ホロウクイーンとビッグモスと私たちの戦いは終わった。
ビッグモスは笛で乱入させただけだけども、まあ終わったのだ。
「イシュ、まだ引っ付かないんですか?」
「急かしたところでどうにもならぬ」
戦いは終わったというのに未だにウロビトの里には戻れていない。
イシュの体が上半身と下半身で分離したままだからだ。このまま戻ってもパニックになるので、引っ付くまで待っているのである。それに戦力的にも復活してくれてからのほうが安全だし。
タルシスの街じゃないし、ウロビトにはイシュが人間と違う体だというのはどうやらバレているみたいだから、そのまま里に行くのもありではあるんだけども……ホロウたちはいなくなったが、魔物自体は残っているのだ。ウーファンの索敵能力があれば滅多にぶつかり合わないけど、イシュを運ぶにはそもそも手が足りない。重いのだ。
一般の人と同じくらいだと言い張るが、そもそも私のようなもやしと、ウロビトの細腕、そしてシウアンの子供の手。この三人でイシュを運ぶのは辛いのだ。
「せめて人手が足りればなぁ……」
「ごめんね、アルメリア。私ももっと力持ちなら……」
「シウアン、自分を責めることはない。こいつが重いのが悪いのだ」
「ウーファンの言う通りだよシウアン。イシュがもうちょっと軽ければ良かっただけだし」
「我は別に重く設計されていないのだが」
イシュの小さなつぶやきが耳に残る。
ごめんよ。重く設計されていないんだろうけど、武器とか戦いの後に拾った石盤も含めると重いんだ。私たちには。
「せめてワールウィンドさんがいてくれたらなぁ……」
というかあの人がてっきり助けにくると思っていたんだけども、来たのはイシュとウーファンだった。
あの過保護な人が来ないとは、いや、いいけども。別に血縁関係とか無二の親友とかそういうのじゃないし。
だけどあの人がここにいれば、イシュを運ぶのが楽だったはず。それどころかもっとあの戦いは楽だったかもしれない。
そういえば、あの人はウロビトの里で呪いをどうにかする方法があるかも、と言っていた。その正体はシウアンだったわけで……シウアンから呪いを止めるため共に里にいないかと言われていたことを思いだす。
話を持ちかけられたときは、答えを保留にした。自分に言い聞かせた言い訳はイシュと相談しないと、である。
今、その相談をしてみるのがいいかもしれない。
シウアンもいるし、イシュもいる。ウーファンがいるのはちょっと面倒臭いけど。
「イシュ」
「なんだ。まだ時間が必要だ」
「あ、そうじゃなくてですね。世界樹の呪いについてなんですけど……」
あ、しまった。もっとぼかした言い方をすればよかった。じゃないとまたウーファンが「世界樹が呪いなどするわけがない」とか噛みついてきかねない。
そんな予想と裏腹に、ウーファンは変わりなかった。
「……あれ?」
「ジロジロと見て、いったいなんだ」
「あ、いや、なんでもないです。はい……」
ま、まぁいっか。
「呪いの進行をシウアンが止めれるんです」
「ほう? それも術とやらの力か?」
「えと、そうじゃなく……」
「私が世界樹にお願いしたの」
どう言おうか迷っていたらシウアンが入ってきた。
しかしその説明でわかる人ってそういないのではないだろうか。
「……とにかく術なのだな」
「そうじゃないよ。世界樹にお願いして、抑えてもらったの」
「だからそれが術による効果なのだろう?」
「だーかーらー! 術じゃないって言ってるじゃない! 世界樹に協力してもらったの!」
シウアンの助け舟があまり意味をなしていない。
そんな中、また別方向から助け舟が出た。
「シウアンは世界樹の声を聴くことができる世界樹の巫女だ。世界樹は巫女と意思疎通が可能なのだ」
ウーファンの説明である。
しかし大前提である、世界樹に意思があるということをそもそも納得するだろうか。
「……そう言った宗教染みた内容は専門外だ」
そうなりますよね。
「絶対信じてない……あ、そうだ。世界樹はあなたのことも言ってたよ。懐かしいものって」
「そうか、人違いだ。我はこの地の世界樹計画と無関係だからな」
「でも、あの子の生みの親と同じ時代の人なんでしょ?」
「……」
さっきまでは子供の戯言みたいな扱いをしていたけど、ここに来て初めて考え込んだ。
