世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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43.似たような朝食

 

 

 

 

 

 また眠気がぶり返してきたのか、あくびを必死に堪えている店番の子に見送ってもらいながら工房を後にする。

 

 次の目的地は踊る孔雀亭だ。

 目的が情報収集や依頼を求めてじゃなくて、砂糖とパンを売ってもらいにというのがあれだけど。

 

 ま、まあついでに黒い依頼書について確認したい。

 予想が確かなら、きっと氷竜関連の依頼書もなくなっているはずだ。

 

 だけどメインの目的は砂糖とパンである。あとチーズとかもあればいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな理由でここに来たってわけね……」

 

 疲れ気味の言葉をくれたのは孔雀亭のお姉さんである。

 時間など関係なく人がいるイメージだったけど、今は閑散としている店内。一応何人か兵士の人とかもいるけども。

 

「まぁ、今日は全然お客さんが来なかったから色々と余っているけどね……だからってうちは定食屋じゃないのよ? おつまみとかは作ったりするけど」

「そこをなんとかお願いします……この時間だとどこも閉まってますもん……」

「はぁ……しょうがないわね……」

「わーい!」

 

 しかし今日は本当に人が少ない。

 金剛獣ノ岩窟での立ち往生のせいだろう。そんな彼らも明日には戻ってこれるはずだ。きっとその時はイクサビトも混ざってそうだ。というか確実に混ざっている。

 それはそうと、と依頼ボードに目を見やる。

 

「……黒い依頼書、とうとう一つになってますね」

 

 前回は二枚あった黒い依頼書。北の濃雲が払われたのに、増えずにいたということはやはり三竜限定のようだ。

 残っている内容はきっと赤竜。

 

 氷竜の石柱はやはりあの遭遇時、どこかのギルドか兵士が破壊したのだろう。助かったような……助かっていないような……

 ウィラフさんが言うには絶対にやるな、とのことだし……なんとも言えない。

 

「ええ、誰かが依頼を達成したんでしょうね。自分の意思でやったのならいいんだけど……」

 

 食パンと薄く切られたチーズを厨房から持ってきながら、お姉さんが気だるげに言った。

 

 兵士が止めていても、結局誰かが達成してしまったことを考えるとやはり喜べないようだ。

 

「ほら、パンとチーズ。あと砂糖はこれね」

「あ、ありがとうございます」

 

 砂糖の入った小瓶と液体の入った小瓶の二つを渡された。

 なんだこれ。

 

「そっちは蜂蜜よ。おまけでつけといてあげるわ」

「あらまあ。でも絶対何かあるんですよね……?」

「まぁいいじゃないの。で、その代わりなんだけど……」

「やっぱり何かあるんですね……」

 

 この蜂蜜は返したくなってきた。

 いや、蜂蜜分もお金払うので穏便に済ませてほしいところである。

 

「特別なことじゃないわ。今回はお代を取らずに譲ってあげる。だから次回はあなたたちが何かご馳走してくれない?」

「はい? そりゃまたなんでです?」

「私も冒険者との付き合いは長いのよ。そんな付き合いによる勘……かしら。何か大きなことが起きるって……だから少しでも、縁は作っておきたいじゃない?」

「……そんなんだから俗っぽいイメージが消えないんですよ」

 

 要するにコネ作りではないだろうか。

 まぁ思ってたような面倒事じゃなくてよかったけど。

 

「あら、いいじゃないの別に。近寄りがたい雰囲気よりは親しみやすさがある方が断然お得だわ」

「したたかすぎますよ……まぁ、それならお財布に余裕ができたら奢りますよ。今は無理ですけど」

「ええ。楽しみにしてるわ。ついでに依頼を見ていかない?」

 

 金銭面がかなり苦しくなってきたし、やれそうなものを探すのもいいかもしれない。

 

「断る。明日に備えてアルメリアを休ませたい」

「そう。もう遅いものね。こんな時間なのに兵士や統治院はまだ動いているみたいだし、明日は勝負所なのかしら」

「まあ、そんな感じですかねぇ」

「なら今日はもうゆっくり休みなさい。また来てくれたらいいわ」

 

 完全にお帰りムードになったので、流されるままに孔雀亭の外へ出た。

 

