世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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アルメリア視点です。





53.神話の再現を今ここに

 

 

 

 

 

 

 煌天破ノ都の壁が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 崩れていくのは壁だけではないのだろう、きっと。もっと大事な、積み上げられた日常までもが崩れている。そんな錯覚をもたらす崩壊の音。

 

 未だにこの地の揺れは収まらない。それも遠近感が狂うような巨体が壁をよじ登っていくせいだろう。アレが地上に出た時、この大陸は終わりを迎えてしまう。

 

 

「イシュ! ローゲルさんとキバガミさんがまだ!」

 

 

 私はまだイシュに手を引かれていた。イシュは何も答えずただひたすら進んでいく。

 皇子がいた部屋に二人を置いてきてしまったのに。

 

 

「イシュ! どうしたんですか!」

 

 

 とうとう煌天破ノ都、その門まで辿りついてしまった。

 たくさんあった気球艇はすっかりまばらだ。まだ軍艦や気球艇が何組か残っているようだが、ほとんどが脱出し始めている。

 

 イシュは何も答えず、だけど手を絶対に離さず、そのままノアまで私を引っ張っていく。

 このまま飛び立つつもりなのか。さすがにそれはダメだ。二人が残っているのだ。

 

 だけど抵抗しようにも力の差が大きすぎて、強く引きずられてしまう。

 

 半ば放り投げられるようにノアに乗せられ、飛び立ち始める。

 

 

「イシュ!!」

 

「世界樹が起動した」

 

 

 ようやく答えてくれたと思ったら、そんなのわかっている。

 

 今私が知りたいのは何故ここまで引っ張ったのかと、ローゲルさんとキバガミさんを置いていった理由だ。

 

 

「それはわかってます!」

 

「世界樹を止めることなどできない。一度起動すれば最後、すべてを呑み込んでいく。人も、街も、国もすべて」

 

 

 それは、千年前にイシュが見た光景。

 

 

「対抗する策はない」

 

「そんなこと───」

 

「策があれば千年前、すべてが滅ぶことなどなかった」

 

 

 そんなことない、と軽々しく言えなかった。

 イシュにとってこれで見るのは二度目の世界樹の起動。最大のトラウマのようなもの。

 

 国を捨てさせ、指導者となり、すべてを背負わざるを得なかった原因。

 

「だが我に任せよ」

「え」

「我に任せれば問題ないと言ったのだ」

 

 トラウマを見て弱気になっていたのかと思ったら、急な強気発言。

 まぁその方がイシュらしいといえばらしいけど───

 

 

「逃げればいい。世界樹の力の届かぬ、空へと」

 

 

 その言葉は、全然強気なんかではなかった。

 

 

「我を信じ、ついてくるのだ。ノアの動力である程度の距離は稼げよう。天ノ磐座、我が城に戻れば汝は不自由なく暮らせる。我に任せよ」

 

「イシュ、それは……この地を見捨てるってこと、ですか?」

 

「うむ。世界樹が起動してしまった以上、この地に研究的価値あるものは残らぬ。巫女ももはや取り戻せない。我の目標のためには回り道となるが、逃げることこそが最善だ」

 

 

 堪えろ。

 堪えるのだ、私。

 

 今感情のままに叫んだって何にもなりはしない。イシュは嘘をつかない。事実ばかり言うのだ。

 このままノアに乗って、イシュに任せていれば私は助かる。きっと本当にイシュの城で不自由なく暮らせるだろう。

 タルシスを見捨てることができないからと、巨人に戦いを挑んだところで私程度じゃ巨人の指一本燃やせるか怪しいものだ。死ぬ可能性、いや、草木に変えられる可能性が高い。死ぬことすらできずに。

 

 だから、イシュに任せればいい。イシュに頼ればいい。

 

 千年前の人たちのように───

 

 

 

 うん、考えがまとまった。

 

 見れば世界樹の洞から出れば周辺には、戸惑い迷っているような気球艇の姿がいくつもある。逃げるべきかどうか、悩んでいるのだろう。

 

 

「イシュ、木偶ノ文庫周辺の水道橋で降ろしてください」

 

「何を言っている。そこに何があるというのだ」

 

「あそこってすごい高いですよね。だからあそこで降ろしてください」

 

「ならぬ。この状況でそれをする理由がない」

 

 

 なかなかお願いを聞いてくれない。

 そうしている間に後ろから、

 

 

「もはや時間もない。あれがとうとう外へ出てきた」

 

