今日もタルシスでは心地よい風が吹いている。
それはいつもと変わらないようで、だけど少しだけいつもと違う光景。
約二週間ぶりだろうか。
気球艇ノアに乗っての空の旅は。
「こんなに一斉に飛んで大丈夫なのか?」
「すごいね。いろんな気球艇がいっぱいだ」
ウーファンとシウアン……おのぼりさん二名には珍しい光景のようだ。
かくいう私も珍しく感じているけど。
イシュが運転している間、私含めて三名は暇である。
私は新天地についたら地図を描くから、今の間だけの暇である。
「ほとんどの冒険者が足踏みさせられてましたからね。おかげで皆横並びになっちゃいましたけど」
「別に競争しているわけでもないだろうに……」
いよいよもって、石林よりさらに北。銀嵐ノ霊峰へと行く目途が立ったのだ。
気球艇の動力部は以前と違って変な囲いがある。気球皮も素材を変えたらしい。そしてこれは一部のギルドだけだけど、緊急用にと氷の聖印を覚えた術師がいる。
「まだ大丈夫ですけど寒くなったらちゃんとコートを着るんですよ」
「あの色合いのをか……」
「シウアンが選んでくれたものですよ?」
「そ、そうだな」
私が強く推薦したものでもあるけど。真実は闇の中だ。
「みんな気球艇の色は違うんだね」
「おかげで見分けがつきやすいよね。私たちのはオレンジ色で……ワールウィンドさんのは緑色。キルヨネンさんは青色」
交易長に渡された気球艇の色はすでに決まっていたけど、なんだかその人のイメージにあった色で統一されている気がする。ワールウィンドさんはくたびれた感じの……もとい渋めな配色で、キルヨネンさんはクールで知的な感じが青色を。ウィラフさんは明るいし赤、みたいな。
だとしたら私たちのオレンジはなんだろうか。オレンジってどんなイメージがあるんだろ。
「柑橘系……」
「どうしたの?」
「あ、なんでもないよ。うん」
考えていたことがそのまま口から垂れ流しになっていたようだ。
おのぼりさんの二人にはこのまま空の旅を満喫してもらおう。
そう思い、我らのリーダーであるイシュのもとへと行く。
……気球艇に乗りこんだときは普通の恰好だったのに。
「イシュ、まだコートを着るのは早いと思いますよ」
「どうせ後から着るのならば、今着ようと変わりはない」
「まあ、いいですけど」
モスグリーンのコートを着こんで運転しているイシュを見て、それ以上は言わなかった。着ないよりかは全然いい。
「順調に飛んでますね、みんな」
「この我が協力したのだ。当然だ」
「あ、はい」
「……」
「……」
銀嵐ノ霊峰でも順調に飛べそうですねーって続けようとしたけど、そんなこと言われちゃ続けれない。参った。会話のネタが尽きた。
話すことがないからと言ってここでシウアンたちの元へ戻ると、イシュだけ真面目に運転しているみたいで微妙な気持ちになる。何か話題を出すんだアルメリア。こう、ウィットに富んだ話題を!
