独自解釈みがかなり強いので後書きにちょっと解説書いてます。
ウロビトの里では、私だけが人間だった。
アルメリアたちが来てから、人間の街を知った。
人間の街で私は、普通の人間とは少し違うと知った。
みんな、お父さんやお母さんがいる。
でも私にはいない。
育ててくれた里の皆が親といえばそうだけど、特にウーファンはお母さん……というよりお姉ちゃんかな。とにかく、私には産みの親というものがいない。
10年ほど前、私は深霧ノ幽谷の奥にいた赤子だった。それを拾ったのがウーファンだ。
私にはみんなのようなお父さんやお母さんはいない。
だけど寂しくはなかった。ウロビトのみんながいるから、と言えたらよかったけどウロビトは私を巫女として扱うし。寂しくなかった理由は、きっと世界樹と話すことができたから。世界樹とつながりがあったから。
いつだってあの子とつながりを感じれた。まるで他人ではないような。
あの子は私の話しを聞いてくれた。私のお願いを聞いてくれた。
いつだって、私のことを支えてくれていた。
ウロビトのみんなに教えられて、世界樹の声が聞こえる巫女だとわかった。
アルメリアたちに外の世界を見せてもらって、世界樹の巫女は世界樹の心だとわかった。
世界樹の心だとわかった時、納得と安心感があった。
私は世界樹と、一心同体の存在なのだと。
たとえウロビトのみんなやタルシスのみんなと、産まれ育ちが違っても、私は世界樹という家族がいる。孤独になることは絶対にないのだと。
──────そう、思っていたのに。
先に進めば進むほど、石にされた犠牲者の数が少なくなってきた。
正直あまりジロジロ見たくはないけど、犠牲者の姿もヒントになり得るからとアルメリアに言われたから私も注意深く観察する。ウーファンはそんなことしなくていいって言ってくれたけど、私がお願いしてここにつれてきてもらったんだから、少しは役に立ちたい。
この辺りは苦しんだ表情の石像がないみたい。羊の魔物を倒したから少しは安全かもってローゲルは言ってた。
壁に掛かるランタンに照らされた暗闇の廊下を歩いていくと、広い部屋に辿りついた。
部屋の入口には『食堂』と書かれている、らしい。イシュとアルメリアはここに書かれている古代文字が読める。二人とも全然凄そうに見えないのに、あの戦いの時といい知識といい実は結構すごいんだって改めて実感した。
足を踏み入れると、ほのかに暖かな香ばしさがどこからか漂ってくる。
誰かがいるのかな。でも、そんな風には見えない。いるとすれば魔物だけだと思うけど……
じゃあ魔物がこんな香りを出しているのかな。調理できる魔物とか?
「香りの元……調べるか?」
「この先は突き当たりだ。行く意味はない」
キバガミの方角を示しながらの提案に、イシュは却下した。
何があるかわからないまま進むのもなんだかこわい。けども何があるかわかっても薄気味悪さが付きまといそうで、何が正解か全くわからない。想像していた冒険と全然違う。
いくつもの机が並ぶ食堂の中を歩き進む。壁には文字が書いてあった。
やっぱりこれも古代文字。アルメリアに内容を教えてもらうと『一日一食まで』
ここでの決まりだったのかな。でも一日一食だけとは健康上問題がありそう。
「……また石にされた者たちか」
ウーファンがうんざり気に呟いた。犠牲者の気は感知できないもんね。私も手伝えないかとたまに気の感知をしてみているけど、魔物以外の気は見つからない。
今度の石の人たちは苦し気な表情だ。入口の人たちと同じ、ガス状の石化毒の魔物が原因。その魔物とはまだ遭遇していないから怖い。飛ぶ魔物だったら近づいてきても気づけないかもしれない。さっきみたいに、皆が石になったらと思うととても怖い。
「……帝国の調査隊じゃないな。彼らは」
ローゲルが石を見て言った。
「調査隊じゃないってことは……ここに住んでいた人たち?」
「かもな。とても戦いに赴く服装じゃない。一般人だったのかもしれない」
「ひどい……」
ただ普通に生活していた人も石にされるなんて……
「……アルメリア、この文字は読めるか?」
「はい?」
倒れ伏した石の犠牲者のそばをしゃがみこんでいたウーファンが、アルメリアに床を示していた。
私も横から見ると、そこには黒いインクで文字が書かれていた。石に変わりゆく中、最期の力を振り絞って書かれたメッセージなのかも。
「文章……じゃないですねこれ。えっと……『蟲 失敗 開けるな』とだけ」
「その蟲が原因でこの惨状ということであろうか……」
