これを読むには前話から読んでいただいてからでお願いします。
アーシアが連れ去られたことに俺は自分の力不足を恥じた。
アーシアが連れ去られて追いかけようとしたけど、あの光量に危機感を抱いた住民たちが集まってきたから追いかけることができなかった。
何が〈最上級悪魔と同等の力〉だ。力をいくら持っていてもそれを使いこなせなければ意味がないではないか。
結局、この世界では力より知識なのだ。力に勝つにはそれ以上の力だと言われるが、本当は知識が強い。
力を持っていても、その力を使いこなせることができる頭がなければ豚に真珠だ。宝の持ち腐れだ。
笑えてくるよな。〈転生特典〉があるってことで自分も知らず知らずのうちに舞い上がって、力に溺れていたんだから。
俺は今自室で横になっている。思い返すのはアーシアを護れなかったあの光景。
何も知らされず何も知らずに死んでいった殺された人たちは、どのような想いだったのだろうか。
悩む暇もなく意識を途絶えさせられ、何が起こったのかも理解する間もなく世界から永久退場した気分はどのようなものだろうか。
俺も死ねばこのような疑問を抱いたことも、アーシアを護れなかった悔しさも忘れられるのだろうか。
そうすれば〈ドライグ〉はどうなるのだろう。また新しい誰とも知れない宿主のもとへと旅立つのだろうか。俺の次の主はまたレイナーレたちに狙われることになるのだろうか。
顔も名前も知らない誰かが死ぬなど許せない。だから俺がこの手で終わらせなければならない。
〈ドライグ〉は何かあったのか声にも反応することはなく向こうからも声をかけたりしてこない。でも今みたいなことは度々あったからそこまで心配していない。
「本当に俺は優柔不断だな」
自分の性格を口にして自虐的に微笑む。
「イッセーくんは意外と小心者なんだね」
「だらしないです」
「は?」
仰向けに寝転がっていたベッドから上半身だけ起こすと、ドアの前に友人と後輩がいつの間にか立っていた。
「いつの間に?」
「ついさっきだよ。イッセーくんのお母さんに上げてもらったんだ」
「他人が自室に入ってきているのに気付かないなんてイッセー先輩はバカですか?」
くう~。小猫ちゃんからの罵りを受けられるとは光栄であります!〈原作〉のイッセーよお前が味わってきた気分俺も味わえたぜ!
「変態です」
「ぐひぃ!」
容赦ないねぇ。俺が考えていることを理解しているみたいだ。さすがに俺が〈転生者〉であることはバレてないみたいだけど。
「それでどうしたんだ?わざわざ俺の家に来るなんて」
「部長に頼まれたんだ。イッセーが無茶をしないように見張ってなさいって」
「動けば力付くです」
小猫ちゃんが指の間接鳴らしてるよぉ!なに?動けばボコボコなんですか?動くってここをってこと?それともアーシアを助けること?
ボグ!
「ほわぁ!」
身震いしたら小猫ちゃんから拳が布団の上に降ってきた。魔法を使ってないとはいえ痛みは感じるぐらいの力があるじゃないか!
「動かないでください」
「理不尽!」
「世の中は理不尽で溢れてます」
「経験してきたみたいに言わないで!」
いや、まあ小猫ちゃんは辛い時期を過ごしてきたから言えるのだろうけど今は関係ないよ!木場だって過ごしてきたけど今は傍観決め込んでやがるし!