「……交易長から聞いたが、タルシスでは雪が降らないらしいな」
「ウィット……あ、はい!」
「汝の呪いも多少は緩和されている。また世界樹への道が閉ざされていた場合、少しばかり雪を楽しんでもいいだろう」
「へ……?」
今の言葉、聞き間違いだろうか。
これは本当にイシュだろうか。中身違う人ではないだろうか。
「不要か? ハイ・ラガードの世界樹で四季を再現したが、冬も需要があったのだが」
「あ、いや! ちょっと驚いちゃって!」
再現とかその辺は突っ込まないことにしよう。
それよりもなんだこれは。なぜだかニヤけそう。最近表情筋が働き過ぎだ。
「ま、まぁ今日は一斉に気球艇が飛んでますしね! 私たちだけ景色を楽しんでも罰は当たりませんよね!」
「何人たりとも我を罰することなどできぬ」
「あ、はい。そうですね」
あとでシウアンとウーファンにも今日の予定を教えておこう。
ウーファンからは文句が言われちゃうだろうか。いや、シウアンの反応次第かな。大丈夫な気がする。
丹紅ノ石林の北の谷を抜けている最中、どんどんと空気が冷たくなっていった。
吐息が白く染まり、耳も冷気の風があたり痛いほどだ。
そして空からは、白い綿のようなものが降り注いでいた。
雪である。
「おおー」
人生初めての雪だ。
なんというか、
「結構大きいんですね。もっと細かいものだと思ってました」
「充分小さくない?」
もっと霧状というか粉状のものが降り注いでいると思っていた。
「しかしまだ谷を抜けている最中だというのに、かなり寒いな……」
コートと耳当てをばっちし装備したウーファンが震えながら呟いた。
種族柄の顔色と真っ赤なコートに真っピンクな耳当て。ハイセンスだと思う。
「手袋も買っておいたほうがよかったかな」
地図を描くときや武器を持つときに普段と違う感覚になるかな、とか考えて買わなかったけど、袖から手を出したくない状態である。
「シウアン、もし辛かったら無理せずゴンドラ内に入っておくように」
「はーい」
ブルブル震えているウーファンが真っ先に入るべきだと思うけども。
「というか二人ともゴンドラに入ってて大丈夫ですけど。特にウーファンとか滅茶苦茶震えてるじゃないですか」
「なんのことだ……これは見知らぬ土地ゆえに武者震いというやつだ」
「無理ありすぎじゃないですか? タルシスでもそんなに震えてましたっけ?」
「貴様こそ、寒いのならゴンドラに入ったらどうだ」
私は地図を描くためにも外にいるのだけど、何故かやせ我慢大会がウーファンの中で始まっているかもしれない。
結局誰もゴンドラに入らないまま谷を抜けきった。
「谷を抜けると、そこは雪国であった」
「イシュ、何か言いました? ごめんなさい、風音がすごくて聞き取りづらく……」
「なんでもない」
谷を抜けると一面雪である。
白銀の世界とでも言うべきか、太陽の光が一面の雪に反射されどこも眩しい。
少し視線を動かせば、谷や崖によってちょっとした風の曲がり道になっている場所がある。そこで風が唸り強い風音を出している。
ひどいところは局所的な竜巻が発生しているほどだ。
なんとも綺麗とごちゃごちゃを混ぜた感じの場所である。
ノアを含めた多くの気球艇は高度を上げていく。
入り組んだ道を避けて、高々度で移動するようである。改造ついでに高度もより上昇できるようにしたとか。
「うひっ」
高度を上げたことにより、風を阻むものがなくなったため今までより強く風を感じる。
これは凍ってしまう。水なんてあっという間に凍ってしま……あ。水筒大丈夫かな。
今からでも遅くはない。水筒はゴンドラに入れておこう。
さすがに新天地ということもあってか、今まで群れのように一緒に行動していたいくつもの気球艇は、それぞれバラバラに動きだした。
西に小さな洞窟があったり、東に入り組んだ場所があって怪しく見えたり、ひたすらに北に進んだり。
