世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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あるキャラを喋らすのがすごい違和感。





24.迷える路に終わりなし

 

 

 

 

 

 シウアンが、巫女がホロウたちに連れ去られた。

 その事態が発覚したのは、ホロウたちが撤収した後のことだった。

 長老たちの守護などより、巫女の守りに徹するべきだった。

 

「なぜ巫女をお守りできなかったのだ!」

 

 負傷した兵士に問いただす。兵士は沈痛な面持ちのまま答えた。

 

「すまない……クイーンも紛れていて、私ではどうしようもなかった」

「ウーファン、責めるのはよせ。あれほどホロウが大挙に押し寄せてくるなど今までになかったことなのだ」

 

 何を呑気なことを言っているのだ。巫女が連れ去られたというのに。

 そうだ、シウアンが連れ去られたのだ。すぐにでも連れ戻さなければ。ここで話していても時間の無駄だ。

 

「動ける者はすぐに準備しろ! ホロウから巫女を連れ戻す!」

 

 先の襲撃で死傷者はいなかった。だが大勢が負傷している。戦いに赴けるのは20人、いや10人いればいい方か。

 ホロウの拠点を襲撃するのであれば、心もとない人数だが巫女を取り戻すためにも弱音など言ってられない。

 

 

「ウーファン、勝手に決めるな。今回のホロウは今までと違う。まずは長老の決定を待つべきだ」

 

 

 ───何を言っているのだ、この兵士は。

 

 シウアンがどのような目にあわされているかもわからない状態で、悠長に長老会議の決定を待つというのか。シウアンの身を案じずに。

 

 

「待つだと? 待てば事態が好転するとでも言うのか? そんなわけがないだろう!」

 

「長老会議の決定は必要だ。お前もわかっているだろう。巫女様がこの里に来る前から、我々は長老会議に従って今までやってこれたではないか」

 

「だったらどうした! 決定が出ればホロウが巫女を帰すとでも言うのか!」

 

「巫女様を救出する目途がない今、無策に挑んでは無駄死にだろう」

 

「貴様ら……! 巫女の神託にどれほど私たちが助けられたかを忘れ、何かあったら自分の身の心配か?」

 

 

 目の前のウロビトたちと、我が身可愛さで巨人から逃げだした人間たち。これでは大差がないではないか。

 長老会議が無意味とは思わない。だが、決定を待つ時間は無意味極まりない。どのような決定であろうと、巫女を助けるという方針になるはずだ。もしもならないのだとすれば……我らウロビトも人間と変わらぬ恥知らずということになるのだろう。

 

 

「私は行くぞ! 何もせず長老会議の結果を待っている貴様らに期待することなどない!」

 

 

 ここまで発破をかけても動こうとしないとは。もういい。ひとりででも巫女を取り戻しに行く。

 ホロウの目的など考えてもわからぬ以上、とにかく動くしかない。

 

 

「待ってくれ」

 

 

 その言葉に、巫女を連れ戻す覚悟をようやく決めたのかと思い振り返れば……

 

 

「……なんだ、人間。今は緊急事態だ。貴様らに構っている暇などない」

 

 

 人間の男、ワールウィンドだったか。その男を先頭に辺境伯という人間もともに来た。

 

 

「アルメリアを見なかったか。どこを探してもいないんだ」

「アルメリア?」

「俺たちと一緒に来た女の子だよ」

 

 あの愚かな娘か。

 確かに見当たらないが、どこかの物陰にでも隠れているのだろう。

 

「あ、あの人間の少女なら、巫女様と一緒にホロウに連れていかれた……」

「なんだと……!」

 

 未だにそばにいた兵士が答えた。

 理由はわからないが、巫女だけでなくあの娘まで誘拐か。

 

 ……このワールウィンドという人間は、それなりに武に心得がある。

 

 

「どうやらそうらしい。私は巫女を取り戻すためにホロウたちの居住地に行く。貴様はどうする」

 

 

 ものは試しにと人間の意思を聞く。

 

 伝承通り、我が身可愛さから逃げだす人間か。それとも───

 

 