 

 

 その言葉が示す通り、世界樹の洞から巨人がついに這い出てきてしまった。

 

 

 その全貌は山をも越える姿。

 

 

 煌天破ノ都の束縛から解放された、古の希望であり、厄災。

 

 

 絶界雲上域に足をおろした巨人は、産声をあげるように凄まじい咆哮をあげる。

 

 

 空気を揺らす咆哮。まるでこの大陸に終わりを宣告するかのように。

 

 

 巨人の全貌は神々しさと禍々しさがごちゃ混ぜになった、混沌とした姿だ。首回りには深緑のマントのように見える謎の飾りを纏っており、背部は異常なふくらみを見せている。マントの下からは白い胴体と長い手足を見せており、その全長は山より高く、水道橋の最上段にいてもなお、腰にようやく届く程の高さ。それが惜しげもなく披露されている。うれしくない。帰れ。

 

 力を解放しだしたのか、緑の瘴気を溢れ出させる。瘴気に触れた箇所は見る見るうちに緑が生い茂っていく。

 逃げ遅れた気球艇、動物や魔物、人がその姿を変えていった。

 

 悲鳴をあげながら草木になっていく生命。物言わぬ木々を乗せ、堕ちていく気球艇の数々。

 

 その光景に呑まれては、ダメだ。

 

 

「イシュ、お願いです。私を水道橋に降ろしてください」

 

「ならん。汝も見えるだろう。世界樹の力を持った巨人の姿が。我を信じてすべて任せよ」

 

 

 平行線の会話。

 こんな緊急事態に何をやっているのか、と思われそうなものだ。

 

 

「降ろしてください。これですか、どれですか、高度を降ろすやつ」

 

 

 イシュが降ろそうとしないのなら自分から降りてやる。こんなことならちゃんと気球艇の操縦を覚えておけばよかった。どれが何か全然わからない。

 勝手に弄ろうとする私を止めようとしてか、腕を掴んで舵から引っぺがされた。

 

 腕を掴んだままイシュは珍しく焦ったような表情をしていた。

 

 

「何をしている! 汝は命が惜しくないのか!」

 

 

 惜しいに決まっている。惜しくなかったらこんな旅に出てはいない。

 ただ他にも惜しいものがいっぱいあるだけだ。

 

 掴まれた腕を払いのけ、正面からイシュに言った。

 

 

「今回ばかりは、私はイシュを信じません」

 

「……アルメリア、何を言っている」

 

 

 払われた腕はやり場に困っているかのように、戸惑うように所在なさげに揺れる。

 その姿が意志を揺らがせる。信じてくれているという信頼を、今裏切ったようなものだ。だけどダメなのだ。

 

 

「イシュに任せたら大丈夫だなんて、一切思ってません。むしろ任せてはダメだって考えてます」

 

 

 単なる意地ではない。当然、千年前の奴らと同じことをしたくないという意地も入っているけど。

 

 こうして世界樹の力を目の当たりにしてよくわかる。世界樹から逃げることを責めるなんてできっこないと。国を捨てて逃げた人たちを責めれるはずがない。あんなのどう見ても勝てないと思いそうになる。

 

 

「世界樹を前にイシュは千年前と同じことをしています。逃げれば生き延びれるってわかってます。だけどそれじゃまた繰り返すだけです」

 

 

 イシュだけではない。イシュを信じて一緒に逃げることを選べば、私も千年前の人たちと同じ選択をすることになる。

 

 イシュの城に逃げた先はどうなる。イシュは巨人と会うことのない城で、魔物にされた人たちを解放するために研究を開始するだろう。私は城での勝手がわからずイシュに頼り続けることになってしまうだろう。

 

 そんなことをして、どこまで繰り返せばいいのだ。

 

 

「あの力を理解できないわけがないだろう。あれは一度起動を果たせば、すべてを呑み込む。それが何故わからぬ」

 

「それでも私は巨人を止めます。まだ止めれる可能性は残ってます。そのためにも、戦います」

 

 

 巨人を止める。

 そんなこと不可能だと、心の片隅で考えてしまう。だけど前例が今回はあるのだ。前回できたことが今回できないなんてことあってたまるか。

 

 だから戦う。だけど、

 

 

「イシュは戦わなくてもいいです。これは、この時代の人たちの問題です。この地に集う人々の問題です。遠くから見ててください。それでもしもだめだったら、逃げてください」

 

 