私たちは北グループである。北には世界樹が見えるのだから。
もっとも、
「また谷がありそうですね……」
あきらかに阻まれている立地である。
念のため近距離まで飛ぶようだけども。
「ウロビトの結界なんですよね……どうにかできませんか」
「前も言っただろう。今や失われた術だ」
神話時代の結界が今なお道を妨げる。
ウロビトの術があるということはこの辺りにもウロビトの里でもあるのだろうか。いや、そうとは限らないか。風馳ノ草原にもあった結界だ。張ってから移動したということだろう。
壁の足元が見えてくる。そこにはやはり、濃雲の谷と石碑があった。
それとタルシスの兵士の気球艇が何隻かある。
「一度降りる」
「はい!」
他の谷と違う点がないか確認だろうけど、一応は鞄や装備を忘れない。
石碑のそばにはやっぱりというか、タルシスの兵士が何人か、それとウロビトもいた。
「おつかれさまです」
「あ、ありがとう、ここは寒いな。ニーズヘッグも一直線にここに来るんだね」
何も言わないのもあれなので、と兵士に声を掛けたらなんだか気になる言葉が。
「ここに来るのって珍しいことなんです?」
「そういうわけじゃないけどね。世界樹を目指しているのか、冒険がしたいだけなのか。前者ならたいてい真っ直ぐここに来るからね。さりげない意識調査に丁度いいところなんだ」
そんな唐突な抜き打ち検査はやめてほしい。
「でも谷で阻まれているって遠目でわかったらここまで来ないんじゃ?」
「そうだね。あ、別にこれは報告する内容とかじゃないから気にしないで大丈夫だよ。意気込みなんて人それぞれだからね」
「報告する内容がそれでないのなら、汝らはここで何をしているのだ」
「石碑の調査、その護衛だよ。まあ……進展はあまりないけどね」
ウロビトの術師も混ぜて色々調べているんだろうけど、芳しくないようだ。
「何か他の石碑との違いなどもなかったか」
「全然だね。紋章も同じ、せいぜい色が違うだけだよ。ただ……ひとつだけ」
「む?」
「気づいていることかもしれないけど……谷の結界、開けるための石碑が谷の南にしかないんだ。それらしきものもない。風馳と丹紅の間の谷と、丹紅と銀嵐の間の谷。そのどちらも南からしか解除できないようになっている」
気づいてなかったですとも。
でもそれがわかったところであまり意味がないような……
「伝承では巨人の進行を阻むための結界だ。巨人が北から来るのに、北に解除方法があってはおかしいからではないか?」
兵士との話にウーファンも入ってくる。
「それが本当に巨人の進行を阻むためのものか、っていう状態に今なっちゃってて……」
「何?」
「ウロビトの術師が谷の結界の効果を調べたら、巨人に対しての結界にしては弱いって主張してね……どこかで伝承がその……ちょっとズレちゃったのか、結界の対象は本当に巨人相手だったのか……不明な点が増えてきてね」
「……そうか」
巨人が対象でないなら呪いではないだろうか。言おうと思ったけど、兵士は呪いについて知っているかわからない。ここは黙っていたほうがいいかもしれない。
「君たちはこれから石盤を探しに行くんだろ? それならここから少し南下すれば竜巻に囲まれた洞窟がある。そこにおそらく石盤があるよ。いつもの石碑があったからね」
竜巻に囲まれたって、危険すぎないだろうか。
もう兵士と話すことはないのか、イシュは気球艇に乗りこんでしまった。ウーファンもそれに続いていく。きっとウーファンは真っ直ぐゴンドラ内に入るだろう。かなり震えていた。
私とシウアンは兵士にお礼をしてからノアへと乗りこんだ。
せっかくくれた石盤情報を活かすのはまだ先だけど、情報感謝である。だけど今日は、雪景色を楽しむ旅になるのだ。
一面雪景色。
どこを見ても雪、雪、雪。
「こんな環境でも魔物はいるんですねぇ……」
舵をとるイシュの隣でぼそりと呟く。
