世界樹と巨神と上帝と   作:横電池

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63.奈落より響く呼び声

 

 

 

 

 

 どうせ暇だからと何故かついてくるローゲルさんと共に家に戻った。家には椅子のサイズが合ってないせいで座りにくそうにしているキバガミさんと、やはりすれ違いになっていたのかシウアンとウーファンがいた。

 ちなみにローゲルさんはほとんど顔の腫れが引いていたのですでに包帯はとってある。なんだこの人。

 

「アルメリア! イシュ! 久しぶりだね!」

「シウアン、元気だった?」

「うん!」

 

 シウアンの無邪気な笑顔。それに比べウーファンは相変わらずの仏頂面だ。

 

「貴様ら、シウアンが来るとキバガミから聞いておきながらどこへ行っていたのだ」

「来るのが遅いから探しに行っただけじゃないですか」

 

 そのついでにエスバットの人たちに会いに行っただけじゃないか。

 

「しかしこうして揃うのはあの戦いの時以来だな。皆、息災なようでなによりよ」

 

 場の空気が悪化するのを防ぐためか、キバガミさんが間に入る。強さだけでなく、この優しさが里の人たちに支持されている理由な気がする。

 

「ローゲル殿も久しぶりだな。あの坊主の元に戻る気はないのか?」

「今はあまりないな。着かず離れずの距離からフォローするつもりだよ。それより坊主って君ね……」

「そう難色示すな。あの者自身がそう呼べと言ったのだからな」

 

 やっぱり一国の皇子相手に坊主呼びは良くないのか、ローゲルさんが困ったような顔をしたけどキバガミさんの言葉に止まった。

 

「なんでも自然と坊主と呼べなくなる日をいずれ迎えさせるそうだ。なんとも楽しみな話ではないか」

「……そうか。ならいい、のか?」

 

 皇子の話で盛り上がる二人をよそに、イシュがシウアンの前に立つ。

 

「汝から何か頼みあると聞いた。しかしその頼みを聞く前に汝に問う。それは本当に必要なことか」

「貴様、シウアンの頼みを無下に扱うつもりか」

「我には譲れぬ目的がある。その目的を叶えるために良き関係を務めるつもりだが、無駄な時間はかけれぬ。今日改めて我が所業を思い知ったがために」

 

 イシュの言葉は、この場にいたほとんどの人に良くわからなかったと思う。

 思い知った所業というのは、エスバットの人たちの話を聞いたからだろう。彼らの犯罪行為、突き詰めていけば元凶はイシュとなる。もっと突き詰めればイシュを置いていった人たちでもあるけども、イシュは彼らを咎めることを絶対にしない。

 

 魔物にされた人だけでなく、その関係者の人生までも狂わせている。イシュは彼女たちの行為は自分と関係ないとは言ったけども、魔物による被害の咎は受け止めると言っていた。きっと被害はあの人たちだけではないはずだ。それを今日知ったのだ。シウアンの協力が必要不可欠とはいえ、余計な時間はかけたくないと考えたのだろう。

 

「汝の頼み、それが後回しできるものならば、もしくは重要性が薄いものであるならば、先に我の目的に付き合ってもらう」

 

 イシュの問いに対してシウアンは悩まし気な表情だ。

 どう答えたらいいかわからないのか、それとも重要性が薄いものだったのか。彼女は少し間を置いて、ゆっくりと話しだした。

 

「正直ね……わからないの」

「わからない? どういうことだ」

「世界樹は……あの子は眠りについた。なのにね、声が聞こえるんだ」

 

 世界樹の巫女に聞こえる声。ということは世界樹の声なのだろう。眠っている状態ということは寝言とかだろうか。

 やっばい。寝言とかすごい重要性薄そうだ。

 

「世界樹が魘されてるとか……? 夢見が悪くて」

「ううん、そういうんじゃなくてね。世界樹の声に似てるけど、違う声なの」

「ただ世界樹が風邪気味で鼻声なだけとか……」

「貴様、ふざけるくらいなら少し黙ってろ」

「な、なんですか! 真面目に考えてるんですよ!」

 

 話の邪魔だと言わんばかりにウーファンに睨まれた。不満を漏らすも誰も取りあってくれない。

 シウアンさえも私の抗議を無視して話を続ける。

 

