世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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47.千年前の彼らを殴りたかった

 

 

 

 

 

 自身を巻き込む爆炎の術式。

 どういう発想に至ればそんな行動を起こせるのか理解ができない。

 

 それに木偶ノ文庫は書物と植物で満ちた古の図書館だ。

 こんな場所で火を扱う危険はどれほどのものなのか、容易に想像がつくはずだ。なのに何故。

 

 術式による爆炎は収まっても、着火により広まる火炎は終わらない。

 部屋中を炎で満たしている。

 

 刺し違えてでも俺を止めるつもりだったか。

 だがそんなものは無駄だ。部屋をひとつ出ればこの炎は届かない。部屋の仕切りは本棚ではなく、その内側に石壁がある。熱こそ多少は伝わるだろうが、完全な無駄死にだ。

 

 

「───っ!?」

 

 

 火炎の中、飛んできたナイフを砲剣で弾く。

 

 爆炎の中心にいたのに、未だに生きていると言うのか。

 いくら火の印術に適性が高いと言っても人間と体は変わりない。なのに何故。

 

 

「馬鹿な!」

 

 

 続いて飛んできたのは火球。

 術式を放てるほどの気力が残っているという証。死に体ではないということ。

 

 木を燃やす渇いた音が、熱により歪める視界が、紅蓮の炎の幕が、彼女の姿を隠している。

 

 戦力足りえないはずの彼女の姿を。

 

 

「くそっ……!!」

 

 

 再び飛んできた術式。今度は爆炎の術式だ。

 夥しい火炎が迫り、砲剣を盾にしながら体を伏せて抵抗する。

 

 ───不味い。

 

 先行した三人を追わなくてはならないというのに、この女一人に手こずっている。

 いや、それどころか追い詰められている事態。

 

 火炎もろとも吹き飛ばそうにも、先の方陣破壊でドライブを放ってしまった。

 今は砲剣を冷やさないと使い物にならない。

 しかし周囲の火炎がより一層、砲剣に熱を与える。

 

 ───まさか、それが狙いか。

 

 この火炎は姿を隠すためだけではなく、砲剣を無力化させるために。

 そのために自らを巻き込んでの爆炎を放ったのか。

 

 だが自身を炎から守る術はいったいなんだというのだ。身ひとつでは不可能だ。

 

 

「皇子を信じて行動するって、言ってましたよね」

 

 

 赤く染まる部屋の中、彼女の声が聞こえる。

 声の方角に目を向ければ、悠然と立つ姿があった。

 

 その姿は普段のローブの姿と違い、赤い服を身に纏っている。

 耐熱性の優れた防具といったところか。だがそれだけであの爆炎を防げるものか。

 

 

「それが……どうした!」

 

 

 またも放たれた火球を躱し、距離を詰める。

 砲剣のドライブが使えなくても、斬ることは問題ない。

 

 対するアルメリアは、短剣を前に構え、肉薄する寸前で再び爆炎を放った。

 

 またも己を巻き込む荒業。

 

 

「……っ!!」

 

 

 爆炎に吹き飛ばされ、またも彼女の姿を見失う。

 

 ……認めるしかない。どういうわけか彼女は炎を物ともしないようだ。

 自身を巻き込む術式を連発している様から、先ほど見えた姿から、もはや素直に認めるしかない。

 

 火の印術師は距離さえ詰めれば無力化できる、などと言う考えは排除するべきだ。

 

 距離を詰めてもなお周囲を飲み込む炎を放つ、人型のホムラミズチと対峙していると考えたほうがいい。

 

 これは侮れる相手ではない。戦力足りえない相手ではない。

 

 人を焼き尽くす魔物と思って対峙しなくてはならない。

 

 

「皇子が間違ってたら、とか考えないんですか」

 

 

 火炎の中からまたも声がする。

 戦いながらも揺さぶりをかけるつもりか。10年守っていた少女は随分と強かになったものだ。

 

 

「そんな言葉に惑わされると思っているのか……殿下は10年もの間、ひとりで帝国を導いてきたんだ! 殿下がたとえ間違っていようと俺たちは彼を信じて行動するのみ!」

 

「間違えるはずがない、とかじゃないんですね……」

 

