世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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アルメリア視点じゃないです。





36.名乗れる日はまだ遠く

 

 

 

 

 

 

 今日はまことに奇妙な日だ。

 

 

 

 この金剛獣ノ岩窟に、多くの人間が訪れた日。最後に人間が来たのはいつだったか。確か……10年前であったか。

 10年前の客人たちは装いが統一されていたが、此度の客人たちは自由な装い。

 

 巨人の呪いに蝕まれ、日に日に数を減らす我らイクサビト。このままでは滅びゆく運命を辿ると半ば諦めかけていた。

 

 だがその時を前に、再び人間が訪れたのだ。

 

 巨人の呪いにより滅びたとしても、イクサビトという種族がいたことを人間が覚えてくれる機会。我らがいた証が吹雪に埋もれることなく、人間が記憶してくれる。人間は呪いを受けていないがゆえに。

 

 そう思っていた矢先に、呪いに苦しめられている人間の娘と出会った。

 

 

 ───人間にまで、呪いがすでに拡がっているというのか。

 彼らは呪いの恐怖を知っていてもなお、あの悪魔の樹を目指し旅をしているのか。その理由は理不尽な呪いへの、怒りか。

 

 

 右目の古傷が疼く。

 

 

 あの者たちと拙者は、種族が違う。生き方が違う。背負っているものが違う。

 

 怒りで動いていると決めつけるなど、彼らを愚弄しているようなもの。おそらく怒りではあるまい。

 

 

 だが、拙者と同じく怒りだとすれば──────その先に待つのは悲劇のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里に戻れば、普段と異なり賑やかな雰囲気であった。

 多くの人間が訪れているおかげであろう。

 

 普段となれば、鍛錬の声と……童どもの苦し気な呻き声。

 

「今戻ったぞ。緋衣草だけでなく、なかなか活きのいいアユも獲れた。今日の夕餉にでも頼む」

「キバガミ殿、戻られましたか。キバガミ殿に旅人からなにやら重要な話があるらしく」

 

 緋衣草と銀アユを受け取りながら、イクサビトの戦士であるモノノフが拙者に耳打ちをした。

 旅人からの重要な話というのは気になるが、少しばかり訂正をさせる。

 

 

「……拙者はキバガミを辞退したと言ったろうに。今の拙者はただの薬師よ」

「貴殿以外にキバガミたる者は務まりませぬ。先代も貴殿に託されたではありませぬか」

 

 

 キバガミ。

 

 その名はイクサビトを率いる者に与えられる名。

 その名を継げる者は一人のみであり、イクサビトの頭目となる存在。

 心、技、体。このすべてを鍛え上げ、皆を導くモノノフを示す名。

 

 

「確かに襲名試合を拙者は制したが、拙者の心は未熟そのもの。その名は拙者には重すぎる」

「そのようなことはありませぬ」

「……お主はまことに頑固よな。ならば仕方ない。今このときだけ、その名を名乗るとしよう」

「キバガミ殿ほどではありますまい」

 

 頑固者なモノノフは、旅人を呼んでくると言ってその場を離れていった。

 己がキバガミに相応しいとは未だに思えぬが、代表のいない種族の里などと思われるわけにもいくまい。旅人の話が何かはわからぬが、キバガミとして話を聞こうではないか。

 

 

 

 連れてこられた旅人は、灰のような髪の男だった。

 身軽な装いに長剣を携えているが、その体は鍛え上げられたもの。重心も鐘のように沈み安定している。重武器でも人並みに、いや、それ以上に扱えると思わせる。

 

「君がイクサビトの長、キバガミかな」

「……いかにも。拙者は今このとき、キバガミを名乗っておる。それで旅人殿よ、このキバガミに何用か」

 

 奇妙な男だ。

 最初の言葉は代表者に対しての言葉とは思えないもの。拙者としても堅苦しい言葉は好かぬが……どこかかみ合わぬ。

 言葉の不真面目さに対して、佇まいは堅く真面目なものだ。

 

