光と闇は歪に絡み合う   作:シゲキ

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十話 ノンアルコール

 

 

ある日の放課後。

今週はテスト期間のため学校が早く終わり、もちろん部活も休みである。

 

テストなんか家で少し予習するくらいで良い成績を取れるが、トップを取るにはやはり相応の復習が必要である。

学校帰り、塾に行く前に軽く何か食べようと立ち寄ったミスタードーナツで、見知った顔を見つけた。

 

 

「よお、何してんの」

 

「あ〜!ヒッキー!人の誘い断っておいて何言ってんの!」

 

 

テーブル席に座る、雪乃と由比ヶ浜と戸塚。

ああ、そう言えば放課後何処か行かないかと奉仕部のライングループに由比ヶ浜からメッセージが入ってたな。

最初は無視して居たが、あまりにもしつこいから塾に行くと断ってた。

 

 

「いや、塾行く前にちょっと腹拵えしようと思ってな」

 

「折角だから一緒に食べようよ八幡」

 

俺は戸塚の隣に座った。因みに由比ヶ浜と雪乃は隣に座っている。

 

3人は勉強会をしているようだ。

しかし、由比ヶ浜は乗り気じゃない。

 

大方、遊ぶつもりで雪乃を誘ったものの雪乃の提案で勉強会をすることになったんだろう。なぜテスト期間中に学年トップの秀才が遊んでくれると思ったんだ。

雪乃なんて、絶対毎日3時間くらいは自宅勉強してるだろこいつ。

 

俺は週に一度塾に通うぐらいで、自宅学習は一日1時間程度だ。

そもそも塾に通っているのだって、スカラシップ制度を利用して小遣い稼ぎをするためだし。

テスト期間が近くなれば学習時間を増やすけど、普段はあんまり勉強はしない。

 

 

「俺は食うもの食ったらすぐ行くよ。

塾の時間は特に決まってないけど、遅くなると混むからな」

 

「塾なんかより、私と勉強した方がよっぽど有意義だと思うけれどね。貴方にとっても、もちろん私にとっても」

 

「お前と勉強なんて、学校より面倒くさいから嫌だ。そーいやお前は塾とか行ってんの?」

 

「いいえ、通ってないわ。自分で考えてこそ意味があるのよ」

 

「お前らしいな」

 

 

雪乃と話していると、由比ヶ浜が割って入って来た。

 

 

「むー、また二人だけで話してる」

 

「お前も勉強して頭良くなれば俺たちの会話についてこれるぞ」

 

「そういう問題じゃないよ〜」

 

由比ヶ浜は机に突っ伏して項垂れる。

本当、勉強嫌いだなこいつ。

 

 

「あれ、お兄ちゃん?雪乃さんも」

 

その声が耳に入った瞬間に誰の声か分かったが、声の方に目をやると、やはりそこには小町がいた。

隣には同級生らしき男の姿があった。

 

 

「おい、誰だそいつは」

 

睨みを効かせると、小町の同級らしき男は苦笑いした。

 

 

「この人は他校の友達の大志くん、ちょっと相談に乗って欲しいって言われただけだよ」

 

 

小町は雪乃の隣に、大志は俺の隣で身体を縮めてちょこんと座っている。

 

 

「はじめまして、比企谷小町です。兄がいつもお世話になっています」

 

「ヒッキーの妹さんかぁ。あたしは由比ヶ浜結衣です!よろしくね」

 

「僕は戸塚彩加です、よろしく」

 

「お二人とも、よろしくです」

 

 

小町は、由比ヶ浜と戸塚と自己紹介を終えたようだ。

そして小町は、雪乃に視線を移した。

 

 

「ていうか、驚きましたよ。雪乃さんとお兄ちゃんがまた遊んでるなんて」

 

 

小町は俺と雪乃が昔交友があったことを知っている。というか小町も俺の後追いで同じ書道教室に通っていたから小町も雪ノ下姉妹と交友があった。

もちろん、小町は俺と彼女たちの関係も知っている。

 

「同じ部活になってな。今日は偶々会ったから少し相席してただけだよ」

 

「ふーん。あ、お兄ちゃんこれちょーだい!」

 

「あー!おい、最後に食べようと思って取っておいたんだぞ……」

 

「しょーがないじゃん、小町もこれ好きなんだもん」

 