「殿下とて人間だ。間違えもする。だがそれがどうした! 間違えようとも、俺たちは彼についていく! その決意は変わらない!」

 

「そうですか……安心しました」

 

 

 どこにいる。

 炎の中から聞こえる声は、彼女はどこにいる。

 

 声は動きながらなのか、移動していることはわかる。次はどこから。

 

 途端、左頬に衝撃が走った。

 ナイフによる攻撃ではない。術式による攻撃ではない。

 

 これは……

 

 

「拳だと……?」

 

「痛ぁ……頬骨張っててむかつく!!」

 

 

 この局面で、拳で殴りかかるなど。

 

 

「侮辱しているのか!」

 

「八つ当たりって言ったでしょうが!! さっきのふざけた答えのおかげで何の遠慮もなく八つ当たりができると思ったのに! やっぱり殴るって難しい!」

 

 

 その言葉に思わず面食らいながらも斬りつける。

 あまりの理解不能さに一瞬思考が真っ白になってしまった。

 

 今度は爆炎を放たれる前に剣が届いた。だがそれは前に突きだされた短剣の鍔によって止まってしまう。

 

 この細腕に止められるほど気が抜けてしまっていたようだ。今ので確実に決めるべきだった。

 

 

「くそっ!」

 

「あっぶな!!」

 

 

 ふざけた掛け声と共に再び吹き荒れる爆炎。

 

 取り乱した結果、チャンスを逃してしまった。だが収穫はある。

 

 

「……その短剣か。火の聖印を纏っているな」

 

 

 彼女は聖印は扱えなかったはずだ。

 聖印は攻撃的な術ではなく、身を守る術。火の聖印はタルシスで覚えている者はいなかったはずだが、短剣のルーンが起動式となっているのだろう。

 爆炎が起きる前に短剣から奇妙な発光があった。

 

 火の聖印。それは敵の火炎から仲間を守る術だ。そいつを使い、自身の炎から守るという形か。さらには耐熱優れる防具も着用しているときた。

 

 随分と考えて防具を選んでいたようだ。冒険者として思いのほか優れていたか。周囲に埋もれていたため気づかなかった才能だ。

 

 返事は帰ってこない。

 あの装備なら今の爆炎も問題ないのだろう。こちらはかなり痛みを堪えている状態だと言うのに。

 

 

「……八つ当たりとはどういうことだ? またイシュが何かやらかしたのかい?」

 

 

 普段話していた時と同じような、タルシスにいたころと同じ声音で問いかける。

 まるで日常会話のように。

 

 声をあげれば場所がある程度わかる。まだ若い少女は日常を求めて今の声音に釣られるはずだ。

 

 

「イシュは、何もやらかしてません」

 

 

 ───引っかかった。

 

 声の方角に顔を向ければ、視線を落としている彼女の姿。

 炎に揺られて見えづらいが、確実に姿を捕らえた。

 

 

「やらかしたのは…………そうさせたのは…………!」

 

 

 爆炎もかなり放ったとはいえ、まだ扱ってくると考えて行動した方がいい。

 

 向こうの姿を先に補足できたアドバンテージを捨てるわけにもいかない。

 未だ姿を見失っているフリして、視界の隅から彼女の姿を見逃さないようにしなくては。

 

 移動をした瞬間、あるいは術かナイフを攻撃に使った瞬間、距離を詰めて斬る。

 

 

「イシュにそうさせたのは……あなたたちじゃないですか!!」

 

「なっ……!?」

 

 

 爆炎とも火球とも違う攻撃が視界を埋め尽くす。当然ナイフでもない。

 

 奴らと分離される際に見た業火の壁。それも最初の時より遥かに大きな炎が呑み込むように迫ってきていた。

 

 呑まれないように距離を離す。

 だが業火は追いかけるように迫るのをやめない。

 

 

「厄災を前に、たった一人を頼り続けて! すべての選択を委ねて! 責任をたった一人に背負わせて!!」

 

 

 炎の向こうで彼女が吠える。

 その叫びに呼応するように炎がより強く燃え上がり、勢いつけて迫りくる。

 

 

「信じてついていった? 間違えても構わない? その重荷を背負わされた人は、どれだけ影を落とされると思っているんですか!! 千年もずっと背負い続けてたんです!!」

 

 

