世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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48.どこに本物の僕がいる

 

 

 

 

 

 

 部屋を出てすぐだった。

 追いつかないとと思った少女の姿は部屋を出てすぐのところでへばっていた。

 

 戦っていた時の姿は精一杯の虚仮を張っていたのだろうか。不思議とそのヘロヘロな姿に安心感を覚える。

 

「アルメリア、大丈夫かい?」

「……うげぇ」

「その反応は傷つくよ……」

 

 あれだけ発破をかけておいて、変質者を見る目で見るのはやめてほしい。

 

「どうするつもりですか? 皇子を止めるのか、それとも私を、私たちを止めるのか……」

 

 ああ、さっきのは変質者への目じゃなくて、敵かもしれないという疑惑の目か。

 それならまだ安心だ。やはり10年世話をしてきた少女に変質者扱いを受けるのは辛いものがある。

 

「殿下を止める」

 

 敵ではないということを信じてくれたのか、彼女は俺から顔を逸らして前へと歩きだした。後ろから斬りかかってくるのでは、といった警戒が一切ない。随分とあっさり信じるものだ。

 

 この信用を、今度こそ裏切らずに応えなくてはいけないだろう。

 

「シウアンと皇子はどこかわかります?」

「ああ、この文庫の地理も問題ない。最短距離で行けるさ」

「助かります。正直、もうへとへとで……戦いも任せたいくらいで……」

「あー……俺も武器がないから戦いは任せたいんだが……」

「……」

「……」

 

 互いに自然と足が止まり、沈黙が流れる。

 

 先に沈黙を破ったのはアルメリアだった。

 

「……熟練冒険者ならここは俺に任せろ! とか言ってくださいよ!? なんでかなり年下のひよわな印術師に戦いを任せるなんて発想になるんですか!?」

「あれだけ馬鹿みたいに燃やしておいて、ひよわな印術師なんて通用するわけないだろう!? 武器ありの俺を負かせたんだから任せても問題ないだろう!?」

「どう見てもへとへとなのわかりません!?」

「それだけ大声を出せる元気があるならまだまだ術を使える余裕があるって知っているからな!?」

 

 こんな風にこの子と、裏表なく大声を出しあう日が来るとは思わなかった。

 それがなんだか奇妙に感じて、自然と笑いそうになる。

 

「うげ……急にニヤけないでくださいよ。も、もしかしてやっぱりロリコン……」

「本気で失礼だね君……どこで教育を間違えたんだか……」

「うだうだ言ってないで行きますよ。戦いは任せますからね」

「そうだな。さっきの怒鳴りあいのせいで魔物が寄ってくるかもしれない。戦いになったら任せるよ」

「……」

「……」

 

 流れるように押し付けようとしてくる変人に、負けじと押し返す。

 

 その時ちらりと視界の端に何かが映った。

 

「あ……」

「……なんですか? まさか道を間違えた、と……か?」

 

 そこにいたのは青い体躯のカンガルー……のような魔物。ブルーワラビー。

 完全に戦闘態勢に移行しながらこちらを見据えている。腹の袋に入っている子供もこちらを見据えている。

 

「……印術の出番だぞ」

「……無理です、明らかにタフそうですよあの魔物。近接メインっぽいですし、今こそ騎士の力じゃないですか」

「……無茶言うな。殴りあいが得意な魔物相手に徒手空拳で挑むなんて自殺行為すぎる。剣のない騎士に期待するなよ」

「……どうするつもりですか」

「逃げるぞ」

「はい」

 

 自称ひよわな少女を脇に抱えながら、卓越した平衡感覚をもって魔物から脱兎のごとく全力逃走を行った。

 

 冒険者として大事な素質は生き延びることだ。足腰は大事だということを、先輩冒険者として抱えられている少女に見せつけてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本棚を引き倒したり、棚の隙間にある抜け道を駆使して振りきることが叶ったが、本気でしんどい。

 

「全力で走ってましたけど、道はあってるんですか?」

「問題、ない……すぐそこ、だ……」

「歳なんじゃないですか? 息切れひどいですよ」

 

 自分は抱えられていただけのくせに、こいつ……!