 まさか本当に食料と調味料をもらうだけになるとは。

 明日を無事に終わらせて、報酬をもらって、ワールウィンドさんからも迷惑料をもらって軽いお金持ちになったらまた来よう。

 その時はきっと孔雀亭の客入りも元に戻って……いや、もっと多く入っているだろう。

 

 明日が無事に終わる想像をして、ようやく気づけた。

 

 先のことを約束して、少しでも無事を祈っているのだろう。

 

 ダメだ、気づいてしまうと、心配されてると思うとこう……ニヤけちゃう。嬉しさとかでほら。しょうがないのだ。

 

 

 

 

 このまま真っ直ぐ家へと戻り、私は久しぶりの自分の部屋で就寝した。

 

 イシュはリビングに何冊も本を持ってくつろぐことにしたようだ。

 古書じゃないものまで手を出していたあたり、もしかしたら今の時代の文字も読めつつあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄鶏の鳴き声が聞こえてくる。

 その声により、少しだけ微睡の中意識を形作った。

 

 朝が来たのだ。

 

 しかし雄鶏の鳴き声で動きだすのはちょっと早すぎる。確か時間はまだ余裕がある。

 7時を知らせる鐘の音はまだ鳴っていない。それまではまだ寝ててもいいだろう。

 

 二度寝の誘惑とは強いものなのだ。

 セフリムの宿では皆一緒の部屋だったから、あまり深く寝入った気がしない繊細さを私は持っているのだ。涎垂らしながら寝てたりしたら恥ずかしすぎるしね。そんなことを考えてたら二度寝など出来なくて。

 

 つまり今の二度寝への誘惑は凄まじいものなのだ。

 

 そんな誘惑に抗えるわけも、なく───

 

 

「起きよ。間抜けな寝顔に気の抜けた寝息を立てて……まったく見苦しい」

 

「デリカシーを! 持ってくれません!?」

 

 

 聞こえてきたひどいお言葉に跳び起きざるを得なかった。

 

 昨日は早く休ませたい的なことを言っていたんだから、もうちょっと寝かせてくれてもいいじゃないか。

 

「まだ早くないですか? 前みたいな時間ぎりぎりとかでもないですし」

「もう充分休めただろう。それに、他の者の準備にどれほど掛かるかわからぬ」

「まあ休めましたけども……」

 

 いつもよりはるかに休めたけども……

 体の呪いがなくなって初めての眠りだったのもあるかもしれない。嫌な起き方だったけども、すごいスッキリである。

 

 もはやイシュの前で着替えることに慣れつつあった私はすぐに着替え、リビングへ一緒に向かう。

 

 朝食は昨日もらったパンとチーズ、蜂蜜を使う。砂糖はイシュのコーヒーに全部突っ込んであげよう。何気に甘党なようだし。コーヒーじゃなくジュースじゃダメなのだろうか。

 

 食材のシンプルさから特に手の込んだことはしない。チーズトーストに蜂蜜をぶっかけてやるだけだ。

 

 そんなわけで我が家の朝食として食卓に置かれたのは2人分の蜂蜜チーズトースト。

 あとコーヒーと水である。コーヒーはイシュである。家主は私のはずだけどまあいい。

 

「しかし……」

「? どうしました?」

「汝はこれしか作れないのか。前も一緒だったが……」

「食材が今はこれしかないからです。たまたまです」

 

 そういえば前もチーズトーストだった。

 熊騒動時はドタバタしてて朝食抜きのようなものだったし……しかし文句を言うのであればイシュも手伝ってほしいものだ。

 

「ていうか前より一応豪勢なんですよ。蜂蜜かかってますし」

「食べ終わったら統治院へ向かう。我ら以外の動きも把握しておいたほうがいいだろう」

 

 無視ときたか。

 蜂蜜による豪勢さアップを主張したのに無視である。

 

 今日の話し合い。無事に終わればいいんだけど。

 向こうもきっと呪いに苦しめられているのだろうし、話し合いが穏便に終わってもシウアンは忙しくなりそうな。そうなるとウーファンが怒りそうだ……

 

「……そういえば、シウアンの力があればイシュの目的は叶うんですか?」

 

 先のことを考えて、ふと気になったことを尋ねた。

 イシュの目的はハイ・ラガードの魔物になった人たちの解放。そのために、世界樹のあり方を変える方法を探していた。

 