「動けばってことは俺がアーシアを助けに行くという意味でのことだろ?」
「そうだよ。〈はぐれ悪魔〉を倒した君でも、〈悪魔祓い〉が大量にいて尚且つ堕天使が2名いるところに行くのは無謀だ。だから僕たちは君にそんなことをさせないために派遣されたんだ」
「俺がそれでも行くって言ったら?」
「死ぬ気で止めます。あの人のためだけにイッセー先輩が怪我をしにいく理由にはなりません」
気持ちは嬉しいけど今の俺にとったらそれは嫌みでしかないんだ。助けたい人は助ける。救いたい人を救う。それが生前できなかった俺に今できる最大の恩返しなんだ。
「ごめん、それでも俺は行く。2人に嫌われてもいいから俺はアーシアを助けに行く」
「…そこまでしてその人を助けようとする理由はなんだい?」
「人の命を、悪魔だろうと天使だろうと堕天使だろうと、分け隔てなく大切にする人が死ぬ必要はない。人を救うことが自分の命より大切だと思える人が、危険な場所にいていいはずがない」
人の命が自分の命より大切だと思える人が一体何人いるだろうか。恋人や家族ならあっても疑問ではないけど、赤の他人の命まで思える人はアーシア以外考えられない。
そんな彼女を放っておけるわけがない。
「悪魔や堕天使まで癒せる神器〈
「ああ、だから人を簡単に殺せるような組織に渡せるわけがないだろう?だったら俺たちがアーシアを助けて、アーシアのやりたいようにさせられる世界を作るんだ」
「…木場先輩、私はイッセー先輩についていきます」
「小猫ちゃん?」
予想外の言葉に木場が訝しそうに眉を潜める。俺についてくるということは部長の命令に背くということだ。
何も小猫ちゃんが背く必要はない。俺だけでいいんだ傷ついて痛みを感じるのは俺だけで。
「イッセー先輩の人を助けたい気持ちが痛いほどわかるんです。私も護りたかった人がいました。自分より強かったけど護れなかったことが悔しかったんです。だからイッセー先輩がその人が好きなのかどうかを無視しても私は考えが正しいと思えます」
「…わかったよ僕も行こう。お仕置きがどうなるかわからないけど」
「お仕置き?」
まさか鞭はないよね?はははははは。〈原作〉の某先輩の父みたいに喜ぶ性癖はしてないぞ俺は!どちらかというと攻める側だ!ん?のわぁぁぁぁ!何を口走っているんだ俺はぁぁぁ!
「そういえばイッセーくんは眷属になってから日が浅いから知らなかったんだね。主は眷属にお仕置きを下せるんだ。肉体的お仕置きとか精神的お仕置きとかいろいろあるけど、リアス部長は独特なお仕置き方法なんだよ」
「…たとえばどんな?」
「〈女王〉である姫島先輩に命令して鞭を使用させるとかかな」
…予想通りだ。俺は何をされるのだろうか考えるだけで寒気が…。待てよ。何故木場はそのことを知っている?
「なあ木場、何故そのことを知ってるんだ?」
「僕が1年生の頃にちょっとしたことをやらかしたら姫島先輩に鞭で攻められた。なかなかよかったけど僕は女性にされる趣味はないんだ。どちらかというとイッセーくんみたいな男性にしてほしいな」
「ひっ!」
「…変態です」
清々しいという単語より清々しい笑みで言われたから余計嫌だわ!〈原作〉で小猫ちゃんがイッセーに使っていた言葉を、木場に向ける日が来るとは思わなかったよ!
俺の背中に隠れて木場を睨む小猫ちゃんの眼は本気だ。猫が威嚇しているときみたいに細くなってるよぉ!
「コホン、部長のお仕置きはわかった。本当にお前たちも来るんだな?」
「もちろんです」
「ここまできて引き返せるわけがないだろう?」
「じゃあ、行きまっか」
俺は立ち上がり2人を連れて自室を出た。そのとき小猫ちゃんが俺の制服の裾を少しだけ握っていることに気付かなかった。
「ここかい?」
「ああ、アーシアの存在を強く感じる」
外見はどこにでもある教会で内部もそっくりだが、根本的に違うものが一つある。それは地下にありえないほど広く、儀式のようなものが行われている場所だ。
「じゃあ、行こうか」
「ひゃっはぁ!」
「…」
入口に入ろうとすると、上からあのクソ野郎が光を射ってきやがった。小猫ちゃんの頭を貫く前に右手で弾く。
「うんうん、来ちゃったんだ~悪魔様とごたいめ~ん。アーシアたんを助けに来たの?あはは聞いてあきれるねぇ~。あんなやつのどこがいいわかんないよねぇ~?死刑っしょ死刑!悪魔に認められるやつなんて敵っしょ!」
「イッセーくんあれは誰だい?とても腹立たしいんだけど」
「うざいです」
「フリードっていうクソウザイ屑野郎だ。銃じゃなくて剣を使うから木場がメインで戦うべきだな。小猫ちゃんはそのサポート」
「イッセー先輩はどうするんですか?」
「目的地に行くさ」
