慌てて彼を追いかけ、部屋を出ると、そこは巨大なガレージのようだった。
何百といるであろう人たちが目まぐるしく動いている。
辺りを見回していると彼が手招きしていた。
私は駆け出し彼の後ろについた。
「まずあの悪魔について。私たちはあいつらをD(デイモン)と呼んでいる。まあ名前なんてなんでもいい。伝わればいいのさ。」
案外この人?は適当な性格なのかもしれない。だとするとわりと見た目以外は人なのかな、などと考えていると彼は続けて
「あいつらはどこからきたのか、目的はなんなのかは全くわからない。わかっているのは彼らに人間の兵器は効かず、人間に害ある存在ということだけだ。」
兵器が効かない、それは銃や爆弾、核すらもあれに傷をつけることはできないということなのか。
そんな化け物いったいー「あいつらをどうやって倒すのか。」
…なんだか考えを読まれているようで気にくわない。そんな私を尻目に
「だが人類だって馬鹿じゃない、ありとあらゆる手段を試した。その結果、対抗策を1つ、見つけた。」
あの化け物を倒す方法、その一言は私の知的好奇心を刺激するのに十分な言葉だった。
「その…方法とは…?」
「例えば、何かが飛んできたときにとっさにめをつぶったり、腕を前に出すことをなんというか知っているかい?」
余りに唐突な問題だった。しかし、出された問題には全力で答える。それが私だ。
「いわゆる、防衛本能と呼ばれるものですね。」
「そうだ。」
これでも知識には自信がある。このくらいの問題ならいくらでも答えられる。しかし、「でも…それがいったい…」
「と思っただろう、私たちはあいつらに対抗する術を模索していた時、不運にも女性職員があいつらに襲われてしまったのだよ。」
「でも、そのときだった。」
彼は続けた。
「その職員はありえないほどの身体能力を発揮し、デイモンを屠ったんだ。その後の解析により、一部の女性には対デイモン用の細胞があることがわかった。それはその職員により[生存本能]と名付けられた。」
細胞なのに本能とは、いったいどんな理由でそんな名前を。
「そしてその細胞を持つ女性を[ヴァルキュリア]と名付けたんだ。」
ヴァルキュリア、戦女神とも称される北欧の女神、戦う女性にはおあつらえ向きだ。
「ここはヴァルキュリアを要し、デイモンを殲滅する特殊機関、ヴァルハラ、そして私がヴァルキュリアを指揮する[P]だ、よろしく。」
先程聞いたプロデューサーというのはこの人のことだったのか、しかし指揮官、ということはこの人は実はかなり偉い人なのではないか、でもなんでそんな偉い人が、そもそも私はなんでここに連れてこられて、こんな説明を聞かされたのか…まさか…!
「その通り、あなたもそのヴァルキュリアなのです。あのときあなたはヴァルキュリアとして覚醒したのですよ。」
「でも、私にはそんなこと…!」
私にはあんな化け物とは戦えない、例え倒せる力を持っていたとしても、だ。
「うーん、このセリフは言いたくなかったんだけどなぁ。」
そうだそうだ、言いたくないなら言わなければいい、人間にはしたくないことをしない権利がある。
「デイモンとの戦闘は日々激化している。現状手一杯なんだ。いつ対処できない時があってもおかしくはないんだ。君も、他の子を同じ目に会わせたくないだろう?」
ああ、本当に聞きたくなかった。そんなことを言われたら私は…。
「……わかりました、私にはもう失うものは残っていない。こんな目にあうのは私一人でいい…!」
私の胸にはいくつもの感情が渦巻いていた。
怒り、悲しみ、嘆き…。
しかし、この言葉に出たのは覚悟の気持ちだけだった。
「よく言ってくれた、改めて歓迎するよ、ええと、そういえば名前、聞いていなかったな。」
「私の名前は…文香…鷺沢文香…です。」