「全然しょうがなくねぇよ」

 

 

小町は俺が取っておいたポンデリングをペロッと平らげてしまった。

イラっときたが、たかが100円程度だしそれに小町は可愛いから許す。

 

 

「大志くん、ちょうど良い機会だし相談聞いてもらったら?ここにいる人全員総武高校の人だよ」

 

「う、うん。実は最近僕のお姉ちゃんが帰り遅くて……毎日夜中に帰ってくるし、酷い時には朝まで帰ってこない日もあって。それでお姉ちゃんが総武高校に通ってるから、みなさん何か知ってないかなと思って」

 

「で、姉ちゃんの名前は?」

 

「川崎沙希って言うんす……」

 

「ああ、同じクラスだ。でも俺はあまり交友がないから由比ヶ浜か戸塚の方が詳しいかもな」

 

「うーん、沙希ちゃんかぁ。ちょっとしか話したことないけど、それに誰かと話してるとこあんまり見たことないかも」

 

「たしかに、僕も川崎さんが誰かと話してるところあんまり見たことないな」

 

「なんだ、俺と認識変わらないのかよ。まあボッチでは無いだろうが学校生活に期待してないんだろう。自分から友人を作る努力をしてない感じだな」

 

「やっぱりそうすか……姉ちゃん、無愛想で昔から友達少ないんで……」

 

「で、学校の様子からじゃあんま分からないだろ。何か心当たりないのか?」

 

 

そう問いかけると、大志は少し悩みこんでから顔を上げた。

 

 

「塾っすね。姉ちゃんはずっと通ってたんですけど、僕も受験のために通い始めてから……」

 

「じゃあ、バイトじゃないの?」

 

由比ヶ浜が言う。その通りで、バイトでもしてるんだろう。だが、大志だってそんなことは分かってるはずだ。

問題は夜中にいなくて朝まで帰ってこない所にある。

 

 

「要は、姉ちゃんが変な店で働いてないか不安ってことだろ?」

 

「そうです!さすがお兄さん」

 

「お兄さん?お前それ俺のこと言ってんのか?」

 

「は、はい!」

 

クソガキめ。お前なんかに小町はやらん!

由比ヶ浜と戸塚は、大志の悩みに納得したように頷いていた。

 

 

「でも、家族がそんな事してたら確かに気になるよね。あたしもパパ帰って来るの遅くなったら不安になるし」

 

「うん。僕もお姉ちゃんがいるから分かるよ」

 

「取り敢えず、話は聞いたわ。奉仕部として協力しない訳には行かないわね。とは言っても、今日は忙しいから明日からにしましょう」

 

雪乃が言う通り、今日は俺も塾がある。

その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

翌日から俺たちは川崎の調査を始めた。

まず分かったことは、やはり川崎は交友関係が薄い。

あまり、友達を必要としないタイプの人間なのだろう。

 

そして二つ目、制服を改造したりと割と不良生徒であった。

不良で毎晩出歩く女……普通に考えればろくなことやって無さそうだが……。

 

実際、俺が裏垢を通じて出会ってた女には、現実の孤独感を埋めるために売りをしてるやつも多かった。

 

その日の放課後、俺たちは小町と大志と再び呼び寄せて、作戦会議を開いた。

 

場所はもちろん、サイゼリヤ。

 

 

「そう言えば、バイト先に心当たりとかないのか?電話掛かってきたとか」

 

「そう言えば、昨日姉ちゃんのバイト先から電話掛かって来たっす……エンジェルなんとかって店なんすけど」

 

 

調べると、この付近にエンジェルとつく店は二つあった。

一つはメイド喫茶、もう一つはバー。

 

 

「この二つを取り敢えず回ってみるか」

 

「でもどうしましょう、どちらから調べる?」

 

「メイド喫茶の方でいいだろ、ちょうど知り合いに詳しい奴がいる」

 

 

そして電話一本で呼び出しに応じたの材木座だ。

相当暇だったようで、一つ返事で呼び出しに応じてくれた。

 

 

「んじゃ入るか」

 

俺と戸塚と材木座と大志と、

雪乃と由比ヶ浜と小町。

 

こんな大所帯の学生がメイド喫茶に来ることなんてあるのだろうか。

 