そう言って俺は地面に穴を開けて地下へと降りていった。階段を使うよりこっちのほうがよっぽと早いからだ。
2人にフリードを任せて長い地下を走っていると、目の前に神父とおぼしき集団が背中を向けて立っている。
そのうちの1人が足音に気付いたのだろう。振り返って俺の存在を理解した。
「何故階段からではなくそこから来るのだ!?皆のもの悪魔を屠るのだ!」
うわぁ光の銃が何十発も向かってくるよ。まあ直接喰らってもダメージにはならないし怪我もしないんだけど。
すべてを体を捻ることで避けて全員を峰打ちで気絶させた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
突如、苦しみに満ちた悲鳴が廊下の先から聞こえた。
「アーシア!」
嫌な予感がして全速力で向かう。扉を蹴り破って中には入ると怒りが込み上げてきた。
光り輝く何かを2人の堕天使がアーシアから抜き出した瞬間を眼にした俺は身体中から魔力が溢れだすのを感じた。
ここに来るまでに木場に聞いていた。無理矢理神器を取り出された人間は、その苦痛に耐えかねて死ぬと。それは悪魔も堕天使も天使も例外ではないらしい。
その苦しみが先の悲鳴だったのだ。悲鳴をあげていたアーシアは力なく祭壇の床に倒れている。
「アーシアぁぁぁぁ!」
「あははははは!ついについに手に入れた!」
「これで私たちは最強になれる!」
狂喜に満ちた笑みを浮かべる2体の堕天使。その横には耳を抑えて涙を長し、首を振っている夕麻がいる。
自分がなんということに手を貸していたのかを理解したくないという拒絶反応だった。
「許さねぇ!アーシアを殺しやがって何がそんなにうれしいんだ!?」
「自分が強くなることに喜びを感じないの?」
「人の命を奪ってまでも得なければならないものとはなんだ!?」
「地位さ。上にいけばいくほど待遇はよくなり己の欲を発散する自由を得る。我々が目指すのはそれ意外にない!」
性根から腐ってやがる。これは恐怖を与えなければ人間性を変えることはできないだろう。ならば痛めつけるしかない。
俺は右手の人差し指を、アーシアの中から取り出した光を持っている堕天使に向けた。人差し指が紅く光ったと思うと、堕天使の羽が貫かれ焼け焦げていた。
「羽がぁ!私の羽がぁぁぁ!」
「貴様ぁ!堕天使の翼を汚すとは許せん!万死に値する己の命をもって償え!」
そう言うと2人は翼を羽ばたかせることで羽を飛ばしてきた。それをアクロバティックな動きですべてを避ける。
羽が着弾した床は抉れて羽が突き刺さっている。生半可な攻撃ではないことがよくわかるが俺にはなんら影響はない。
どのくらい経ったのか、長い間避け続けていると瓦礫に足をとられこけてしまう。その瞬間を狙って今まで以上の数の羽が飛んでくる。
魔力で吹き飛ばそうとした瞬間、俺とは違う紅い魔力が羽をすべて吹き飛ばした。
その魔力の発生源を見ると、部長が姫島先輩と一緒に立っている。
「私の眷属に怪我をさせようとはいい度胸ね堕天使さん。やられる覚悟はできているのかしら?」
「ちっ!グレモリー家の者か!」
「残念なこと。潔く謝っていれば許してあげたのに。朱乃やって」
「あらあら、さすがのリアスもお怒りのよう。わかりました、喰らいなさい」
姫島先輩が左手を天に掲げたと思えば室内にもかかわらず雷雲が発生している。ニコニコとしているから余計に恐ろしいわ…。
その間に部長が俺の傍に下りたって見上げてきた。その美しい眼と容姿にドギマギとする。
主に逆らったから殴られるかと思ったけど優しく抱き締められるとは思わなかった。
「部長?」
「バカね貴方は。自分の危険も顧みず敵陣に突っ込むなんて本当にバカ」
ごもっともです部長。俺は自分だけで成し遂げようとした。でも木場や小猫ちゃんまで巻き込んで苦戦させてしまっている。
怪我をさせてしまうことに申し訳ないと思ったが、2人は自分の意思で協力してくれた。感謝の言葉しかでてこない。
「躍りなさい!もっと私を楽しませて!」
「「…」」
感動的なところに楽しそうな姫島先輩のドS発言が聞こえてきたので、雰囲気が台無しになる。ハグを終えた俺たちは顔を見合わせて同時に苦笑した。
そして雷にやられて麻痺し動けない堕天使2人に視線を向ける。
楽しそうで嬉しそうな姫島先輩を部長に任せて右手に魔力を溜める。その圧力に2人が驚愕する。
「我々を殺せば堕天使が総力戦でお前たちを殺しに来るぞ!」
「脅しか?生憎その程度のことが起こるとは思っていない。今回の神器回収はお前たちの独断だろう?組織ぐるみならもっと手練れの堕天使がきているはずだ。組織が関係しているわりには堕天使があまりにも少ない。そして〈悪魔祓い〉の力を借りる時点で堕天使側の考えではない。違うか?」