 ふざけた雰囲気を演じているとも思ったが、言葉は随分と自然に出たような響き。

 ではせめて佇まいを真面目に演じているのかというと、それもまた異なる。

 

 不真面目と真面目、どちらも兼ね備えた矛盾した男。それが第一印象となった。

 

「俺は、冒険者でワールウィンドと名乗っている者だ。単刀直入に言うよ。呪いを払う方法があるから協力してほしい」

「それはまことか?」

 

 里の者から巨人の呪いについて聞いたのか。いや、人間にも呪いが襲っていることを鑑みれば、当然の帰結か。

 

 男の言葉通りならば、断る理由はない。

 だが、その言葉に即決できるものではない。男の言葉に嘘がないかわからぬ。男の言葉に嘘がなくとも、呪いを払う方法そのものが嘘であり、男も騙されているという可能性も捨てきれぬ。

 

「ああ、必要なものが揃えば呪いを払える。そのためイクサビトの力を借りたい」

「必要なものを揃えるために、か。その必要なものとは何であろうか?」

「君たちの伝承にあった、巨人の心臓」

「……ワールウィンド殿よ、それはならぬ」

「どうしてだい」

 

 拙者の言葉に対し、男はわずかに動揺を見せた。

 すぐさまその様子を潜め、冷静さを保っているがどこか焦っているのやもしれぬ。

 

「巨人の心臓は我らイクサビトにとって禁忌の代物。おいそれと誰かに触らせるわけにはいかぬ。それに、お主は巨人の心臓があることを何故知っておる」

「……君の同胞から伝承を聞いたからだよ」

「伝承では確かにイクサビトは巨人から心臓を奪い、自らの里に持ち帰った。だが所詮は伝承だ。実際に巨人の心臓があると、ましてや今もなお保管されているとどうして確信できようか」

 

 ただの好奇心で心臓の在り処を知りたかったのか、何が別の思惑があるのか。

 

「……俺の知り合いに、呪いに苦しめられている子がいる。その子を治してやりたくて色々と調べたんだよ」

「やはり、人間の街にも呪いがすでに襲っているか……」

「いや、タルシスで呪いを受けているのは一人だけだ。とにかく、俺はその子を治すために様々な文献を調べてきた。呪いは巨人の血のようなものらしい。心臓に働きかければ呪いを払いのけられる、と」

 

 呪われている人間は一人だけ、となるとあの娘だけか。

 男の目は嘘をついているようには見えない。治したいというのも、調べた内容にも嘘偽りはないのであろう。しかし、

 

「お主は確かに嘘はついているようには見えぬ。だが、先も言ったように巨人の心臓に触れることは禁忌に触れること。これは掟だからというわけではないのだ……お主の気持ちに嘘はなくとも、その調べ上げた内容が真実かは拙者にはわからぬ。かといって、では試してみるか、などと気軽にはできぬのだ」

「そりゃあ、君から見れば初対面の旅人だ。信じられないのはわかる。だが……」

「これはお主らのためでもあるのだ。巨人の心臓に触れることによって、呪いを受けてしまうかもしれぬ」

 

 男は顎に手をそえ考え始めた。

 どう説得しようか悩んでいるのか。だが考え込んだところで拙者を説得できるものが出てくるだろうか。

 

「聞いてくれ……呪いを払うには心臓に働きかける必要がある。心臓に働きかけるのは、誰がやってもいいわけじゃない」

 

 呪いを払う方法を説明しだす。

 しかし説明を聞いた程度では拙者の答えが変わるわけでもない。

 

「巨人の心臓に働きかけるのは、世界樹の巫女。それで呪いが払えるんだ」

「……」

「信用できないとは思う。だからまずは見てほしい。巫女には、巨人の心臓がなくても呪いを抑えることができるそうだ。今頃ここに向かっている。巫女の力を見てから、もう一度考えてほしい」

 

