世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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40.翻る旋風

 

 

 

 

 

 

 

 里で待っていた私はすることが一切なく、シウアンと一緒にイクサビトの子供たちとお喋りを興じていた。

 ウロビトの里でシウアンに聞かせたような冒険譚、それに、それからの冒険譚も含めたもの。

 

「───勇敢な少女は怯えることなく目を開けました。そしたらなんと、鰐が凍りついていたのです」

「アルメリア、あの時すごく震えてたよ」

「シウアンもじゃない……」

 

 冒険譚なんだから少しくらい盛ってもいいじゃないか。そんな思いが私にはあるけどシウアンは野暮な突っ込みばかりである。

 そのたびに子供たちは笑ってくれるから、まあ結果的にはいいけども。

 

「あ、イシュ、お帰りなさい」

 

 誰かがこの部屋に入ってきたので振り向けばイシュがいた。

 他の人たちは見当たらない。先に戻ってきたのだろうか。マイペースすぎる。

 

「イシュって熊を殴り倒したイシュー?」

「壁をぶち抜くイシュー?」

 

「ごめんなさい、子供たちにイシュのことを聞かせたらこんな感じになっちゃって」

 

 ちなみに子供たちからは結構人気である。

 常識離れした強さと言うのは憧れの対象になりやすいのかもしれない。それに子供は純粋だ。疑わずにまず信じてくれる。

 

「……じきに他の者も戻る。我は少し、疲れたのかもしれん」

「え!?」

 

 イシュが疲れた? そんなの初めてだ。

 よっぽどハードな戦いだったのだろうか。確かに服が所々焦げているけども。

 

 イシュはそれから何も言わずに部屋の奥へと向かった。

 

「なんだかいつもと違ったね」

 

 シウアンの心配げな言葉。

 疲れたとは言っていたけど、メンタル面で何かあったのかもしれない。イシュが沈んだ姿は一度見たことあるけども、それとはまた何か違う感じがする。

 

 疲れたのかもしれん、なんて曖昧な言い方。何か自信を無くしているのか、思い悩んでいるのか。

 

 何かあったか素直に話してくれたらいいんだけど、うまい方法は思いつかなかった。あの様子では煽てても効果が薄そうだし。

 まあきっとそのうち話してくれるだろう。なんだかんだでパーティのリーダーらしくなってきたのだ。ひとりで思い悩むことなんてないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、大勢が戻ってきた。

 

 牛の人はひどい怪我を負っていたが、本人が火傷にいい薬があるからすぐ治る、と笑いながら言った。周りを安心させるためというより、そう信じて疑わない発言のようだった。

 イクサビトは見るからに屈強そうだし、治癒力も高いのかもしれない。他のイクサビトも大なり小なり心配そうではあるけども、大丈夫だと信じているようだ。

 

「あ、ウーファン!」

「シウアン、ただいま」

 

 ウーファンも赤い宝石のようなものを持って戻ってきた。

 

「それが心臓だね」

「ああ、あとは頼めるか」

「うん、これさえあれば……!」

 

 あれが、巨人の心臓。

 だけどどう見ても宝石のようにしか見えない。心臓って言ったらもっとグロイものでは。まあ常識なんて関係ないか。シウアンがすぐに心臓と分かったあたり、本物なのだろう。

 

 拳大程度の大きさの宝石を両手で大事に持ちながら、シウアンは子供たちのそばで目をつぶりだした。

 

「アルメリアも、こっちにきて」

「あ、うん」

 

 そうだ。

 これでいよいよ、呪いを払うことができるかもしれないんだ。

 

 小さく喉を鳴らす。

 10年の間、体を蝕む呪いを追いだせる。長いようで短くも感じる月日。諦めから、再び希望を見出してあっと言う間だった。

 

 これでも呪いを払えなかったらどうしよう。

 

 シウアンを、というより彼女の握られている宝石を中心に、周囲を光り照らし始める幻想的な光景。

 

 その光を浴びると、イクサビトの子供の体に憑りついていた草木がボロボロと崩れ落ちていく。

 その下には彼らの種族らしい毛むくじゃらの体毛が覆っていた。

 