2人が別の意味で驚愕する。自分たちの脅しがまったく意味をなさず、逆に自分たちの立場が危うくなったことに今さら気付いた。
ここまでくると哀れで笑いが込み上げてくるよ。情けなくて我が欲のためだけに命を奪ってきたはずなのに、今度は自分たちが殺される側になるなんてさ。
本当に世の中は理不尽だ。
「イッセー待ちなさい。最後は私がやるわ」
「部長…わかりましたお任せします」
一歩横に移動して部長に場所を譲る。
「さようなら哀れな堕天使さん」
部長が無表情に発した言葉とともに、2人の体を上回る〈破壊の魔法〉が掌から放たれた。跡形もなく消し飛んだ2人がいた場所には、羽が2人分落ちていた。
「残りは貴女だけ。私の統括地区で好き放題やってくれた礼は、責任者自らが処罰を下さないとね」
「…罰は受け入れます。私に生きる価値はありませんので」
涙を流し終えた夕麻の顔には感情と言えるものが何一つ残っていなかった。それほどまでに追い詰められていたのだろう。
罪のない命を奪うことに反対しながらも、上からの命令には逆らえなかった。反逆すれば自分の生きる場所はなくなり、常に殺される危機にさらされる。
それだけは嫌だった。だから心を鬼にして命令に従順になっていた。だがアーシアから神器が抜かれるときの苦痛による悲鳴を聞いて耐えられなかった。
何故自分は自らの意思で反逆しなかったのか。あのような声を聞くぐらいなら殺される方がマシだ。
「部長、その役目俺にさせてもらえませんか?」
「イッセー?」
「こうなってしまったのも俺の身に〈赤龍帝の籠手〉が宿っていたからです。俺が終わらせます」
俺がこの世界に〈転生〉しなければ夕麻が苦しむことも、アーシアが死ぬことも部長に不安を与えることはなかった。
だから俺の手で終わらせる。
「レイナーレありがとう。君のおかげで俺は少しの間だけ幸せだった。さよなら」
右手に魔力を溜めてレイナーレに向ける。最愛の女性に向かって魔力を放った。そのときのレイナーレの顔は安堵に似た安らかなものだった。
爆音が轟き、地下空間が激しく揺れる。
「…え?」
自身に何が起こったのかわからなかった。〈籠の手〉だと教えられたものが〈赤龍帝の籠手〉だと誰が気付いただろうか。
ありふれた〈籠の手〉ではなく、二天龍の傍である≪赤龍帝≫の魂が封じ込められた〈赤龍帝の籠手〉に勝てるはずもなかった。
だからあれほど簡単に上の攻撃を避けていたのだ。まったくこの人のことを知らなかった。知ろうと思えば知れたのに自分が出世するために殺した。
「これでレイナーレという堕天使は死んで天野夕麻だけが生き残った。夕麻、もう一度俺とやり直してくれないか?俺は君とじゃなきゃダメだ。君とこれからを一緒に歩みたい。俺じゃダメか?」
「人殺しの私と一緒がいいというの?」
「確かに君は人殺しでどうしようもない罪を背負っている人だ」
辛い言葉をぶつけると夕麻はさらに深く項垂れる。2人で話していると血を流しているが、それほど重症ではない木場と小猫ちゃんが駆けつけた。
「だけどそれ以上に君は心優しい人だ。アーシアが苦しんでいるときにそれを見て泣いていた。それだけで十分だ。君1人が償えない罪を背負っているなら俺も一緒に償おう」
「どうしてそこまで私に関わろうとするの!?貴方を殺した張本人なのに!」
「言っただろ?悪魔に魂売ってもいいって。だからこれからを一緒に歩もう夕麻」
もはやプロポーズにしか聞こえない言葉だが、俺は本気だ。本心で思っているから夕麻に諭し続ける。
「本当に本当に私でいいの?」
「君しか俺には考えられない。だから戻ってきてくれ夕麻」
「…ごめんなさい!あんなことして!貴方の人としての人生を終わらせてしまった!」
「いいんだ。確かに人としてはもう生きられない。でも悪魔になったから夕麻とこの先ずっと生きていられるんだ。もうそれでいいじゃないか」
優しく抱き締めると夕麻が俺の胸に顔を埋めて、嗚咽を漏らさないように泣き始めた。
苦しみ続けた夕麻の心が少しでも休まるのならいつまでもこうしていよう。
すると力なく倒れているアーシアとその付近を漂っている光を部長が手に取る。
「部長?」
「数日だけ待ってくれるかしら?悪いことはしないから。それと貴女も来なさい」
「イッセー…」
「ついていくんだ夕麻。それが君の罪を償う最初の一歩だ」
少し迷ったようだが夕麻は、部長と姫島先輩に連れられて教会をあとにした。3人になったところで木場と小猫ちゃんが駆け寄ってくる。
「大丈夫?2人とも」
「かすり傷だから大丈夫だよ」
「これくらい悪魔の力ですぐに治ります」
どうやら心配ご無用なようだ。しかしあのクソ神父と戦ってよく無事だな。倒したのかな?