 百聞は一見に如かず、ということか。

 いくつもの言葉を積み重ねるよりも、一度見せたほうが早く確実ではある。

 

「呪いを抑える、か。拙者には俄か信じがたい話だ」

「頼むよ。君だってこのまま呪いで倒れていく仲間を見たくはないだろう?」

「……巫女の力を見てからと言っておったな。つまり拙者の前で呪いを抑えるところを見せるということか」

「ああ」

「呪いの恐ろしさ、お主はまことに理解しているのか? 巫女の力が真実でなければ、呪いは巫女に襲いかねないのだぞ」

 

 巫女の力を試すということは、逆に言えば巫女の身を危険にさらすこと。

 少しでも巫女の力に疑いを持っているのであれば、この言葉に何らかの反応があるはずだ。

 

 拙者の猜疑の視線を受けながら、男は答えた。

 

 

「呪いの恐ろしさなんて、とうに知ってるよ」

 

 

 目は逸らされない。

 虚仮を張ろうと力んでいる様子もない。どうやらまことに、この男は呪いの脅威を理解できている。

 

「……あいわかった。巫女殿が来られたら拙者に知らせてもらえぬか」

「! それじゃあ……」

「ああ、その力が真実であるかどうか確かめさせてもらう。巨人の心臓についてはその後改めて考えよう」

「今はそれでも充分だ」

 

 来たらすぐに呼ぶと言い、男は里の入口に向かった。

 巫女の力に疑いを持っていないからこそなのだろう。

 

 

「巨人の心臓、か……」

 

 

 巫女殿が来られるのはいつになるかわからぬ。

 それまでに少し心の整理をしたい。

 

 そう思い、墓前まで足を運ぶ。

 

 

 

 そこにあるのは、先代キバガミの墓。

 数年前、拙者と共にホムラミズチと呼ばれる魔物と戦い……彼奴の毒に命を奪われたお方。

 

「拙者は、またホムラミズチと刀を交えるやもしれませぬ……」

 

 目を閉じながら報告する。

 瞼の裏に見えた先代は、厳しい表情である。

 

 先代キバガミ。里の誰よりも強く、賢く、そして優しく。その背についていけば間違いなど起きないと思えるほどのお方であった。まさに理想とも言えるキバガミ。

 稽古は厳しくあったが、稽古が終われば愉快なお方であった。何度となく笑った顔を向けられたというのに、その笑顔を思いだせない。

 しかめ面ばかりが浮かぶ。

 

 心臓を取りに行くことになれば、あの魔物と相対することとなる。魔物は心臓を保管している大広場に巣食う。

 最後に討伐されたのは10年前。二代前のキバガミが討ち取った。

 だが、かの魔物はどういう原理なのか、討たれて何日かした後に再び大広場に姿を現したのだ。それから討たれることなく、今もこの金剛獣ノ岩窟を歪めている。

 

 思いだすは先代と共に、ホムラミズチに挑んだあの日。

 

 キバガミとなった拙者はあの日、呪いを払うためにと巨人の心臓を探し、ホムラミズチと相対した。

 巨人と戦ったわけでもない、関係のない童どもが呪いで倒れていくことが許せなかった。巨人の心臓があるから呪いがあるのだと、怒りに任せ飛び出した拙者を先代は止めようとしていた。

 

「あの時、貴殿の言葉に耳を貸していれば……過ぎたことを女々しく考えてしまうとは、やはり拙者にキバガミの名は重すぎる……」

 

 ホムラミズチの脅威を強く語ってもなお、拙者を止まらないとわかった先代は、共にホムラミズチに挑むと言った。

 キバガミを継いで慢心し、魔物程度と侮る拙者を見捨てることができずに、共に挑んでくれた。

 

 右目の古傷が疼く。

 

 その結果が、拙者は右目に傷を負い、先代は命を失った。

 

 

 ──────ホムラミズチを討つことができれば、キバガミの名を胸張って名乗れるであろうか。

 

