世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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キバガミ視点





39.業炎の中で、戦士の心強く輝く

 

 

 

 

 

 巨人の心臓を祀っている大広間。

 

 そこにいるだけで、防具の金具が熱を持つほどの熱気囲まれた場所でホムラミズチとの戦いが始まった。

 周囲の鱗は放置せざるを得ない。地の利が敵にあれど、もう引くわけにはいかぬと武器を構え挑んだ。先代の仇、そしてイクサビトの存続の道を妨げる難敵に引導を渡すため、幾度と攻撃を放つ。

 

 

 ──────何故。

 

 

 迫りくる二本の角を左手の刀でいなし、右手の金棒でホムラミズチを殴りつける。

 手ごたえを感じる間もなくすぐさま迫るはしなる毒尾。前に出していた右腕で頭部を庇い致命傷は避けれた。

 

「ぐっ……!」

 

 尾による攻撃と同時に距離を取られる。

 次の攻撃が来る前に、巾着から準備していた解毒薬を口に含んだ。

 

 飲み干すと同時に今度は巨大な火球が飛んでくる。溶岩獣が使う火球とは比べ物にならない破壊力を秘めたもの。直撃すればどれほどの深手を負うかわからない。咄嗟に金棒で受け止めるも、火球の衝撃を防ぎきることが出来ずに全身に痺れが走る。

 

 火球が数発ほど続き、収まったところで目前までかの魔物が迫っていた。

 

 近接での戦闘は望むところ。

 刀は腰に戻してある。今度は金棒の渾身の一撃を喰らわせてみせる。

 

 両手に持った金棒を大きく横に振った。素早い動きに翻弄されるもその一撃は尾を覆う鱗に当たる。

 

 やつは怯むことなく、角撃がこの身を襲った。

 

 

 ──────何故だ。何故。

 

 

 懐に潜りこまれている状態では金棒も上手く機能しない。金棒から手を離し、抜刀と同時に斬りつける。狙うは角撃を繰り出したあとに伸びきった首。

 狙い通り刀が斬りつけるも、首を落とす前にやつの身体から炎が噴出した。炎が生み出す風に飛ばされながらも己を鼓舞する。

 

 首を落とすことは叶わなかったが、深く斬ることはできた。

 この分なら奴に引導を渡すことができるはずだ。

 

 己を奮い立たせるように咆哮をあげ、気合いのままに斬りつける。弧を描いた斬撃は吸い込まれるように奴の体に傷をつけた。

 

 

 ──────確実に、拙者の攻撃は奴に届いている。

 

 なのに、何故。

 

 何故、奴の傷が無くなっている。何故、拙者の攻撃に堪えた様子を見せない。

 

 

 深く斬りつけたはずの首にはもう傷が見当たらない。金棒で砕いた鱗もすでに生え変わっている。つい先ほど入れた弧月による傷もすでになくなっている。

 

 拙者の攻撃は届いているはずなのに、何故だ。

 

 逆に奴の攻撃は、そのどれもが重く響く。

 金棒ごしに浴びた火球は体の芯にまで衝撃を走らせ、尾撃を受けた右腕は解毒を済ませたにも関わらず、蝕むような痛みを訴える。角撃はイクサビトの堅牢な鎧で貫かれることこそ避けれたが、鎧に大きなヒビを入れるに至った。次は貫かれることを暗に示すかのように。

 

 何かカラクリがあるはずだ。

 魔物といえど、この傷の再生力はありえぬ。

 

 まずはカラクリを見極めなくてはと、観ることに注力する。

 

 ホムラミズチが首をのけぞらせた。まるで深く息を吸うように。

 

 不味い、と思った時には遅かった。

 

 

 ホムラミズチの口から、排熱器官から、広間を覆い尽くすほどの火炎が吐き出された。

 

 

 体中を焼かれながら池に跳び込む。

 池の水は湯と言えるほどの温度になっていたが、池の外に比べたら冷たいものだ。

 

 炎が収まるまでは池から出れまい。その隙をやつが見逃すとは思えぬ。

 