 他の子供も同じように植物が落ちていく。体表だけでなく、足が完全に植物と化していた子も、みるみるうちに正常な足になっていった。

 

 

 そして、私の体も。

 

 

 服の下で起きた変化がわかった。蔦はすべて剥げ落ち、皮膚は本来の柔らかさを取り戻していた。落ちていく枝や蔦が服の中でごちゃごちゃになって、元に戻った皮膚と擦れて痛い。とても痛い。

 

 痛いから涙が出てきた。痛いからだ。

 

 

「アルメリア……本当によかった。ほら、これ」

 

 いつの間にかそばにいたワールウィンドさんが、まるで自分のことかのように嬉しそうに言いながらハンカチを差し出してくれた。

 

 傍から見たら私はイクサビトの子の呪いがなくなって、嬉しさのあまり泣いている聖女ではないだろうか。その実態は枝が痛くて泣いている少女である。

 

 

「今まで本当に、大変だったね……」

 

 

 枝が痛くて泣いているだけなのに、その言葉でさらに涙が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みっともないほど大泣きをしてしまった。

 

 私が呪いを受けていたことを知っている人たちはまだいい。だけど知らない人から見たら、私の感受性がすごい高い子というイメージになってしまった気がする。ウィラフさんあたりに揶揄われそうだ。

 

 とにかく里の呪いが払われてから、イクサビトはお祝いムード。ムードと言うか実際に宴だと騒ぎだした。シウアンは恩人だとすごく感謝されていて、それに対して恥ずかしがる姿がちょっと可愛らしかった。

 

 いつの間にか完全に温度が下がったイクサビトの里だけど、その空気はとても明るく暖かなものである。

 

「お主はもう食べぬのか? まだまだ馳走はあるぞ」

 

 声をかけられ振り向けば、牛の人がいた。

 体には包帯が巻かれているが、もう動きまわれるようである。回復力がすごすぎるのか、薬の効き目がすごすぎるのか。

 

「ちょっと体を冷ましてまして……すごい熱気ですからね」

「そうだな! 本来の冷たき岩窟であっても、今宵の温もりを落とせずにいるほどの熱気よ!」

「牛の人さんは宴に行かなくていいんです?」

「牛の人……」

「あ……」

 

 しまった。アルメリアちゃんったらついうっかり。

 だけどこれは私のせいではないはずだ。だって自己紹介受けてないし。何か言われる前にそう弁明をと決めた。

 

「だ、だって自己紹介互いにしてないじゃないですか!」

「そ、そうであったな」

「私はアルメリアです! それで、あなたのお名前は!!」

 

 勢いで強く言う。牛の人は若干引き気味である。

 しかし、名を告げて、名を尋ねれば、

 

 

「拙者の名はキバガミ。イクサビトのモノノフ、キバガミだ」

 

 

 自己紹介をすることが嬉しかったのか、やけに気持ちよさげな笑顔である。

 変わった牛の人もといキバガミさんである。

 

「ところでイシュ殿が見当たらぬが、どこにおられるだろうか」

「イシュ? イシュは……まだ休んでるのかな。戻ってきてから疲れたって言ってあの寝所の奥に引っ込んじゃったんです」

「なんと……教えていただき感謝致す」

「何かあったんですか?」

 

 そう言えばキバガミさんはイシュと二人でしばらく行動してたのだ。イシュがああなった理由を知っているかもしれない。

 

「拙者の発言がイシュ殿の気を悪くさせてしまったようでな。謝罪をしたくて探しておったのだ」

「い、いったい何を……」

「勝手に事情を説明するわけにもいかぬ。イシュ殿の過去に関わることかもしれぬからな」

 

 キバガミさんはかなりの真面目タイプか。うっかり話してくれたっていいだろうに。

 というか過去に関わることなら私だって結構知っている。張りあって話し出してはダメだろうから我慢するけど。

 

「さて、拙者はイシュ殿の元へ行くが……お主はもっと食べたほうがよい。お主を蝕む呪いは消えたのだ。ならば精をつけよ」

「す、少し休憩してからにします……」

「そうか。なくなりはせぬだろうが、飯が冷める前に食うのだぞ!」

 

