原作曖昧者に転生は厳しい 兵藤一誠   作:ジーザス

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いつの間にか1ヶ月経ってました…すみませんでした

免許とレポートで書く暇がないんです

メインで書いている小説ぼかり投稿でしていました。できるだけ平等に投稿できるようがんばります


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部長にこっぴどく叱られた日の次の日は、なんと部活がオフであった。

 

暇だったこともあったので、久しぶりに遠回りをして帰ることにした。別にこれといった目的があって歩いたわけじゃなくて、本当に歩いて帰るだけのつもりだった。

 

公園で遊ぶ小学生ぐらいの男の子たちが視界の端に映る。「はぐれ悪魔」と交戦したのかと思えるほど平和な時間が、穏やかに流れていく。

 

これが当たり前のことなのに何故かすごく尊いことに感じるのは何故だろうか。悪魔と天使、そして堕天使の三竦みによる小競り合いが続いているなかで、人間だけはそれを知らずに日常を過ごしている。

 

人間界で有名な企業が、実は悪魔の掌の上にあることなど大勢の人が知らないだろう。俺だって転生悪魔になってから知ったのだし、よほどのことが無い限り知る機会は訪れない。

 

それが良いことなのか悪いことなのかは今の俺では判断がつかない。悪魔になったから寿命は飛躍的に長くなった。もしかしたら死ぬまでにそのことを知る日が来るかもしれない。

 

たとえそのことを知る日が来なくても別に俺は構わない。知ろうと知らずとも、俺がやることは変わらない。

 

友人や家族を狙う輩を排除して明るく楽しい、誰もが笑顔でいられるような日常を作りたい。悪を恐れず正義に頼りきらないバランスがとれた世の中を作るのが今の俺の夢だ。

 

争いを生き抜いてきた存在からすれば、俺の夢は「幼い」、「温室育ち」と思うだろうが俺はそれで構わない。

 

自分が侮蔑、虐げられてもみんなの笑顔が見れるならそれでいい。

 

ただそれだけが俺の願い。転生したことで得た想いだ。

 

そんなことを考えながら夕暮れの空を見上げていた俺は、気恥ずかしくなって公園を左にして帰ろうとすると、取り零したのだろうか公園の出入口からボールが転がり出した。

 

それを追いかけて子供が飛び出す。

 

「危ねぇ!」

 

思いっきりダッシュして少年を衝撃から守るように抱き締める。勢い余って地面に肩が擦れて痛みが走るが堪える。

 

「大丈夫ですか!?」

 

車から降りてきた男性が俺に声をかけてくれる。このまま走り去られればこの人の罪になっただろうが、そんなことはないようだ。

 

もともと逃げられても被害届を出すつもりなんかなかったし。だって手続き面倒くさいじゃん?その時間を使って学校の勉強や悪魔家業をする方が効率いいもん。

 

「はい、大丈夫ですありがとうございます。君は大丈夫かい?」

「ひぐっ!うん、ひっく!」

「男の子が泣いたら女の子に笑われるぞ。怪我していないなら友達に無事を伝えてこい」

「うん!ありがとう優しいお兄ちゃん!」

 

笑顔でボールを持って走っていく少年に手を振って立ち上がる。自分の右半身を見てみると、まあまあひどい怪我だった。2、3m滑ったせいか擦り傷どころではなく、肉が少しばかり抉れている。

 

運転手に見えないようカバンで隠して立ち上がる。

 

「運転手さんにも怪我がなくてよかったです。この地域は子供が多いので速度には注意した方がいいですよ。それでは」

「あ、君ちょっと!」

 

声をかけられるが無視して歩き去る。どこか人目の無いところでさっさと傷を治したかったから足早にその場を去った。

 

 

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そのあと、どこを歩いても何かしらしている人や車などが通るので治す暇がなかった。そうこうしているうちに最寄りの公園まで歩いてきていた。

 

家も近かったが万が一母さんがいたら問いただされるからここで治すことにした。

 

「いてててて。やっぱ強制的に治すのは体に負担がかかるな」

 

