小さな明かりと笛の音に導かれて辿りついた小さな広間。
ホロウたちの鳴き声のような呻きが至る所から聞こえる。
そして、
「ウーファン!」
「イシュ!」
シウアンの声が聞こえた。シウアンの姿が見えた。あとついでにあの娘の姿もあった。
二人の周りにホロウが四体、見張るように立つ。
さらには遮るように、私たちとシウアンたちの間にホロウの首魁、ホロウクイーンが立ちふさがった。
「シウアン、すぐに助ける。あと少しだけ待っていてほしい」
「うん……!」
シウアンが見ているのだ。それだけでもう、負けることなどもうない。
「イシュ、私にもあんな感じの言葉をお願いしたいです」
「……汝、日に日に厚かましくなってないか?」
……こいつら悪魔と愚か者はやはり私には理解できない存在のようだ。
ホロウクイーン以外のホロウは戦う気がないのか、シウアンと馬鹿娘を逃がさないようにしているのか、動こうとしない。シウアンたちを人質に使っている様子もない。
が、それがいつまでも続くとは考えづらい。
錫杖を立て、そこを中心に広間を覆うような光の陣が顕現する。
対象はホロウたち。
「封縛する」
動きさえ封じれば、あとはイシュの火力がものを言う。
「む!?」
───はずだった。
ホロウクイーンの腕から翼のような、鎌のような、奇妙な形をかたどった影が伸び、イシュの剣を根元から斬り落とした。
クイーンに封縛が決まっていなかった? いや、手ごたえは確かにあった……解除された?
クイーンを中心に暗い蒼の風が吹く。ただの不気味な風ではない。その風は地脈とのつながりを乱していた。それにより、クイーンだけでなく他のホロウたちも封縛が解除される。
「ふむ……また工房に行かなくてはならぬか」
「剣ひとつでも問題ないか?」
「当然だ」
こいつの馬鹿力なら素手でも問題なさそうか。
一方で私は方陣による封縛が無効化されてしまっている。
クイーンの眼が暗く輝く。
幻術を使うつもりか。一瞬精神を揺さぶるように違和感が訪れるが、すぐに消え去る。幻術に嵌ったわけではない。
幻術の影響を受けない奴がクイーンに攻撃を行ったからだ。
「……図体の割に素早い」
「貴様が大振りすぎるんだ……」
もっとも、その攻撃も避けられたが。
幻術の影響下ではないのに避けられるのは剣士としてどうなのだ。現状、方陣を使えない私が文句を言えた義理ではないが。
「ならば、これはどうだ」
腕を突きだしたと思えば、突然飛んでいく片腕。
人間に化けている悪魔だと主張していた私としては、せめて人間のフリをもう少し務めてほしくも感じる。
迫りくる拳をクイーンは冷静に避ける。奴らの動揺を狙った攻撃だったかもしれないが、感情が読みづらいどころか、感情そのものがあるかわからないホロウたちだ。ある意味当然の結果と言える。
しかし、腕が回避されることを前提としていたのか、イシュ自身がホロウクイーンへと迫る。足を置いて。
…………人外同士の戦いに心乱されては駄目だ。方陣以外にできることを私はやらねば。
「アルメリアの知り合いって、すごいんだね……それとも人間の街にはいっぱいあんな人がいるの……?」
「あの人が特別なだけです、はい」
あいつの姿はどうやらシウアンへの教育に悪い。
唖然としたような声を聴きながらできることを考える。方陣が意味をなさないのであれば、方陣を破棄して攻撃に転じる、破陣:亜空絞破。展開されている方陣の力場を収束し、敵を締め付ける術だが……陣の中心にしか収束された力は向かわない。
つまり、中心にクイーンを持ってこなくてはならない。その中心は、今の私がいる位置。
あいつの攻撃は先の奇襲も含めて尽く躱されている。誘い込める可能性は薄い。破陣の準備をしつつ、別の手も必要だ。
悩む私にいくつもの影が覆う。
「ウーファン!」
シウアンの声に見あげれば氷の礫が上空に漂っていた。
ホロウクイーンが唄うような声をあげ、それに合わせて数多の礫が降り注ぐ。
──────避けれない。
迫る氷の凶器に対し、せめてもと両腕で頭を庇う。
「たやああああ!」
襲う衝撃に備えれば、なんとも間の抜けた掛け声が聞こえた。すぐさま続いて重々しい爆音。
見れば氷はなくなっていた。代わりに残ったのは熱気と降り注ぐ冷たい水。
これはまさか……
「で、できちゃった! 爆炎の術式!」
「貴様! シウアンのそばで危険な真似をするな! ホロウたちの矛先がそこに向いたらどうしてくれる!」
「はぁー!?!? 助けられて最初に言うことがそれ!? はぁー!?!?」