 世界樹の力はイシュの最大のトラウマだ。

 いつもの調子も完全になくし、千年前と同じ逃げの一手しか選択肢に浮かばないほどに思いつめさせる悪夢だ。

 

 あるいは、この地の世界樹は倒された前例があるからイシュが戦ってくれ、といえば戦ってくれるかもしれない。イシュの力はとても大きい。

 

 だけど、それじゃダメなのだ。

 また一人で背負わせてはダメなのだ。

 

 

「千年前の人たちも、そして私も今まで、イシュに頼り切ってました。それがイシュから頼るという手段を奪わせていた。一人で戦わせていた」

 

「何を言っている。我の力を頼ることは当然だ。優れた者が弱き者を守る、それが正しい在り方だ」

 

 

 千年前から、ずっとこの人にそう言わせてきた。

 

 一人でずっと戦ってきた。

 一人にずっと、戦わせてきた。

 

 

「我のこの体は人より遥かに優れている。その我でもあれは止めれぬ。この地は終わったのだ」

 

 

 イシュは皆を守るために人の体を捨てた。

 皆がイシュに人の体を捨てさせた。

 

 過ぎたこと。もう取り返しのつかないことだ。だけど、その時違う選択肢があったことを気づかせたい。

 そうしないと、この人はずっと間違った過去に囚われ続ける。

 

 そのために、私たちが守られるだけの存在ではないということを示せ。

 

 人の力、人のままの力をイシュに示せ。

 

 今の時代の人たちの力を見せるのだ。

 

 

「私は全力で、イシュの選択が間違っていたと、イシュの千年を否定します」

 

 

 千年の否定。

 それがどれだけ酷いことかはわかっている。ほとんど存在の否定と同じとも。

 

 この場で殺されても何の不思議もないほどの酷い言葉だ。

 

 だけど、否定だけで終わるものか。

 

 一度払った手を、強く掴んで言った。

 

 

「人の可能性を見せるために、私は戦います。だから見ていてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愚か者が、とイシュは吐き捨ててから何も言わず、だけど希望通り木偶ノ文庫周辺の水道橋、その南側に降ろしてもらえた。

 

 距離はまだあるとはいえ巨人の真正面。進行方向にある位置だ。

 

 遠ざかっていくイシュの乗ったノアを見て心細くなる。そんな自分に喝を入れるように両頬をぺしんと叩いた。

 

 ゆっくりと、だけど大きく一歩踏み出した巨人を睨みながら考える。

 

 

 さて、どうしたものか。

 

 いや、やらないといけないことはわかっている。聖樹の護りの再現だ。

 巨人から心臓、心、冠を奪い取る。

 

 力の源は心臓。そしてシウアンは心。だから絶対奪うのはこの二つ。

 

 伝承では力を合わせて挑んだって話だ。

 

 だからまずは力を合わせる。そのために意志を統一する……んだけど……それをどうしたものか。

 

 

「あ……」

 

 

 右往左往する気球艇だらけの空の中、真っ直ぐ近づいてくる黒い軍艦に自然と笑みが漏れてしまった。

 水道橋にいる私の元に来るということは、きっとあの人が乗っているのだろう。

 

 それじゃあ、まずは最初の一手である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。それでイシュと一緒じゃないわけか」

 

 軍艦から降りてきたローゲルさんとキバガミさんと合流し、イシュとのやり取りを簡単に話した。詳しく説明する余裕もあまりなかったので、方向性の違いということにしておいた。

 一瞬何言ってんだこいつ、みたいな顔をされたが細かく聞いている暇はないと判断したのか、とにかく納得してくれた様子。やや引っかかるような感じで遠くに浮かぶノアを眺めていたが納得したはずだ。

 

 巨人はまた一歩、ゆっくりとした歩調で進む。

 このまますれば木偶ノ文庫を踏み潰し、この水道橋と接触である。

 

「それでアルメリア、君はどうするつもりだい?」

 

 無精髭に手をそえながらローゲルさんが聞いてくる。

 しかしそんな質問をするということは、まーたこの人は変な考えでも頭に巡らせているのだろうか。

 私の答えはもう固まっている。

 

「あの巨人を止めます。もちろん一人じゃできないです。だから、この大地にいる人たちにも協力してもらわないといけません」

「ま、そうだよな」

 

 私の答えをすでに予想していたかのような返事。

 

