世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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4.最果ての街の領主

 

 

 

 

 イシュとともにマルク統治院へと向かう。

 道中、コミュニケーションとして色々と話をしてみた結果、わかったことがある。

 

 一つ目、イシュは文字の読み書きができない。

 しかし全ての文字が読めないというわけではなく、古代文字は読めるらしい。

 

 二つ目、イシュは常識がない。

 辺境伯のいる場所を探すために、マルク統治院の屋根によじ登ったらしい。そして、私の家に来たのは他の家からあからさまに離れていたからだとか。足元の大きな建物のことは何故か除外して考えてしまっていたのだとか。

 まず屋根によじ登るなと言いたい。というか言った。

 言ったら『我の知ってる冒険者などは他者の家に巨木の枝を落とし破壊していた』とか訳のわからない言い訳をし出す。

 それに比べたらマシと言いたかったのだろうか。

 

 三つ目、イシュは案外チョロい。

 世界樹について私より知っていそうなので、色々と聞いてみたいと言えば『何故我が教えなくてはならぬ』と渋っていたが、イシュ以外に頼れる人がいない、イシュは天才だから、などと頼り煽てれば、上機嫌に語りだしたのだ。

 ドヤ顔が、あ、いや、得意顔がすごかった。初めて見た笑顔がこの得意顔。

 

 私から聞いたとはいえ、それからずっと講義が続いている。すでに世界樹についての話でなく、やれエネルギーの出力だとか、ビットの反射率と角度だとか、遺伝子に組み込まれた場合の汚染だとか、もはやなんの話かさっぱり。

 なので、右から左に聞き流して統治院へと歩みを進めている最中だ。

 

 ちなみに私も実はマルク統治院に初めて足を運ぶ。

 

 というか、そもそも街を歩くのはかなり久しぶりだ。ずっと家に引き込もっていたのだから仕方ないはず。

 人と関わって、健康な体を羨む機会が増えるのが怖かったし、なにより感染する病かもと考えてしまうと自然と外に出れなくなったのだ。

 

 しかし、イシュが言うには私の今の症状は感染する見込みが低いとのこと。

 つまりはやっぱり感染の危険性があるということだが、イシュが今はないと言うのなら感染はないのだろう。

 

 だけど服装だけは気をつけないと。蔦などがはみ出ていたら恥ずかしいと言うより怖い。不気味がられることが怖い。

 そしてそんな時、イシュからのフォローなどはまずないだろうし。だって人の心の機微とかよくわかってなさそう。

 

「───テロメアに影響を与えるものが世界樹のものなのか、汚染のものなのかを絞りだし───」

「イシュ、お話中ごめんだけどもうつきましたよ。マルク統治院に」

「む? そうか」

 

 表にいる兵士の人に冒険者登録のことを告げ、案内に従う。その間イシュが変なことを言い出したりしないか不安だったけど杞憂だった。

 

 そして辺境伯のもとへと案内される私達。

 

 ……マルク統治院に来るのは初めてだが、辺境伯とは何度も会ったことがある。

 あの誰も来ないはずの家に訪れる数少ない人物のひとり、それが辺境伯だったりする。

 

 彼は私の病をずっと気にかけてくれていた。何度も医師を紹介してくれたし、巫師にも掛け合ってくれた。果てには生活費の援助もしてくれた。無償というわけでなく、古代文字の解読を協力することが条件だったけど、それも気負いさせないための方便だと思う。

 

 とにかくそんな辺境伯と久々の対面。それも彼から見れば、今までずっと引き込もっていた人物が冒険者になりたいと申請してくる形。

 反対される気がしてきた……

 

 不安をよそに、案内してくれた兵士さんは扉をノックする。中からの返答後、両開きの扉を開け、辺境伯から私達が見えるようにしながら紹介を始めた。

 

 辺境伯は部屋の窓際で子犬を抱きかかえていた。私の家にまで時々連れてきてたあの子、名前はなんだったか……マルガリータだったか。人の言葉がわかってるんじゃないかって思うくらい賢い子犬だ。私事だけじゃなく公的な場でも連れていると言ってたことを聞いたことあるが、まさか冗談でなく本当だったとは。

 

 