 この業火は止まらない。どういうわけか、彼女の感情に大きく影響を受けているようだ。

 引っかかった獲物はとんでもない化け物だった。

 

 

「どうして誰も止めなかったんですか! どうして誰も、一緒に悩んであげなかったんですか!!」

 

 

 もう砲剣の温存など考えていられない。

 迫り来る業火をかき消すためにも、暴発させて吹き飛ばすしかない。

 

 

「気づいたときにはひとり城に取り残して……なんで誰も、あの人と一緒に降りようとしなかったんですか!! 無理やりにでも引っ張ってあげればよかったのに! 手を振り払われても、何度もその手を掴んであげたらよかったのに! なんで!!」

 

 

 走りながらの砲剣のドライブを起動させる。

 途中で暴発しないように砲剣から注意を逸らさず、迫る業火に呑み込まれぬように足を止めず。

 

 

「千年前と同じことをあなたたちはしようとしているんです!! だから代わりに、八つ当たりさせてください!!」

 

 

 こんな炎での八つ当たりなんて。

 

 

「たまったもんじゃないな!!」

 

 

 叫びながら暴発寸前の砲剣を業火に投げ入れた。

 

 業火の中に呑み込まれた瞬間、辺り一面の火炎を吹き飛ばす暴風が生まれる。その暴力的な衝撃をまともに浴びないように地に伏せて身を委ねた。

 

 

「…………化け物か」

 

 

 見えた姿に思わず悪態をつく。

 どこが戦力足りえないというのか。この惨状を見て、そう思えるというなら今すぐ代わりに戦ってほしい。

 

 迫る業火の壁がなくなったというのに、次の術式をもう用意しているのか。

 それもまた違う術式。火球とよく似たものだが、込められた威力が圧倒的に違う。

 

 却火の術式。

 

 鎧ごと焼き尽くさんばかりの火の球が用意されていた。

 

 防ぐ手立てがない。砲剣はもうどこに飛んでいったのか。そもそも形を残しているのかわからない。

 この鎧は優れたものだが、却火相手では持つとは思えない。仮に耐えたとしても、肉体は持たないだろう。すでにこちらは息も絶え絶えの状況だというのに。

 

 

「……」

 

 

 完敗だ。

 10年間、守らなくてはと思っていた少女に完膚なきまでに負かされた。

 殿下の計画を遂行するためにも止まるわけにはいかなかったが、手の打ちようがない。

 

 

「……」

 

「……抵抗しないんですか」

 

「帝国騎士の証、殿下から賜った砲剣はなくなってしまった。防ぐ手立てもないし、避ける余力も残っていないさ……」

 

 

 それに、と続ける。

 

 

「君に、討たれなくてはならない理由があるからね……他の奴だったら、死に物狂いで抵抗するけど君になら、まぁ因果応報って受け入れれるさ……」

 

「……理由、ですか?」

 

 

 早くその火を放ってほしい。

 こうしている間にも、少しずつ息が整っていく。燻されるような熱さの中でも、呼吸を取り戻すことができてしまう。

 体力が戻れば、抵抗する理由が生まれてしまう。

 

 だがもう、疲れたんだ。

 10年前に時間が止まってしまった、彼らの元へと送ってほしい。

 

 10年ぶりの殿下の姿を見るのも、俺には辛く思えていたのだ。きっと彼らには怒られるだろう。怒って、殴られて、それでもまた、仲間として迎えてもらえるはずだ。

 

 

「なんだい……まだ、気づいてなかったのかい……」

 

 

 どこか頭が悪いんじゃないか、と時折思わせていたが、まだ答えに辿りついていなかったのか。

 それなら、答えを教えてやろう。

 

 それが切欠で、その火が放たれるだろうと見込んで。

 

 

「10年前……君に、呪いを運んだのは俺だよ」

 

 

 結界越えを強行した際、服か荷物に呪いが付着していたのか、発現せずに俺の体に潜伏していたのか。なんにしろそれが、遠い最果ての地タルシスでアルメリアに感染した。

 少女は何も答えない。

 

 

「10年前、結界越えを果たしたが……瀕死の状態だった。そんな時、君の両親が俺を助けたんだ」

 

「両親が助けたのは以前、聞きました」

 