青白い巨大なカマキリがお肉を食べている姿が見えたからだ。
「魔物の生命力は特別高い。だが、魔物だけでなく野生の動物もいるではないか」
「今その野生の動物の命が散った瞬間ですよね」
「うむ」
カマキリの餌食となった兎さんである。雪景色に上手く溶け込み姿を隠していたようだが、カマキリの魔物を誤魔化せなかったようだ。
カマキリの表情などわからないが、どこか嬉しそうに兎肉を貪っている姿にげんなりしつつ視線を外す。
せっかくのワクワク雪景色観光が血みどろ観光なんて嫌である。
「イシュ、あっちはまだ行ってませんよ。西に行きましょ」
「うむ」
ちなみにウーファンとシウアンはゴンドラ内である。
ウーファンのあまりの寒がりっぷりを見かねたシウアンが「私も寒いからウーファンも一緒に入ろう?」と気遣いを見せたのだ。それによりようやくゴンドラ内で暖を取ってくれた。
「わぁ……」
西に進んだ先にあるのも雪。
しかし雪だけではなかった。
「あんな花があるんですね!」
「身を乗り出すな」
白い輝きと幻想的な花の景色。そんなものを見てしまったら、よりよく見ようとしてしまうに決まっているじゃないか。
「あそこ行きましょう! あの花園!」
「落ち着くのだ。あれは花ではない。雪が形を崩さずに凍りつき、いくつも積み重なってできた産物だ。花ではない」
「そういう夢を破壊するのはやめましょう?」
「事実だ」
見たところ周囲に魔物の姿もない。
花をじっくり見ることができる。花ではないらしいけど、綺麗な花なのだ。
気球艇を着陸させ、花園を堪能するためにノアから降りることにした。
「これは……なんとも見事だな」
「すごいね!」
ノアからウーファンとシウアンも降りてきて花園を眺める。
「……し、シウアン。寒くはないか?」
「もう寒いの? 早くない?」
さっきまでゴンドラ内で温まっていただろうに、寒がるのがちょっと早すぎないだろうか。
それともウロビトはそういう体質なのだろうか。余分なお肉とか一切ないし、寒さに弱いとか。
「全員で行動を共にする必要などない。自由にノアに戻れば良い」
「私はもうちょっとお花を見ておきたいかな」
「そ、そうか……」
「これは花ではなく───」
「イシュ、ストップ」
無暗に夢を破壊させはしない。
綺麗なものは綺麗って感覚でいいのだ。これはこういう理屈で~とかなんでも解明するの、よくない。ロマンがないよロマンが。
さすがにずっと震えられていると気が気でないのか、シウアンは花よりウーファンを心配げに見やる。
「ウーファンはノアに戻った方がいいと思うよ……?」
「し、しかし……」
「そんなに震えられてたらシウアンも楽しめませんよ」
「うぅ……」
シウアン優先で話をすれば、バツが悪いのかすごすごと引き下がった。
青い顔をしながら震えている彼女の姿を見ていると、この地ではダメダメな予感をすごく思わせてくれる。
ノアに向かっていく後ろ姿を見届けてから。
雪の花の横に雪だるまを作ろうと思う。
完全に冒険者感がないのは自覚している。
「というわけで、シウアンは頭を! イシュは手とか鼻になりそうな枝とか探してください! 私は体を作ります!」
「うん!」
「だるまに手があるのはどうなのだ」
本に書いてあった挿絵には人参の鼻と木の枝の手だったのだ。雪だるまのだるまは手があっていいということである。
さてさて私は雪だるまの胴体だ。
結構力がいりそうだけど、この役目は譲りたくない。枝を探しに行くより雪玉を大きくしていく方が絶対楽しいに決まっているからだ。
楽しむ気持ち満点で挑んだ雪だるまづくり。
早くも心が折れそうである。
「手が痛い……痛い……」
「うん……」
イシュは枝を探しに行ってしまった。
私とシウアンは雪の冷たさを舐めきっていた。手袋なしではこれ無理だ。手を吐息で暖めながらだましだましに作っていたが、もう無理だ。