「俺も行こう。絶対に取り返さなくてはならない」

 

 

 今までの飄々とした態度はそこになく、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気の男がそこにいた。

 

 こっちがこの男の本性か。

 

 あの娘とどういう関係かはわからないが、利害は一致する。私は巫女を、この男はあの娘を、連れ戻す。

 

 

「ならば私から離れるな。奥に進めば進むほど、幽谷の霧は進む道を惑わす」

 

「辺境伯、俺は聞いての通りアルメリアを連れ戻してくる。辺境伯はこの里で待っててくれ」

 

「ああ、私がついていっても何もできないだろう。頼んだぞ、ワールウィンド」

 

 

 私が聞いていた伝承と違う人間たちとウロビト。

 時代があり方を変えたのか、たまたまここの者たちがそうなのか。

 

 伝承への疑心が、僅かに芽生え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地下への階段を降りても、やっぱり景色は変わらずか」

 

 深霧ノ幽谷では地下が地下ではない。

 傍から見れば異常なことだろうに、ワールウィンドはまるで予想をついていたかのような反応を示した。

 

「無駄話に体力を割く気はない」

「もちろんだ。だが聞いておきたいことはある」

「……なんだ」

 

 人間の男の装いは里へ向かっていた時と違い、肩に背負っていた荷物が今はない。急ぐためにも身軽さを重視して置いていくと言っていた。

 合理性のあることだ。普段の雰囲気とは裏腹に、その実真面目なのだろう。ならば、聞いておきたいことというのも重要なことと見ていい。

 

「あんたらが言うホロウについて、俺は全く知識がない」

 

 これから対峙する相手の情報か。確かに必要な情報だ。

 しかし、

 

「……ウロビトも、ホロウのことは実のところわからないことが多い」

「わかる範囲でいい。教えてくれ」

 

 ホロウが現れたのは10年ほど前。丁度巫女が里に来てから幽谷に現れるようになった。

 それからホロウについてわかったことは、

 

「……ホロウは個を持たない」

「個を持たない?」

「奴らは個というものが無い。個がない奴らは、言葉もなくすべての情報を共有している。意思を統一している。貴様も見ただろう、背後から迫る火球を見もせずに避ける様子を。あれもそのひとつだ」

「……他の個体が背後から迫る火球を見て、その情報が共有されたから避けれた、か」

「そのため奴らに奇襲は難しい。どれか一体にでも見られれば、すべてに伝わる。前方からイノシシの魔物だ」

「まるで理想の軍隊だな……っと」

 

 黄色い毛並みの猪の突進を軽々と避け、すれ違いざまに斬り捨てた。

 

「ウロビトにも奇襲は難しそうだな。この霧の中でよくわかるもんだ」

「我らは地脈と気を読むのに長ける。この濃霧の中でも迷わずにいるためには必須の技術だ」

 

 逆に言えば、我らウロビトの案内がなくては濃霧の中で彷徨い続けることとなる。どれほど戦力を保有していようとだ。運がよければ抜けることはできるだろうが、それまでにどれほど消耗してしまうことか。

 

「それにしても、幻術と死角なし、か」

「奴らにはクイーンと呼ばれる存在がいる。そいつだけは他のホロウと違い、個を持つ存在だ」

「ということは、ホロウたちの意思を決定している存在か」

「ああ、そしてホロウたちを生み出している存在でもある」

「生み出す? まあなんでもいいさ。つまり、そのクイーンが今回の元凶ということだな」

「ああ、ホロウについてわかっていることはもうない」

 

 あとはくだらない噂話程度だ。

 ホロウは掟を破ったものに罰を与える存在。掟破りをしたウロビトの命しか奪わないだとか。そのため、断罪者と呼ぶウロビトもいるほどだ。

 他にもホロウは聖樹の護りにおいて、死んでいった戦士たちの怨念が生み出した存在だとか。血涙が怨念を訴えるのだとか。

 

 くだらない与太話は今は不必要だ。

 

「……あの植物の魔物は一撃で倒せ。それからそこのカズラは斬ったらすぐに離れろ」

 