「すごく小さく声が聞こえるの。あの子が寝静まったから聞こえるようになったのか、最近になって声を出し始めたのかわからない」

「その声が頼みと関係があるのか」

「うん……その声は、私を呼んでるの。なんで呼んでるかわからないし、私から聞いても私の声が届かないみたいで……だから、その声について調べたいの」

「その声の場所はわかるのか」

「うん。あの子が眠っている地からほんの少し離れた場所……北西、かな」

 

 今の世界樹はあの戦いで少し移動したせいで、木偶ノ文庫の真上に位置している。そこから北西というと……たしか山地だったような。

 頭の中に絶界雲上域の地図を広げていると、ローゲルさんも話に加わってきた。

 

「シウアン、その場所は確かなのか?」

「え、うん。場所は間違いないよ。どういう場所かまでは、わからないけど」

「ローゲルさん、何か知ってるんです?」

 

 絶界雲上域は帝国に近い方だし、あのあたりについては彼が知っててもおかしくはないか。

 そう思い尋ねてみると、

 

「……人づてで多少な。あの辺りは世界樹に近いため建造物もそう多くない。だから俺が考えている場所と一致しているとは思うが……」

「勿体ぶらずに汝は知ることを話せ」

「勿体ぶってるわけじゃない。ただ、俺も半信半疑な話なんだ」

「いいから貴様は言え」

「君たちね……」

 

 イシュとウーファンの高圧的物言いに文句を言いたげだったけど、不満を呑み込んで彼は話しだした。

 

「俺がまだ騎士として新米だった頃、帝国は山間に隠れるようにあった建造物を発見したんだ。その当時から帝国は弱っていたため、世界樹の力を求めていた。木偶ノ文庫にはなかった情報があるかもしれないとその建造物の調査が行われた」

「それがさっきシウアンが言った場所ですか?」

「たぶんね、現世界樹……木偶ノ文庫の北西、煌天破ノ都より西に位置する場所なんだが……合ってるかい?」

「うん、そこだよ!」

 

 声の発生する場所に建造物があるとわかったことが嬉しいのか、先ほどまでと違いシウアンの声は大きめになった。

 それとは反対にローゲルさんは残念そうな顔だ。その表情から予想がつく。つまりそこは、

 

「ローゲル殿のその顔から見るに、その場所は非常に危険ということか?」

「ああ」

 

 まぁ世界樹に近いんだから、影響を強く受けて強力な魔物がいるってのはよくあることだ。

 

「一回目に組まれた調査隊は帰還叶わず。二回目の調査では帰還できたのは一名のみ……だったそうだ」

「帝国の兵でも生還が困難というわけか……」

「勿体ぶった割に、大したことのない話だったな」

 

 重く受け止めるキバガミさんと、鼻で笑うようなイシュの反応の違いのひどさよ。

 

「この話はまだ続きがある」

「三回目も調査隊が組まれたんです?」

 

 それはなんとも不屈な精神だ。二回目で打ち切りかなと思ったのに。

 そんな私の予想に対してローゲルさんは首を横に振った。

 

「調査は二回目で打ち切られた。そして今後、その地には決して触れてはならないという御触れが出た」

「続きというかまとめじゃないですか」

「……二回目の調査で帰還できたのは一名だ。帝国に戻る途中に墜落した気球艇の中にいた一名のみ」

「……」

 

 つまり、死体となって帰還したということだろうか。生還は一名もいなかった、と。

 とにかくすっごい危険な地ということはわかった。

 

 

「───そいつは石になっていた」

 

「石……?」

 

 

 人が石になっていた……性質を変容させるものには根源的な恐怖を感じる。世界樹の呪いによる植物化と似たような恐怖。

 冒険譚ものの本では石化の呪いを操る魔物なども存在する。実際に遠い地でもそういった魔物がいるらしい。だがこのタルシスでは見たことがなかった。

 

 しかし実際は、北上すれば石化の呪いがあったということ。

 対岸にある恐怖が、急に近づいた感覚。

 

「石になるとは……なんとも面妖な」

「話はそれで終わりか」

「ああ。その地には、人を石にする魔物がいるとしかわからず仕舞いだった」

「やはり勿体ぶった割には大したことのない話ではないか」

「……誰もがお前みたいな規格外の体をしているわけじゃないっての」

 