傍から見ればイシュの実年齢なんてわかりっこないのだから、それが説得材料のひとつになっているのかもしれない。
「我のことはアルメリアから聞いたか」
「いえ、私が言う前からイシュのことをシウアンは知ってました」
ここですかさず私のフォローである。
もうひと押しかもしれない。いや、別に世界樹に意思があることなんてどうでもいいけど。
「ふむ……ウロビトの感知能力か?」
「……我らは気を読むことに長ける。貴様が生命の持つべき気を持たぬから人間ではないことを見抜けた。貴様が存在していた時までは我らも知ることはできない」
傍から見ると、よってたかって胴体を切断された女の子を言葉で追い詰める図。
そんな馬鹿なことを考える余裕があるほど追い詰めてきた。
「この際方法などなんでも良い。とにかく、アルメリアに掛かっていた世界樹の呪いを抑制できたというのだな」
「はい。治ったわけじゃないですけど」
「何かが足りないの。たぶん、世界樹をもっと身近に感じれる何かがあれば治せると思うんだけど……」
「曖昧なことだな」
何か、がなんなのかわかってないし、治せると思う、だから断言でもない。宙ぶらりんな感じが確かにするけど、手掛かりとしては唯一のものだ。
前置きはこれくらいにして、本題に入ることにしよう。
「それで今、シウアンからウロビトの里に一緒にいないかって言われてるんです。シウアンと一緒なら呪いの進行を抑えることができますから」
「……?」
何を言っているんだこいつ、みたいな顔された。
ちゃんと説明したはずだけど、何か説明飛んじゃってただろうか。でも思い当たる部分がない。
それとも、なんだかんだで結構私の存在がイシュの中で大きく……?
だとしたらニヤけてしまいそうだ。だめだ。笑うな……まだ笑うな……。笑うタイミングじゃないどう考えても。
「何故ウロビトの里にいる必要がある」
「え。いや、シウアンに呪いを抑えてもらうならそうしないと───」
「その者を連れていけば良い話だ」
「当然のように誘拐発言はやめてください」
イシュだしなぁ……そうなるよねぇ……。
ちょっとでも、イシュが私と離れたくなくて理解できていないとか思っちゃったのが恥ずかしい。
そしてこの場での誘拐発言はダメすぎる。ついさっきまでホロウに誘拐されてたシウアンに、昨日、いやもう一昨日か。イシュに誘拐されたウーファンがいるのだ。冗談と捉えるのは難しすぎる。冗談じゃないだろうけど。
それにシウアンはウロビトの中でも重要な立ち位置っぽいのだ。私たちの都合で里から連れ出すのはさすがにちょっと。絶対ウーファンとか猛反対だろうし───
「シウアンは、どうしたい?」
「え?」
「ウーファン?」
怒るわけでもなく、猛反対するわけでもなく、シウアンの意見を求めだした。
私も、シウアンさえも予想していた反応と違い過ぎてきょとんとしてしまった。
「ウロビトのため、誰かのため、なんて考えなくていい。シウアンの望み通りにすればいい。どのような選択であっても、私はそれを尊重する。協力する」
「……」
シウアンはウーファンをじっと見つめた。
答えがでなくて悩んでいるのか、ウーファンの真偽を確かめようとしているのか、私にはわからない。
今はあまり口出ししない方がいいだろうと思い、イシュの肩を揉みながら傍観することにした。肩こりに悩まされているわけではないけど、イシュが何か余計なことを言いそうになったらすぐに口を閉じさせるためである。
ウーファンの変化に驚きだが、イシュもなんだかちょっと変わった気がする。
実際は肩もみなんてしようとしたら「邪魔だ」とか言われて払われると思っていた。それならそれで気をひけるからいいと考えていたんだけど、黙って肩を揉ませてくれる。ぶっちゃけ硬い。疲れてきた。
「……急に言われても、どうしたらいいかわかんないよ」
「シウアンが一番やりたいことを考えたらいい」
「やりたいこと……」
今まで里にずっといたのに、急に外に出てもいいと言われたらどう思うだろうか。
私の場合は自分の命が危なかったから、助かる可能性が外に見いだせたから、喜んで外へ出た。人でなくなるのが怖かったからそうすることができた。
けどもしも、呪いなんてなかったらどうしてただろう。そもそも引きこもってはいなかった……と思うけど……。
「世界樹がね、怖がってるの。だから私、世界樹を助けたい」