 赤い花弁を咲かす魔物と爆弾カズラ。

 どちらも情報がなければ死につながりかねない魔物だ。浮いている魔物は接近が感知しにくいのが難点だ。

 

 魔物の詳しい説明を求めるでもなく、ワールウィンドは言われた通りの動きを行う。

 

「案外脆い魔物だな」

「その分危険な花だ。カズラも時間をかけるな。そしてすぐに離れろ」

「ああ!」

 

 花の魔物は脆いが、その花粉が非常に危険なものだ。

 強力な眠気を誘う効果がある。下手に刺激をするだけではただただ危険な存在。確実に仕留めなくてはいけない。

 

 爆弾カズラのほうは、魔物として特異な存在。

 外敵に対して行うのが、自爆。絶命時にも最後の力を振り絞ってか、爆発するため剣士などは非常にやりにくい相手だ。

 そしてもうひとつ、厄介な点がある。

 

「おおっ……! とんでもない魔物だな。情報をくれて助かったよ」

「礼はいい。早くここから移動するぞ。今の爆発音に他の魔物が寄ってくるはずだ」

 

 発生する爆音によって、周囲の魔物が刺激されてしまうことだ。

 音の大きさのせいで離れている存在まで接近しかねない。蛾の魔物、ビッグモスのような音に敏感な魔物もやってくる。その前に距離を取らなくてはならない。

 

 

 

 

「自らの身を犠牲にしてまで外敵を排除しようとするとはね。おっかないもんだ」

 

 ある意味であの爆音が囮になったのか、素早く離れることができたため魔物の気が遠くにしかない状態となった。そんな中、人間が先の魔物のことを漏らす。

 

「巨人から逃げだした人間には理解できまい。だが……今となってはウロビトもそのことを笑えないか」

「そう悲観するなよ。自分の命を惜しむのは当然のことだろ」

「……巫女から受けた恩を想えば、命を投げ出すのは当然なはずだ」

 

 奴らは巫女よりも古いしきたりの方が大事なようだ。そんな奴らが私と同じウロビトなど、考えたくもない。

 

「どれだけ恩や大義があっても、命がなくなればそれで終わってしまうんだぜ? 巫女を大事に思うのは良いことだけど、それであんたの命がなくなってしまえば、残された奴はやりきれない気持ちになるもんだ」

「聞こえのいい言葉で、臆病風の正当化をしようとするな」

「……ま、俺からはこれ以上は言わないさ。俺も何が正しいかなんて、わからないままだからな」

 

 残された者のためになどと言って命を惜しみ、恩を返さぬ恥知らずになる方が非礼だ。

 私は巫女のためならばこの命など惜しくない。

 

 

 ……私がいなくなれば、シウアンは悲しんでくれるだろうか。私を惜しんでくれるだろうか。

 

 人間であるシウアンをウロビトの里に押し込めている私を……今までは他の人間の存在を知らなかった。今は違う。私がいなくても、同族の人間がいるのだ。

 

 ……私は何を考えている。巫女が私を惜しまなくても構わない。巫女は我らウロビトの里にとって、欠かせない存在なのだ。

 ならば私の命など、それこそ惜しむに値しない。

 

 

「───ファン。おい、ウーファン」

「……なんだ」

「ぼーっとしてどうしたんだよ。幻術というやつか?」

「いや、なんでもない」

 

 見たところ何度も声を掛けられていたようだ。少し疲労が溜まっているせいかもしれない。

 

「俺たち以外にもホロウを追いかけた奴はいたのか?」

「何を……ああ、そういうことか」

 

 あの口論の場を見ておいて何を妙な質問をしているのだと思えば、男の視線の先を追って理解できた。

 

 

 ひとりのウロビトが、道の真ん中に佇んでいる。

 

 

「ホロウたちに私たちのことが気づかれているようだな」

「やっぱり罠か。ま、あの爆発音じゃバレるのも仕方ないことか」

 

 ウロビトの兵士が追いかけるとしたら、まだ時間が掛かる。

 長老会議の決定がどれだけ早く決まろうとも、先行する私たちに追いつけるはずがない。

 