 誰も犠牲にすることなく、ホムラミズチを討てれば……

 

 

「もう、誰もホムラミズチに討たせはせぬ……皆をあらゆる脅威から、守ればその時こそ……」

 

 

 それが出来た時、ようやくキバガミを名乗れるのではないか。

 

 瞼の裏に見える先代は、やはりしかめ面を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里の広間に戻れば先の男が向かってきた。その後ろには見覚えのある者たち。

 

 あの娘は、呪いに蝕まれていた者。となれば、あの集団の中に巫女殿がおられるのだろう。

 呪いに蝕まれながらも旅ができるということは、呪いを抑えることができるという話は確かなのやもしれぬ。

 

「あ、あの時の」

「ついさっきぶりであるな。してワールウィンド殿よ。巫女殿はどなたか」

 

 気を失っていた時よりもはるかに顔色が良い姿に安心を覚える。

 呪いを抑えることができれば、この娘のように童どもも動きまわることができるかもしれぬ。

 

「この娘だよ」

 

 示された娘は冒険するには不向きな夕日色の装束を身に纏う、年端のいかぬ少女だった。

 

「この娘が?」

「ああ、世界樹の声を聞くことができる巫女だ」

 

 想像以上の若さに疑ってしまう。それと同時に心配も胸中に生まれる。

 呪いは体ができあがる前ほど受けやすい。つまり、幼いほど呪いの影響が強い。大人であればかからない、というわけではないが、この巫女ほどの若さであれば呪いを受ける可能性は高い。

 

 本当に頼ってよいものか、巫女の力が及ばぬ場合、この幼い娘に危険が及ぶこととなる。

 

 拙者の訝し気な思いを悟ったのであろう、巫女殿は拙者が何かを言う前に話し始めた。

 

「お願い、私を信じてほしいの。助けられる力があるのに、何もできないなんていやだよ」

「……」

 

 一度はワールウィンドの言葉を信じ、巫女の力を借りることを決めたが……どうすべきかと思い悩む。

 

「私からもお願いします。シウアンの……巫女の力は本物です。その証拠に、この子のおかげで私は今も動けています」

「……あいわかった。ついてきてもらえぬか、案内いたす」

 

 

 

 

 

 

 寝床につくと、苦し気な呼吸ばかりが聞こえてくる。そんな中、後ろから静かに息をのむ声が聞こえた。

 見れば、呪いに蝕まれている娘が悲しげな表情を浮かべていた。

 

「……人の里では、まだ呪いはお主の身だけに留まっているようだが、我らの里ではこの状況だ」

「ここにいるみんな、苦しめられているんですね……」

「……お主の呪いは体の表面に広がっていた。その手のは稀なのだ」

「……?」

 

 この娘の呪いは胴を中心に伸びていた。胴から腕へ、背中へと表面積を広げるように。

 それは、不幸中の幸いというやつなのだろう。

 

「……表面に広がる前に、中まで樹に変えられた者はもはや動くこともままならんのだ」

 

 少し、口が軽くなりすぎた。

 このような話、ここでするべきではなかった。それに娘に言う必要もなかった。ただ悪戯に不安にさせただけではないか。

 

「中も変えられた者は生きている状態なのか?」

 

 案内した集団の頭の風格を漂わせる女子(おなご)が、顔色ひとつ変えずに質問してくる。

 その歳で、この有様を見てなお冷静でいられるのは旅による賜物か。

 

「生きておる……自ら動くことはままならぬが、生きてはいる」

「ふむ、ならば好都合だな」

「イシュ!」

 

 

 ───好都合と言ったか、この者は。

 

 あまりにも配慮の欠ける言葉を、見過ごすことができなかった。

 

 

「どういう意味か……聞かせてもらえぬか」

 

 イクサビトの怒気にあてられてもなお、動揺を見せない姿は戦士として良いものなのだろう。

 女子は変わらぬ様相のまま言った。

 