細胞を活性化させることで傷を治していたが、相変わらずこの痛みには慣れない。無理矢理動かしているのもあるんだろうけどそれでも不快なのには変わりない。

 

顔を上げると見たことのある金色の髪をした少女が周囲に世話しなく向けている。どうやら道に迷ったらしいので手助けをすることにした。

 

「アーシア、どうした?」

「あ、イッセーさん!実は道に迷ってしまって…」

 

嬉しそうに笑みを浮かべたあと、萎んだ花のように俯く様子がかわいかった。

 

「協会とは真反対だよ?まあ、ここら一帯は迷路みたいになってるから仕方ないけど。協会までの簡単な道教えてあげるよ」

「ありがとうございます!イッセーさんもしかして怪我してます?」

「…わかるの?」

 

事故を目撃していないはずなのに何故気付けるのだろうか。

 

「少しだけですけどイッセーさんから血の臭いが。それとこの前会ったときの姿勢とは違うんです右肩が下がっているようなので。もしかしたらと思って聞いたんですけど当たりでしたね」

「驚いたな。でも気にしないでよすぐ治るから」

「ダメです!」

 

うおい!至近距離まで顔近づけたらダメだよ勘違いされるって!ほら、向こうに立つお母様方がひそひそしてるじゃないか!

 

俺は構わないけどさ。背中側だからアーシアには見えてないのが救いなのかな?

 

「見せてください!」

「…はーい」

 

何とも言えない圧力にしぶしぶ俺はブレザーを脱いで、怪我した部分をアーシアに見せた。それに息を飲んだ音がしたので本人が思っていた以上の怪我だったようだ。

 

人目につくわけにもいかないので、先程まで俺が座っていた公園のベンチに座って手当てをしてもらうことになった。

 

シャツまで脱がされた俺は驚いて振り返ると、アーシアも顔を真っ赤にして俯いていた。ほぼほぼ初対面の男の上半身を見るなんて、普通だったら恥ずかしいよね。

 

特にアーシアは「原作」でもちょっとしたことで顔を紅くしてたからピュアなんだよ。

 

だから俺は何も言わずに顔の位置を戻した。するとアーシアが両手を傷口にかざしすと、暖かい光が降り注ぐ感覚が俺の右肩を襲った。

 

安心できる、体が軽くなるような不思議な光だ。

 

「どうですか?」

「ありがとう。すごい力だね」

「ありがとうございます!」

 

人の好意を素直に受け入れて、嬉しそうにしてくれたらこっちも嬉しくなるね。だからみんなアーシアに癒されるんだと思うんだ。

 

「イッセーさんは悪魔なのにこれほどまで怪我をするんですね」

「今は人間ぐらいの身体能力に落としてるからその副作用だよ。体育とか悪魔の身体能力で動いたらパニックになっちゃう」

 

冗談を交えながら話すとアーシアも楽しそうに笑ってくれた。本当にアーシアの笑顔は見る者すべてを癒す力があるよ。

 

ほれてまうやろぉ!はないけどね。俺には一番大切な人がいるからさ。

 

「アーシアの能力は本当に便利だね。悪魔とかにも効果があるってすごいよ本当に」

「…はい」

 

あの太陽のように眩しい笑顔が突如曇った。

 

「…そうですね。でもそれが私がここにいる原因なんです」

「どういうこと?」

 

アーシアは涙を流しながらポツリポツリと話してくれた。

 

それは「聖女」として敬われた1人の少女の末路だった。

 

欧州のある地方で生まれてすぐに両親に捨てられた。捨てられた先の協会兼孤児院でシスターと同じように孤児になってしまった子供たちと暮らし始めた。

 

信仰深い協会で育てられ、アーシアの人間性も相まってその力に目覚めたのは八歳の頃。何気なく怪我した子供の傷を治療していると不思議な光が現れ、一瞬にして治ってしまった。

 

その不思議な場面を目撃した協会関係者によってアーシアは、カトリック協会の本部に連れていかれ、「聖女」として担ぎ出されることになった。

 

何故そんな力が自分に宿ったのかはわからない。ただ、怪我をしている人を救いたい一心でいただけなのに。それのせいで自分は今ここにいる。

 