 

 ああ、思えばこの少女は、ウーファン相手にやたらと噛みついていた。一度気にいらないと思った相手には性格がひどくなるようだ。これほど生意気な子になるとは。

 

 息切れしたまま扉を開ける。殿下のいる場所までもうすぐだ。

 それにしても、どうやらイシュたちはまだここまで来ていないようだ。

 

 この場にいるのは俺たちと、帝国兵だけだ。

 

「ローゲル卿……その者はいったい」

「……糞生意気な化け物だよ」

「紹介おかしくないですか!?」

 

 喚く彼女を無視して兵たちと向きなおる。

 なんとか呼吸は落ち着いてきた。今更恰好をつけても遅いかもしれないが、彼らとの決別でもある。瞬間だけでも決めておきたい。

 

「……俺は殿下を止める。この計画はアルフォズル陛下のお考えから大きく外れたものだ。だからここに来た。そして、この先の殿下に会いに来た」

「あなたは……そうですか。決意されたのですね……」

「ああ、悪いな。俺がこれからすることは、殿下の10年の否定だ。それは君たちの10年、その否定にもなるだろう」

「10年、殿下にただ従うだけだった我らの、ですね……」

 

 忠言と捉えるか、謀反と捉えるか、それは彼ら次第となる。

 だが彼らは剣を構えなかった。

 

「……いいのかい? 止めなくても」

「何を仰いますか。魔物以外との交戦は控えろと命じたのは他ならぬあなたと聞いてます」

「その命令に従う理由はないはずなんだけどな」

「いいえ、あなたは大騎士です。傷つく覚悟を受け入れながら、忠言を行うその姿はまさに帝国騎士です。ならば我々が従う理由としては上出来でしょう」

 

 ついさっき、騎士より冒険者のほうが自分には合っていると思ったばかりだというのに随分と褒めてくれる。

 

「私は自分の気持ちに正直になれたあなたが羨ましい……」

「自由に慣れすぎちゃったからな。君はまだ、正直になれないんだね」

「……申し訳ありません」

「いいさ……」

 

 その言葉の裏にあるもの。それが、本音の答えのようなものだ。それが背中の後押しとなる。

 

 話していた彼は砲剣を差し出した。

 それと一緒に認証キーまでも。

 

「見たところ、砲剣を失ったご様子。私の剣をお使いください。己の10年を否定するのが怖くて動けない身ですが、この剣は問題なく動きます」

「……10年が千年になる前に、否定しといた方がいいぜ」

「は?」

「いや、なんでもない。ではお言葉に甘えるとしよう」

 

 もう一度砲剣を握ることになるとは。

 

 冒険者兼帝国騎士として、託された想いに応えるとしよう。

 

 

 

 

 兵士たちに見送られ、木偶ノ文庫の最奥へと足を踏み入れる。

 巫女の最終調整までの猶予はあとどれほどか。

 

 最奥の部屋は大きな広間となっている。天井は今までの回廊と比べ遥かに高く、地下にも関わらず届く日の光が、静謐な古き図書館の空気を照らしている。

 

 大広間にいるのは世界樹の巫女シウアンと、バルドゥール殿下。

 

 

「ローゲル、何をしにきた」

 

「アルメリア!」

 

 

 シウアンの意識はまだある。最終調整はまだ済んでいない。

 ならば、まだ間に合う。

 

 

「その者はタルシスの……捕虜として捕らえた、というわけではないようだが」

 

「殿下、恐れながら申し上げます。計画の見直しが必要です。犠牲を伴う計画は陛下の、父君の願いとかけ離れたものです!」

 

 

 殿下の眼が見開かれた。

 まるで信じられないものを見るように。ただ驚愕に染まった顔。

 

 

「ローゲル、お前までも……余を信じられぬというのか」

 