助けられたことには感謝するが、そばにいるシウアンに危険が迫りかねない動きは駄目だ。
シウアンたちを囲むホロウたちが、アルメリアを危険とみなしたのか槍を作りだし貫こうとしている。にも拘わらず気づいていない、あの馬鹿は。
走って間に合う距離ではない。走りながら陣を展開しなおす。せめて一瞬でも奴らの動きを止めれるように、展開するのは麻痺の方陣。
展開される僅かに黄色い陣。しかし槍を止めることができない。あんな奴に助けられて借りを返せずなど、屈辱すぎる。
陣の効果が及ぶまでの時間差、それがこれほどまでにもどかしく感じるのは初めてだ。
「アルメリア!」
「ほひょっ!?」
シウアンに半ば押し倒される形で雷の槍から難を逃れる。シウアンはなんと出来た娘であろうか。
───見間違いでなくば、シウアンに当たりかけた槍の動きが一瞬鈍った。
方陣が作用し、ホロウたちの動きに異常が入る。それも長くは続かない。クイーンから風が吹けば元に戻る。
それまでに、
「さっさとそこのホロウどもを焼いてしまえ!」
「はぁぁー!?!?」
馬鹿丸出しの声をあげながら、動けないホロウに向けて大きな火球が放たれる。
当たると同時に大きく燃え広がる爆炎が、他のホロウたちを巻き込み倒していく。
仲間を倒されたホロウクイーンが片腕をあげた。片腕は形を変え、剣を斬り飛ばしたときのように翼の形状となった。振り下ろした先はまたもあの馬鹿のいる位置。
「うひいっ!? 痛ぁっ!!」
「だ、大丈夫!?」
「け、結構深く切れた……だいたい植物がだけど。それより、なにこの青い光……」
ホロウ以外のこの場にいる者たちを明るい青い光が包みだす。それと共に消えていく展開された方陣。
破陣:命脈活性。方陣に展開された力場を地脈に注ぎ込み、その上にある存在の生命力を強化させるもの。アルメリアの体を蝕む植物までも生命力を強化させたが、そのおかげで致命傷は避けれたか。
ホロウクイーンは迫るイシュの猛攻を避けるためにこれ以上の追撃は難しいようだ。
それでも時折こちらに向かって攻撃しようとしているのがわかる。
だが、今ならシウアンの元まで妨害がないのだ。
「シウアン、怪我はないか!」
「ウーファン! 私は大丈夫!」
「私は怪我あるんですけどー? あるんですけどー?」
二人とようやく合流ができた。
最悪の事態は避けれた。次にすることはこの場からの離脱。
理想を言えばここでホロウクイーンを仕留めることだが、イシュは大振りばかりで一向に攻撃が当てれない。一度引いてワールウィンドも連れてくるべきだ。
「シウアン、あとついでに貴様も。ひとまず里まで戻ろう」
「う、うん!」
不満そうなアルメリアを無視してシウアンの手をひいて走りだす。
里へ戻るまでの道はイシュが壁破壊をして短い距離となっているはずだ。
途端にホロウクイーンの動きが止まる。
その視線はシウアンを、いや、私を見ている。
「我を無視するとは、その愚かさを後悔するが良い」
立ち止まったホロウクイーンに、破壊の一撃が接近する。
ホロウクイーンは避けるそぶりをせずに、両腕を振り上げた。
視線は私を見ている。
両腕は左右に広げられ、そして勢いよく前方に振られた。
ただそれだけのはずなのに、そこからの光景がすべて遅く見えた。
ホロウクイーンの振り下ろした腕の延長線上にあった、イシュの体が切断された。
まるで空間からズレたかのように、綺麗に斬られた。
空間のズレは止まることなく迫る。次に切断されるのは私だ。遅く見えているのに、体は動かない。
「急に立ち止まらないで!?」
「は?」
「きゃっ」
後ろから押され地面に倒れこむ。
途端にすべての動きが早く、正常に戻った。
「鼻が……鼻が……いたい……」
「ア、アルメリア、重い……」
「ご、ごめん!」
背中でシウアンとアルメリアのやり取りが聞こえる。そして重い。
遅れて背後の木々が倒れる音が響いた。
「え、どゆこと……ってイシュ!? 大丈夫!?」
アルメリアは全然状況を理解できていなかったか。こんな奴に二度までも救われるなど屈辱すぎる。
「……ホロウクイーンの腕に警戒せよ。我の体ですらこの通りだ」
上半身と下半身が別れた状態でイシュが返事をする。
…………あいつは死ぬことがあるのだろうか。
しかし、さすがに腕や足と違ってすぐさま戻るわけではないのか、分断されて横たわったままだ。
ホロウクイーンはイシュに戦う力がもうないと判断したのか、完全にこちらを見据えている。
「イシュ、ボス熊の時と同じ作戦……とか……?」
アルメリアが鼻を抑えながらすがるようにイシュに尋ねた。