「もうやめておこうか……これ以上は無理……」
「だね……」
イシュが戻ってきたらもう出発しよう。
イシュの姿を探して辺りをざっと見渡す。
雪の花、雪の花、大きな雪の塊、木々、イシュと見えた。当たり前だけど雪の花だらけだ。
……あんなでかい雪の塊、さっきまでなかったはず。
目測で高さ2メートルはありそうな大きな雪塊が一か所だけ不自然に盛り上がっている。
よりよく凝視すると、雪じゃない。白い色の何か。
背筋がぞわぞわする。
嫌な予感とでもいうのか、それとも経験による勘とでもいうのか。魔物と対峙したときの緊迫感が押し寄せる。
あれは白い魔物だ。
雪によって景色に半ば溶け込んでいた魔物。それも敵意があるタイプだ。
「アルメリア?」
私が動かなくなったことに不思議に思ったのか、シウアンが呼びかけた。
どうしたらいいのだろう。
シウアンもイシュも気づいてないようだ。ウーファンはノアの中。
イシュを呼ぶか、ノアまで逃げるか。
少し思巡した結果。
「イシュー!! 魔物、魔物ー!!!!」
全力で助けを求めることにした。
その大声が刺激となったのか、魔物も動きだす。2メートルほどの盛り上がりだと感じていたその体は、伏せていた姿だったようだ。立ち上がった姿は3メートルに届くかもしれない大きさ。二足と長い尾を使って器用に立つ魔物は、大きく肥えた白い鰐の姿をしていた。
手足は短く、その走り方はひどくドタドタとしたもの。遅くはないが、速くもない。
イシュも駆けだすのが見えた。頼ってばかりで申し訳ないけど直感が告げるのだ。この魔物、私じゃ絶対勝てないと。
イシュが来るまで自分の身の安全を守らなくては。
「シウアン! 走るよ!」
「う、うん!」
あの魔物の速度程度なら、なんとか逃げに専念すれば大丈夫なはず。
「そやあ!」
牽制に火球を飛ばしたが、全然堪えることなくドタドタ走ってくる。
やっぱりダメだ。寒い地域にいるなら熱いのには弱いんじゃないかとか期待したけどダメだ。
踵を返して走ろうとして、足が雪に取られる。
「……!」
まともに走れない。
シウアンも同じようだ。
あの魔物の速さなら、と思っていたがダメだ。それ以上にこちらが遅くなっている。
雪が強くなっていく中、イシュの腕が飛び、魔物に当たるのが見えた。
まともに直撃したのに、少し重心が揺れた程度でそのまま走り続ける。
急いで走らないと。
雪がこんなにも厄介なものになるなんて、おまけに何故か降ってくる雪の量も増えてきた。視界が悪い。冷たい風が強く吹きだしている。
シウアンの背中を押しながら走る。足が、太ももが、重い。
無理に雪を掻きわけようとするたびに、もつれるように転びそうになる。
逃げきれない。それならせめて、怯ませるなりして時間を稼がなくては。
シウアンが逃げきれる時間とイシュが追いつく時間。そのどちらも今はほしい。
意気込んで振り返れば、すぐそばまで鰐は来ていた。
「ぁ……」
鰐の魔物は短い両腕を広げながら大きな口を開けた。
左右から迫る鰐の腕と、頭上から迫る大口。
「アルメリア!」
「───!」
叫ばれる自分の名前を聞きながら、来たる衝撃にそなえて目を強く閉じる。
「……、…………?」
痛みが来る前に、急に風の音が止んだ。
一瞬で絶命したということだろうか。痛みを感じる前に。
いや、でも体に感じる寒さ、冷たさは相変わらずだ。耳当ての感触もある。
もしかして、と思う。
思い出すは碧照での熊事件。あの時も熊が目前まで迫ってもう駄目だと思った時に助けられた。
あの時はキルヨネンさんに助けられたが、今回も同じように助けが間にあったのでは。キルヨネンさんはこの場にいないからないとして、
恐る恐る目を開ける。
視界に映るのは白い鰐の魔物──────の氷漬けの姿だった。
「……なにこれ」
思っていた光景と違う。
イシュの助けが間に合ったのかと思ったら、鰐の氷像。
