短いですが宜しくお願いします
部長にアーシアと会う許可を貰ってから、俺は頻繁に会うようになっていた。
友人のいないアーシアからすれば、言葉の通じる人がいることの安心からだろうし、俺からすれば守らなければならない妹のような感覚だった。
教会側と悪魔側の存在である俺たちが関わることは、普通であれば許されないことだがアーシアの性格から危険はないと判断されたようだ。
まったくお兄ちゃんは嬉しいぞ!
…いかんいかん興奮してしまった。まだ妹ではないぞ妹ではない、まだ。
ということで俺は今アーシアと教会近くの公園で雑談している。今日は学校も終わり、部長の予定があるということで部活はなかった。
俺は暇をもて余していたから教会によったんだ。
そうしたらアーシアが嬉しそうに駆け寄ってきてくれたんだ。いやぁ嬉しいよね。女の子に笑顔で駆け寄ってもらえるとさ。
これが家でエプロンをつけていたら新婚…。えへへへへ。はっ!いかんいかん!何を考えているのだ俺は!?
心に決めた人がいるというのになんという下品なことを!落ち着け落ち着け。俺の相手はレイナーレ、レイナーレ。愛しのレイナーレ。
なでなでしてぇ~。手を繋ぎたい、抱き締めたい…。
のおおおおおおお!またしてもよからぬことをぉ!
「イッセーさん?」
「ごめんなさい!」
つい敬語で謝っちゃったよ!ごめんねアーシア。君のことで良からぬことは考えてないと思いたい。
「イッセーさんはこれからの目標あるんですか?」
「もちろん、世界を平和にするんだ。悪魔と堕天使、天使が憎しみ合わない争いのない世界を作る」
「すごいですね。私も似たようなことを考えています。人間だけでなくて悪魔や堕天使、天使の怪我人を分け隔てなく治療できる世界を作りたいです」
アーシアは誰にでも平等に接したいんだろうなぁ。〈原作〉のように早く手を取り合えるような世界にしたいぜ。
「無理よ」
「え!?」
「来たんだね夕麻」
背後から声をかけてきたのは俺の彼女であった、そして俺の人間としての人生を終わらせた堕天使レイナーレが立っていた。
相変わらず誰もが羨むプロポーションで眼のやり場に困るな。でも浮かんでいるのは俺が好きだったときの夕麻の表情ではない。
〈原作〉での妖艶という言葉に寄せている姿だった。だが俺には無理をしてそのようにしているように見えた。
「レイナーレ様…」
「無理とはどういうことかな?」
「悪魔が堕天使である私に気安く話しかけないで。耳が腐ってしまいそうだから」
「それは無理な相談という奴だな。俺が話しかけているのは夕麻であって堕天使のレイナーレじゃない」
「っ!それでも私という存在に話しかけていることに変わりはないわ。アーシア、戻ってきなさい何処に行こうと私たちは貴女を逃がさない」
無理して悪役を演じているように見えるな。だって自分の欲のために動いているなら力尽くでもアーシアを捕らえればいいんだからさ。
それをしないのは自分が望んでおらず、仕方なしに命令に従っているということ。命令しているのは堕天使の幹部のうちの1人だろう。
誰だったかは忘れたけど今は幹部のことよりアーシアを護ることが優先だ。
「イッセーさん?」
俺がアーシアを庇うように前に立つと声をかけられる。何故自分の前に立つのか疑問なのだろう。
生憎俺には大切だと思える人が傷ついて喜ぶような性格はしていない。
だからどれだけ罵られようと裏切られようと護り抜く。みんなを悲しませないために。
「アーシアが望むようにこの世界で生きられるそんな当たり前のことが必要なんだ。アーシアにはこの世界がどれだけ美しいのかを知ってほしい。子供たちが恐れずに友達と遊べる場所があることが当たり前じゃない。悪魔や堕天使、天使が争うことで一番被害を被るのは当事者じゃない未来を担う幼い子供たちだ。これから生まれてくる子供たちが涙を流さず笑顔でいられる世界を作ることがアーシアの願いだ。俺はそれを応援する。だからアーシアを傷つける君には渡せない。《ドライグ》」