 未だに炎は止まない。何度も何度も火の手があがるのが水の中から見えていた。

 

 しかし一向にホムラミズチの姿は見えない。火炎が目くらましとなり池に跳び込むのが見えなかったのか。

 

 

 ───違う。

 

 

 あの火炎。大広間を埋め尽くすほどだった。大広間には拙者とホムラミズチだけではない。イシュ殿もいた。

 

 

「イシュ殿!」

 

 

 ホムラミズチから離れていたとはいえ、あの火炎が迫ったはずだ。深手を負っているかもしれぬ。距離があった分だけ火炎の勢いも弱まっていたかもしれぬが、そのせいで逆に今、いたぶられているやもしれぬ。

 あの細い体で、ホムラミズチと対峙すればどうなるか、想像するまでもない。

 

 池から出れば、辺りの鱗が限界を超えた熱を持ってしまったのか、鱗からも炎が飛び出ている始末。

 そのせいで火炎が未だに止まなかったのを悟る。

 

 だが今はそれよりも、拙者の後ろに控えていた女子のことが重要だ。

 

 広間の入口に目を向ければ、

 

 

「生きていたか」

「イシュ殿……」

 

 

 岩をも焼く火炎の中、ホムラミズチの角を掴みながら立つイシュ殿の姿があった。

 その細腕で角撃を掴み防いだというのか、ホムラミズチは体を揺すり投げ飛ばそうとしているようだが微動だにしない。

 

 信じられぬ怪力だ。力だけならイクサビトに匹敵しかねない。いや、ホムラミズチの動きを止めるほどならば、イクサビトをも超える力だ。

 

 イシュ殿は拙者を見た後、ホムラミズチから手を離した。

 

 

「なっ……!」

 

「汝が生きているのであれば、我が手を出すわけにはいかないか」

 

 

 理解が追いつかない。

 確かに手だし無用と拙者は言った。その言葉を、ホムラミズチを仕留めれる状況に置いても守るものなのか。イシュ殿にとっての望みは巨人の心臓が何よりのはず。拙者の在り方を見たいとは言っていたが、傍から見ても劣勢だったはずだ。

 にもかかわらず、まだ拙者の在り方を見ようとするのか。

 

 

「何を呆けている。汝は皆を守るのであろう? ならば呆けている暇などないはずだ」

 

 

 勝つことを期待しているわけではないだろう。拙者が敗れても何も問題ないのだろう。

 ただ淡々と、己の興味を満たすために眺めることを選ぶ。この女子にとって、拙者の命の有無はどうでもよいことなのだ。拙者の言葉を成せるか成せないか、それさえ知れればいい。

 

 

「……承知!」

 

 

 何を拙者は呆けている。イシュ殿に手だし無用と頼んだのは拙者自身。

 確かに尋常じゃない精神性ではあるが、この状況を招いたのは己の選択。ならば言葉を嘘とせぬためにも、勝たねばならんのだ。

 

 痛む体を無視し、刀を拾いホムラミズチへと攻め寄る。

 ホムラミズチはイシュ殿から距離を取り、どちらと敵対するか悩んだ末に拙者に向きなおった。

 

 

「この身、羅刹となりて討つ!」

 

 

 ホムラミズチにまたあの火炎を出させる隙は与えぬ。

 隙を与えず、なおかつ奴の再生力を見極める。

 

 氷杭を投げつけ、氷杭の上から刀で斬りつける。

 氷刹。この熱された地では本来の技は発揮できない。ならばと氷杭を用いて再現するまで。

 

 そこで初めて、拙者の攻撃にやつが怯んだ。

 

 冷気と斬撃の複合。だがここからだ。傷が再生するカラクリ。それを見極めない限り、今の一撃も無意味なものとなる。

 

 ホムラミズチの体が炎を纏うように吹きだす。炎から逃れながらも奴から目を離さず見極める。

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 纏った炎の下。

 

 そこにはもう、傷はなくなっていた。

 

 

「炎を纏えば、傷が癒える……? それでは……」

 