「アルメリア、だったら今からでもイシュに一緒に戦うように言ってくれないか? あいつの力は大きい」

「ダメです」

「……君があいつを戦わせたくないっていうのはわかった。だけど今はそんなことを言ってられない状況だ」

「ダメです。それにイシュ自身、巨人と戦う気力はありません。今ああして空に残っているのは、私が見ていてほしいと頼んだからであって、本来ならもうこの地から去ってると思います」

 

 納得してくれたと思ってたけどそうじゃなかった。

 だけどどれだけ言われようとイシュの参戦はできない。一大事だとはわかっているけど、そもそもイシュはもう逃げの一手しかないのだ。

 

「ローゲル殿、イシュ殿が心折れているのであれば戦力として期待するのは酷な話」

「そうかもしれないが……」

「そうです。それにこれはこの地に集う人たちの問題です。イシュは本来関わることはないはずのものです」

 

 キバガミさんのフォローにすぐさま乗った。

 でも、この地の人の問題とは言ったったけど、イシュが逃げを選ばなかったら一緒に戦うことを選んでいたかもしれない。

 

「確かに、絶望している奴に期待するだけ無駄か……それで、アルメリア。ここからどうするつもりだい」

「はい。軍艦のアレ、あの声がすごく聞こえるやつで巨人と戦う意志を示します。ローゲルさん、お願いします」

「アレって……ああ、拡声器か」

 

 あの軍艦の声を大きくするやつ。あれさえあればこの大地にいる人たちに声を届けれる。

 向こうからの声は聞こえないとはいえ、意志の統一の第一歩となる。

 

「あれを使うのは問題ない。というかそれが一番だろう。だが使う人物は俺じゃダメだ」

「え、なんでですか? あ、皇子に使わせるとか?」

 

 やっぱりそういった意志統一となるなら人の上に立つ役職の人だろう。そういった立場の人を旗印にすれば統一もしやすい。

 

「いや、殿下は容態が……呪いの影響がひどいため無理はさせれない。それにそもそも殿下も人選としてはダメだ」

「え、えぇ……あ、それならキバガミさんで」

「拙者はイクサビトへの鼓舞こそできるが、大勢に対してはいかんともしがたい」

「そこをなんとか……ていうか皇子がダメならローゲルさんでいいじゃないですか」

 

 いっそのことウーファンか。というかウーファンどこだ。

 たぶんどっかの気球艇にいるんだろうけど。

 

 私の指摘に対してローゲルさんは、

 

 

「今回の騒動、事の始まりは帝国だ。言ってしまえば元凶だ。その帝国が全員の意志をまとめるために声を掛けてもそこに疑念が混ざる。これも利用するための行動じゃないかってな。だから帝国出身の俺や殿下はダメだ」

 

 

 親切丁寧にダメな理由を語ってくれた。

 それで終わらずさらに続ける。

 

「いいかい。今この地にはタルシス、ウロビト、イクサビト、帝国の四つの派閥がいる。それらすべての懸け橋となったタルシスの人間の言葉が一番受け入れられる」

「そ、そいつぁ……」

 

 この後の流れが想像できてしまい思わず変な口調になってしまった。

 戦う覚悟はあるけども、そんな……

 

「タルシスの兵士ではダメだ。彼らは指示を出す側ではない。ここまで道を開拓してきた冒険者の言葉、そしてなおかつ、これまでの種族との邂逅に居合わせた人物なら最高だ。ここまで言えば、もうわかるだろ?」

「……お腹痛くなりそう」

 

 そんな…………演説の役目がくるなんて想定していなかった。

 

「わ、私演説なんてできませんよ!?」

「まあいっぱいいっぱいな言葉も案外伝わるさ。それじゃ一度飛行船に乗るぞ」

「アルメリア殿、頼んだぞ。拙者もモノノフたちに指示を出してこよう。ここに集えとな。我らの牙を届かせるとしたら、この水道橋を利用するのが一番だ」

 

 演説なんてどうしたらいいんだ。そもそもずっと引きこもっていたのに演説って、辺境伯の演説すら聞いたことないよ。何を言えばいいんだ。本日もお日柄がよく? 巨人倒して? この地にいる人たちに協力を求めないといけないのに、せめてカンペとか。

 

 頭の中にぐるぐるといろんな言葉がよぎるが全然まとまらない。

 

 そんな間にも時間は無情に過ぎていく。というか拡声器とやらを渡された。想像していた形と違う。

 片手で持てるサイズのものが、軍艦の内装と紐づけされていた。それに向かって言葉を言えという。

 