「巫女は確かに世界樹へ働きかけることができるのを確認した。それがハイ・ラガードでも通じるかは不明だ。だが現状、巫女の力は最も可能性が高いのも事実」

「はぁ」

「我の目的が達すことができるのか、確かめるためにもまずは巫女を取り戻さねばならぬ」

 

 そう言い終えて、チーズトーストに齧りついた。

 

 シウアンが戻ったら、ハイ・ラガードへ行くつもりってことか。

 言うとしたら今だろうか。

 

「……あの、私もハイ・ラガードについていっていいです?」

「む?」

「タルシス以外も見てみたいですし……ダメですか?」

 

 観光という気持ちもあるけど、たぶんイシュは目的が達成したらもうタルシスに訪れることはない気がするのだ。それなら私から足を運びやすいように、一緒に行って土地勘を培うつもりである。

 

「我が禁止する理由もない」

「一緒に行動しようと思ってますから、許可は欲しいなぁと」

「我の邪魔をしないのであれば問題ない」

 

 許可が出たことに安心しながら残りのトーストを食べきる。適当に蜂蜜をかけただけなのに、案外美味しい。ちょっと焦げちゃってるけどその分パリパリでもあるし、良し。お手軽だし今後も作ろう。お弁当には向いていないけど……あ、蜂蜜の上にチーズをのせて焼けば……

 

 今後得意料理は、と聞かれたらチーズトーストと答えよう。そう思うくらいには真剣に考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食も食べ終わり、旅支度を整えてマルク統治院に行く。

 忘れ物はないし、戸締りも完璧である。ちゃんとウーファンの杖も持った。ローブの下には普段のインナーと違い、レッドダブレットが着こまれている。

 

 統治院前にはまだウーファンの姿は見えなかった。

 入口の兵士にウーファンが来たら中で待っていることを伝えてほしいと頼み、辺境伯がいるであろう執務室へと向かう。

 

 ノックを形だけして、返事を待たずして中にイシュは入っていった。

 

 ……まあいいや。

 

「ああ、諸君か。予定より随分早いな。しっかりと休めたかね?」

 

 中にいたのはいつものように辺境伯。

 それと、

 

「気合充分と言ったところか。やはりそれくらいの気概がなければだな!」

「力み過ぎもどうかと思うけどな。ま、あんたが早く来たのはそういうわけじゃねぇだろうけどよ」

 

 むさ苦しい筋肉ことギルド長と、チンピラ風人相のカーゴ交易長が並んでソファに座っていた。

 

「うん? ウーファン殿はどうしたのだね?」

「後から来るだろう。時間までには間に合うはずだ」

「そうか。ならば構わないが……せっかく早く来てくれたのだ。今日の打ち合わせを少しでもしていたほうがいいだろう」

 

 ギルド長も交易長もここにいるということは、この二人も今日は同行するということだろうか。

 

 かけたまえ、とソファに勧められて先客二人の向かいにあるソファに腰かける。相変わらずのふかふかさ。

 

「帝国が指定した時と場所、そこに私が赴くこととなる。そこまでの移動、及び護衛としてニーズヘッグに依頼を頼みたい。ここまではいいかね?」

「問題ない。続けよ」

「領主相手でもあんたはその態度なんだな……」

「構わんよ」

 

 交易長であるチンピラ……もといお兄さんはそういえばイシュと辺境伯の会話を見るのは初めてか。というかほとんどそうか。

 こうして同じ場に揃うのは珍しいことなんだろう。

 

「指定された場所に赴く前に、一度金剛獣ノ岩窟、イクサビトの里へ行くつもりだ」

「俺のとこの作業員を連れてな。立往生を喰らっちまった連中の回収だ」

「彼はその後、我々と共に来てもらう予定だ。我々の気球艇技術は本来、帝国の技術なのだろう。本場の技術を見て、少しでも吸収できればと思ってな」

「それに、話し合いの最中にまた気球艇をいじられたら困るからな。見張りも兼ねてだ」

 

 交易長がこの場にいる理由を聞いて、私が思ったことはひとつ。

 

「交易長もイシュのこと言えない言葉遣いじゃありません……?」

「……ほっとけ」

 

 ごほん、と辺境伯が咳ばらいをした。ぐだりかけた流れを流すつもりのようだ。

 