 

 炎を出させないようにしなくては、傷を負わせても意味がない。だが奴の今の動きは一瞬だった。止めようがないほどの早さ。

 心を折られそうになる。だが、まだ勝ち筋はある。

 

 一撃で奴の息の根を止める。それ以外はない。

 

 奴の強靭な四肢は縦横無尽に駆け回らせる。その動きに翻弄されることなく、首を落とす。頭を潰す。

 できるのか、と考え巡らせ、やらねばならぬと己に言う。

 

 ただ斬りつけるだけでは無意味。確実に首を落とすため、次の一撃にすべてを賭けるために集中する。感覚を研ぎ澄ます。

 

 次に奴と距離が詰められた時、全身全霊の一刀を持ってたたっ斬る。

 

 放たれる火球を躱し、接近を待つ。

 遠距離の攻撃を無意味と思わせなくてはならん。

 

 ただ耐え忍べ。

 必ず近づくはずだと己に言い聞かせ、集中する。

 

 五つ目の火球を躱すと、間合いまでホムラミズチが詰めていた。

 火球に意識を逸らさせて接近する。先もやられたことだ。すでにその手は見た。

 

 

 代々イクサビトに伝えられし奥義、爪神。

 魂をも寸断する一閃を持って、その首もらい受ける。

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 刃がホムラミズチに届く寸前、奴の体から熱気を持った煙が噴出した。煙に燻された程度で斬撃は止まらない。だが、その煙は拙者の両目から視界を奪った。

 

 手ごたえはあった。何かを斬った、その手ごたえは。

 

 状況が見えない。どうなったのだ。

 

 目を拭いながら視界を確保しようとして、

 

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 

 熱の衝撃がこの身を襲った。うめき声を噛み殺し、意識を強く持つ。攻撃が来たということは、まだやつは生きているということ。まだ戦いは続いているということ他ならぬ。

 

 心もとない視界でホムラミズチの姿を探す。

 

 二本ある尾のうちの一本、それを斬り落とされた奴の姿が見えた。

 

 

 迫る白刃を、尾で受け止めたというのか。あの一瞬で。

 

 

 さすがに斬り落とされた尾は、あの脅威の再生力を持ってしても回復しないようだ。だが、首を落とせなかったことは残念ならない。

 状況は依然悪いまま。

 

 尾を斬られた魔物は怒りの視線を持って拙者を睨む。

 刀はまだこの手にある。もう一度、今度こそ首を斬り落としてくれる。

 

 迫りくる魔物に刀を構える。

 幾度と業火に炙られながらも、その刀身は未だ健在。

 

 されど刀を握る手には力が入らなかった。

 おそらくもう、攻撃を凌ぐことはできまい。ならば刺し違えてでも、奴を討つことに専念するのみ。

 

 だが、それでいいかもしれぬ。

 この場にはイシュ殿がいる。巨人の心臓を持ち帰るのは、彼女に託すとしよう。イクサビトの里、最大の脅威である呪いは巫女殿が払ってくれよう。

 

 結局、拙者はキバガミを名乗ることはできなかった。先代のように皆を導くことは叶わなかった。

 

 先代の遠い背中を思いながら、迫る魔物の姿を見た。

 

 

 

 ──────落としたはずの金棒が、ホムラミズチの横腹に飛んできた。

 

 

 

「な……!」

 

 

 この場にいるのは拙者とホムラミズチ、それとイシュ殿だけだ。イシュ殿が手を貸してくれたのか。そう思い目をやると腕を組みながら傍観しているイシュ殿の姿。イシュ殿はこちらを見ていない。その視線の先を追えば、

 

 

「お主ら、何故ここに……」

 

 

 イクサビトのモノノフたちが、武器を構えてそこに立っていた。

 

 

「キバガミ殿の金棒を投げたこと、あとで深く詫びまする」

 

「そのようなことはどうでもいい! 何故ここに来たのだ!」

 

 

 拙者の力では、己の身すらホムラミズチから守ることができぬこの力では、また犠牲を出してしまうというのに。犠牲を出さぬためにも拙者はひとりで戦っていたというのに。何故ここに……!