「失礼します。冒険者の登録に来た方たちを連れてきました」

「ありがとう。そこの……二人ともかね?」

「はい!」

 

 今少しだけ目を普段より見開いた。やっぱり驚かせてしまったのかな。

 

「では君は下がってくれたまえ」

「はい! さ、お二人とも中へ」

 

 反対されてしまうかな。

 反対されたら反対を反対しよう。それすら反対されたらさらに反対を───

 

「───リア君? アルメリア君大丈夫かね?」

「ほあっ!? だいひっふほ!?」

「汝は何をやってるのだ」「アルメリア君!?」

 

 

 混乱していたところを急に正気に戻るとこうなる。そのはず。

 名前を呼ばれていたので慌てて返事をしながら歩き、その時に足がもつれて転んでしまった。普通に恥ずかしい。

 

「やはり病気が進行しているのではないかね……?」

「あ、いえ! そうじゃなくて今のは……ただ足がもつれただけで……」

 

 部屋のふかふかなソファに腰を掛けるよう手でしめされ、どぎまぎしながら腰を落とした。

 

 うわっ、想像以上に沈む……。

 

 何度か座り直して気を取り直す努力は褒められていいと思う。

 

「そんなことより、汝が辺境伯か。この紙を渡せば我も冒険者として登録が済むのだな」

「うん? その通りだとも、と言いたいところだが、世界樹を目指すのであれば私の試練を受け、実力を証明してもらわないといけない」

「時間が惜しい。はやくその試練をするがよい」

「物怖じしないというのも冒険者に必要な要素といったところかな」

 

 少しは物怖じしてほしい。

 イシュから見たら異国の地の領主なんだろうけど、偉い人なんだからもうちょっと言葉づかいとか……

 

「ではまず、諸君の関係を教えてくれないかね?」

 

 なんだその質問。

 

「私は僭越ながらアルメリア君のことを娘のように思っている。そんな彼女が冒険者になりたいと言うのであれば、私は応援しよう。聡明な彼女のことだ。何か考えがあってのことだろう。それに、どうやら自発的に言い出したようだし反対する気はますますなくなる。彼女の人生は彼女のものなのだから」

 

 いきなりそういうことを言うのはやめてほしい。するなら本人がいないところでやって……いややっぱり恥ずかしいしやらないでほしい。

 

「とはいえ、私は気になるのだよ。彼女は病が原因とはいえ、アウトドアな性格ではなかった。そんな彼女を外に連れ出した、君との関係が」

 

 ……嫌な予感がする。

 

 願わくば、イシュが変なことを言いませんように……

 

 

 

「その者は我の実験のための被検体だ」

 

 

 

 あほー……

 確かにそんな感じかもだけど、馬鹿正直に言う? 普通言う?

 

 

「被検体……? つまり、実験動物とでも、言いたいのかね?」

 

 本当にあほー……なんでそういうこと言うの? 明らかに怒ってるんだけど?

 ていうか怒ってるところ初めて見るかも。今日は初めてだらけだなー。わーい……

 

「あ、あの……イシュはあの病を治せるから───」

「私はブラックジョークというものはあまり好きではないんだ。もう一度聞くとするが、彼女との関係はどういったものかね……?」

「では我ももう一度言おう。実験動物だ」

「……ふざけるな!」

 

 辺境伯が怒るところなんて、初めて見た。

 

 どうしよう。本当にどうしよう。

 せっかく辺境伯が冒険者になるのを許してくれそうだったのに。

 

「何を興奮しているのだ。ふざけるもなにも、我は問われたから答えたまで」

「君は! 自分が言っていることを理解できていないのか!」

 

「あ、あの! イシュはあの病を治すことができるんです! そのためにも実験の協力が必要だからであって!」

「ただ面白半分で言っている可能性もあるのだよ!」

「……やはりこの時代のものは我を信じれぬのが普通か」

 

 辺境伯はすごい怒ってるし、イシュはイシュでなんだかアンニュイになってるし、なにこれ……

 

「いいだろう。辺境伯よ、我の話を聞くがいい」

 

 

 そう切り出してイシュが話し始めた内容は、私に話してくれた世界樹の呪いについてのことだった。

 

 