 笑いながら去って行くキバガミさんを見て思う。

 あの人、なんだか変わった気がする。最初に会った時より明るいような。里が呪いから解放されたからだろうか。

 まぁそれよりも、せっかくのご馳走だ。言われた通り、多少無理してでも食べよう。勝手に栄養を奪っていきそうな植物はこの体から消え去ったのだから。

 

 宴の中心に向かおうとすると、ワールウィンドさんとシウアンがやってきた。

 

「アルメリア、ここにいたんだね」

「ワールウィンドさん、シウアンも。もうご飯はいいんですか?」

 

 私を探していたかのような口ぶり。探されるような心当たりはあまりない。また過保護でも発動したのだろうか。

 

 ……にしても、ワールウィンドさんはシウアンの手を掴んでいる。傍から見れば事案だ。

 

 シウアンと一緒に私を探していたのだろうか。だからって手を掴んで探すのは、ちょっと……ひょっとしてロリコ……いやなんでもない。気のせいだきっと。

 

「私は疲れたから抜け出したくなって……そしたらワールウィンドが抜けださせてくれたんだ」

「なーるほど」

 

 あれだけ褒められたら居心地も悪くなるか。彼らは善意100%だけども。かくいう私も日ごろシウアンと接してなかったら、同じように崇めていただろう。いきなり距離感を変えるのは抵抗があったから普段通り接してられるのだ。

 

「アルメリア、大事な話があるんだ」

「はい? なんです?」

「あ、私は離れていようか?」

 

 シウアンが気を利かせるかのように言った。

 だがワールウィンドさんは手を掴んだままだ。シウアンにも聞いてほしいことだろうか。

 

 

「いや、巫女も一緒に聞いてほしい。少し場所を移そうか。他のやつには聞かれたくないからね」

 

 

 ワールウィンドさんは案内するように歩きだす。その方角は里の入口側。宴とは正反対の位置。誰もいない冷たい場所だった。

 

 宴の方は暖かそうなのに、聞かれたくないとはいえこの差はちょっとあれだ。せめて暖かい食べ物が恋しい。

 

「いったいなんです? シウアンと私に話って」

「俺はずっと君の呪いを解いてあげたかった。それがようやく叶った」

「はぁ」

 

 大事な話と言われたが、いまいち見えてこない。

 確かにワールウィンドさんは何度も私を心配していた。呪いを解くために色々と調べてくれた。

 

「アルメリア、もう君を蝕むものはない。だけど君の家には誰もいない。君の両親はいない」

「……」

「俺はやらなくてはならないことをやり遂げた。だから故郷に戻ろうと思う。だけどその前に君に聞きたいんだ」

 

 後方からの、宴の騒がしい音が遠く聞こえる。

 ワールウィンドさんの顔にはいつものにやけた表情はない。これは、誰なんだろうか。時折真剣な表情を見たことはある。冒険者として、ワールウィンドとして真剣な姿は見たことがある。

 

 だけどそれとはまた違うような、知らない人の顔。

 

 私は何をポエミーなことを考えているのだ。誰ってワールウィンドさんはワールウィンドさんだ。

 

 にしても、本題でありそうな聞きたいこととはなんだろうか。若干溜められている。流れ的に、故郷に一緒にとかだろうか。求婚か。ロリコンか。

 

 

「俺と一緒に、俺の故郷に来な───」

「お断りします」

 

 

 マジでロリコンか。

 私とワールウィンドさんの年の差は結構あるよ。私はロリってほどじゃないけど年齢差的にロリコン適用してもいいと思うよ。そう考えて思わず速答してしまった。

 

「ず、ずいぶん早い返事だね……」

「アルメリア、今のはないと思うよ……」

「何故私が責められているのか、納得できませんが」

 

 なんだ、告白への返答もムードが欲しかったのだろうか。

 ならシウアンと一緒にいる時点でおかしい。私は何も間違っていない。

 

「あー、その、言い方が悪かったね。別にプロポーズとかじゃあないよ」

「え、違うの?」

「違うよ……」

 

 シウアンの意外そうな顔に、苦笑しながらワールウィンドさんは答える。その間もその手はシウアンを掴んでいた。本当のプロポーズ相手はシウアンだろうか。それはもっとヤバイ。

 