「そう、だね。だけどこれは聞いたことないだろう……? 君の両親が、死んだ理由は……」

 

 

 楽になりたいという一心で、この少女に隠していた理不尽をぶつける。

 いや、正しい仇の在り処を教えることとなるのだ。ならばいいだろう。

 

 

「俺を助けようとして、碧照ノ樹海に潜ったんだ……結界を越えるための秘密を探るために、まだ世界樹の調査の知らせが出ていなかったのに……ほんと、お人よしだったよ……」

 

 

 冒険者稼業をやめていたのに、見ず知らずの行き倒れの事情を聞き、手助けをしようとして樹海に潜った夫婦。

 もしも、結界越えを果たしてなければ夫婦は樹海に行くことはなかった。夫婦の娘も呪いに蝕まれることはなかった。

 

 

「君の両親が戻ってこないまま、幾月もの月日が流れた……俺は樹海には向かわずに、君の家に入り浸った。探しに行かずに、両親から君を頼まれたからと自分に言い聞かせ……その結果、呪いは君に感染した……」

 

 

 もしも夫婦を探しに樹海へ赴けば、変わっていたかもしれない。

 夫婦は危機的状況から助かり、俺は夫婦の娘と接触が少なくなって呪いが感染することなく消滅する。

 

 そんな、もしもを浮かべるたびに罪悪が心を押しつぶす。

 

 

「もうこれでわかっただろう……10年間、君の呪いを解いてあげたかった理由は───君の両親への恩じゃない」

 

「罪滅ぼし、ですか」

 

「ああ……直接的ではないにしろ、君の両親の仇は俺だ。そして、君に呪いを運んだのも……俺だ」

 

 

 思いを吐露するというのは、気持ちがスッキリすると言っていたのは誰だったろうか。

 10年前の仲間たちか、それとも10年の間に知りあったタルシスの奴らだったか。

 

 なんにしろ、ほんの少しだが肩の荷が下りたような気持ちになれた。

 

 

「そんなの───前から知ってたに決まってるじゃないですか」

 

「………………嘘はよくないよ」

 

「いや、なんでこのタイミングで嘘なんて言うんですか。具体的には深霧ノ幽谷でもしかしてって思ってましたよ、本当に」

 

「───は」

 

 

 そんなに前から、気づいていた?

 確かにあの時、一度疑われたことがあった。だが彼女はそれ以上踏み込まなかった。

 それ以外、特にこれといった変化は見せなかった。

 

 もしもそうだとしたら、ずっと演技をしていたのだろうか。

 たいした役者ぶりだ。

 

 

「ずっと……復讐する機会を探していたのかい……?」

 

「物騒すぎません?」

 

 

 何を言っているんだとばかりの反応。

 気づけば準備状態だった却火は霧散していた。

 

 

「引きこもっていたままの私じゃないんですよ。いろんな人、というには偏ってますけど、特殊な人をいっぱい見てきたんです。だから、どういう思いで過ごしていたかもちょっとぐらい想像はつきます」

 

「……同情してくれてるのかい?」

 

「そう、なるんですかね……? 10年、私のためにしてくれたことを思えば仇討ちだーってならないです。それと、私としてはイシュの味方でいたいんです」

 

 

 あいつの……?

 話の繋がりが見えない。突然出てきた傲慢な奴の名前。

 

 

「ワール……ローゲルさんは、イシュが慕っている、千年前の人たちと少し似ているんですよ」

 

「俺が……?」

 

「はい、だから八つ当たりしました」

 

 

 わけがわからん。

 あいつの味方がいたい。あいつの慕っている人に似ているから八つ当たりをした。

 嫉妬というにはその八つ当たりも物騒極まりないものだった。

 

 

「ローゲルさんは、いや、帝国の騎士はたった一人の背中に持たれかかってるんです。イシュに頼った千年前の人たちのように。このままだと皇子はイシュと同じ道を歩みます」

 

「……そうはならないさ。殿下は、我らと共に世界樹に呑まれることとなる……口惜しいがな」

 

「結果はそうですが、同じ気持ちにはさせるはずです」

 

「……それと、あいつの味方でいたい理由が繋がるのかい?」

 

「イシュが今のイシュになったことは、幸福とは思えません。イシュはずっと過去に囚われてますから……。私はそれから解放してあげたい……けど、イシュはそれを許さない」

 