「あの野郎はどうなった?」
「ごめんね。逃げられちゃって」
「ふざけていますが力量は予測不能です」
「やっぱりあいつそんなに強いんだ」
「小猫ちゃんと2人がかりでこれだからね。運良く引き分けに持ち込めたって感じかな」
「2人が大きな怪我をしなくてよかったよ」
本当によく戻ってきてくれたよ。俺だったら即終了なんだけど、2人には強くなってもらわないとこの先ついてこれなくなる。
だから今は少し危険をおかしてでも強くなるきっかけを与えないと。
「じゃあ、帰ろうか」
「いいんだけどここどうすんの?ここまで派手にやったら警察沙汰に…」
木場に聞こうとしたら予想通りのことになった。
「なんだこれは!」
「警察だ警察を呼べ!」
言ってる傍からこれだ!
「逃げよう!」
木場に声をかけて疲労で足を動かせない小猫ちゃんをお姫様抱っこして裏口から逃げ出した。
その時小猫ちゃんがショートしていたことに俺は気付かなかった。
教会の崩壊は警察の鑑定によってガス管による爆発事故として処理された。
その警察はグレモリー家の息がかかっていたようで問題なく事件は終息を迎えた。
事件から3日後、朝から校内が騒がしい。
「オーッス桐生、なんでこんなにざわついてるんだ?」
教室に入るなりクラスのいや、学年一もしくは校内随一の情報網を持つ友人にそれとなく聞いてみた。
「あ、兵藤おはよう。なんでも転校生が来るらしくてみんな浮わついてるんだって。それも2人」
「2人?1人じゃなくてか?」
「うん、あいつらの言葉が真実ならね」
あいつらとは誰やと思いながら桐生の視線を辿ると、いつものように変態2人組が朝っぱらから卑猥な雑誌を広げて討論している。
「…なるほどね。あいつらの言葉が信用できないのはあれのせいだが、そういうことは嘘つかないと思うぞ」
「転校生が女子だったら微妙だけど」
なるほど。確かにそうだったら2人は尾ひれをつけたがるから信用性は低いわな。
「で、特徴とかはあったの?」
「なんでも金髪の子と黒髪の長い子だったみたい」
「…まさかね」
思い浮かぶ人はいるのだが、片方はどうなったかわからないし。想い人もどこにいるかわからない。
部長のことだから何か考えがあるのだろう。一昨日や昨日は珍しく連続で部活休みだったから、それが要因なのかも。
「座れよ~。授業を始める前にお前らにニュースがある。じゃあ入ってくれ」
1時間目の教師が全員に席につくよう指示して、今度は何かを口にした。ドアを開けて入ってきた人物に教室中の空気が凍った。
比喩ではなく言葉通りに。みんなは容姿に驚いているのかもしれないが、俺はその人物がここにいることに驚いていた。それも2人いることに。
「アーシア・アンジェルトです。よろしくお願いします!」
「天野夕麻です。よろしくお願いします」
「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」」
…教室中が声で揺れた。主に男子による声で。叫びたくなる理由はわかるが、そこまで声に出す必要があるか?俺は疑問が溢れてきて2人の自己紹介を聞き逃した。
「席は兵藤の両隣が空いているな。そこに座ってくれ」
「「はい」」
はははははは。なんか驚きが強すぎて笑うしかないわ。まさか2人がこの先学校に来て同じクラスになって隣に座るなんて予想できるかいな。
「よろしくねイッセー」
「よろしくお願いしますイッセーさん」
「ああ、これからよろしくな2人とも」
どうやらいろんな意味で波乱な学校生活になりそうだ。だがこれからもっと危険な事件も起こる。それがやってきたときには2人を護れるようになる。
そう俺は自分の魂に誓った。
2話目が長すぎましたね。
文字数が足りねぇって悩んで書いていたらここまで増えてしまいました。
ドーナシークを含む堕天使3人はレイナ-レより上の地位ということにしています。レイナ-レが優しい存在なので部下であった3人を悪役にすることで少しは面白みが出たかなと思います。
この話で原作一巻は終了です長い間お待たせして申し訳ありませんでした。作者自身早く書かなければならないと思っていても如何せん、時間がなさ過ぎて書けないとです。作者です…。
コホン、次話からは二巻に入っていきますが更新スピードは亀ですので気長に待っていただけると嬉しいです。