「俺は故郷に戻る。タルシスでするべきことは終わったからね。だけどそうすると、君はひとりになってしまう」

「そんなことは───」

「君の知りあった人たちは皆冒険者だ。彼らはまだ冒険を続けるだろう。だけど君はもう、旅をする理由はなくなった。呪いを解くために今まで旅をしていたんだからね」

「ぁ……」

 

 言われて初めて気づく。そうだ。

 私の旅をする理由は、なくなってしまったのだ。

 

「い、イシュの手伝いを……」

「あいつは君を必要としていなかったはずだよ。あいつは君の、呪われた体を必要としていた。実験がどうとか言っていただろう?」

 

 宴の場から離れたここは寒い。底冷えする寒さというやつだろうか。

 そのせいだろう。体中が冷える。

 

 

「タルシスに残れば、君はひとりになる。だから俺と一緒に来てほしい」

 

 

 そんなはずはない……

 

 だっていろんな人と知りあったんだ。イシュだけじゃない。ウィラフさんやキルヨネンさん、シウアンにウーファンもついでに入れておこう。他にもメノウさんや──────

 

 

 みんな、旅に出てしまう人たちだ。

 

 

「無理強いはしない。俺のするべきことは君の呪いを解くことだった。とはいえ、君の両親のためにも君を独りにさせたくない。だからこそ、国に連れて帰りたい」

 

「……」

 

「アルメリア」

 

 

 ワールウィンドさんの提案に乗るべきかどうか。さっきまで乗る気は一切なかったのに、今は激しく心が揺れている。

 またひとりになってしまうかもしれない。呪いで引きこもっていた時と同じような日々を。

 

 そう思うと、断る勇気がしぼんでいく。

 

 けども、

 

 

「お断り……します」

 

「……本気かい?」

 

「はい。ちょっと悩んじゃいましたけど、私はタルシスに残ります。だって、残ってみんなと別れるかもしれないからって、ワールウィンドさんと一緒に行ってみんなと別れることを決めるのはおかしいじゃないですか」

 

 

 まだひとりになると決まったわけじゃない。まだ置いていかれると、別れると決まったわけじゃない。旅に出ていってしまっても、また戻ってきてくれるかもしれないのだ。なのに決めつけて、自分から別れるのはおかしい。

 

 

「うん、私はタルシスに残ります!」

 

「……そうか」

 

「ワールウィンドさんには申し訳ないですし、ちょっと寂しくもなりますが……ところでいつまでシウアンの手を掴んでるんです?」

 

「だよね、私もなんで掴まれているんだろうって思って……痛い! 痛いよ!」

 

 

 突然シウアンが痛みを訴えだした。

 そしてワールウィンドさんの手を外そうとしている。とても強い力で掴まれている。

 

 

「ワールウィンドさん!? シウアンが痛がってますよ! 離してあげてくださ───なにを!?」

 

 

 シウアンを力任せに引き寄せ、彼女のお腹に拳を放った。ワールウィンドさんが。

 

 痛みのあまり気を失ったのか、シウアンは倒れ伏す。そんな彼女を肩で担ぎ出し、冷徹な顔つきでこちらを見ている。

 

 

「ワールウィンドさん……? どういう、つもりで……」

 

 

 断られた腹いせとか、そういう感じではない。カッとなってやったにしては、その目は嫌に冷徹すぎる。

 

 

「騒がれると面倒だからな」

 

「答えになってないんだけど……」

 

「悪いが、君にも気を失ってもらう。君の望み通り、君は連れていかない」

 

 

 印術を起動するよりも先に、腹部に衝撃が走った。

 一瞬で距離を詰められたのだと理解したときには、意識が薄れゆくころだった。

 

 

 ──────なんで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───丈夫か! しっかりするのだ!」

「ぅ……? ァ……」

 

 肩をバシバシ叩かれる衝撃で、意識が戻ってくる。

 

「しっかりせよ!」

 

 めっちゃ痛い。すごい痛い。声を掛けてくれてる人が叩いているのだろう。その声の持ち主はキバガミさんだ。

 

「目を覚まさぬか!」

「痛すぎるんですが!!!」

「お、おう!?」

 

 目を開ければ視界のほとんどを埋め尽くすキバガミさんの巨体。

 その後ろには何人もの見知った顔があった。

 