「いや、それならば開けるなとは書かないだろう。何かに襲われている最中であっても、その蟲というのがより脅威なものだと示したかったのかもしれない」
何があったのか、やはり想像がつかない。
遺された文字から色々と考えていると、奥を見てきたローゲルが声をあげた。
「おい、あっちの部屋に日記があったらしい」
「日記?」
「ああ、イシュが今読んでるんだが……俺が頼んでも内容を教えようとしないからな。アルメリア、君からも頼めるかい」
「あ、はい」
アルメリアがいくつも扉が並んでいる廊下の元へと進んでいく。私はどうしよう。ウーファンはあまり離れるなって言ってたけど、イシュが見つけた日記が私も気になる。
うん、ウーファンからは離れるけど、アルメリアから離れるわけじゃないしついていこう。
「シウアンも日記が気になるの?」
「うん、それに……あんまり石にされた人たちを見たくないから……」
「……じゃ、一緒に聞こっか」
開けられっぱなしの小さな部屋の中には、三段ベッドがあり反対側の壁には本棚、そして小さな机と椅子。イシュは椅子に腰かけて日記を読んでいた。
「イシュ、何か気になることが書いてありました? ローゲルさんがすごい気にしてましたよ」
ローゲルの頼み通りアルメリアが尋ねた。たぶんアルメリアも他人の日記が気になってるんだと思う。他人の日記を見ることはいけないことだけど、頼みごとだからしょうがないんだって言い訳を用意してそう。
「……この地で世界樹の力が発現した回数。前回の戦い、聖樹の護り、この二回だと我は考えていた」
日記には世界樹のことが書いてあるんだ。力の発現回数についてイシュは言いだした。
「二回じゃなかったんですか……?」
「前回の戦い、聖樹の護り、そして千年前の世界樹計画。恐らくこの三回だ」
三回もあったんだ。全然知らなかった。
世界樹はあまり多く語ってくれない。いつも眠っているからというのもあるけど、自分のことを教えてくれたりしないから。
だけどそれが不満に感じたことはない。私は世界樹の巫女、世界樹の心だから。あの子とは繋がりがあるから不安なこともない。
「我は発現した巨人の力を小さいと言った」
「そうですね」
あの子の力が小さいと言えるなんて、イシュがいた時代はすごかったんだ。
でもあの子の力は私の呼びかけで抑えられていたっていうのも一応あるけど……別にそれは言わなくてもいいかな。
「模造品だった」
「……はい?」
模造品?
唐突に出てきた言葉の意味を理解する前に、イシュが言った。
「汝らが見てきた世界樹は、世界樹を模して創られた贋作だ」
───ひとつ、私が信じてきたものに、ヒビが入る音が聞こえた。
「へ? いや、でもあの力はイシュも世界樹の呪いだって言ってたじゃないですか」
「我も始めは制御のため力を抑えられた世界樹だと考えていた。だがそうではない。力の発現を終えた世界樹をベースに創られた劣化コピーだ。人間に制御のしやすいように、調整された代物だ」
世界樹が、世界樹じゃない……?
じゃあ私はなに? いや、あの子が世界樹じゃないとしても、私とあの子の繋がりに何も関係ない。ちゃんと事実を受け止めないと。私の我儘でみんなにここに来てもらったんだ。そこで知ることを、私は知らないといけない。
イシュは私を見て、さらに話しを続けた。
「世界樹の心、それも奇妙な話だった。世界樹の意思を、声を聞くことができる巫女。その巫女が世界樹の心とはどういうことか。世界樹の意思と世界樹の心は別々にある。では世界樹は意思を二つ持つものなのか」
「え、あ……こ、心と意思は別のものなんじゃないかな……」
「世界樹の心を巨人に組み込み、巨人の制御を行う。世界樹にあった意思を呑み込み心を使っての制御。力関係が明白だった。その理由は──────」
事実を受け止めないといけない、はずなのに、イシュの言葉を聞きたくない。
この話は世界樹の正体についてだけでは止まらない。私の根幹を、支えを揺るがすものだ。私がこれまで縋ってきたものを壊すかもしれないものだ。
「汝が本体の世界樹から創られた心であり、模造品の世界樹は本体の指示に従っていただけだ。つまり、汝は汝らの知る世界樹の心ではない。別の世界樹の心だ」
そんなこと、ない。
だって世界樹は、あの子はいつだって私の話を聞いてくれた。私のお願いだって聞いてくれた。だからみんなから呪いを払ってくれた。
私のお願いを……
───『本体の指示に従っていただけだ』
私の話しを聞いてくれたのは、私だからじゃなく、私が本当の世界樹の一部だったから……?
お願いを聞いてくれたのも、本体の指示に従っていたため……?