「アルメリア、難しく考えなくていい。ただ思いの丈をぶつければいい」

「そ、そうですかね……」

 

 カンペがないままだなんて。せめて演説を聞いたことがある人に任せてほしいものだ。私にはそんな機会がなかったんだから。

 辺境伯ならこんな時なんて言うのだろう。いや、辺境伯以外にも演説家と思えた人物がいた。この旅で。

 

 散々見てきたじゃないか。あのやったらと自信満々で、高慢な振る舞いを。

 それで散々私は信じ込んできたじゃないか。

 

 参考となる人と、ずっといたじゃないか。

 

 

【……これ、もう聞こえ───うわっ、すごっ】

 

 

 外に響く自分の声に驚く。すごい技術である。それにしても、自分の声とはいえこんな聞こえ方はなんだか変な感じだ。でも思ってたほどマシにも聞こえる。以前イシュの声真似の時は、もっと間抜けに聞こえたものだ。

 

 

【えーっと、私はタルシスの冒険者をやってる者で、あー、アルメリアです。ニーズヘッグのアルメリアです】

 

 

 しどろもどろである。だけど大事な点は抑えているはずだ。自己紹介は大事である。この声が帝国所属でないことを示すためにも、その先を信頼してもらえるかはまだこれからだけど。

 というか、しどろもどろじゃダメだ。

 イシュのように自信満々で言っていくのだ。みんなをやれると信じさせるのだ。

 

 

【みなさん、聖樹の護りに出てくる巨人が復活しました。伝承にある、あらゆる生物を草木に変える巨人……楽園への導き手】

 

 

 巨人が一歩歩くごとに、ひどい地鳴りが起きる。その音に、声がかき消されてしまわないか不安になる。

 だけど呑まれてはダメだ。ダメなのだ。

 

 周りくどい言い方なんてできなくていい。今はシンプルに、すべてを伝えるんだ。こちらの要求を伝えるのだ。

 

 

【全員! あの巨人を倒すために協力してください!】

 

 

 シンプルすぎたかな。まずいかな。

 いや、いい。これくらいが丁度いい。シンプルすぎるならここから補足すればいい。

 

 えっと……

 

 

【正直言って、無理だって思いますよね。私も、こうやって喋っている今も……だけど、伝承を思いだしてください。伝承では全員で力を合わせて巨人を退けました!】

 

 

 不安を表に出してしまったが、まぁよしだ。そのまま不安に引きずられずに言うんだ。

 伝承で巨人を倒したのだ。あとは私が呑まれずにいれる呪文を声に出して言うだけだ。

 

 

【伝承でできたことを、過去にできたことをもう一度する。それだけでいいんです! 私たちはこれまでたくさん旅をしてきました! いろんな問題とあたってきました!】

 

 

 くっそ顔が熱い。

 やっぱりイシュのようにするのは難しい。自信満々で言うのは大変だ。

 

 もう自分が言いやすいやり方も混ぜてしまおう。

 

 

【碧照ノ樹海では、自然に阻まれ、木の壁から突然現れた熊に邪魔をされました】

 

 

 あの樹海が始まりだった。

 冒険について右も左もわからず始まったあの日、いろんな人と知りあえた。ウィラフさんやキルヨネンさん、他にもメノウさんや、名前は知らないけど上品そうな人や兵士の人たち。

 

 

【深霧ノ幽谷では、惑わす霧に種族間の壁、そしてホロウとの争い】

 

 

 ウロビトの人たちと一緒に旅をするなんて、あの時は一切考えられなかった。あれほど敵視されていたのに、それが今じゃどこのグループにウロビトが混ざっていても不思議じゃないほどだ。

 

 

【金剛獣ノ岩窟では、イクサビトに拡がる呪い、心臓を取りにいくために寒暖激しい道。私はお留守番でしたけど】

 

 

 私は里でひたすら本を読んでたけども。

 イクサビトの里でウロビトに伝わる伝承と違うものを知った。巨人との戦いを知った。

 

 

【木偶ノ文庫では、その時敵対していた文庫を見張る軍艦。どれほど注意を払っても、砲撃される危険があるのに囮となって送りだしてもらえて、今更ですけどありがとうございます】

 

 

 結局皇子をそこで止めるのが間に合わなかったのは申し訳ないと思う。

 

 