力がほしくて人を救っていたわけじゃない。見逃せなかった。怪我している人が痛みを堪えている姿を見るのが耐えられなかった。

 

癒したい、治して元の生活を取り戻してほしい。その気持ちがアーシアに眠っていた力を目覚めさせたのかもしれない。

 

カトリック協会でその力を使い傷を治している間にも不安は高まっていった。それには自分に向けられる親しい感情ではないものが原因でもあった。

 

傷を治している自分に向けられる視線には、異質さが含まれていた。人間ではなく「人を治療できる生物」として見られていると。

 

それでもアーシアは懸命に治療を続けた。治すことは嫌ではなくむしろ嬉しかったし、世話をしてくれる関係者に恩返ししたい気持ちがあったからだ。

 

だがその後に起こった悲劇がアーシアの「聖女」としての人生を終わらせることになってしまった。

 

偶然通りかかった悪魔の傷を癒してしまったのだ。本来ならあり得るはずのない治療を目撃した協会関係者は上へと報告した。

 

それによってアーシアは迫害され、「聖女」ではなく「魔女」という烙印を押されることになった。そしてあっという間に見放され、捨てられた。

 

あれほど協会に貢献したのに庇う人間は誰1人いなかった。治療した怪我人でさえも突き放すような態度だった。

 

行き場を失い途方に暮れていたアーシアを拾ったのは「はぐれ悪魔払い」の組織であった。

 

堕天使の加護を受けざる負えなくなったアーシアの立場は一体どんなのだろう。

 

俺には想像もできないほどに苦しんでいるのかもしれない。

 

「私の祈りが足りなかったんですよ。神様は本当に祈りを捧げてくれる人にしか加護を施さないって。きっとこういうことですよね」

 

儚げに涙を流しながら微笑むアーシアに俺はなんと声をかければいいのかわからなかった。神など存在しない(・・・・・・・・)。いや、していた(・・・・)と教えるべきなのだろうか。

 

だがそれをアーシアが信じてくれる保証はどこにもない。悪者の言葉をも信用してしまうアーシアだが、自分の信じてきたことを否定されれば、アーシアでも受け入れきれないだろう。

 

どこでその情報を知ったのかと聞かれれば俺のことを話さなくてはならないし、そうすれば三大勢力から危険視されるのは容易に予測できる。

 

そんなことになれば俺の立場だけでなく、松本や元浜、父さんや母さんにまで危険が及んでしまう。それだけは避けなくてはならない。

 

たとえ最上級悪魔レベルの身体能力や魔力を与えられていたとしても、勝つ見込みは万にひとつもない。禁手を使っても数分持ち堪えるのが関の山だ。

 

微かにさきほどの女性たちが向けていた視線とは違う何かを感じたが、金髪の美少女がいることに驚いた男だろうと予測して気にしないことにした。

 

なら、どんな手段を使ってでもアーシアを堕天使から救い出さなければならない。部長に小言ではなく雷を落とされても構わない。

 

救わなければならない状況にいる人を無視するのは、俺の生き方に反する。アーシアは絶対に裏切ったり憎んだりしない子だ。攻撃した相手をも許してしまう寛大さ、もしくは甘さ。

 

でもそれが人を救う糧になるのは事実。

 

「なら、俺のところにおいでよ」

「イッセーさんのところにですか?それは悪魔につけということになりますよね」

「そうなるけど俺たちの悪魔は人間界で言う『天使と悪魔』という意味ではないよ。悪魔って言われるけど俺の王は偉大で優しいんだ。きっとアーシアのことを知ったら受け入れてくれるよ」

 

そうさ。部長は真面目だけどアーシアがどのような被害に遭ったのかを知れば受け入れてくれるはずだ。困っている人を放っておかない部長の性格に漬け込んだ姑息なやり方だけど、このまま放っておいて散々な目に合わせるよりはマシだ。

 

「ということで、善は急げなので俺の家にカモン!」

「ふえぇぇぇぇ!?」

 

顔を真っ赤にして俯くアーシアの手を取って俺は、家に向かって歩き出した。

 