鼻血でも出たのかもしれない。それよりボス熊の時と同じ作戦、というのがわからないが、何か方法があるということか。
「無理だ。このホロウに通用するとは考えにくい」
「ど、どうすればいいの!?」
倒れたまま喋る奴と、倒れた奴にすがる者。傍から見れば異常な光景だ。
そんなものに気を止めずにホロウクイーンが近づいてくる。
その体から影が伸び、ホロウが生み出された。
シウアンの手から震えが伝う。数の有利がひっくり返ったのだ。状況がまたも一転し、悪い流れとなってきている。
「……汝らでこのホロウの動きを止めれぬか。止まりさえすれば、我が終焉を与えてやれる」
「それこそ無理だ……方陣は無効化される……」
ホロウクイーンの動きを止める方法を必死に考える。
方陣ではない方法。奴から出る解除の風は方陣の力に対してのみ作用している。ならば毒薬を用いればあるいは……しかしそんなもの持ち合わせていない。
我武者羅に攻撃を行い怯ませる、という手もあるが、そこまでの攻撃力が今いるメンバーにない。いや、アルメリアの火ならばありえるか?
「あの爆炎でホロウを一掃できないか」
「……ごめん、もう撃てない。形が上手く作れない」
「……そうか」
あれほどの術、何度も連続で使えるはずがないか。無理やり使ったところで威力が落ちてしまうだろう。
亜空絞破を狙うしかないか。
「シウアン、ウーファン……ちょっと危ないことしてもいい?」
準備のために方陣を展開しようとして、アルメリアが鼻血を垂らしながら呟いた。
この場面でふざけたことをするわけはないだろう。それにこの娘も、ワールウィンドたちと同じく旅を生業とする者ならば、逆境に対して何か秘策を思いついたのかもしれない。
「勝手にしろ」
「今のはね、任せるって!」
「わかった!」
シウアンの言葉を聞き、アルメリアは手を口元へ持っていく。
その手に掴んでいるのは──────白い笛。
「アレが来たら、動かないでよ!!」
そう叫び、強く、強く笛を吹いた。
辺りに響く笛の音。遠く離れていても聞こえた音だ。耳が痛くなるほどに大きく甲高い音を立てる。
その行為の意味がわからない。ホロウたちが大きな音を嫌うというわけではない。
「あれだけ戦いの音を響かせてたんだから、きっと近くにいるはず……ウーファン、シウアンも! 今から音は立てないで! じっとしてて!」
言いながら小さな火の球を作りだし、ホロウたちの足元へ投げる。小規模な爆発が起きたが、それに巻き込まれたホロウはいない。
何を考えているのだ。まだ文句を言おうと思ったが、任せると言った以上、厳密には言っていないが任せた以上、今は音を立てずにじっとすることにした。
はたはたと、静かに不気味な羽音が壁の向こうから聞こえてきた。
それは壁を飛び越え、ホロウと私たちの間に降りてくる。ふらふらと、ゆらゆらと。
巨大な羽からは鱗粉を振りまきながら。
深霧ノ幽谷の厄介な魔物、ビッグモスが何も映さぬ複眼で、この戦場に現れた。
ビッグモスは最後に大きな音を立てた場所へと近づいていく。
その場所は、先の火球が爆発した場所。そこにいるのは、ホロウたち。
ホロウたちもこの魔物の特性は知っている。目で獲物を認識しない魔物だ。音を立てなければ大丈夫だが……近すぎる。
音を立てぬように動きを完全に止めていたホロウたちの体に異変が走る。
痙攣するかのように、何度も体が跳ねる。
ビッグモスの接近により、鱗粉を多く被ってしまったのだ。
ビッグモスの鱗粉には麻痺性の毒がある。たとえ音を立てなくても、あまりにも距離が近くにいると鱗粉によって体の自由を奪われ、痙攣し自ら場所を教えてしまう。
音を立ててしまったホロウは即座に切り刻まれる。振り回された鎌のような爪が、他のホロウにあたり犠牲がまた生まれる。
どんどんとホロウたちの数が減る。そして無事な者は、鱗粉によって次の犠牲になるため音を立てる。繰り返していくうちに、どんどんとホロウクイーンへと近づいていくビッグモス。
魔物が完全に接近する前に、クイーンが唄うように声をあげる。
その声に釣られてビッグモスが一気に距離を詰めた。だがその爪が当たる前に、ビッグモスにいくつもの氷の礫が降り注いだ。
氷の礫に羽を千切られ、魔物は頭部を押しつぶされた。
さすがにクイーン相手には、他のホロウのようにはいかないか。
魔物が断末魔をあげる。それは長く不気味な叫びだったが、一際大きな氷の礫によって途切れさせられた。だが、まだ終わらなかった。
「ひっ……!」