「殿下! 帝国の民は皆殿下を信じております! ですがこの計画だけは、賛同するわけにはいかないものなのです!」

 

「民が信じているのは皇帝アルフォズルだ。誰も余を信じてなどいない」

 

「そのようなことありません!」

 

「……」

 

「殿下ならば、陛下の志を必ずや継いでくださると皆信じております!」

 

 

 その言葉の次の瞬間、それまでの王族としての姿は消え、10年前のような幼き面影を見せた。だがそれは癇癪という形である。

 

 

「───今のお前の言葉が、信じていないことを物語っているではないか! お前も、家臣たちも! お父様の名ばかりあげる! ああ、僕の力はお父様に遠く及ばないことは自覚している!」

 

「それは殿下に陛下のお心を継いでほしいと───」

 

「やはりお父様の心だけを求めているではないか! お父様の願いと離れている? お父様の心を継いでほしい? ……この言葉のどこに僕がいる!?」

 

 

 頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受ける。

 強く睨みつける大きな瞳は、怒りに染まり切っている。何故気づかなかったのか。

 殿下の間違いを正すことだけを考えていた。

 

 自分たちの考えについては、何も考えていなかった。自分たちが殿下の姿の先に何を見ていたのか。

 

 

「皆が僕にお父様の姿を求める! だが僕の力は及ばないのだ! お父様に及ばない僕が、お父様すら成せなかった犠牲のない世界を作れるはずがない!」

 

 

 激情のまま叫ぶ姿は年相応の、いや、10年前に見ていた子供と同じだった。

 周囲の視線が、期待が、陛下と同じ立派な指導者という仮面を無理やり被らせていた。

 それが今、完全に剥がれている。

 仮面の下に隠れていた悲鳴をあげる殿下の姿は痛々しく、叫ぶたびに奇妙な黒い靄が鎧の隙間から溢れていた。

 

 ……なんだ、あの靄は。

 

 いや、今は靄に気を取られている場合ではない。殿下と向き合わなくてはならないのだ。

 

 

「お父様に成せなかった世界、僕には届かない……だが犠牲を覚悟に進めば、僕でも、余でも帝国を導ける! たとえこの身が計画の礎になろうとも、帝国の未来に光を差せる! この内に潜む力だけがここまで余を導いてくれた!」

 

 

 遅すぎた。

 気づくのがあまりにも遅すぎた。

 

 10年戦い続けた殿下は、ずっと追い詰められていた。父親の幻想に。

 追い詰められて、逃げるように辿りついた先が、あの計画なのだ。

 

 父のようになれず、

 

 父の名を汚さぬように成果を求め、

 

 父の遺した帝国の希望を掴み取る。

 

 

「ローゲル、今更お前がどれほど言葉を募ろうと、余は止まるわけにはいかない! たとえ世界中を敵にまわそうとも! 余の帝国は未来を得───!」

 

 

 殿下の魂からの叫びは、乾いた甲高い張り手の音によって中断させられた。

 

 隣でアルメリアが「うわ、痛そ……」と呟いたが同じことを思ってしまった。突然のことすぎて思考が追いつかない。単純な感想しか出てこない。

 

 うわ、痛そう。

 

 

「な、何をする!?」

 

 

 突然の狼藉を働いた者に、殿下は問い詰めた。

 ビンタされた右頬をさすりながら。

 

 

「みんなが求めてたのはあなたのお父さんじゃないよ」

 

 

 シウアンが腰に手をやり堂々とした姿勢で答えた。

 

 

「何も知らぬくせに───」

 

「みんなが求めてたのは、誰とでも手をつなぎ合える世界だよ。誰とでも友達になれる世界。世界中を敵に回すなんて、誰も求めてないよ」

 

「そんな夢物語では何も満たせないのだ!」

 

「その夢物語をあなたに作ってほしかったんじゃないの!?」

 

 

 シウアンが殿下に呼応するように叫んだ。

 世界を知らない箱入りの、あまりにも青い話だ。生きていくうちに薄れていく青さを、真っ直ぐにぶつけてきた。

 