 

 

「キバガミ殿、我らは───」

 

「いかん! 下がれ!!」

 

 

 彼らが言う前に、ホムラミズチが大きく息を吸いこんだ。

 また、あの業炎を吐き出すつもりなのがわかった。乱入してきた者たちをまとめて焼き払うことにしたのだ。せめて距離を離すように叱咤するが、間に合うとは思えなかった。

 

 

「な、何が起きているのだ……」

 

 

 業炎を吐き出す前に、空を飛ぶ腕がホムラミズチの顔を殴り飛ばした。

 面妖な腕はその後、イシュ殿の元へと飛んでいく。

 

 

「イ、イシュ殿か、今のは……」

 

「汝はあの言葉を成すことができなかった。汝が守ると豪語した者たちは今、危険に晒される場所まで来てしまった」

 

 

 反論は浮かばなかった。

 今のイシュ殿の攻撃がなくば、ホムラミズチの炎を止めることができずに彼らは炎に焼かれていた。

 

 

「客人殿、先ほどは感謝致す。だが、我らはただ守られるだけにあらず」

 

「汝らの力ではあの魔物に敵わぬように見えるが」

 

「我ら個々の力では及ばぬでしょうな。されどここは戦場であって、試合ではない。ならば我らは力を束ねて敵を討つべきと考えまする。危険な地だからとて、我らはキバガミ殿おひとりに任せるなどできませぬ」

 

 

 たとえ数でかかろうとも、犠牲は避けられない。それでは意味がないというのに、何故だ。

 

 何故……拙者の背で守らせてくれぬのだ。

 

 

「お主らはすぐに里に戻れ」

 

「それはできませぬ。我らはキバガミ殿の背をずっと見てまいりました。ずっと我らをその背中で守っておられました」

 

「ならば、ならば今も守られてくれんか……!」

 

「できませぬ。キバガミ殿、我らはモノノフ。イクサビトの戦士。背に守られるだけでなく、背中合わせて共に戦う同志でありたいのです」

 

 

 離れた場所から、再びホムラミズチが火炎を吐き出そうとしているのが見えた。

 イシュ殿に警戒の目を向けながら、深く息を吸い込んでいる。今度は止められない。

 

 ホムラミズチから火炎が放たれる直前、奴の前に影が現れた。

 

 

「魔物相手に言っても無駄だろうが、大事な話の最中に水を差すのはいただけないよ」

 

「さっすがキルヨネン! キザったらし~!」

 

「放っておいてくれないか、ウィラフ」

 

 

 人間の冒険者が奴の口に盾を押し当て炎を塞き止めた。

 

 モノノフだけでなく、人間までここに来ているというのか。

 

 ホムラミズチめが体を捻った。突然現れた人間を尾で薙ぎ払うつもりか。

 

 

「脚封」

 

 

 小さな声とともに、地面が光り輝く。すると奴は身動きが取れなくなったのか、地に足が縫い付けられたかのように奇妙な姿勢のまま止まった。ただただ体をもがくように動かしているが、何か異常に陥ったのだろう。

 

 

「この状況でいつまで揉めているんだ」

 

「ウロビトの者までも……」

 

 

 何故危険とわかりながら、ここに来てしまうのだ。

 それほどまでに、拙者は頼りなかったのか。やはりキバガミの名を、拙者は名乗ることができぬというのか。

 

 

「お主らは! 拙者にキバガミの名を名乗らせてはくれぬのか! 皆を守れずしてキバガミの名は名乗れんのだ! 何故それをわかってはくれぬ!」

 

「わかりませぬ! 貴殿が名乗れなかろうと、我らは貴殿をキバガミと認めているのです! それに我らはイクサビトのモノノフでありたいのです! 戦いをキバガミ殿だけに任せてどうしてモノノフを名乗れようか! 我らをイクサビトのモノノフたらしめるためにも、肩を並べ共に戦わせていただく!」