 すぐさまキバガミさんをどかして周りを見渡す。どこを見てもワールウィンドさんとシウアンの姿はない。

 

「何があったのだ? お主はそこでひとり倒れていたが」

「シウアンは!?」

「巫女殿? 巫女殿は……誰か見ておらんか?」

 

 本当に連れていかれた……? なんでそんなことを。何を考えて……

 

「何があったのだ。アルメリアよ、答えよ」

「イシュ……!」

 

「き、キバガミ殿! 門兵が!」

「何があった!」

「ワールウィンド殿に斬られて……! ワールウィンド殿が巫女殿を誘拐したとの!」

「……どういうことだ! 順を追って話せ!」

 

 気を失っていた時間はそんなにないようだ。

 それなら早くワールウィンドさん止めないと。混乱していく場では集団行動など無理だろう。すぐに動けそうで、なおかつワールウィンドさんを止めれる可能性が高いイシュに言った。

 

「ワールウィンドさんが、シウアンを連れ去りました! 理由はわからないですけど、強引に連れ去りました!」

「……あの男が?」

「な、なに……! シウアン……!!」

 

 一緒に聞いていたウーファンが歯ぎしりをしそうなほどの形相を浮かべた。

 

「ワールウィンド殿……どういうつもりだ……巫女殿は我らイクサビトの恩人、すぐに連れ戻すぞ!!」

 

 キバガミさんも慌ててとりとめのない報告をする人より、私の話のほうを聞いてくれたようだ。

 おかげですぐに追いかけれる。

 

「あの男が何を考えているかわからぬが、巫女の力は我にとっても必要なもの」

 

 イシュも今回は乗り気なのか、すぐに走りだしてくれた。

 私もじっとしていられない。

 

「誰か、ワールウィンドさんの気球艇はどこに!」

「わ、私たちと同じ場所! 案内するよ!」

「ウィラフさん! お願いします!」

 

 

 

 

 

 すっかり冷気に満ちた金剛獣ノ岩窟を走る。

 ワールウィンドさんを追って。移動には気球艇を使うはずだ。ならば最初の目的地はそこ。

 

 いくつもの気球艇が並べられた岩窟の入口についたが、そこにはワールウィンドさんの姿も、彼の気球艇もなかった。

 

「くっ……! おい貴様! 気球艇を飛ばせ!」

「わかって───なにこれ……!」

「今度はなんだ!」

 

 ウーファンがイラつきを隠さずウィラフさんを怒鳴る。

 今は私も気を使っている余裕はない。

 

 

「気球艇が、動かない……! 動力が壊されてる!?」

 

「……他の気球艇を確認しろ!」

 

 

 追われないように、小細工をされた……

 

 他の気球艇も調べたが、そのどれもが動力部を壊されている。兵士のも冒険者のも、すべて。一か所だけ不自然に空いた空間があるのは、ワールウィンドさんの気球艇があった場所だろう。

 

 それ以外の気球艇を壊された。

 

 

「イ、イシュ……」

 

「走るぞ。ノアは別の場所に停めてある。あの男はそれを知らぬ。ノアにまでは小細工していないはずだ」

 

「……! はい!」

 

 

 そうだ。ノアだけは別の場所。そこまで小細工はいってないはず。

 

 

「拙者も行かせてくれ! 巫女殿を取り戻すためにも!」

 

「勝手にしろ。巫女は我にも必要なものだ」

 

「感謝する!」

 

「いいから急げ!」

 

 

 気球艇のほとんどに小細工をしていた分だけ出発は遅れているはず。

 

 まだ間に合う、そう信じてノアまで走った。

 

 

 

 ワールウィンドさんの真意がわからないまま、ただひたすら走った。

 

 

 

 

 

 

 




 


三章終了です。
また書き溜めの日々に戻ります。年末年始はあまり書けませんでした。

ワールさん、動き始めました。
パーティからシウアンが外れ、キバガミさんが入りました。

お腹パンチはダメだろと思いながらも、首裏手刀でトンッができるイメージがなかったのでお腹パンチです。ごめんなさい。

一応また三章全般を通しての後書きとして活動報告に上げとく予定です。
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