世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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アルメリア視点に戻りました。






60.例えどれほど違っていようとも

 

 

 

 

 

 巨人の絶叫が唐突に途切れ、ゆっくりと膝をつき始めた。

 

 それと同時に巨人に向かって風が吹く。その風は心地良く、以前シウアンから受けた祈祷と酷似した感覚を覚えた。

 

 

「アルメリア、その体……」

 

「戻っていく……」

 

 

 植物化が止まったどころか、元の手足に戻っていった。

 私だけじゃない。キバガミさんも、地上で戦っていた人たちも、みんな、元に戻っていく。

 

 植物になる前は酷い状態だった手足も治してくれるサービス付きで。

 

「巨人って意外に太っ腹だったんですね……スラっとしてたのに」

「ウィラフ殿、巨人の顔にできる限り近づけてもらえぬだろうか。イシュ殿たちを迎えに行きたく思う」

「うん。任せて」

 

 私の言葉は流された。

 

 巨人の顔にはウーファンがよじ登っている姿が見えた。シウアンの名前を叫びながら。

 ウーファンも無事だったのは良かったけど、体が戻ってすぐさまシウアンとは筋金入りである。

 

 私も遅れていられない。

 イシュの名前を呼びながら、動かない巨人の顔へと近づいた。

 

 

 

 

 

 巨人の体から出てきたイシュたちを気球艇に乗せ、巨人から離れる。

 

 巨人は両手を前に合わせ、祈りを捧げる姿勢をとったのち体が変化していく。

 不気味だった白い体も、紫の手足も樹皮色に染まり、さらに伸びてきた樹皮が上から覆いかぶさり巨人の姿が見えなくなった。

 見えなくなった、というより、

 

「新たな世界樹が生まれるとはな……」

 

 イシュの言葉の通り、新しい世界樹が生まれたのだろう。生まれ変わったとでも言うべきだろうか。

 倒れた世界樹とも、巨人とも違うまた大きな大樹。太陽の光の反射なのか、葉の一つ一つがほのかに光を放っているようにも見えてまるで神聖な樹の様相。

 

「巨人は完全に死んだということであろうか」

 

 キバガミさんの言葉に答えたのはシウアンだ。

 

「ううん、また眠っただけ」

「ということは、いずれまた目覚めるやもしれぬか……」

 

 新たな姿に生まれ変わったと言っても、巨人の力はまだ残っている。再び目覚めた時もまた止めれるかどうか。そんな心配をキバガミさんはしているのだろう。

 

「巨人の心臓さえ守れば復活はしないだろう」

「そうだな。してその心臓は何処に?」

「私が持ってるよ」

 

 シウアンが心臓を見せる。これ、今砕けば巨人復活は永遠になくなるんじゃないだろうか。

 

「今砕いちゃいます?」

 

 戦いが終わったがために緊張がなくなったのか、何も考えられず思ったままの言葉がすっと出た。

 でも名案だと思う。

 

「やめよ。我がなんのためにここまで来たと思っているのだ」

「心臓がなくば呪いを払うこともできぬ。イシュ殿の故郷のためにも砕くわけにもいくまい」

「我の故郷? 何の話だ」

「む、すまぬ。勝手な詮索を滑らせてしまっただけのこと。気にされるな」

 

 なんかキバガミさんは勘違いしてそうだけど、まぁいっか。

 

「私も砕いてほしくないな。これはあの子の眠りを妨げちゃうものだけど、あの子の一部でもあるんだもん」

「シウアンがそう言うならば砕くわけにはいかない」

「そっすねー」

「貴様、なんだその顔は」

 

 シウアン全肯定なウーファンを見る顔だよ。

 というか砕く派は私一人だったか。まぁいいけど。あの巨人の姿を見ておいて、復活を試みようとする人はもういないだろう。それに冠もどこへ行ったのやら。

 

「巨人が復活したところで、またその時代の者で止めればいいだけの話だ」

 

 イシュの言葉に、それって丸投げなのでは? と思ったけど何も言わないでおく。

 もしかしたら、次も人々の手で止めることができると信じてくれているからかもしれないから。

 

「とりあえず一度タルシスに戻る? それともあなたたちの気球艇を探す?」

 

 気球艇を操縦しているウィラフさんから質問が飛んできた。

 

「あー、イシュ。ノアってどうなったんです?」

「乗り捨てたから知らぬ」

「おおぅ……」

 

 黒い竜と戦う前に、なんかこう、安全な着地ができるよう計算しながら飛び降りたのでは、と思ったけどそんなことはなかった。

 となるとどっかに堕ちて壊れてそうだ。交易長が怒りそう……いや、ていうか巨人を倒したんだし怒られることはないよね。むしろ褒められるべきだ。

 

「タルシスに向かえ」

「一応この気球艇の持ち主は私なんだけど……」

 

 イシュとウィラフさんの操舵前でのやり取りを見ているとシウアンが小さく笑いだした。

 

「シウアン?」

「ふふ。なんだか変わった気がしてたんだけど、前のままなところもあるなあって思ったらおかしくて」

「そうだねぇ」

 