「つまり、アルメリア君の病の原因は世界樹にあると……?」

「うむ、そして我はこの地の世界樹を解明したいのだ。我が救うべき者たちの名誉のために」

 

 これでなんとか納得してくれるかな辺境伯……。それで私を実験動物扱いしたことを忘れてくれるかな……。

 

「その話を否定する材料はない。ないが、肯定する材料もないのではないかね……?」

「でもイシュは体を見せてないのに異常に気づいたんです!」

「それは確かにすごいことだ。しかしもしかしたら隙間から見えていて、それらしい話をうそぶいているということもある」

 

 そんなの疑いだしたら何も信じれないじゃない。

 ダメだ。辺境伯は今、かなり疑心暗鬼の状態だ。これ絶対イシュが変なことを言ったからだ。本当にあほー……!

 

「我が汝に言ったことの否定は、古の時代の否定でもあるぞ」

「世界樹については誰もわかっていないのだよ。君の話した内容も真偽はわからない」

「……我が古の時代の者だと言ってもか」

「それこそますます信用するのが難しいことだ」

 

 この部屋の空気がどんどんとギスギスしていく。もう私にできることはなんだろう。とにかく最悪パターンを考えよう。それを避けることに全力を尽くそう。

 

 考えられる最悪で、なおかつありえそうな展開……

 

 イシュが怒って辺境伯に斬りかかること。

 

 …………うん、それだけは絶対に阻止しよう。なにがなんでも阻止しよう。できるかどうかはともかくとして。

 

「では我が古の時代の者だと証明できればよいのだな」

「できるのかね?」

「言うよりも見せた方がはやい」

 

 何をする気だろう。

 あれ? ていうかイシュは古の時代の人? 普通に聞き逃しかけてたけど、そっか。それで色々と知ってたんだ……て今は納得よりも、イシュが変なことをしないかだ!

 イシュの動きを注意深く見ていたら、腕を外した。

 

 腕を外した。

 

「へぁ!?」

 

 なんだか今日は変な声ばかりあげている気がする。

 

 いや、それよりも! 腕って取り外し可能なものだっけ? え?

 

「それは……」

「この時代の者には想像もつくまい。この体は人のものとは違う。古の技術を注ぎ込んだ、アンドロイド……機械の体だ。我は人であった時の体を棄て、機械の体となって存在し続けてきたのだ」

 

 取り外された手は、体から離れてもグー、パーと動かしてただの義手ではないことをアピールしていた。

 

「機械の体になった……? そんな、魔法のようなことが……」

「かつて、ある科学者が言っていた。そこに至るまでの過程を想像できない科学を、人は魔法と言って理解をあきらめる、と。汝らにとっては魔法でも、我にとっては科学の技術なのだ」

「…………君が古の者だということは信用しよう。だが、信用と信頼は別だ」

「汝からの信頼など求めていない。我が求めるのは世界樹に関してのみだ。ここで冒険者として認められれば世界樹に関して情報が集めやすいと踏んだから来たのだが……古の知識を継がれていない点を見るに、必要ないかもしれぬな」

 

 取り外した腕を元の場所に戻し、イシュは席を立った。

 このまま部屋を出ていきそうな雰囲気だ。というかこれは出ていく。短い付き合いだけど絶対そうすると思えた。

 

 このままじゃダメだ。

 どうすれば……イシュの説得? いや、するだけ無駄だ。イシュの言ってることは間違っていない。イシュが救いたい人達を救う前段階のテスト。それを私でするというのだ。被検体という認識は事実だ。

 

 となると辺境伯を説得しなくちゃ。私が被検体であることを望んでいると伝えれば……

 

 

「あ、あの! 私の意見も聞いてください! イシュも待って!」

 

「アルメリア君……」

 

 

 イシュが私に視線を向けて動きを止めた。よかった。付き合ってられぬとか言ってそのまま止まらず行くかもという不安があったから。

 

「アルメリア君、君が冒険者になりたいという気持ちは私も汲みたい。だが、彼? と共に行くのは危険だ。確かにイシュは世界樹の知識に関して誰よりもあるかもしれない。君の病についても知っているかもしれない。だが……君のことを人として見ていない。仲間として見ていない」