「ギルド長にもついてきてもらう。岩窟で冒険者の回収が済んだ後も、何割かはタルシスに帰還せずに絶界雲上域に向かうかもしれないからな。その者たちの指揮を頼みたい」

「ウム。相手は野盗や魔物とはわけが違う。勝手な暴走はさせんとも。だが……」

「ああ、彼らの動き方次第では荒事になるかもしれない。しかしその時は撤退を大前提としてほしい」

「承知した」

 

 ギルド長も言葉遣いはたいがいではないか。

 私以外みんなひどいものじゃないか。どうなっているんだ。

 

「さて……アルメリア君、イシュ。ギルド長にも言った通り、最悪の場合は撤退を大前提として護衛を頼むこととなる」

「巫女を取り返し、撤退すればよいのだな」

「……巫女殿がその場にいれば、それが一番望ましい。だが話し合いの場に巫女殿がいるとは限らない」

「ならば奴らを追い詰めるまでだ」

 

 撤退とはいったい。

 

「我にはそれをするだけの力がある。気球艇同士の争いでなければ、我に勝てる者はそういない」

 

 自信満々の発言。実際そばで見ていてその力をよく知っている身としても、嘘ではないとわかっている。ギルド長などもイシュの戦う姿は見たことないはずだけど、実績があるのは知っているのだ。

 しかし、

 

「向こうにはワールウィンドさんがいるんですよね……」

「それがどうしたというのだ」

 

 イシュは認める気はないだろうけど、ワールウィンドさんはイシュと互角に近い実力の持ち主だ。二人が最初に会った時の戦いではワールウィンドさんの方が優勢であったくらいだ。イシュは腕飛ばしというトンデモ攻撃で無理やり勝ちを奪ったけども。

 しかし今はすでに手のうちがバレている。奇襲は通じないだろう。

 

「あのオッサンか……」

 

 交易長が難しい顔をしながら言葉を漏らす。

 

「タルシスの気球艇に武器を備え付けるのを一番反対したのはあのオッサンだった。理由はサイズの問題だのコストの問題だのと並べられたけどよ。思えば、自分の都合が良い部分だけを教えてたんだろうな……」

「この街に来た時から……始めから、ワシらを出し抜くつもりだったか。いずれ敵対することを見越して気球艇の技術を絞る。抜け目のないことだ」

「……あんた、あのオッサンに戦うところを見られたりとか、あるか?」

 

 見られるどころか一緒に戦ったりなどもあったりするけども。それどころか手合わせとか言って朝から人の家の庭先で戦っていたり……

 

「何度か戦った。どれも我の勝利だったが」

 

 あの時の手合わせは、あらかじめイシュの力を計り直すつもりだったということだろうか。腕飛ばしに警戒したとき、どういった動きを見せるのか、把握するために。

 

「てことは、完全に手のうちはバレてるわな……あのオッサン、10年前から計画してたんだ。障害となりえそうな相手はしっかりチェックしてるはずだぜ」

「……イシュ、もしもの場合はやはり撤退を念頭に入れておいてくれ」

 

 辺境伯は改めてイシュに頼むように言った。

 

「小細工を弄しようと、我の力に対抗できるとは考えづらいが」

「それでも、だ。何度か君と戦ったということはそれだけ警戒している。もしも君を失うことになれば、一方的な展開がありえるのだよ」

「ふむ……状況次第だな」

 

 実際に一番警戒を向けられるのはイシュだろう。ここ最近の世界樹への道に大きく貢献した存在でなおかつ、古代の知識を持つ人物。さらには力もある。そして常識がない。

 考えてみるとほんとに動きが読みづらい厄介な人物だ。

 

「辺境伯よ。ワシらにとってはお前さんも失うことは避けたい。それはわかってくれているな?」

「もちろんだとも。だが一つ訂正をさせてもらえるならば、誰も失ってはならないと言ったところだよ。それはこの場にいる者だけではない」

 

 扉がノックされ、部屋の外から兵士の声が聞こえてきた。

 ウーファンが来たことと、気球艇の準備ができたと伝えにきたようだ。

 

 

「さて、では行こうか諸君! 帝国と手を取りあう可能性を捨てないためにも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
のほほん平和回終了です。
次回、南の聖堂に入ります。

今更ですが本当に会話パートの方が多いねこれ(´・ω・`)
会話パート>ボス戦>その他

迷宮要素はゲームをプレイでhageを楽しんでください
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