とりあえずイシュの口を手で押さえた。
しかし手に息が当たらない。呼吸とかもいらないのかもしれない。まずい。手で押さえた程度では普通に喋れるかもしれない。
「汝は先ほどから何をしているのだ」
「い、一応私たちは口出ししないほうがいいかなと思って……」
案の定、普通に喋られた。ひょっとしたら今ので雰囲気が壊れたかもしれない。だとしたら申し訳ない。
「世界樹を助けるにはどうしたらいいかわからないけど、もしかしたらアルメリアたちならできるんじゃないかって思ってるの」
「この二人が?」
「世界樹が気にかけてた二人。だけど二人とも」
「世界樹を助ける余裕なんてないです」
「我が世界樹を助ける理由などない」
「……これだから」
申し訳ない。
だけど正直な意見なのだ。
私たちの意見を聞いて少し苦笑しながらシウアンは続けた。
「だから、二人の手助けをしたい。それが巡りに巡って、世界樹を助けることになるかもだから」
「そうか……」
「アルメリアたちについていっても、いい? その……怒ってない?」
「怒るものか。協力すると言っただろう?」
「……ありがとう!」
ウーファンの言葉に嬉しそうにするシウアン。
私としても嬉しい話だ。シウアンが一緒に来てくれるなら、私は冒険者を続けてもいい。時間制限も気にしなくていい。だからといって寄り道なんてしないけど。
ウーファンはシウアンから私たちに視線を移動させた。その目は泥棒猫め、みたいな嫉妬はない。
「アルメリアにイシュ。貴様らに頼みがある」
「む?」「はい?」
「……貴様らの旅に、私も同行させてほしい」
深く頭を下げながらの願いだった。
イシュと同じく高慢な彼女の必死な願い。
でも……
「てっきり最初からシウアンとセットだと思ってたんですけど」
「私も。ウーファンは一緒に来てくれるものだと」
「ねー」
「ねー」
「なっ───」
むしろ反対しても絶対シウアンのいるところに来るとばかり。
シウアンと互いに同意しながら笑っているとウーファンは絶句である。
「汝が来たいのであれば構わぬ。汝の索敵能力は有効だ。反対する理由などない」
「あ、ああ。感謝する……。し、しかしシウアン、私がついていくことに不満はないだろうか」
「? なんで? むしろ、ウーファンが一緒に来てくれないことの方が不満かな」
「そ、そうか」
ウーファンの中で何か下手な考えがずっとぐるぐるしていたのだろうか。そんなに戸惑うとは思わなかったけど、ちょっとだけ面白かった。
私とシウアンは一緒にそんなウーファンを見て笑った。イシュはよくわからないといった顔で、ウーファンはしばらく頭をかいたあと、
「そうか……私は一緒にいて、いいのだな」
穏やかに、嬉しそうに呟いた声が耳に届いた。
イシュの体が引っ付き終わってからようやく里に戻る。
途中、あまりにも遅いためウロビトの兵士とワールウィンドさんが迎えに来たため非常に安全な帰り道となった。
里に着いてすぐにウーファンは長老たちに話してくると言って、一度私たちと離れた。シウアンも一緒に話に行くと言ってウーファンについていった。
辺境伯とは会話する暇もなく、彼もまた、ウーファンに連れていかれた。
人間とウロビトの友好を取り次ぐためにだそうだ。ウーファンからも説得してくれるのだろうきっと。ホロウクイーンの件もあり、他のウロビトもかなり友好的になったようで、うまくいく気しかしない。まだ少し戸惑っている様子も見受けられるけど。
そんなわけで私とイシュ、そしてワールウィンドさんの三人となった。
「足の怪我、大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫さ。俺のことより君のことの方が心配されるべきだと思うけどね」
「私は見ての通り大丈夫です」
「ちょっと鼻が赤いけど」
「大丈夫です」
「鼻血でも出たのかい? 血の痕が」
「大丈夫です」
鼻を強く打っただけだから。あまりジロジロ見ないでほしい。普通に恥ずかしい。
「そういえば、谷の石盤も見つかったのかい?」
私の意思が伝わったのか、話は鼻から石盤へと移動した。
北の谷を抜けるために必要な石板。その点は問題なく回収している。
「はい、この通り」
「やっぱりここでも奥深くに置かれていたんだね。他には?」