 

 

 意志を曲げるつもりはないとばかりに刀をホムラミズチに構えるモノノフたち。

 彼らの背中を見て、ようやく気づいた。

 

 この者たちは、拙者が守らずとも戦える強き者たちだ、と。

 

 拙者では到底率いることが叶わぬ強さを持っている。ホムラミズチを前にしても、闘志を揺るがさぬ戦士。

 

 

「強さの違いもあったが、守られる者の自覚の差もあったな」

 

「イシュ殿……それはいったい……」

 

「汝の言葉を守れなかったのは汝自身の弱さ。それと、守られるべき者たちが自ら窮地に来る愚行だ。我……の話した者は守れる強さを持っていた。守られるべき者たちは、この者たちのような愚行を犯さなかった」

 

 

 地に縫い止められたホムラミズチは、身動きがとれなくも炎を操り暴れ狂っている。

 決して安全ではない。だが誰も恐れていない。

 

 イシュ殿には、この者たちの行動は愚かしく見えるのか。

 

 

「イシュ殿……確かに拙者はお主の語る者にはなれなかった。お主の言う通り、拙者自身の力量不足……それと彼らの行動がゆえに」

 

 

 あらゆるものから守るという言葉は、成せなかった。

 

 

「だが、拙者はこれで良かったと今は思える」

 

「己の言葉を成せなかったというのにか。我には負け惜しみのようにしか聞こえん」

 

「そうかもしれんな……だが、やはりこれで良かった……拙者には、お主の語る者は哀れに思える」

 

「……何を言っている」

 

 

 庇護すべき者たちがいた。庇護するだけの力を持っていた。

 いかなる時もたった一人で戦っていたのであろう、その者は。

 

 鬼気迫る状況であっても、たった一人。守るために。

 

 見返りが欲しくて戦っているわけではない。だが、

 

 

 

 それはあまりにも、哀しく思える。

 

 

 

「お主はそうは思わぬか? 結局その者は、最後は守れなかったのだろう。その時を前にしても、独りだったのではないか?」

 

「…………」

 

 

 イシュ殿は踵を返し歩いていく。ホムラミズチとは真逆へと。里へと戻る道を進みだした。

 

 

「イシュ殿?」

 

「我がいなくとも、この戦いはもう勝ったも同然のはずだ。ならば先に戻っても構わんだろう」

 

「ウ、ウム」

 

 

 気を悪くさせてしまったか。

 

 イシュ殿がいなくとも、勝てはするだろうがきっと犠牲は大きくなる。

 そうはならないためにも……拙者ひとりで挑まずに、皆で協力するべきだな。なんとも、まるで伝承にあった状況ではないか。

 

 

「まだ仕留めれないか! こいつ、熱で地脈ごと歪めているぞ! そろそろ封縛が外れる! 急げ!」

 

「生半可な傷ではあの回復力を越えられぬか……」

 

「なりふり構わず攻撃すればあるいは……だけど炎の壁が……」

 

 

 ウロビトの術師が、イクサビトのモノノフが、人間の冒険者が、それぞれ壁にぶつかった。

 

 

「ウロビトの術師殿よ、もうしばらく奴めを縛ってくだされ。さすれば拙者が奴の命を頂戴できる」

 

「キバガミ殿、いかがなされるおつもりで……?」

 

 

 モノノフが訝し気に聞いてきた。おそらく拙者が命を顧みぬ捨て身を行うのではと不安がっているのであろう。先ほどまでの己のあり方を思えば、そうなっても仕方ないか。

 

 

「心配するな。拙者は里に戻らねばならぬ。これでも里一番の薬師でもあるのだからな。それに、お主らは拙者をキバガミだと言って聞かぬのであろう? ならばお主らと共にあるためにも、まだ死なぬよ」

 

「ちょっとちょっと、何する気か知らないけど、今のあいつは近づいたら炎で焼かれるよ! 弓か印術でもないと危ないよ!」

 

 