 

「それはお父様の、皇帝の願いだ!」

 

「みんなの願いだよ! あなたのお父さんだけの願いじゃない! その願いの中にあなたも含まれてるって、なんでわからないの!?」

 

「う、うるさい! だからなんだと言うのだ! 今更後戻りなどできるものか! 計画まであと少しなんだ!」

 

「今からでも遅くないじゃない!」

 

「もう遅いんだ! 帝国はもう長く持たない……世界樹の力が必要なんだ! だから、巫女よ……」

 

 

 殿下がシウアンに手をかざす。その反対の手に持っているのは、巨人の冠。

 

 ───まずい!

 

 

「シウアン、離れろ!!」

 

「え───?」

 

 

 シウアンを照らすように殿下の手から閃光がほとばしる。

 するとシウアンは力が抜けたように倒れこんだ。

 

「シウアン!?」

「アルメリア、こうなったら力づくでも殿下を止める!」

「は、はい!」

 

 シウアンの、巨人の心の最終調整がすでにほとんど終わっていたとは。そして今、心の調整が終わった。

 駆け寄る俺たちを見据えながら殿下は天を仰ぎ見、叫ぶ。

 

 

「我が身に流れる古の血に応えよ、揺籃の守護者よ! 巨人の心を狙う侵入者を討ち、己が使命を果たせ!」

 

 

 その言葉に応じるように、殿下までの道を妨げるように巨大な石像が降り立った。

 砲剣と似たような駆動音を立てながら石像は拳を振り上げる。

 

 

「アルメリア、絶対に当たるなよ!」

 

「当たりたくありませんよ!?」

 

 

 石像の拳が振り下ろされた箇所は大きく抉られ、周辺に破片が飛び散った。

 その破片ひとつひとつが大砲と思えるほどの威力を秘めてあちこちを破壊する。

 

 

「こ、こいつ何なんですか!」

 

「木偶ノ文庫に配置された番人だ! 殿下、お待ちを!!」

 

 

 揺籃の守護者の向こう、奥にある祭壇へと進む殿下の姿が見える。止めたいのにこのデカブツが邪魔だ。

 

 祭壇の奥に入られたらここからじゃ追うことができない。早く止めないといけないというのに。

 ただの剣ではこの石像の破壊は無理だろう。

 

 

「アルメリア、破片に注意しろ!」

 

 

 砲剣ならば、破壊はできる。

 

 拝借した砲剣のドライブを起動させる。放つはショックドライブ。

 

 イシュの弱点が雷だと聞いたとき、密かに隠れながら練習していたもの。衝撃の流し方はよくわかっている。

 

 

「ま、まさかまた爆発ですか!?」

 

「君にそんなリアクションされたくないな!」

 

 

 自分を巻き込む爆炎を連発していたやつに言われたくない。

 完全に発動寸前となった砲剣を構えて、迫る岩の拳を避ける。

 伸びきった腕を足場にしながら駆け上り、胴体へと斬りつけながら───

 

 圧縮された雷の術式が爆発するように、いや、実際に爆発しながら破壊する。

 

 

「……くそっ、硬すぎる」

 

 

 刀身に熱がこもる。

 ドライブはしばらく放てない。暴発させるという手もあるが、これは自分のものではない。それに暴発させたところで、この守護者を完全に破壊するには至らないだろう。

 

 

「まさか表層が多少剥がれただけで終わるとは……」

 

「とやああ!」

 

 

 アルメリアの掛け声とともに火球が飛んでいく。

 

 何故この場で火球。もっとあるだろうに。却火とか、あの業火の壁とか。

 いくら表層が剥がれた状態とはいえ、その下にも石像の硬い体だ。あの程度ではたいした影響も出ない。

 

 迫る火球に黄色い顔の石像は避けるそぶりも見せない。

 小回りの利いた行動はできないというのが大きいだろうが、避ける必要がないのだろう。あの硬さがあるのなら。

 