「このシェルターの人間は、本物の世界樹の力の発現時、偶然生き延びれた者たちだ。その中には世界樹計画に参加できずともそれなりに優秀な科学者もいたようだ。その者たちは、世界樹の力に呑まれた世界に絶望した。生き延びるためにそばにあった世界樹を研究し、危険性を考え性能を落として模造品を創り、制御しやすいように、意思疎通を可能にするために世界樹から人間を作り、心とした」
イシュがまだ話を続けている。だけど私には全然耳に入らない。
「完成品がそばにあったのだ。シェルターの研究施設といえど、サンプルがあるのならばできることも増えるということか。その結果、この地に危機を齎す巨人が創られたのだからな」
あの子にとって、私は何?
語りかけても、眠っていて応えてくれない。どれだけ声を聞くことに集中しても、あの子の声は聞こえない。
聞こえるのは地下からの声だけ。
あの子によく似た声……だけど違う声。
これは、これが……本当の世界樹の声……? じゃあやっぱり、あの子と私は違う存在だったの……?
私と今までお話してくれていたのは、私の願いを聞いていたからじゃなく……私を通して本体の願いを聞いていただけ……?
「……違う」
「シウアン?」
「追い詰められれば人間は思いもよらぬ力を発揮する。科学者たちにも当てはまるとはな。食糧危機の状態の中、状況を打破せんと世界樹のコピーを創る計画。その保険や副産物をいくつも生み出したようだ」
私はあの子の心じゃなかった。
じゃあ私は、地下から聞こえてくる声の子の心……?
そう考えた途端、声が今までよりも鮮明に聞こえだした。繋がりまでもはっきりと感じれる。
それでもまだ小さな声。だけど呼んでいる。私を強く、求めている。
ウロビトでもない、人間でもない私を求めてくれている。
「───行かなくちゃ」
「シウアン? どこに?」
アルメリアの声を無視して、部屋を出る。
今までよりも鮮明に呼んでいる。地の底から、暗闇の中から、私を求めている。私はその子の心なら、応えてあげないと。会ってあげなくちゃという強い使命感のようなものが胸いっぱいになる。
ただ聞こえるだけじゃなく、まるで声の子に抱擁されているかのように、身近に感じてきた。
部屋の中ではイシュがまだ何か長々と話していた。
アルメリアは心配げに私を見てくれている。
廊下ではウーファンとローゲルが石にされた人の荷物を調べてて、キバガミが周辺を警戒してる。
「地下への道は……うん、ありがと。こっちだね」
声の子が、道を教えてくれた。
大丈夫、この子は私を求めてくれている。今までごめんね、気づいてあげられなくて。
「シウアン!? イシュ、シウアンが! その話はあとでいいですから! ああ、もう!!」
声に導かれるままに走った。
後ろでアルメリアの焦った声が聞こえた。けど私は止まらない。ずっとこの声の子を私は気づけなかったんだ。この子の元にすぐにでも行かなくちゃ。
暗いけど、怖いけど、ずっとひとりぼっちにさせてた子がいるんだ。ちょっとぐらい私も我慢しないと。
いくつも並ぶ石像をすり抜けて、奥へ奥へと行く。
廊下の灯よりも強い明かりに照らされた階段が見えた。
───こっちだね。
階段を降りた先はさらに真っ暗で、声がなかったら方角もわからなくなりそう。
あ、声が近づいてる。
私が動いているからじゃない。向こうも、動いている。
這いあがってくる。下から、この階へと。
遠くから、大きな音が聞こえた。
早く会わなくちゃ。会っていっぱい遊んであげなくちゃ。もう寂しがらせずに済むんだ。
「あ……なに、この花……」
勝手に動いて……花粉? すごい吸っちゃ……体が急に重たく……?