「世界樹に深く侵食されている状態でも治るのか、我は知る必要があるのだ。治すことができるのであれば、ハイ・ラガードにいる人の成れ果てを解放することができるかもしれぬ」

 

 人の成れ果て……ハイ・ラガードという地は聞いたことがないが、この女子の出身地なのだろう。そこにも呪いがあるということか。

 その者たちを救うために、旅をしているということか。

 

 となれば呪いに苦しむ者を見てもなお冷静であることも納得がいった。この女子の住んでいた里は、呪いで壊滅的被害を被ったのだろう。そこで多くの呪いを受けた者を見てきたのだろう。

 

「……そうか」

「す、すみません! イシュは感情とかに疎くて……!」

「先の言葉の意味、理解したが……お主がどのような旅路を歩んできたか知らぬが、言葉には気を付けたほうがよいぞ。無用な争いを生むことになりかねんのだからな」

「ふむ」

 

 心の機微に疎くなるほど、心が壊れるほどに、凄惨な光景を見てきたのか。

 まだ少女と言えるような年齢でいったいどれほどの地獄を見てきたのか。

 

 気づけば怒りを込めて睨んでいた目線は、憐みの目線となって女子を見てしまっていた。

 同情など、この女子には余計なことやもしれぬが。

 

「さて、巫女殿よ。この状況を見てもなお、お主は信じてと申せるか? ここで止めても構わぬ。止めずに触れればお主にも呪いが降りかかる。それでもなお、お主はできるのか?」

「大丈夫だよ。私を信じて」

 

 拙者の問いかけに、迷いなく倒れた者たちのもとへ足を進めた。

 

 巫女は静かに目を閉じると、周囲に小さな光が浮かぶ。

 光は倒れた者たちの周りに集い、溶け込むように体へと入っていった。

 

「これは……」

 

 すると、先ほどまで苦し気に呼吸を荒げていた童たちが、穏やかな寝息を立てだしたのだ。

 その顔には苦悶の表情は浮かんでいない。

 

「……私ができるのは、この子たちの苦しみを和らげることだけ。だけど、世界樹にもっと近い物があれば……呪いを払えるよ」

「そのためには巨人の心臓が必要だ。協力してほしい」

 

 巫女の言葉を継ぐように、ワールウィンド殿が協力願いを改めて申し出た。

 

 童どもがこれほどまでに安らげているのは、いったいどれほどぶりか。長く苦しい時から、一時でも解放させれればと幾度となく願った。

 それが今、目の前で叶った。

 

 もはや疑うこともできぬ。

 巫女の力を確かめることができた。すでに心の整理はついている。

 

 

「巨人の心臓は、ここより遥か地下にある大広間に祀られている。道中はもちろんのこと、広間にも魔物が住まう危険な場所よ」

 

「荒事には慣れているから大丈夫さ」

 

「お主らは里で待っているのだ。拙者が心臓を持ち帰ってこよう」

 

「留守番って、俺たちに気を使っているのなら遠慮なんていらないんだが」

 

「申し出はありがたいが、呪いはイクサビトの問題。それに心臓のある場所には難敵が待ち受けている」

 

 

 この者たちのおかげで里の存続に光が差した。それだけでも、感謝してもしきれぬほどだ。なのにこれ以上世話になるわけにもいかぬ。ましてやそれが、命の危険に繋がることであればなおさらだ。

 

 

「勝手に決めるな。汝に任せて無駄に時間を浪費する気はない。我も行く。汝は道を案内せよ」

 

「……呪いはお主にも関係のある話か。危険が付きまとうが覚悟の上か?」

 

 

 この女子も、呪いを払う方法を渇望している。ならばただ待つのは苦痛か。

 この問いかけに意味がないとわかりつつも聞いた。

 

 

「我を誰だと思っている」

 

「よかろう、お主はついてまいれ。他の者は里で待っているのだ。必ずや吉報を持って帰ろうぞ」

 