「ア、アルメリア……」
「シウアン、これって───」
声に振り向き、何が起きたのかを尋ねようとした言葉が止まった。
視界に映るのは蒼い巨体。
その体を見上げていけば、三つの首。十二の瞳。
それは、話に聞いた竜の特徴と一致していた。
「氷嵐の、支配者……」
三竜のうちの一体。氷の世界に君臨する竜。
その妖しげな十二の瞳が、私とシウアンを捉えていた。
「アルメリア、そして巫女。汝らはあまり動くな」
イシュが剣を構えながらこちらを見ずに言った。いつもの余裕あふれる態度は一切なく、真剣な視線を氷竜に注いでいる。
パキ、と音がした。
音はそばの鰐の氷像。
まさか動きだすのかと警戒したが、そうではない。
鰐の体ごと、氷が砕け散ったのだ。
火球も、イシュの拳も、物ともしなかった魔物のあっけない幕切れ。
それを引き起こした竜は未だに私とシウアンから目を離さない。イシュには一切見向きもしていない。
3つも頭があるくせになんでそんなにガン見してくるんだ。首を動かしてはいろんな角度からこちらを眺めてくる。
ちょっと気持ち悪さが恐怖を上回ってきた。
「雷鳴と我が身」
イシュの剣に雷が帯びる。
バチバチとはじける音がしているのに見向きもしない。
イシュが大きく跳び上がる。
氷竜の頭部に届くほどの高さまで跳び、雷を帯びた剣撃を放つ。
「なっ───!」
氷竜は一切見向きもしていない。
せいぜい、一瞬青い壁のようなものが氷竜を覆ったくらいだ。攻撃もしていない。
だがその壁にイシュの剣が当たった瞬間、宙を舞ったのはイシュの腕だった。
一歩、氷竜が私とシウアンの元へ距離を詰めた。
たかが一歩でも、私たちにとってはそれなりの距離だった。それが今や至近距離だ。
「我を無視するだけに飽き足らず、我についてくる者を狙うなど許せるものか!」
片腕状態のままイシュが吠える。
それに応じるように刀身に雷が纏い輝くが、氷竜の意識はイシュに動かない。
氷竜が何かをしようとしたとき、奇妙な音が、鎖が千切れるような音が聞こえた。
「……っ!」
「いや……!」
途端に走る頭痛。あの時と一緒だ。ウロビトの里で起きた時と同じ。
だけどあの時と違う点、目の前に竜がいるのだ。意識をしっかり持たないとだめだ。意識を失ったらどうなるか……
「何をした!」
イシュが氷竜に向かって叫んでいる。
痛む頭を堪えながら氷竜を見上げると、執拗に舐め回すように向けていた視線が遠い方角に向けられていた。
南東の空に3つとも頭が向いている。
何故か口がわなわな震えている。何か焦っているかのような姿。
「くっ……!?」
突然、氷竜は咆哮をあげながら空に飛び上がった。
そのままこちらに見向きもせず、南東の空へと消えていった。
「何が……いや、今はそれよりも」
氷竜が消えていった方角を見ながらイシュが呟く。
そして私とシウアンのそばに来て、両肩に荷物を担ぐかのように私たちを持ちあげた。
……まあ二人いるしね。持ち上げ方もそうなっちゃうよね。
「イシュ……」
運んでくれることに感謝を告げたいが、頭痛の他に安心感が一気に押し寄せたせいか、瞼が重い。それとも最後の咆哮のせいだろうか。急激に眠くなってきた。
「アルメリア? どうしたのだ、アルメリア」
「……」
あ、だめだ。もう無理。寝る。
何度も揺すられながら名前を呼ばれているが、ちょっと無理。
こうして、私は意識を手離した。
あのワニはつよい
あのカマキリはウサギではなく魚を食べます。
Q.なんで変えたの? A.字面優先したくて……
ゲーム中の雪の花園クエストの依頼主が面白いので、もしプレイされる方は是非とも間違った選択肢を教えてあげてください。
アルメリアはルンマスのあの被り物の下に耳当てを装着している強気スタイルです。誰も止めなかった模様。
氷嵐の支配者の行動理由は気まぐれかロリコンか、好きな方をお任せします。