「へ? 他?」
「世界樹に関連する物とかなかったかい? 呪いをなんとかするような、何か……」
何かを探るような眼でワールウィンドさんは尋ねる。
勘というには正確過ぎた今回の呪い云々。その点についてこちらからも聞きたいけど、シウアンだとは知らないようだ。実は知っていたのでは? という疑問はそのズレによって、やっぱり勘なのかな? と悩ませる。
「奥には他はなかったです。でも、シウアンが呪いを抑えることができるんです」
「…………シウアン。世界樹の巫女、か」
「はい。それで、シウアンも私たちと一緒に来るって言ってくれたのでしばらく呪いは大丈夫です。安心しました?」
いつも過保護が過剰なワールウィンドさんに朗報と思わしき情報である。
遠回しに過保護すぎることを指摘したつもりだけども。
「そうか、君たちと……」
何故だろう。その顔は安心したという顔ではなかった。
一瞬だけ苦々しい表情を浮かべた気がした。だけどそんな表情を浮かべる理由がわからない。
何故だろうか。
目の前にいるはずなのに、すごい遠い存在に思えてしまった。10年も顔を合わせてるはずなのに、初対面の時のような……いや、それ以上の距離を彼から感じた。
「うん、安心したよ。それなら呪いの心配も少ない。けど絶対に無茶したらダメだよ」
急にいつものにやけ表情に戻り、いつもの声音でやっぱり過保護なことを言いだした。
だけどもいつもの過保護さとはまた何かが違う。込められた意味が違うようにも感じた。
「ワールウィンドさん」
「なんだい?」
この人については知らないことばかり。
10年前は見知らぬ謎の人だった。私の両親が行き倒れていたこの人を助けたことが、始まりだった。
それから数年、私の両親がいなくなっても、受けた恩を返すためと私のそばにいるようになった。とても過保護な、でもやっぱり謎の人だった。だけど知ろうと思わなかった。どうせ私は長くないと諦めていたから。
つい最近まで、過保護な謎の人のままだった。今更探るなんて、なんだか変な気がしたから。
だから、それ以上知らなくてもいいと思っていた。
「何か、隠してますよね?」
だけど、今は知らないままでは落ち着かない。
この人の奇妙な点が棘となって、心にひっかかるのだ。
「…………隠し事がないわけじゃないけど。隠し事だからこそ、言えないよ」
そりゃそうだ。
だけどこのまま隠させていいことか。しかし言及しようがない。疑問を思ったことは、どれもあいまいなままだ。尋ねても、のらりくらりと躱されてしまうことばかり。
「だけど、これだけは言えるよ。君に悪いようにはしない。絶対に」
「……そうですか」
頭を撫でながら聞かされた言葉に、私は引きさがるしかなかった。
10年前から知っているこの掌に、それでもなお噛みつくことはできなかった。
「話は終わったか」
イシュがやけに静かだと思っていれば、話が終わるのを待っていたようだ。
私もワールウィンドさんも無言になったところでようやくとばかりに入ってきた。
「へぇ。君でも少しは遠慮とかできるんだね」
「汝の軽口に付き合う気はない。汝は席を外せ。我はアルメリアと話がある」
「俺には聞かれちゃまずい話なのかい?」
「余計な意見を聞いてアルメリアの意思が揺れるのは望ましくない。我はアルメリアの率直な意見を確認したいのだ」
「……ま、わかったよ。それじゃ」
流れるように喧嘩すると思ったら流れるように話が決まった。
私に話、というより意見を確認したいってなんだろうか。
イシュが私の意見を聞きたい、っていまいち想像がつかない。どこまでも我が道を往くみたいなタイプなのに。
ワールウィンドさんが離れていき、私とイシュの二人だけ。
「えっと、話ってなんですか?」
「まずは聞くがいい。我がハイ・ラガードでやってきた所業を」
淡々と、イシュは過去のことを語り始めた。
巫女が仲間になるみたいな感じで書いてますが戦闘力はないです。
Xでの同行者的な立ち位置のほうが近いです。
あ、今更ですが実際のゲームではウーファンさんもといミスティックに警戒歩行や奇襲スキルはないです。
サブクラスがレンジャーなんだよ、なんてこともないです。
ていうか4にレンジャーいないです。
レンジャーは地味子(茶髪女)が一番好きです。新2の追加地味子イケメンすぎて笑ったくらい好きです。