 そして当たった火球は、

 

 

「……つくづく化け物か」

 

 

 石像の体に大きなヒビを入れさせた。

 

 どういう原理だ。火球の起こした小さな爆発は遥かにショックドライブより小さかった。

 何かしら理由があるはずだ。込められた威力が違う、なんてことはないはず。ドライブのほうが威力は上だ。

 

 いや、今は考えるよりも先に

 

「アルメリア、もっと火球を連発しろ! ホムラミズチみたいに! 同じ火の魔物だろう!」

「私! 人間! です! て、てやああ!」

 

 二つの火球が飛んでいく。

 迫る火球は吸い込まれるように胴体へと向かうが、その前に石像が奇妙な動きをした。

 

 首が回転したのだ。

 

 ただそれだけのこと。

 だが、それだけで結果が先ほどから大きく変わった。

 

 

「ぜ、全然効いてないみたいなんですけど……け、結構カツカツなのに! とやああああ!」

 

「……いや、今は休んでてくれ」

 

 

 赤い顔のような状態の石像は悠然としている。

 さっきまで黄色だった。色で鎧の性質が変わるということだろうか。あまりにも単純だが、今はその仮説を信じてみるしかない。

 暴走時の保険として残した弱点という可能性もある。揺籃の守護者は古代から続く門番だ。魔物ではない。

 

 黄色が雷だとしたら、赤は火。

 回転した際に確認した顔は四色。赤、青、黄色、白。

 

 ということは、

 

 

「セオリーなら、冷気に弱いってところかな!」

 

 

 砲剣で斬りつける。剣に圧縮された氷の術式はまだ起動できない。だが、この砲剣に塗りつけたものが大きく影響を与える。

 石像の鎧に亀裂が入った。

 

 

「リンクフリーズ……ソードマンの技だって俺は使えるんだぜ!」

 

 

 続いてもう一撃、と斬りつけようとした途端に脳内に警鐘が鳴り響く。

 己の勘に従って斬ることはやめて距離を取った。

 

 

「───っ!」

 

 

 途端、石像の上半身が轟音を立てながら回転を起こした。

 

 巻き込まれれば弾け飛ぶどころか粉々になりかねないほどの速度。離れたはずなのに風圧を感じるほどの威力。

 

 

「ワーゲルさん!!」

 

「うおっ……!!」

 

 

 突然間に入るようにアルメリアが短剣を構えながら立った。

 途端体に感じる暖かな感触。そして目の前に迫る火炎。

 

 回転しながら、拳から炎を吐き出している───

 

 避けられない、と思ったが、想像よりもなんというか、ぬるい。

 これは苦しめられたあれか。

 

 

「火の聖印……か。あと俺はローゲルだ」

 

「い、今は細かいことはいいでしょう!?」

 

「それにしても……イシュはまだか! まだ迷っているのかあの馬鹿!」

 

 

 今こそあの馬鹿力を発揮する場面だろうに、どこをほっつき歩いているんだ。

 

 回転が止み、今度は青い顔になった石像がまたも拳を振り上げる。どうやら拳を扱った攻撃くらいしかできない単細胞、いや、単岩なようだ。

 

「ぐぇっ」

 

 潰れた蛙のような悲鳴をあげるアルメリアの首根っこを掴んで攻撃を回避する。

 なんだか以前も同じようなことをした気がする。不思議と懐かしい感覚に襲われ、そういえばウーファンにこういうことをしたなと思い出した。

 

 あの時と同じくニーズヘッグの連中というのは、馬鹿ばかりだ。

 

 拳だけを警戒すれば、いや、そういうわけにもいかないか。

 今までそれで何度も痛い目を見てきたんだ。距離が空いていればと思えば腕が飛んで来たり。距離を詰めればと思えば爆炎に巻き込まれたり。

 

 拳以外にも何かがあると思って行動するべきだ。

 

「っと!」

 