「え、ちょっとちょっと! 私も行きます! 私も呪いと関係あります!」

 

 

 慌てて声をあげたのは呪われた娘。この娘も呪いと無関係ではない。だが、戦士としては頼りなさすぎる。術師なる者であろうが、それにしては放つ気配が未熟だ。

 

 

「お主もここで待っておるのだ。お主の体を考えると、あまり巫女殿から離れるわけにもいくまい」

 

「でも!」

 

「アルメリア、その人の言う通りだよ。私はこの子たちから離れるわけにはいかないし、アルメリアの呪いも危険だから」

 

 

 巫女が娘を引き留める。

 その言葉には逆らえなかったのか、引き下がってくれた。

 

 

「ウロビトの術師殿よ、お主もだ」

 

「……貴様ら二人だけで大丈夫なのか?」

 

 

 言葉を返す前に、盗み聞きでもしていたのかイクサビトのモノノフたちが入ってきた。

 どのモノノフも面構えは戦場に赴く兵の顔。だが、

 

 

「イクサビトの問題なれば、我らもついていきますぞ」

 

「ならぬ。お主らまで来れば里の守りはどうするのだ。ここは拙者に任せよ」

 

「ですが……ホムラミズチ相手にそこの御仁とお二人だけでは危険は確実。ホムラミズチはあれからも討たれておりませぬ。あの時以上に強くなっておりますぞ!」

 

「拙者とて、あの時以上に腕は上がっているとも。確かにホムラミズチは難敵、だからこそお主らは連れていけぬ。戦場で敵からお主らを守るには、拙者の力はまだ足りぬ。だから頼む、ここで待ってはくれぬか?」

 

 

 モノノフにとっては力が足りぬと言われることが、どれほど屈辱なものかはわかっている。

 わかってはいるが、いたずらに犠牲者を増やすわけにはいかぬ。ひとりならば、まだ守れよう。だが、拙者の腕では守るものが増えれば増えるほど、取りこぼすものが多くなってしまう。

 

 

「どうか、あらゆる害意から、お主らを守らせてくれぬか」

 

 

 頭を深く下げ、頼み入る。

 キバガミともあろうものがと嘲笑されても構わぬ。ただただ頼むのみ。

 

 

「汝らは待て。これ以上この話を長引かされてはいい迷惑だ」

 

「だがしかし!」

 

「全くもって面倒な……この者の行動理由を少しは考えたらどうだ。しかし、そうだな。一日も掛からぬだろうが、ここで一日待て。一日で戻らねば好きにすればいい」

 

「イシュが言えるかなぁ、それ……」

 

 

 この女子は話をまとめようとしてくれているのか。見知らぬ地をついていく身としては不安も大きかろうに、不安が大きいほどに味方も大勢ほしく思えそうなものだ。にも拘わらず、拙者の意志を汲んでくれるというのか。

 

 

「感謝を申し上げる……」

 

「よい。これ以上進展のない話など無駄なだけだ。さっさと行くぞ」

 

「あいわかった。ではお主らは、一日だけでいい。一日だけ信じて待っておれ。必ずや心臓を持ち帰ってこようぞ」

 

 

 話はもう終わったとばかりに切り上げる。

 

 これ以上何か言われる前に、出発するとしよう。女子も準備は終えているようだ。拙者も武具は常日頃から身に纏っている。

 

 

「では行って参る。お主らはそれまで里の守りを頼んだぞ」

 

 

 ホムラミズチ。

 

 かの魔物を討ちて、先代キバガミの背に少しでも追いついてみせようぞ。

 

 

 

 その時初めて、拙者がキバガミを名乗れるであろう。

 

 

 

 

 

 

 




 

ゲーム中とかなり違う要素を入れたので申し訳ないです。
ホムラミズチが最後に倒されたのは10年前。倒したのは二代前のキバガミ、とイクサビトがゲーム中たしか言ってたので、その辺りを色々盛ってみました。
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