まだ早い時間帯だからか客は少ない。

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 

メイドのコスプレをしたウェイトレスが出迎えてくれた。

なにやら女性客にはメイドコスプレの体験があるらしく、雪乃と由比ヶ浜と小町はコスプレをするために店の裏へと入って行った。

それはシフト表を見て川崎の名前を探してもらう目的も兼ねている。

 

 

「しかしお兄さん、総武高ってレベル高いっすね?」

 

「お兄さんと呼ぶな。レベル高いって、偏差値の事か?」

 

「顔面偏差値の方ですよ」

 

「如何にも、我らが総武高校はエリートの集まりだ」

 

 

たぶん、お前には言ってねえよ材木座。

それに雪乃と由比ヶ浜は総武高校の中でもかなりレベル高い方だし。

雪乃に関しては今の総武高校じゃ一番綺麗だろう。

 

 

「でも確かに、可愛い子多いよね。特に雪ノ下さんと結衣ちゃんは人気だし」

 

「そ、そう言う戸塚さんも、可愛いっすよ」

 

「大志、戸塚は男だ」

 

「……え!?」

 

驚くよなそりゃ。俺も最初は学級名簿の性別が間違って記載されてるのかと思ってたし。

普通に男子トイレ入ってるのを見て男だって分かったけど。

 

 

「ご、ご主人様」

 

メイドのコスプレに着替え終えた小町たちが戻ってきた。

コスプレか、よくやったな俺も。

 

 

「じゃじゃーん、お兄ちゃん可愛い?」

 

「ああ、よく似合ってるよお前ら」

 

「ほんと?ヒッキー」

 

「いちいちそんな嘘つかねぇよ」

 

「……少し恥ずかしいわね」

 

 

事実、よく似合っている。

メイド喫茶で働いてる人たちよりもレベルが高い。

材木座と大志は、鼻の下を伸ばしてるし。

 

 

「で、川崎の名前あったか?」

 

「無かったわ。それに、このお店は21時閉店だから川崎さんとは時間が合わないわね」

 

「となると、もう一つの方……」

 

「丁度いいから、今夜行きましょう。そのバー、私が住んでるマンションにあるから」

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

夜の9時30分。一度解散して、俺と由比ヶ浜と雪乃は、川崎が働いてるであろうバーに調査に向かった。

 

高校入学祝いに陽乃さんから貰ったオーダーメイドの背広を着て、雪乃の家があるタワーマンションの前で待つ。

 

しかし、高校生がタワマンに一人暮らしか。さすが雪ノ下家はスケールが違う。

 

 

「お待たせ、比企谷くん」

 

腕時計で時間を見たのとほぼ同時に、雪乃と由比ヶ浜が出てきた。

子供が行く場所じゃないから、由比ヶ浜は雪乃からドレスを借りたようだ。

 

 

「ヒッキー、スーツ凄く似合ってるね」

 

「お前も似合ってるよ」

 

由比ヶ浜は胸が大きいからドレス姿でより冴えている。

雪乃は、スタイルが良い正統派といった感じだ。

 

 

「ちょっと待って!3人で写真撮ろ?」

 

由比ヶ浜は強引に俺と雪乃を並べると、俺と雪乃の真ん中に入ってスマホで写真を撮った。

 

「よし、行こ!」

 

由比ヶ浜は満足したようで、俺たちは雪乃に連れられてタワーマンションの最上階にあるバーラウンジに向かう。

 

エレベーターが止まり、降りると広いフロアに着く。

ドアマンが扉を開き、俺たちはその門を潜った。

 

幕張の街が一望できるラウンジ。

当然、訪れている客層も相応の者だ。

 

バーの方に目をやると、そこに目的の顔が見えた。

 

 

「プッシーキャットを一つ」

 

「そちらの御二人は?」

 

カウンターに座り、雪乃がノンアルコールのカクテルを注文する。

俺たちが来たのを見ても動じない様子でいる川崎は、俺と由比ヶ浜にも注文を促して来た。

 

 

「えーと、あたしは……」

 

「こいつにはクランベリーキューティ、俺はウーロン茶で」

 

「かしこまりました」

 

 

俺たちの注文を聞き終えた川崎はカクテルを作り始めた。

その様子を、俺たちは眺める。

 