 イシュのあの高慢な性格は変わらなさそうだ。

 それがらしいっちゃらしいけど。

 

「ん? 下でワールウィンドが手を振って呼んでるよ。あ、ローゲルだっけ」

 

 ウィラフさんの言う通り、下でローゲルさんが両手を振っていた。

 

「そうか、放っておけ」

「え、うん。まぁいいけど」

 

 ローゲルさんへの扱いも以前のままだ。哀れなローゲルさんである。私もまあいいかと思っているけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風馳ノ草原、最果ての街タルシスが見えてきた。

 

 ここに戻るまでの間に、金剛獣でキバガミさんを降ろし、深霧でシウアンとウーファンを降ろした。里に残った人たちに吉報を伝えるためだとか。

 実際に巨人が倒れ、新たな世界樹が各々の大地からも見えるけど、帰って安心させたいという点ともう一つ、単に里帰りも兼ねているかもしれない。特にシウアンには。

 

 街門の外には多くの斃れた魔物の姿。それとくたびれた状態の兵士たちの姿。

 だけど戻ってきた気球艇に気づいたのか、立ち上がり歓声をあげながら迎えてくれた。

 

 街門に気球艇を降ろしてもらい、たった一日しか離れていなかったはずなのに、何故か妙に久々な感覚でタルシスへと足をおろす。

 すぐさまいつぞやの熊騒動終了時の熱いお出迎えよりも、さらに激しい波が襲って来た。

 

「帰ってきたってことは巨人はもういないんだな!」「他の奴らはどうしたんだ!?」「やったなちくしょう!」「あの世界樹はなんなんだ!?」「こっちも大変だったんだからな!」「気球艇違うくね!?」「とにかくやったな!」

 

 質問と称賛と現場自慢のラッシュである。ボロボロの姿なのに全員すごい力強い。一気に来すぎです。

 ある意味大騒動な中、大きく厳つい咳ばらいが聞こえた。ギルド長だ。

 

「お前ら、よく戻ってきたな。他の奴らは後から戻ってくるのか?」

「あ、はい。私たちは先にそそくさと帰還しました」

「そうか。ならばお前らは辺境伯のところへ行ってやれ。事の顛末をあやつが誰よりも聞きたがっているだろうからな」

「へとへとなんで今日はもう休みたいんですが……」

「街の住民に吉報を知らせるためだ。堪えろ」

 

 口をへの字に曲げる私を見て、がははと笑いながらギルド長は兵士たちに指示を出し始める。

 

「お前たち、もうひと踏ん張り働くぞ! 魔物の死体をそのままにしておくわけにもいかん。回収及び処理のために班を分けるぞ!」

 

 嫌そうな返事をしながらも、どこか嬉しそうに兵士たちは動きだす。日常に戻るための最後の一踏ん張りだ。お疲れ様ですとありがとうです。今回は皆が功労者みたいなもんだし、私たちももうひと踏ん張り頑張るとしよう。

 

 マルク統治院へ目指そうとすると、見慣れた黄緑のコートの優雅な人物が見えた。

 

「あ、キルヨネンじゃない。見ないと思ったら街の方で戦ってたのね」

「ウィラフ、無事だったみたいだね。本当に良かった。ニーズヘッグも」

 

 行方不明と聞いていたけど無事だったようで良かった。

 キルヨネンさんは安心した表情を浮かべた後、沈んだ表情へと変化した。

 

「ウィラフ、すまない」

「? どうしたのさ急に」

「僕は、何かを封じていたであろう竜の石柱を破壊してしまった。巨人の阻止が成功したというのに……」

 

 石柱。封じる。竜。

 途中見た黒い竜のことか。最後の石柱はキルヨネンさんが破壊したのか。そのことを気に病んでいるようだけど、もう解決済みである。

 ウィラフさんも合点がいったのか、おかしそうに話しだす。

 

「あー、それなら大丈夫だよ。イシュが倒しちゃったみたい。封印されてた竜を」

「それは、また……」

 

 驚きを向けられたイシュはいつも通りのままである。

 いつも通りの無表情さのまま。

 

「我とアルメリアは辺境伯に報告へ向かう。汝らは汝らで話をしておけ」

 

 さっさと報告したいという気持ちが出てきたのか、勝手にやっててくれとのことである。

 

「イシュ、すまなかった。それと、ありがとう」

 

 歩いていくイシュにキルヨネンさんは謝罪と感謝を告げた。律儀な人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルク統治院につくとここでも兵士の熱烈な歓迎を受けた。

 ただすぐに熱は引いたというか、仕事を思いだしたかのように「辺境伯に知らせにいってください。きっと彼も首を長くして待ってますから」と急かしてきた。

 

 そんなわけでの辺境伯の執務室前。

 扉をノックしてから開けると、

 

「辺境伯、報告に───もがぁ!」

「む」

 

 扉を開けると私とイシュに突然のハグが襲った。

 うわ、紅茶と犬のシャンプーのにおいがする。すごくする。

 