「シウアン!!」
名前を呼ばれると同時に突然、眩しいくらいに明るい炎が花を燃やした。
一瞬の明るさの中で見えた私の腕は、石になりかかっていた。
「石に……! テリアカ早く!」
「ウム!」
あ……みんな、追いかけてきてくれたんだ。
「何を勝手に突っ走っている。汝の力は我が目的に不可欠なのだ。不用意な行動は控えよ」
「素直に心配したとか言ったらいいじゃないか」
「黙れローゲル。我は事実を述べたまでだ」
「貴様ら、呑気にしているな! シウアンの治療を終えるまで周囲を警戒しろ!」
キバガミが背中をさすりながらテリアカを飲ませてくれた。
効果がすごいみたいで、ちょっと体中痺れが残るけど石になっていた皮膚が戻っていく。
……私はなんであんなに焦ってたんだろう。
「シウアン、急にどうしたの? 本当に……」
「ウム、何か気づいたことがあったのか?」
アルメリアとキバガミの質問に、なんて答えたらいいかわからない。声が聞こえて、それと、なんでか会わなきゃって気持ちがすごく強くなって……でもなんでか。
悩んでいる間、イシュとローゲルの喧嘩を止めようとウーファンが二人を諫めている。だけどウーファンも気が強いから三人で喧嘩しているみたいに見えちゃう。それがちょっとおかしくて、笑っちゃった。
──声の子も、すぐそばで笑ってくれた気がした。
また、声に包まれていく。
「───何かが来る!」
「むっ!?」
「うおおっ!?」
壁が壊されて、声の子が私たちとウーファンたちの間に入った。
あれ? 声の子かと思ったけど、なんかちょっと変。
「な、なにこれ……」
「巨大な蟲……! 書かれていたのはこいつか……!?」
間に入ってきたのは薄緑色の体色の、大きな蟲。赤く光る複眼が私を捉えた気がした。
「いかん!!」
蟲が飛び掛かるように跳ねた。
その寸前にキバガミが私とアルメリアを抱えて跳躍する。
「ひょあぁ!?」
蟲はまた私を見る。
また襲ってくるその前に、蟲の後ろから三人の声が聞こえた。
「虫けらが我を無視して暴れるとは、不敬にもほどがある。美しき陽光を浴びて償うがいい」
「こんなでかい虫はちょっと気持ち悪いな……ショックドライブ準備完了」
「シウアン無事かー!! キバガミ! シウアンを絶対に守れ! シウアン、すぐにこの邪魔な奴を貫くから待っててくれ! 凍牙で貫いてくれる!」
一斉に喋るから何言ってるか全然聞き取れなかった。ウーファンの言葉はすごい長かったからわかったけども。
蟲が何かをする前に、轟音が響く。
三人の攻撃が強かったのか、蟲の口から黄色い液体が噴出した。
「うげ、きもい……」
「ムゥ!?」
アルメリアの小声とキバガミの掛け声が混ざる。
私とアルメリアを抱えながら大きく後退したことによって、私たちに黄色い液体に掛かることはなかった。
液体が掛かった床からはじゅうじゅうと音が立つ。
「と、溶けてますけど……」
「気を抜くな! この蟲はまだ動くぞ!!」
「は、はい!」
音はいつまでも立ち、やがて部屋の床に大きな穴を開けた。もしも体に掛かっていたらなんて考えたくない。
大穴を蟲は軽々と飛び越えて、そのまま押し潰すように迫りくる。
キバガミはそれを回避するためにまた後退した。
蟲の重量によって空いた穴がさらに広がった。
「図体がでかいだけあってしぶといか」
「悠長に言ってる場合じゃない! アルメリアたちと分断されたんだ!」
「シウアン! キバガミ、絶対守れ!!」
遠ざかってしまった三人の声が小さく聞こえる。
代わりによく聞こえるのはあの声。それがやっぱり前にいる蟲から……蟲の中から聞こえる……
「拙者らは一度引く! このままでは応戦できぬ! のちに合流しようぞ!!」
キバガミはそう言って、やっぱり私とアルメリアを抱えながら部屋から飛びだした。
すぐさま背後からは蟲の巨体が壁を壊しながら部屋を出てくる音が聞こえた。
これ、タルシスで子供たちがやってた鬼ごっこみたいだ。
なんだかすごく、楽しい。
『蟲 失敗 開けるな』
このお話では勝手に開けて出てきた模様。
六章ボススキル:混沌の抱擁
ランダム状態異常を付与
実際にあの巨体で抱擁したら押し潰し系になりそうなので精神面アタックに。
4の世界樹について独自解釈みがとても強いので、自解釈解説(´・ω・`)
わかりにくいかもですが、時系列がわかるように順番を振ってみました。
1.千年前の世界樹計画参加の科学者が副作用弱めの世界樹を創ろうと頑張る。
2.少し副作用弱くなったしこれなら今の世代も生き延びれるかも。でも念のため国民は避難所に行かせてから世界樹発動。
3.予想以上に世界樹の力強くてほとんどの避難所も全滅。偶然生き延びたのは「暗黒ノ殿」となる避難所のみ。
4.避難所の科学者は世界樹計画を知らない。突如現れた世界樹(大樹)による環境の激変災害。
5.避難所科学者「このままじゃ死んじゃう。そうだ、環境を変えよう。あの災害の原因っぽい大樹を調整したら、世界を再生できるのでは。これを世界樹計画(巨人)と名付けよう」
6.世界樹(巨人)暴走したらやばいと思った。だから保険としてアレを作る。
7.アレをつくった。アレが本当に世界樹を抑えれるのか試したい。そうだ、災害の原因となった大樹(世界樹)で実験しよう。
8.蟲 失敗 開けるな
9.避難所からさらに避難した人たち「やばい。外の環境やばい。すぐに世界樹計画(巨人)実行だ
10.巨人暴走。聖樹の護りとなる。
あくまで個人解釈です。
解釈違いがあると思いますが、このお話はこういう設定なんだなーって感覚でいてくれたら幸いです。
次回はアルメリアに戻ります。