 モノノフは何も言わず、代わりに冒険者の者が止めにかかった。

 確かにホムラミズチは周囲に炎の壁を作りだしている。何も近づかせないように。

 

 あの時の炎の壁よりも、白く燃えている様はより熱く見える。

 

 止めてくれた冒険者に礼を言い、されどホムラミズチに近づいていく。

 

 一歩、一歩と進むごとに皮膚を焦がす熱が襲う。

 

 炎の中に入る前に、感謝を告げる。

 

 

「ウロビトの術師殿よ、魔物を封縛してくださり感謝致す。冒険者殿よ、共に戦ってくださり感謝致す。そして……モノノフたちよ、ここにおられる方々に拙者の体は重いものだ。拙者の巨体を運ぶのはお主らに任せたぞ!」

 

 

 笑いながら、炎の中へと入っていった。

 

 左手の金棒を下段に持ち、右手の刀を上段に構える。少し変則ではあるが、この技の意味を込めれば同じものだろう。

 

 

「奥義・牙神」

 

 

 その名が意味するは一対の牙。

 身を焼く炎の中、強靭な下顎と鋭さのある上顎を持って、ホムラミズチの喉笛に喰らいつかす。

 

 封縛によって動くことできぬホムラミズチは体を逸らすことしかできない。だが一度喰らいつかれた状態では、自由に動けたとしても逃れられない。

 下顎の金棒が体の芯まで揺さぶらせる。この牙が、捕らえた敵を逃すはずがなし。

 

 

 ──────先代、拙者は貴殿のように皆を導くことはできなかった。貴殿の背中をずっと追っていた。追いつけずとも、命を賭してでもその背に届きたかった。されど、

 

 貴殿のあり方と違うキバガミとして、皆と一丸となり生きていくこととする。

 

 

 鎧をも焦がし、肉を焼く炎はより強く燃え上がる。

 されど下がりはしない。

 

 今の拙者には共に肩を並べ戦う戦友がいる。この背で守るべき者たちではない。

 この炎で立てなくなっても、彼らの肩を借り里に戻れるのだ。

 

 拙者はひとりにあらず。

 

 

「ホムラミズチよ、お主はまことに、強敵であった!」

 

 

 その言葉と共に、魔物の首が一対の牙によって噛み千切られた。

 

 それと同時にそれまで包んでいた炎が塵のように消えていく。

 

 魔物の最期を見届けたあと、仰向けに倒れこむ。全身焼かれて感覚がないが、里に火傷に効く薬を置いてある。里までモノノフたちに運ばせるのだ。拙者の言葉を守らなかった奴らへの意趣返しということにしておこう。

 

 

「……ホムラミズチとの戦、我らの勝利である! 客人殿よ、心臓の回収は頼みまする。我らはキバガミ殿含め、負傷者を運びましょうぞ。力仕事は我らにお任せあれ!」

 

 

 あの頑固者な馬面モノノフの仕切る声が聞こえた。

 結局あの頑固さに、拙者は根負けしたのかもしれぬな。いや、あの者だけでなく、

 

 

「モノノフに拙者も負けた、だな……」

 

「キバガミ殿、何か仰いましたか?」

 

「いや、何でもない。それより早く里まで連れてってくれぬか……さすがに痛む……」

 

「は、ははぁ!」

 

 

 何を畏まっているのか。

 火傷の痛みで全身が痛いというのに笑わせてきた馬鹿者は、あとで一発懲らしめてやろうと思った。

 

 

 

 瞼の裏に浮かんだ先代の姿は、面白そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 




 


キバガミ視点はおしまいです。
次回アルメリア視点に戻ります。

ゲームならホムラミズチの回復も炎の障壁もモノノフなら咆哮でよゆーです。
だからゲームをされる方は安心して挑んでください。部屋にあるウロコが壊れてなくても、脅威はさほどでもないですから。

イシュですが、STRはかなり高いです。AGIはイクサビトより低いイメージです。技の技術的な。
ホムラミズチの角を掴めなかったら翻弄されてた可能性。まあそれでも攻撃を強引に当てていきそうですがね。

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