 

 少し目を離した間に随分と入れ込んだものだ。

 それともひな鳥のように、最初に手をひいてくれたから強く懐いたのだろうか。刷り込みのように。

 

 

「皇子が今進んでいる道の先は、第二のイシュです。信じ、ついてきてくれた人たちの希望を全て背負い、自身が潰れることも許せず、ただひたすらに力を尽くす存在……希望のために、間違いを厭わずに……」

 

「俺たちは、殿下が間違っていようと───」

 

「正す気がない、完全な思考停止の信頼なんて……背負わされる方には重荷なだけです。あなたたちが楽になりたいだけの、自分勝手な願いです」

 

 

 肉体だけでなく、言葉でも追い詰める気か、この少女は。

 

 

「今ならまだ皇子が第二のイシュになるのを止めれるはずです。というか止めてください。千年前にイシュを信じついていった人たちとは違う姿を、イシュに見せてください。あの人に、千年前の人たちを見限らせる切欠を与えてください」

 

 

 却火を消した理由はそれか。

 殿下を説得し……重なる状況から、希望のある光景をイシュに見せてあいつの目を覚まさせる。

 

 自分勝手な願い、という言葉をそっくりそのまま返してやりたい。

 

 

「……そんな言葉で俺が従うはずがないだろう。イシュがどう思おうと、俺には関係ない。俺は、あいつが嫌いだ」

 

「皇子が苦しむことになっても、ですか」

 

「……」

 

「皇子が間違えていると、ワーゲルさんも言ってましたよね。皇子はそのことに気づいているのかどうかわかりませんが、必ず彼は後悔します。ひとりで希望を背負うような責任感の強い人を、ずっとそばで見てきた私が言うんです」

 

「ローゲルだ……」

 

「ローゲルさん、皇子を苦しめたいと言うのなら、これ以上は何も言いません」

 

「……」

 

 

 話は終わりとばかりに、少女は倒れている俺から離れていく。

 遠ざかっていく小さな背中を、眺めるだけだ。ボロボロの身だが、死に至るほどではない。武器はなくなったが体力を取り戻せば、少しは戦える。

 

 戦えるようになったら、どうすればいいのだろうか。

 

 かつての仲間たちならば、殿下を止めに行くだろう。仲間たちを想えばそうするべきだ。

 殿下を苦しめることなど、騎士としてありえてはならない。あの少女の詭弁だとしても。

 

 だが、もう己に砲剣はない。帝国に仕える証である、砲剣が。

 

 砲剣と共に、騎士の誇りを見失ってしまった気分だ。

 

 何か、もうひと押し欲しいと思ってしまうのは情けないことだろうか。

 

 殿下を止める理由に、もうひと押し。

 

 

「……あるじゃないか」

 

 

 思いついた理由に、自然と笑みが浮かぶ。

 仲間たちもこの理由を聞いたら、笑うのではないだろうか。陛下も笑うだろう。それと同時にもっと早く立ち上がれとも叱られるだろう。

 

 

「俺はイシュが嫌いだ」

 

 

 だから、殿下をイシュと同じになどさせてなるものか。

 

 殿下がイシュより優れているところを見せてやればいい。それはイシュへの最高の嫌がらせになる。

 殿下はイシュと違って、間違いを正してくれる味方がいるのだと。

 

 

「ああ───、俺は騎士より、冒険者のほうが向いていそうだ」

 

 

 

 砲剣がなくても、もう立ち上がれる。

 

 先に出ていった少女の後を、迷いのない足取りで追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
サブタイから漂う八つ当たり。

ゲームでは火の聖印を覚えないと火球の印術を使えませんけどね。
まあ術式書とか言っちゃってるこのお話では、術式書の有無で飛び飛びしちゃうこともあるって感じです。

アルメリア急激に強化しすぎじゃない? とか思われそうなので言い訳を書いときます。
凶鳥烈火ことフレイムウォール
三章で気持ちの問題じゃね?(意訳)という考えを得たので使えました。興奮、激情によるもの。

却火
三章でお留守番の間ひたすら読むことに。

精神力
今回が初めての呪いのない体での戦闘。今までが体を這う植物のせいで弱体化を受けていたため。

みたいな理由です。
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