 にも関わらず、前方にいるウロビトの存在はありえないものなのだ。

 

 その証拠に、

 

 

「あの兵士はすでに死んでいる」

 

「……死体を利用、か。騎士道なんて知らない奴らなんだろうが、気分はよくないな」

 

 

 ……本当に私は腑抜けていたようだ。周囲の気を探れば、かなりの数に囲まれている。

 数は……20は越える。

 

「すまない。ホロウに囲まれているようだ」

「……そうか」

 

 ウロビトの方陣は、なんの偶然かホロウに対して特化された術。

 とはいえこれほどの数相手に囲まれるのは厳しいものがある。

 

 今はまだ、死体を使った罠で様子を見ている段階だが、罠を看破したことを悟られれば襲い掛かってくるだろう。

 

「包囲網から抜けるためにも一点突破かな」

「気軽に言ってくれる」

「連中をいくら倒しても、クイーンがいる限り意味はないんだろ。なら他に道はないさ」

 

 そう言って兵士の死体に近づいていく。

 これ以上止まっていては罠に気づいたことを悟られてしまいかねない、か。

 

「……西に進めば扉がある。扉の先に行けば多少は奴らからは逃れられる」

「奴らからは、ね。何かいるわけだ」

 

 人間が死体に触れる距離まで近づいた。

 

「縄張り意識の強く、危険な魔物だ…………来るぞ!」

 

 後方から雷の槍が、氷の弾が飛ぶ。

 

「……!」

「さすがに軽いな」

 

 力強く腕を引っ張られ、その場から移動させられた。直後に先程までいた場所を過ぎ去っていくホロウの攻撃。

 

「西のホロウたちにあの足下が光るやつ、あれをやってくれないか。やっぱり強行突破は難しそうだ」

 

 攻撃が飛んでくる度に激しく引っ張られる。

 これだけ激しく動かされて上手く方陣を扱えると思っているのか。

 だが、できないなど口が裂けても言えるものか。まだ巫女を取り戻せていない。それまでやられるわけにはいかない。

 

「……少し集中が必要だ。それまで耐えるんだな」

「俺の悪運の強さなら、この程度でやられはしないさ」

 

 減らず口を抜かすものだ。

 だが今はそれに頼るのが最善か。

 

 集中するために目を閉じる。動きに振り回されながらも周囲の感覚を捉えようとし───

 

 

【心を護る役目は委任された】

 

 

 ───声が頭に響いた。

 

 

 なんだ、今のは。知らない声、いや、ホロウに近い声だった。しかし奴らとの対話は不可能だ。奴らは他種と言葉を交わせない。

 だが今のは……

 

 

【心の願いを優先することは叶わず、危機迫る状況。故に旧守護種から本来の在り方、眠らぬ者が守護する】

 

 

「……人間、何か聞こえないか」

「ホロウの攻撃の音しか聞こえない! そんなことより急いでくれ! こいつら、少しずつ攻撃が激しくなっている!」

 

 人間には聞こえていない。幻聴にしては明確すぎる。

 しかし可能性としては、ホロウの幻術。

 視覚に作用せずに聴覚に影響を与えるだと? 今まで使用したことのない術だ。

 

 

【心の願い叶えられぬ存在では力不足】

 

 

 幻術の言葉に、何故かひどく心を乱された。

 

「……どういう意味だ」

「ウーファン?」

 

 幻術の言う「心」というのは何を指しているかわからない。

 だが「願い叶えられぬ存在」「力不足」という言葉から、私のことを言われている気がした。

 すると「心」とは、シウアンを示すようで───

 

「貴様ら、私にはシウアンを護れないと言いたいのか!」

「ウーファン! どうしたんだ、おい!」

 

 

【力不足。心のことを優先せよ】

 

 

「……黙れ!」

「まさか幻術か!? しっかりしろ!」

 

 すぐにでもこの耳障りな声を引き裂いてくれる。

 ホロウに何がわかるというのだ。私はシウアンと何年も共に過ごしてきた。私とシウアンを引き離そうとする貴様らに力不足などと言われる筋合いはない。

 

 本当に私で力不足かどうか、その身をもって知るがいい……!