「ありがとね、ヒッキー。あたしこういう所全然わからなくて」

 

「俺らの歳じゃ、こんな所来る機会ないからな」

 

「逆にヒッキーが慣れてる感じなのは驚いたけどね」

 

「まあたまにこういうとこ来る機会があってな」

 

「……比企谷くんは私の姉とたまにこういう所に来るのよ」

 

「ゆきのん、お姉ちゃん居たんだ!」

 

「由比ヶ浜さん、あまり大きな声は出さないほうがいいわ」

 

「ご、ごめん……。いやさ、ゆきのんはしっかり者で妹って感じしないから」

 

 

確かに雪乃は人から見たら、あまり妹という感じはしないかもしれない。

普段の学校とかで見る雪乃がしっかりしていて凛々しいからだろう。

実際の雪乃は、意地っ張りで負けず嫌いで寂しがりやで……結構子供っぽいところもある。

 

 

「ヒッキーとゆきのんのお姉ちゃんも、仲良いんだ?」

 

「……」

 

「……そう、ね」

 

 

俺と雪乃は、露骨に返事に困ってしまった。あまり雪乃の前で陽乃さんの話はしたくない。

関係が複雑すぎる。ドロドロだ。

 

由比ヶ浜もなんとなく雰囲気を察したようで、苦笑いでごまかしていた。

 

 

「お待たせしました」

 

タイミング良く、頼んでいたノンアルコールのカクテルが出された。

 

 

「ありがとう。少しお話をしましょう、バーテンダーさん」

 

「……なんでしょうか、お客様」

 

 

雪乃が、川崎を呼び止める。

いよいよ本題突入だ。

 

 

「未成年の飲酒は禁止。……同じように深夜労働もね」

 

 

雪乃にそう言われた川崎は、一度眉をヒクつかせると露骨に態度が変わった。

 

 

「……なに、態々注意に来たわけ?御苦労な事だけど余計なお世話だから」

 

「そういう訳には行かないわね。貴女の過ちを知った以上、私にはそれを止める義務がある」

 

「は?何で。アンタには関係ないでしょ、それに、家がお金持ちでなんの苦労もしてないアンタには私の事なんか理解できないでしょ」

 

 

見るからに雪乃が不機嫌になる。

このまま続けば雪乃も冷静ではなくなって来るだろう。

 

家のおかげ。それは雪乃にとっては1番言われたくない言葉だ。

 

 

「雪乃、落ち着け。あとは俺が話しとく」

 

「だけど……」

 

「由比ヶ浜、雪乃を連れて部屋まで送ってってくれ」

 

「分かったよ。行こう、ゆきのん」

 

 

由比ヶ浜が、雪乃を連れてバーを後にした。

俺は、一人残り川崎と向かい合う。

 

 

「カルーアミルクを一つ」

 

「あんた、未成年でしょ」

 

「お前だって人のこと言えないだろ、目を瞑れよ」

 

 

川崎は、渋々といった様子でカクテルを作り始めた。

様子を見て、ウーロン茶を飲みながら問いかけた。

 

 

「俺の妹を通して、お前の弟から相談されたんだ。姉の帰りが遅くて心配だってな。お前、塾の学費を稼いでんだろ?」

 

「……だったら何?さっきも言ったけど、余計なお世話だから」

 

「そう言わずに聞けよ。スカラシップ制度を使えば学費が返ってくるんだ、まあ奨学金だな」

 

「スカラシップ……」

 

「ああ、お前も申し込んで見るといいよ。もっと楽に金を稼ぐ方法もあるけど、お前みたいな優等生がやることじゃない」

 

「優等生って……」

「取り敢えず高校生が夜勤は良くない。寝る時間もなくなるし生活習慣も乱れるから結果的に勉強の効率が落ちる」

 

 

出されたカルーアミルクを飲み干して、俺は会計をすませる。

 

 

「バイトするなって言ってる訳じゃない。ただスカラシップを利用すればだいぶ楽になるって話だ。興味あるなら試してみろ」

 

2000円程の会計だったが、俺は五千円札を置いてバーの出口に向かった。

 

 

「ねえ、お釣り」

 

「チップだよ、受け取れ」

 

 

 

俺たちに川崎の選択は強制できない。

何をどうするかは、結局のところ自分自身の問題である。

 

 

 

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