断末魔の叫びに寄せられたのか、二頭のビッグモスが新たに降りてきた。
正確には、一頭は落下してきた状態だ。羽は切り刻まれており、胴体も傷だらけだ。おそらく長くはない。
もう一頭も傷がいくつかついているが、生命力あふれている状態。おそらく共食いをした結果だろう。
だが、今はビッグモスの共食いに対して思うことなどない。突然落ちてきたビッグモスにシウアンが小さく悲鳴をあげてしまったのだ。
新たなビッグモスは、断末魔をあげた魔物の元へ行くか、シウアンの元へ来てしまうか。
魔物は静かに降りてきて、
「やはりか……! シウアン!」
こちらに向かってきた。
じっとしていては先ほどのホロウたちのようになってしまう。ならば距離を取り続けるしかない。
最初の一頭はすでに死に、落下してきた一頭も瀕死だ。今接近しようとしている一頭とホロウクイーンを警戒をすればいい。
「こ、これで!」
アルメリアが火球をホロウクイーンの足元に投げ、爆発音を立てる。
しかしビッグモスは見向きもせずに近づいてくる。
「一度獲物として見られたらほかには気もとめない! 倒す以外にない!」
背中にシウアンを庇い、錫杖をビッグモスに向ける。
印術とやらを私にも使えれば……
ないものねだりをしても仕方がない。覚悟を決め、一か八かで脳天を貫こうと錫杖による突きを放とうとし
───ビッグモスにホロウクイーンの巨体が投げつけられた。
「なっ───!」
「他のホロウがいなくなると死角ができるようだな。この我に騙し撃ちなどさせるとは、まったく手間をかけさせる」
ホロウクイーンの胸から、爪のような剣が背後から貫かれている。
苦し気にしているところを見るに、まだ死んではいないようだ。
投げた張本人は上半身のみのまま、体を起こし不敵にこちらを眺めていた。
「アルメリア、我をその蛾のもとまで運べ」
「は、はい! ……内容が情けない気が」
ホロウクイーンの下敷きになっているビッグモスは、のしかかっているものを退かそうと爪を立てながらもがいている。それによってより一層ホロウクイーンが弱っていき、身動きが取れなくなっている。
「それじゃちょっと失礼して……へ、変なとこ触ったらごめんなさ……重っ」
「汝が非力なだけだ。この体は人間の平均と大差ない」
「でも重い……ちょっとこっち手伝ってくださいー!」
ホロウクイーンもビッグモスも風前の灯火だ。すぐには動けそうにない。
「シウアン、ホロウクイーンに近づかないように。私はあの馬鹿共の手伝いをしてくる」
「うん。でもウーファン、馬鹿って言うのはひどいよ」
「正当な評価だ」
頬を膨らますシウアンの頭を撫で、馬鹿共の元へと行く。
「貴様らは何を遊んでいるんだ。とどめを早く刺すぞ」
「遊んでませんー! 文句なんて言ってないでイシュを運ぶの手伝ってくださいー!」
「腕の時のように引っ付いたりはしないのか。貴様の胴体は」
「外傷による切断だ。REPAIRで戻りはするがさすがに時間がかかる。その時間を待つ前に外敵は排除しなくてはならぬ」
言葉の意味を完全には理解できなかったが、とりあえず胴体が戻るということはわかった。こんな奴をいちいち常識と照らし合わせても無駄だ。
アルメリアには左腕を持ってもらい、私は右腕を持ってイシュの体を運ぶ。
その時、途切れ途切れの唄が流れだした。
ホロウクイーンが唄を歌う。何を言っているかわからない歌声は、戦っている最中にも聞いたものと同じだ。
───まだ抵抗する力があるのか。
「爆炎は出せるか」
「自信ないけど……や、やってみる」
「腕を放せ。我がここから拳を当てる」
上空にいくつもの氷の礫が生まれだす。今までよりも数は膨大。どんどんと増えていき、一つの巨大な氷塊となった。
イシュの腕がホロウクイーンに放たれると同時に氷塊がシウアンに向かって放たれた。
「───!」
途端、虫の不気味な断末魔が辺りに響いた。
氷塊に押しつぶされたのは、蛾の魔物ビッグモスだった。羽を切り刻まれて落下してきた魔物。
そいつがシウアンの背後にまで移動していた。
今の氷塊は魔物狙いだというのか。それではまるで、
「シウアンを、守った……?」
アルメリアの唖然とした声が届く。
ホロウがシウアンを守るなど……だが今のは確かに守った。
ひとつ上の階層で見せられたホロウの幻術を思いだす。あの時の言葉は理解できないことだらけだが、ホロウが巫女を守るという意味にも聞こえたのは確かだ。
考えれば、ホロウがシウアンを傷つける場面はなかった。
奴らと我らは、シウアンを守るという目的は一緒だった?