 

 

「本当に厄介な奴らだな! 怪我したって恨むなよ!」

 

 

 私の腕を掴んでいた人間の手が首に移動し、そのまま首根っこを強く引っ張られる。

 

 

 まだホロウを一匹も引き裂いていないのにこいつは何を……!

 

 

 西へ西へと強引に引っ張られる。後ろから、前から幾多もの攻撃が迫るが、それをものともせず進む勢いは止まらない。

 

「くっ……!」

 

 全ての攻撃を避けきることはできなかったのか、一瞬動きが鈍る。それでもなお、剣を振るい進路上のホロウに斬撃を放つ。避けるホロウに追撃を狙うことなく、扉を目指し……

 

 

 痛みを堪える声に、ようやく状況を呑み込めた。

 

 

 ホロウに惑わされ、あの戦況で私がするべき役割を果たすことができていなかった。

 この人間は私の力を不要と判断し、強引に包囲を突破をし、扉を越えたのだ。

 

「───っと! さすがにきついな……ウーファン、正気に戻ったか?」

「……すまない。私としたことが……」

「正気みたいだな。索敵を頼む。少し手当てがしたい」

 

 そう言いながらその場で腰を降ろす。未だ危険な場所だというのに呑気なと思った。しかし、見れば人間の足から血で滲んでいた。

 

 ……あの強行突破の代償。

 いや、こんなものは言い訳だ。私の未熟さが招いたことだ。シウアンを取り戻すための貴重な戦力を削ぐような、あまりにも酷い己の失態。

 

 ホロウは扉の向こう、先程までいた広場から追う気はないのか動かない。

 この先は駝鳥の魔物、ジャイアントモアの縄張りだ。知能はそれほど高くない魔物なため、少人数で慎重に動けば接触を回避することは難しくない。

 そのため、ホロウが追ってくるにしても数が減ると踏んでいたが……

 

「周囲に魔物やホロウは近づいてきていない。しばらくは大丈夫そうだ」

「そいつはありがたいね」

 

 慣れた手つきで負傷した足に水液をかけ、背嚢から包帯を取り出し手当てを行っていく。最後に小瓶を取り出し、瓶の中身を飲み干した。それで治療は完了したのか、男は立ち上がる。

 

「彼女たちを助けるためにもゆっくりしてられない。急ごう」

「…………ああ」

 

 この人間は何故私を責めない。負傷した原因は私にあるというのに。

 何故ホロウに拐われた二人を助けることに迷いがない。私のような足手まといがいるというのに。

 

 力不足。

 まさにホロウの言う通りだと思える。あれほどまでに心を乱されるのは、自分でもそう思っていたからだろう。

 

 シウアンの願いを叶えられない私が。

 シウアンとは違う種族である私が。

 

 どうしてシウアンに幸福を与えることができようか。

 

 シウアンのことを想うのであれば、私はどうするべきだったのか。

 最初からシウアンと、世界樹の巫女と距離を取るべきだったのではないか。

 そうすれば、ホロウの幻術に心乱されることはなかった。足手まといとなることはなかった。

 

 なによりも、そうすれば、巫女と同族である人間に嫉妬せずにいれたのではないか。

 

 

「……幻術ってのはただ幻覚を見せるものだと思ってたんだが、何か聞こえていたのか?」

 

「……その足で、貴様はどこまで戦える」

 

「……。正直なところ、連戦は無理だな」

 

「そう、か……」

 

 

 私の未熟が、私の嫉妬が、私の手で巫女を救う、その可能性を自ら摘んでいた。

 このままではホロウの住居まで辿り着くことすらできない。それにもう、私では巫女を救えない。

 

 

「……しばらく戦闘は私に任せろ。死んでも巫女とあの娘を貴様に救わせる。それと……」

 

 

 死力を尽くしてでも道を拓く。私の手で救えなくても、巫女を救わせる。

 それと、人間には勝手な話かもしれない。こんな頼みをするなんて、ウロビトからも勝手だと恨まれるかもしれない。だけど……

 

 