「諸君、よく帰って来てくれた! ああ、ありがとう! ありがとう!」

「辺境伯! いたい! いたい!」

「落ち着け辺境伯よ。我らは早く報告を済ませたい。それに以前、汝は執政者として熱い歓迎はできぬと言っていたであろう。この行動は執政者としてどうなのだ」

 

 私は小柄だし、イシュも見た目は女の子だから大きいわけじゃない。そんな二人を同時にハグは傍から見たらセクハラです。

 

「おお、すまない。だが私も完全無欠な執政者というわけではないからね。素直な気持ちを抑えきれなかったのだよ」

 

 こほん、と辺境伯は咳ばらいをしてから執務室へと招く。

 私たちはもはやすっかり見慣れた執務室、そしていつも通りソファに沈みそうになりながら座った。

 

「さて、では聞かせてくれたまえ。あれから何があったのか、そしてあの空で何が起きたのか、それらをどのように解決に至ったのかを!」

 

 

 

 

 それから私たちは、辺境伯がタルシスに戻ってからの木偶ノ文庫攻略戦から巨人との戦い、途中にあった竜の話を話した。

 色々とありすぎて結構な時間が掛かってしまう。その間にも他の気球艇が続々戻ってきていると兵士が途中報告に来たくらいだった。

 だけど報告は私たちに一任するとのことだそうで。私一人で把握できてる事態じゃないってのにひどいものだ。

 

「そうか、帝国騎士も味方となり力を合わせて、か。皇子はどうなったのだろうか?」

「皇子は……どうなったんですかね……?」

「我は知らぬ」

 

 話が皇子に変わると誰も答えれない事態となった。

 皇子の細かい顛末についてはキバガミさんかローゲルさんしか知らない。

 

「最後の戦いのときは、呪いの影響で動けなくなっていたとは聞きましたけど……」

「ふむ……彼が今回の件で考え直してくれていたらいいのだが……」

 

「その事なら大丈夫だ」

 

 報告の最中突然入ってきたのはローゲルさんだった。

 

「アルメリア、イシュ……置いていかなくてもいいだろう?」

「何故汝を拾わなくてはならぬ」

「この……!」

「それよりも、皇子について知るのであれば汝の報告をしろ」

 

 ローゲルさんも来たことだし、ソファを詰めて場所を空ける。一言お礼を言いながら彼が座るとやったらと沈んだ。重鎧のせいだこれ。

 姿勢を崩さぬように戦っている私の隣でローゲルさんは報告を、というには少し違う話を始めた。

 

「帝国騎士はもう、殿下一人にすべてを任せることはしない。彼が間違っているのならばそれを正し忠義を示すことを約束しよう。そしてできることならば、帝国にタルシスの力を貸してほしい」

「ふむ……」

「今更と思うかもしれない……今回の戦い、発端は俺の行いのせいだ。結果的には収めることができたが、犠牲者が出なかったわけではない。咎めるのであれば甘んじて受け入れよう。だが殿下はまだ執政者として未熟だ。全てを許してくれとは言わない。だが、それでも……」

「ローゲル。皇子はタルシスに助力を乞うことを良しとしてくれたのかね? 助力を乞うことは君一人の判断ではないのだね?」

 

 辺境伯は真剣な顔でローゲルさんを見た。

 何かを図るような目を前に、ローゲルさんは戸惑いなく答える。

 

「殿下と話し合ったよ、ちゃんとね。また勝手に理想を押し付けるような真似はできないさ」

「そうか。ふふふ、それなら心配ないな」

 

 その答え方は、騎士面していた硬い口調と異なりワールウィンド時代と同じ軽さを感じるものだった。変に力まない答え方に辺境伯は笑みを浮かべ、

 

「このタルシスは帝国のために必ずや応えよう。我々は伝承のように、そして今回のように、互いに助け合うべきなのだから」

 

 辺境伯の言葉にローゲルさんは頭を下げ、一方でイシュはその発言に対して思うことがあるようで。

 

「汝の考えに文句を言うつもりはないが、帝国の行いを良く思わぬ者とているだろう。それを踏まえての上での発言か」

 

 イシュの指摘に対して彼は微笑みながら茶目っ気たっぷりなウィンクをして続けた。

 

 

「生まれた場所、種族、果ては時代までも異なっていようと、我々は手を取りあうことができる。それを他ならぬ諸君が私に証明してくれたのだよ」

 

「そうですね……うん、私もそう思います」

 

 

 辺境伯の言葉に私も完全に同意だ。他に何も言えなくなってしまう。

 全くもって、その通りなのだから。

 千年前のハイ・ラガードの人間、タルシスで呪われていた私、異なる種族のウロビトとイクサビト、敵対していた帝国とも一緒に巨人と戦って勝ったのだ。

 

 

 

 キョトンとしているイシュの横顔に、私も辺境伯のように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 




 


五章終了です。
ゲームで言うなら表クリアです。

ですが、主人公の目的がまだ果たせていないので話はまだ続きます。

ではまた書き溜めの日々へ(´・ω・`)
話のキリがいいから六章はゆっくりまったり書いていくです(´・ω・`)

あ、四章五章の後書き書かなきゃ
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