そんなはずはない、と言いきれない。我らはホロウについてほとんど知らないのだから。
ホロウクイーンに今更尋ねようにも、
「さすがに死んだようだな。蛾の魔物も頭を潰せばよいか」
イシュの放った拳によって首から上をもがれていた。
そこにあるのは亡骸のみ。
「クイーンが……」
敵だと思っていた存在の別の一面を見て、私もシウアンも戸惑っている中、イシュだけが淡々と蛾の魔物を駆除していた。
やがて、シウアンは体についた汚れを払い、ホロウクイーンの亡骸の前に立つ。
「……ありがとう。さっきのことも、あと、きっと今までも、だよね。あなたたちのこと、よくわかってないままだけど。今までずっと私のことを気にかけてくれてたってことは伝わったから……今までありがとう」
何も応えない亡骸の前で、シウアンは感謝を告げた。ホロウは何も応えない。
静かに風が吹いた。
風によって運ばれたのか、どこからか水晶玉のようなものが転がってきた。
この水晶玉は見覚えがある。水晶玉と言うより、眼球だが。
ホロウクイーンの眼球。
ホロウたちの目的はほとんど謎のままだが、巫女を守ろうとしたのは事実だ。
そう思うと憎しみなど消え去り、ただ哀愁のみが残る。
ホロウクイーンの力がまだ宿っているかもしれない眼球。ホロウもシウアンを守ろうとした。私たちと同じく。ならば今度は、共にシウアンを守ろう。
決意に対して眼球が応えることなどないが、力を貸してくれるかのようだった。
「イシュー! 石盤ありましたよー!!」
「壊さずに持ち帰るのだ」
「はーい!」
あの馬鹿共は雰囲気と言うのがわからないらしい。
何はともあれ、いつまでもここにいるわけにもいかない。
ひとまず安全のためウロビトの里に戻らねば。
少しだけ、拒絶されたらという不安がまたよぎった。その不安が表にわずかに出てしまい、シウアンへ自信なさげに手を差し出した。
「シウアン、里に帰ろ……里に行こうか」
私にとっては帰る場所であるが、シウアンにとってはもう帰る場所ではないかもしれない。
そう思うと自然と言いなおされた。
しかし、
「うん! みんなで里に帰ろう!」
「……ああ、そうだな」
言いなおした甲斐などなく、言われてしまった。
掴んでもらえないと思っていた手は、シウアンへ差し出した手は、確かに握り返されたのだ。
サブタイは、階層名をちょっと弄っただけです。
第二迷宮終了です。
ですが第二章終了じゃないです。
でも第二章戦闘関係は終わりです。あとは会話パートです。
今回の戦闘でホロウクイーンが使った技
幻惑の邪眼、宵闇の翼、慈愛の息吹、氷結のアリア、次元斬、です。
獣王ベルゼルケルさんよりかなり頑張ってます。
次元斬強すぎない? って感じですが、トラウマ補正入れまくってますので、実際のゲームでの攻撃力はさほどでもない(眼鏡装着)
ぶっちゃけゲームのモーションだけじゃ全然わからないので、名前やモーションからテキトーに効果を想像して書いてます。
今回ドロップアイテムは呪われた水晶眼。条件は呪い撃破? (お話上そんなの)知らんな。
ていうかゲームと同じならホロウクイーン復活するよね? (お話上そんなの)知らんな。
ウーファンさんの活躍がすごい少ないですが、あのひと補助タイプだから……
破陣の亜空絞破はロマン砲っぽく無駄に条件追加してみました。そのせいで使いづらく。
命脈活性は本来HP回復スキルですが、怪我が即治るってさすがになぁ……と思ったので、生命力の活性化ということにしました。
アルメリアが宵闇の翼を耐えたのは命脈活性で、体をまとう植物が活性化されたから、って感じです。つまり呪いやや進行。悪気はなかった。