「シウアンを、人間の街に連れていってくれ。私では、ウロビトの里では……シウアンは幸せにはなれない」

 

 

 シウアンと共に在った日々は私にとって幸せだった。まるで夢のような時間だった。

 

 だがそれは、私の独り善がりの夢だ。

 シウアンを想うのであれば、シウアンは人間の環に入るべきなのだ。

 

 

「……まるで死ぬつもりみたいな台詞だな」

 

「貴様もわかっているだろう。私の力では、巫女を救えない。貴様の方が可能性は高いと」

 

「…………」

 

 

 人間は答えない。互いに死なずに救う、などと綺麗事を言わない。それだけ現実が見えている。

 

 どこか遠くから、破壊音が聞こえた。爆弾カズラがこの階層に侵入したウロビトの兵士と戦闘したのか。果たして何人がここまでこれるか。先程の広間にはウロビトが多く待ち伏せている。

 

 

「必ず、巫女たちのもとまで貴様を守り抜く。だから……頼む」

 

「……待て」

 

「ウロビトの兵士に期待はできない。あのホロウの包囲網を打破するまで時間がかかる。それに、できた頃には消耗も激しいだろう」

 

「いや、そうじゃない。……ひとつ聞いていいか」

 

 

 あまり時間は掛けたくない。だから、今はこの人間を頼る他はない。

 

 

「巫女を救う方法は、可能性が高ければ高いほどいい」

 

「? ああ、だからそのためにも───」

 

「そのためなら、嫌いな奴にも頼ることができるかい?」

 

 

 人間はそれまでの真剣な雰囲気が消えて、まるで里に向かうときに見せていたような、どこか飄々とした雰囲気を纒いだした。

 わかりきった質問をして、ふざけているのだろうか。

 

 今すでに、嫌いな人間に対して私は最期の頼みをしているというのに。

 

 

「無論だ。巫女を救うことが私の望みだ」

 

「じゃあ、もうすぐだ」

 

「何を言っている? 増援は期待できない」

 

 

 また破壊音が聞こえた。

 木々が裂け、倒れる音。遅れて爆発音。

 

 ───何故爆発音が遅れて聞こえた?

 爆弾カズラの爆発によって木々が倒れたわけではないのか?

 

 

「信用が一切できない奴だ。性格も難がある、というか難しかない。やることは出鱈目ばかり。だけど───」

 

 

 またも聞こえた破壊音。

 今度は先程よりもかなり近い。

 

 

「その実力だけは、俺もよく知っている」

 

「さっきから何を───」

 

 

 この人間は何を言っている。問い詰めようとした途端、異常をより鮮明に気づかされた。

 

 広間にあったホロウたちの気が消えていく。

 

 ウロビトの兵士? 感じる気は、ウロビトの気がひとつだけだ。

 ひとりでホロウたちを倒している? それほどの実力者はいなかったはずだ。だが気はひとつ。

 先の爆発と木々の破壊音のズレといい、何が起きているというのだ。

 

 

「ま、あんたの言葉を少し借りるなら、悪魔と取引するってところかな」

 

「なっ! まさか───!」

 

 

 瞬間、壁となっていた木々が膨れ上がり、メキメキと音を立てたかと思えば、一気により強い衝撃を受けたかのように吹き飛んだ。

 

 破壊された壁の向こうには──────

 

 

 

 

「本当に出鱈目だな。今度から森の破壊者って名乗ったらどうだい」

 

 

「我の山行水行を、獣のそれと一緒にするでない」

 

 

 

 

 ──────気を持たぬ、命を持たぬ悪魔がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ヒーローは遅れてやってくる的な。ヒーロー(バーロー)
ウーファンさんネガティブ過ぎない?と言われそうですが、この時期はそんなマイ世界樹ウーファン観。

それよりホロウを喋らせるのすごい違和感。ゲーム中では幻覚って扱いだったけども。

次回は少し話が戻ります。この話より前にいれるべき内容なのですが、バーヒーロー演出のために後回し。
というわけで、次回ふざけたタイトルをつけるなら『バーローのひとりでできるもん』
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