【過去にあったできごとでの対立も、盲目的な行動による対立も、どれも乗り越えてきました。ここまで乗り越えてきました! 私たちは過去の人たちと同じくらい、もしくはそれ以上に、苦難を乗り越えてきたはずです! 過去の人たちにできたことができないはずなんてないんです!】

 

 

 過去より優れているところを示す。

 それだけで巨人を倒せる。たったそれだけの話だ。

 

 

【もう一度、ここに伝承の……】

 

 

 伝承に語られた巨人を倒すために。

 過去に創られた神を倒すために。

 

 

【神話の再現を! 神話の続きを描きます! そのためにも力を貸してください! 以上!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルメリア、お疲れ」

「ほんっとうに疲れましたよ……」

 

 ローゲルさんの労いの言葉に、疲労感一切隠さず答えた。実際喋ってた時間は数分程度のものだったろうけど慣れないことはやっぱり疲れる。

 それに対して少し苦笑し、すぐにキリリと表情を整えるローゲルさん。

 

「だけどここからが正念場だ。さっきの言葉で、君はこの地にいる仲間たちの旗になった。作戦なんてまともに立てれてない状況の中、次は行動で全員の意志を束ねないといけない」

「……はい!」

「もっとも、それは君だけに丸投げをするつもりはない。キバガミも俺も、行動はフォローできる。おそらくウーファンも動いてい───っ!?」

「……は?」

 

 ローゲルさんの言葉を遮るように、雷鳴が轟き、東の空に光が迸った。

 

 轟音と共に眩い雷光が、幾度も繰り返される。

 

 これは自然現象による雷ではない。巨人が何かをしたわけでもない。

 

 光が収まると、そこには輝きを放つ怪物がいた。

 

 きっとこういうのを、悪夢と言うのだろう。

 

 

「こんな時に……なんで……」

 

 

 黄金に輝く長い体躯。

 

 翼を持たずして空を舞い、雷と呪いを操る竜。

 

 

「雷鳴と共に現る者……」

 

 

 この状況で現れた竜の姿。

 

 軍艦の中で皆が言葉を失う中、追い打ちをかけるように事態がさらに変化する。

 

 雷竜を追ってきたかのように暗雲が瞬く間に広がっていくのだ。

 雲は冷気を運んできたのか、東の空は見る見るうちに荒れていき、猛吹雪となっていく。

 

 吹雪の中心に鎮座するのは、蒼き体躯に長い手足。

 

 三つ首に十二の瞳を持つ、氷と魔を支配する異形の竜。

 

 

「氷嵐の支配者……」

 

 

 

 

 混迷に陥りつつある巨神の大地に、三竜のうちの二体が姿を現した。

 

 

 

 

 絶界雲上域に突如現れた二体の竜。

 

 ただでさえ巨人の対処をしなくてはならないというのに、三竜のうちの二体が来るなんて頭が痛くなる。

 しかしまだ事態の変化は収まらない。

 

 音が、聞こえた。

 

「───、───いったいなぁ!」

「アルメリア!?」

 

 またあの音だ。

 鎖の千切れる音。突如として頭に響いた音に悪態をつく。またローゲルさんたちには聞こえていないのか。

 

「ロ、ローゲル卿!」

「今度は何だ!?」

 

 兵士が指し示す方角、北東に目を向ければさらにもう一体、竜が現れた。まるで前からそこにいたかのごとく、忽然と。

 

 

 これで竜が三体。

 

 だけどあれは赤竜じゃない。

 

 

「黒い、竜……?」

 

 

 漆黒の巨大な体躯を持ち、翼膜のない形容しがたい歪な翼を広げた存在。

 

 この状況下でもなお、目を離してはならないと思えるような、惹きつける存在感を放っていた。

 

 あの竜に逆らってはいけない。あの竜に従ってはいけない。

 

 見ているだけで矛盾した感情がせめぎ合う。

 

 

 漆黒の竜は翼の調子を確かめるように、広げては畳み、時には片方だけを伸ばしたりとしている。周囲には無関心な様子だった。

 

 それとは対照的に雷竜と氷竜は少し首をもたげ、そして黒き竜に威嚇するかのように───

 

 

 反射的に未だに手に持っていた拡声器に叫んだ。

 

 

【すぐに耳を塞いで!!】

 

 

 その直後、

 

 

 

 雷竜の死に繋がる呪いの遠吠えと、氷竜の微睡に陥る叫びが、この地に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

現場に竜を追加です。
ドM竜の気配を察知してやってきました。
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