 石化について書いてた本はどこにあったかな。植物化と違って確か治癒方法も書いてあったはずだ。もしも行くのなら事前準備として欠かせない。ハイ・ラガードの魔物に石化させてくる奴がいるかもだし、アーテリンデさんに聞くのもありかな。

 

「しかし、場所についてはわかったが、まだ優先度合についてはわからぬな」

「うん、ごめんね……」

「私としては、シウアンの希望なのだから最優先以外に選択肢はない」

「ウーファンもふざけるくらいなら黙ってましょうね?」

「貴様! 私は至って真面目だ!」

 

 行きたい理由が謎の声。その場所が石化を使ってくるような危険な魔物がいる謎の地。

 

 後回しにしてもよさそうな気がしないでもない。むしろハイ・ラガードの魔物による被害が少しでも大きくならないように、先にイシュの目的の方でもいいのでは。

 

「小さな声、か……シウアン殿が聞こえるということは世界樹に縁あるものの声ということではなかろうか」

「世界樹ではないが、世界樹と関係するもの、ねぇ……シウアン、他に手掛かりとかないのか? なんだっていい」

「……ごめんね、何もわからないや。こんなこと初めてで……」

 

 シウアンには悪いけど、この分だと後回しになるかな。

 

 そんな結論に至りそうな時、ローゲルさんがふと何か気づいたように声をあげた。

 

「世界樹ではない世界樹関係ってなると、ここにもいるじゃないか」

「ローゲルさん? 何言ってるんです?」

「いや、ほら。世界樹が創られた時代の奴がそこに。別の地の世界樹ではあるが、そんな具体例があるんだ。もしかしたらその声ってのも古代の関係者かもしれない」

 

 イシュを指さしながらのローゲルさんの主張。つまりイシュと同じように千年前の人間かもしれないってことか。

 そんな例外みたいな例が何個もあるわけが……なんて否定は私にはできない。ありえるかどうか、イシュにそんな疑問の眼差しを向ければ、

 

「ふむ……我と同じ時代の者か。可能性もなくはない。仮に違っていたとしても、なんらかの研究資料は残っているかもしれぬな」

「研究資料、ですか?」

 

 何故に資料。イシュの時代の資料とは声を出すものなのだろうか。あ、資料じゃなくて死霊? 科学者なのにそんなオカルトチックなことを……

 

「資料ってこの地の世界樹についてのかい? それなら木偶ノ文庫から回収したものが確かあるぜ。帝国が保管しているから殿下か辺境伯の許可が必要だけどな」

「木偶ノ文庫は我の知る時代よりも後のものだ。保管されていた本の劣化から見るに、我の求めるものはない」

「ややこしくなりそうだな……そもそも資料がなんで話に出てきたんだ」

 

 イシュってお化けとか信じるんだ。意外ー、とか思ってたら話が全然違ってた。やっべ。一人勘違い暴走してた。

 

「この地の世界樹は特殊すぎる。世界樹の巫女、声、巨人。今になってそれらをありえぬと否定するつもりはないが、あまりにも我の知る世界樹とかけ離れている」

「それでこの地の世界樹の資料が出てきたってのかい?」

「汝らは知る由もないが、世界樹の力は強大だ。それに比べ、復活した巨人の力はあまりにも小さかった」

 

 突然巨人の力をディスりだした。でもあなた、かなりパニックになってたじゃないですかって突っ込みはしないでおこう。

 

「この地の研究で制御に注力した結果だと考えたが、この我の叡智を持ってしても謎が多い」

「我の叡智て」

「ゆえに、我の求める資料が残っている可能性があるのならば、調べねばならぬ」

 

 なんだか急にシウアンの要望に協力的になった。話を聞いてた身としては、どこに優先度が上がる要素があったのかさっぱりだ。

 ただの資料回収なら後回しでもいいと思うんだけども。

 

「えっと……それじゃあお願い、聞いてくれるの?」

 

 シウアンがおずおずと切り出した。さっきまで却下ムードだったのに急に乗り気になられて困惑しているのかもしれない。

 

