、ゲームでは幻覚とかないです。なんかそれっぽい理由つけたかっただけです。

ちなみにウーファン視点の地の文で、巫女シウアンへの呼び方が所々違うのはその時のウーファンの心境の揺れのつもりです。
ウロビト第一での考えの時と、シウアン第一での考えの時での、みたいな。
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