相棒の名前を呼ぶと右手に籠手が現れる。神滅具の〈赤龍帝の籠手〉が俺の意思に合わせてオーラを放ち、夕麻を退かせる。
「それが上の方々に聞いた〈籠の手〉?ここまでの圧力だなんて…勝てないこんなの勝てっこないわ!」
「…勝たなくて良いんだよ俺は君を傷つけたくない。レイナーレいや、夕麻戻ってきてくれ。君はこんなことをしてはダメだ。君には他にもやるべきことがあるはずだそれを見つけるためにもう一度やり直そう」
「…ダメ、よ私は人を殺しすぎた。もう戻れない、何をどうしようと償える以上の命を殺めたわ!そんな人殺しに戻ってこいと言えるの!?貴方と同じだった人間の、罪のない人間の血で汚れた手と取り合えると言うの!?」
涙を流しながら叫ぶ夕麻の想いは本物だ。彼女が苦しんでいたのは心が揺れているということからわかる。上の命令とはいえ罪のない人々の命を奪うのは心優しい夕麻からしたら地獄だっただろう。
今もその罪の重さに耐えかねて生命体としての生態活動を止めてしまうかもしれない。救うなら今しかないのだ。
「償えない罪なんてない!償おうとする気持ちや行動が大切なんだ!」
「それを理解してくれる人が現れるとでも!?笑わせないで!もう私に構わないで!」
「現れる!俺が夕麻を信じる!たとえ俺以外が君を批判し忌み嫌っても俺だけは君の味方だ!」
「…嘘よ。なんでそこまで私を助けようとするの!?」
「それは…「随分手駒にされているのだなレイナーレよ」てめえは誰だ?」
夕麻との会話に口を挟んできた男に眼を向ける。黒い羽を生やしているのは夕麻と同じだが羽の多さと濃さで、人を殺すことに対する忌避感の格の違いが見て取れる。
漆黒のように綺麗なものではなく闇と形容したくなる色合いだ。それに血を数多吸い取ったかのように濃い血臭が漂ってくる。
悪魔になったことで俺の感覚は鋭敏化している。その中でも嗅覚は悪魔にとって大事なものであるらしく、人間界でいう犬や猫よりも特定の臭いに敏感だ。
だから宙に浮いている男から、鼻を抑えたくなるような濃い血臭を感じ取ったのだ。
「我が名はドーナシーク。レイナ-レに神器の回収を命じさせた3人が1人。レイナ-レ、何を迷っている?貴様に許しを請う資格があると思うか?あるわけがなかろう。これまでに一体幾人の命を殺めた?」
「てめえが夕麻に命令した張本人か?」
無視されたので俺が空に飛び上がってドーナシークを殴ろうと思った瞬間、そいつが光の矢を2本作り出したかと思うとそれを互いにぶつけさせた。
視界が真っ白になるほどの光量に思わず両手で眼を庇う。
それがアーシアを護りきれなくなる隙になるとは思いもしなかった。
「きゃあ!」
「アーシア!?」
悲鳴が聞こえて振り返ると夕麻がアーシアを抱えて飛び去っていくところだった。右手を夕麻に向けて魔力を放とうとしたが放つ瞬間にやめた。
「あははははは!撃たないほどには冷静さが残っていたようだね。今撃てばレイナ-レどころかアーシアまで怪我をする。さあ、始めようか貴様と私の
俺が呆然として見送っている背中にむかって光の槍を突き刺してくるが、俺はそれを見ずに左手で掴む。
「なっ!私の槍を見ずに片手で掴んだ!?ありえない!ありえない!悪魔が光を無傷のまま触れるとは!」
「…本当は人を殴りたくないんだけどどうやら今回はそうも言ってられないらしい。ごめんな?」
俺は振り向いて右の掌に纏わせていた魔力をドーナシークに放った。
「ぐあああああああああ!…悪魔に…殺さ、れる、なん、て…本当に、胸くそ…悪いな。…アーシ、アを…助け、たい、なら…いつも…の教会、に行、け。多く、の…〈悪魔祓い〉と…もう2人…が待って、いる…。せいぜい、頑張る、こと…だ、な…」
捨て台詞を残し、ドーナシークは黒い羽を一枚残して消えていった。
「アーシア、必ず助けに行くから待っててくれ」
その羽を握りしめながら強く誓った。