「うむ。フォレストセルについてもそこの資料で言及しているやもしれぬ」

 

 急に専門用語を出さないでもらいたい。

 それがどういうものか聞くために、鸚鵡返しのように声をあげた。

 

「ふぉれすとせる?」

「世界樹の二つ目の欠点だ。世界樹の力を細分化してセルを弱め、消滅したのであればよいが……結局は巨人制御も暴走していたあたり、あまり期待はできぬ」

 

 うーむ。まったく説明になってない。いや、説明する気がないのかもしれない。

 とにかくイシュにとって優先度が高い問題ということだろう。

 

「なんだかよくわかんないけど、いつ出発できるかな?」

「準備とかあるから……それに気球艇の問題も……」

「準備……私は何を用意したらいいかな」

 

 シウアンの要望を受けると決めたけども、実行に移すには壁がいくつもある件。

 

 っていうか、あれ、今の発言。シウアンも来るつもりだろうか。

 

「……シウアンも来るの?」

「うん、だって私を呼んでるんだもの」

「えっと、危ないと思うけど……」

 

 言いながら横目でウーファンを見る。

 ウーファンのようなシウアン過保護勢から絶対反対されるのではないか。いや、逆にシウアン全肯定するのかな。

 そんな思いを脳裏に浮かべながら見ると、彼女は頭を抱えていた。

 

 これは絶対反対派だわ。だけどシウアンの願いだし、でも危険だし、みたいな考えから葛藤している状態だわ。

 

 頭をぶんぶん振り回す不気味なウロビトは放っておいて、ローゲルさんが提案するように言った。

 

「気球艇なら俺が使ってた奴があるぜ。ワールウィンドとして使ってた気球艇がな」

「なるほど! でも、加齢臭とか染みついてません……?」

「どうしてそうなるんだ……」

「となると、あとは準備のみといったところか。石にする魔物……拙者には皆目見当もつかん」

「その点は一度街の図書館とかで調べてみます。たしか治癒方法があったはずですから」

「おお。まことか」

 

 治癒方法を調べるのと、道具や医薬品の用意と……あとはカンテラの油も買い足したほうがいいかな。久々の冒険だ。変な忘れ物とかしたくないからよく考えないと。

 とにかく調べるのにどれくらい時間かかるかわからないけど、まずは一週間と言う目途で考えよう。

 

「色々調べてからですし、とりあえず一週間後に出発ってことで。場合によっては延びるかもですけど」

「ああ、俺はそれでいいよ」

「拙者もそれで構わぬ」

 

 ローゲルさんとキバガミさんはすんなり了承してくれた。

 

「シウアン……私が行くからやはりシウアンは里にいたほうがいいのではないか?」

「私しか声が聞こえないんだから、私が行かないとだよ」

「うう、シウアン……」

「シウアンとウーファンもオッケーですねー」

「はーい」

「うぅぅ……」

 

 さてイシュはっと。

 

「我もそれでよい。旅支度はすべて汝に任せている」

「あ、はい」

 

 聞く前に言われた。

 任されたことだし、過不足なく準備をやらなくては。目的地はえっと……名前あるのかな。

 

「ローゲルさん、その場所の名前とかってあるんです?」

「ん? ああ、調査対象となった建造物の名前ね」

 

 別に呼称はどうでもいいかなと思うけど、あるのならそれを使いたい。いつまでもあの場所だのその場所だのってのはかっこ悪いしね。

 

 

「明かり一筋通さない地で、暗黒ノ殿だったかな」

 

 

 ───暗黒ノ殿。

 

 名前からして暗そうだ。カンテラを人数分、あと油も大目に用意した方がよさそうかな。

 

 

 

 

 

 




 

世界樹4じゃ石化使ってくる魔物は表クリアするまでいませんでしたよね……たしか……
というわけでタルシスでは石化は見たことない、けど他の地域じゃ珍しいけどあるよって感じにしました。

5やX形式の石化ではないタイプで行きます。時間で治るなんてことはないタイプ。

この先、というか暗黒ノ殿編は今まで以上に独自設定色強めです。ご注意ください。


追記あとがき
メタルニードルくんのこと完全に忘れてました。石化いたよ!
……メタルニードルは絶滅した!(ってことにしよ)
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