良いことなのか悪いことなのかはわからないが俺はその時大事なことを見落としていた。

 

「原作」であったあの悲劇を、蘇らせ自分の眼で見ることになるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ダメよ」

 

家に帰って母さんがいないことをいいことに、アーシアを自室に入れた。

 

慣れない場所に戸惑っているのか、アーシアは挙動不審になっていたけど、ココアを飲ましてあげると幾分か落ち着いたようだ。

 

そのタイミングを見計らって部長を呼んで、事情を説明したけど呆気なく断られた。それがさきほどのセリフだ。

 

「何故ダメなんですか?」

「元は神を信仰していたカトリック協会の者でしょう?それだけの理由では私でも受け入れられないわ。貴方以外の眷属を危険に晒すことになるとわかって言っているのかしら?」

「もちろんですよ。ですが俺はアーシアを放っておくことはできません。過去にあれだけの事があったというのに受け入れられないという部長には失望しました」

「主に逆らうつもり?」

 

部長が魔力を放出して俺を脅し始めた。その圧倒的な存在感にアーシアは、壁際まで退避して縮こまってしまっている。

 

「誰も逆らうとは言っていません。部長の眷属にしてもらえないのであれば俺のものにします」

「貴方は上級悪魔になっていないから不可能よ」

「ええ、その通りです。ですから今は使い魔という立場で側に置きます。そしていつか上級悪魔になった時に俺の僧侶として眷属にする予定です」

「その子が叛旗を翻すとしても?」

「ありえない仮定ですね。アーシアにそんなことができるとは思えませんし、アーシアは世話になった人を恨むことができない人間性ですので」

 

アーシアが裏切らない可能性は100%ないと言い切れないが、裏切られてもまた救えばいい。

 

何度でも自分の手で目を覚まさせる。

 

「…いいわ保護はしましょう。だけど眷属にするかどうかは、彼女が本当に危険ではないかを私が判断してからよ」

「それで十分です。身分をわきまえない発言の数々お許しください」

 

正座して頭を深々と下げると部長が苦笑して、俺の頭を撫でてくれた。不思議に思って顔を上げると穏やかに微笑む部長がいた。

 

「部長?」

「貴方がそこまで必死になる理由が何かあるのでしょう?口にできない何かが。恋心ではないと予想しているけどそれが正しいのか間違っているのを聞いても仕方ないわ。アーシアとか言ったかしら?」

「は、はい!」

 

部長がアーシアを呼んで俺の隣に座らせる。緊張しているようでアーシアは全身震わせているから家まで揺れそうでなんか不安だよ。

 

「貴方のことを疑ってるわけじゃないのよ。ただ信用できる根拠がないからああやって強く当たってしまったわ。ごめんなさいね。私たち悪魔からすれば神を信仰する者は恐ろしい存在だからどうしても信用しにくい部分があるの」

「いえ、部長さんがの言う通りだと思います。私だって悪魔は怖い存在だと思ってましたから。でもイッセーさんと出会ってから印象が変わりました。悪魔でも被害を加えずに守るものがある人もいるんだと」

 

なんだか気恥ずかしいなそこまで褒められるとさ。嬉しいけど褒められるとさ照れちゃうからあんまり本人の前で言わないでほしいかな、ははははははは。

 

「アーシアと会うのは認めます。でも気を付けなさいイッセー、下手をすれば貴方は彼女を誑かしたということで処分される可能性があるわ」

「肝に命じます」

「アーシア、貴方もくれぐれも気を付けなさい。イッセーと会うのであればここかどこか目の届かないところで会いなさい」

「はい!」

「いい返事ね。イッセー、明日は部活あるから来なさい」

「了解しました」

 

部長が家を出て行ったのを確認してから、アーシアは同じように家を出て行った。なんとか部長の許可を得られたけどあれが部長の本心だとは思えない。

 

本当は眷属である俺を一刻も早く引き離したいだろうけど、俺の我が儘を聞き入れてくれた。

 

だからその気持ちを無碍にしてはならない。守るんだ何があっても。


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