「私はそれでも構わないです。この体を治すためならそれくらい全然……」

「君のことを実験動物とまで言い放つほどの人物だ。いくら治す可能性が高いと言っても───」

「辺境伯……」

 

 辺境伯はお金を持っている。権力もある。

 それだけでなく、街の人からも好かれるほどに人徳もある。

 

 高潔で、富みと名声のある人物だ。

 

 だからこそ、私と認識がズレてるのかもしれない。

 

 私はお金なんて持っていない。私の境遇を憐れんでくれている人から援助を受けて生活している身だ。

 いなくなった両親も権力者というわけでない。当然私自身もそんなものではない。

 街の人から隠れるように住んでいる身だ。好かれる以前に知られていない。

 

 私には何もないのだ。

 

 

「私は、人として見てほしいなんて思っていません。そんなことを思えるほど、余裕はありません……どんな考えを持ってたっていいです」

 

 

 善意なんてなくていい。

 高潔さなんてなくていい。

 

 

「ただ、私が求めてるのは治してほしい……それだけです」

 

 

 治るのなら、実験動物として扱われてもいい。

 イシュが助けたい人の中には私はいない。だけど、その過程で助かる可能性があるならそれでいい。私を治すためでなくていい。副次的に治るならそれで全然かまわない。

 

 そのためにもイシュには世界樹へ赴く冒険者になってもらうんだ。

 

「アルメリア君……」

「辺境伯、ですから私をイシュと一緒に冒険者として認めてください!」

「……それはできない」

「どうして!」

 

「先も言ったように、諸君にはまず、試練を受けて、冒険者として問題ないと判断されないと認めるわけにはいかないのだよ」

 

 

 え、と……それってつまり……

 

 試練さえ受ければ、冒険者として活動していいってこと?

 

 

「確かに、どんなことを考えていようと、当事者がまず求めることは治してほしいことだ。私はそれを見落としていたよ」

「じゃ、じゃあイシュについていってもいいんですね!?」

「イシュ君」

 

 辺境伯が厳しい眼をしながらイシュを見つめた。

 

「試練の内容は、タルシスの近くにある廃鉱から虹翼の欠片と呼ばれる鉱石を持ってくることだ。送迎は兵士にするよう手配しておく」

「我は世界樹の情報、もしくは古の時代についてを知りにきたのだ。だが汝らはほとんど知らぬという。ならば我が汝に認められるための試練を受ける必要などあろうか」

「……確かに私は君ほどの知識はない。古代のことも知らない。だが、今の時代については君よりも知っている。そして冒険者を支援するための財力もある。決して君にメリットがない、なんてことはない」

「ふむ……」

「それと、これは強制ではないのだが、できたらアルメリア君を守ってくれないだろうか。君にとっては彼女を仲間と認識できないかもしれないが、それでも……」

 

 辺境伯はそう言ってくれるが、あのイシュが誰かを守るなんて想像しづらい。

 チョロさはあるが、人情味はないイシュだ。実際、人でないということがわかったけど。

 

 イシュはちらりとこちらを見た後に、

 

 

「その者次第だ」

 

 

 と言った。

 

 なんだろう。その言葉だと、私の行い次第なら守るっていうことだろうか。正直かなり意外。

 

 

「そうか。では、二人にミッションを課そう。森の廃鉱から虹翼の欠片を持ってきたまえ!」

 

 

 いよいよようやく、冒険に出ることができる。世界樹へほんのちょっぴり近づくことができる。

 

 実際はまだ冒険者ではないけども。

 

 それでも確実に進めたのだ。

 

 

 私は逸る気持ちで胸を高ぶらせながら、部屋から出ていくイシュに慌ててついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




世界樹Ⅳのプレイヤーはみんな大好き辺境伯。
見た目の邪悪さと裏腹に聖人と言われまくる人の登場でした。

なお、バーローはアンドロなので、ラスボス時の能力以外にもアンドロの能力がいくつか使えます。

ロケットパンチとかロケットジャンプとか

あ、今更ですがこのお話。ステータスとかレベルとかは書く気はないです。スキルポイントとかもないです。
なのでHPとTPも明確な数字はないです。
でもネクタルとかメディカはあります。

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