 考えたそばから石のさすまたのようなものが飛んできた。

 頭を下げて回避すれば、さすまたは地面に突き刺さり固定された。

 

 拘束する技もあり、と。

 

 今の奴の頭は青ということは、セオリーに従ってリンクサンダーで斬ればいい。

 次に狙うなら、ヒビの入った箇所といいたいところだが……

 

「アルメリアはそこにいろ!」

「ほぁ!?」

 

 奇声ばかり上げる少女から手を離し、剣に薬品を塗り付けながら守護者との間合いを詰める。

 

 迫る獲物に向けて拳が振り上げられる。

 跳びながら躱し、先ほどと同じく伸びきった腕。

 

 装甲全体が変化しているのなら、この腕からまずはもらおう。

 

 振り下ろした斬撃は右腕に大きな亀裂を走らせる。だが落とすには足りない。

 

 そのときまた、頭が回転し始めた。今度は黄色。

 まるでリンクサンダーに反応して対応したかのようだ。今度は熱に弱いはず。

 

 砲剣の切っ先を真上に持っていき、機構を変形させた。

 

 瞬間、中にこもっていた熱が強制的に吐き出される。

 

 熱された空気は火こそ作り上げないが、その温度は強力な熱だ。

 先ほどの亀裂に向けて排熱された空気はさらに大きな亀裂を走らせて───

 

 

「アルメリア! 火を右腕に!」

 

「は、はい!!」

 

 

 ───追い打ちをかける火球がその腕を破壊した。

 

 右腕を失ったと同時に大きくバランスを崩す石像に、畳みかけるようにさらなる追撃を浴びせる。

 

 砲剣の冷却ももう済んだようだ。

 

 

「今度こそ砕けろ!」

 

 

 火による攻撃を受けた石像は再び頭を回転させる。

 次は火に抵抗するために、赤い頭になるはずだ。

 

 生物ならば、考えることができるのならば、そんな単調に切り替えたりはしないだろう。

 

 所詮は人形だ。守護者だのと名乗っているが、ただの人形。

 

 

「この、木偶の坊がぁ!!!」

 

 

 瞬間、冷気を圧縮したドライブが、フリーズドライブが炸裂した。

 

 今度は完全に砕け散る揺籃の守護者の胴体。吹き飛んでいく破片を見ながらようやく撃破が叶ったと息をつこうとして……

 

 

 頭だけが浮遊していることに気付いた。

 

 ───まだ、終わっていない。

 

 胴体が無くなったというのにまだ動けるとは。

 

 頭は高度をあげて、こちらの攻撃が届かない上空で停止した。何をするつもりかわからない。だが、ろくでもないことは確かだ。

 

 

「っ……アルメリア! 印術で撃ち落とせないか!?」

 

「イシュ!! あれ!!」

 

 

 本当に短い言葉だ。

 たったそれだけで、通じたのは偶然か必然か。

 

 このタイミングで広間に到着したイシュに対しての短い言葉。

 嬉しさと慌ただしさが織り交ざったアルメリアの言葉に、千年前から存在する人形は高く飛び上がった。

 

 

「……あれだけで理解できるもんかね」

 

 

 千年前の叡智とやらを込めて作られた機械の体。それはつまり人形だろう。

 だが揺籃の守護者と同じ人形にカテゴライズするには、あまりにも柔軟な対応すぎる。性格はアレだが。

 

 とてもじゃないが人形とは呼べない。案外、人間と見てもいいのかもしれない。

 

 

「いや、やっぱり人間ではないな」

 

 

 足を切り離し、断面から火を噴かせて空を飛ぶ姿は人間とはいえない。

 

 

 そいつは、そのまま浮遊していた守護者の頭を力任せに両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

今までボス戦は階層名をちょっと弄ったサブタイにしていたけど今回は断念。

ローゲル視点、終了です。
ついで揺籃の守護者戦も終了です。

アルメリアとローゲルの関係性が少し変化しました。
割とウーファンとの関係に近くなった模様。
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