高校2年の一学期。不本意に部活に入れられることや、古い友人との再会などいろいろあったが気付けばもう夏休みだ。
しかも、もう五日目。
まったく、休日というのは過ぎ去るのが異常に早い。嫌なものだ。
「お兄ちゃん!支度して!」
リビングでだべっていると、勢いよくドアが開かれて小町がやって来た。
小町は持ってきた俺のバックを俺に向かって投げつけて来た。
「支度って、何の支度だよ」
「あれ、平塚先生に聞いてないの?千葉に行くんだよ」
「いや、聞いてねぇけど」
「えー、平塚先生から連絡入ってると思うんだけどなぁ」
「今日スマホ一回もいじってねえわ」
「もう……。とにかく!早く準備して!2時に出発だよ!」
2時って、今12時半だぞ。
幾ら何でも急すぎるだろ……。
小町の言うことを聞かないわけにも行かず、俺は支度を始める。
シャワーを浴びて風呂から上がると、小町が俺の荷物を準備してくれたようだ。
「……荷物多くね?」
「二泊三日だもん」
「まじかよ……。で、何で急に平塚先生とお泊りに行く事になったの?」
「平塚先生とっていうか、奉仕部の皆さんと、戸塚さんと材木座?って人で小学生の林間学校合宿の助っ人に行くらしいよ」
「なるほどな」
納得はできたが、なぜ俺まで一緒に行く必要があるんだ。
そんな不満を嘆く暇もなく、小町の手で総武高校まで俺は強制搬送された。
時間は1時50分。
校門の前で、平塚先生が待っていた。
「比企谷お前、人の連絡を無視しおって……」
「いや、スマホ見てなかったんで」
「ともあれ、こいつを連れて来て貰って助かったよ小町くん」
「いえいえ!むしろ呼んでもらえて嬉しいですよ」
「なに、構わんよ。それじゃあ、千葉に行こうか!」
「千葉ってか、千葉村だろ」
ーーー
平塚先生の運転で、俺たちは千葉村へと向かう。
ちなみに、俺は助手席で、由比ヶ浜と雪乃と小町、材木座と戸塚に分かれて後部座席に座っている。
「はぁ、千葉村なんて2時間近くかかるでしょ。完全な休日ムードだったのに」
「まあいいじゃないか。ドライブだよドライブ」
出発から1時間ほど経っていて、喋り疲れた由比ヶ浜と雪乃と小町は寝ている。
材木座はスマホでゲームをしていて、戸塚は外の景色を眺めていた。
「運転手って暇じゃないですか?俺なら絶対やりたくないですね」
「何だ比企谷、煽ってるのか?」
眉間をヒクつかせながら、平塚先生が問いかけてくる。
煽ってるわけじゃないんだが、無意識に人の事を煽るような言い回しをしてる事はある程度自覚している。
「いや、労ったつりもなんですけど……それにしても、平塚先生も大変ですね。生徒連れてど田舎に休日出勤だなんて」
「貴様は本当毒がある言い方ばかりだな……なに、私はこうして生徒と関わることが好きだから問題ないよ。それに暇だしな……チッ。」
「今は彼氏いないんですか?」
「な、なんだよ急に」
「いや居ないんだろうなと思って」
「くそ、運転中じゃなければ殴っているぞ……」
あまりストレスを掛けさせるのも可哀想ではあるが。
個人的にこの人には興味ある。
なんたって陽乃さんと深く関わりのあった人だ。相応の人間なのだろう。
「性格も良いし、美人だし、社会的地位も良いのに」
「な、なんだ急に、褒めても何も出ないからな……」
「まあ先生みたいな良くできた人に限って、ダメな男に引っかかって苦労するのはよくある話なんですけどね」
「言うじゃないか比企谷……しかし、逆もまたしかりだ。優秀な男が女に引っかかって失敗するのも良くある話だろ」
「男は優秀とか関係なしに女に引っかかる奴多いでしょ」
「まあ、確かにそうだな」
平塚先生はSAエリアに車を止めた。
あと30分もすれば千葉村に到着するが、ここで少し休憩したいようだ。
「5時までに向こうに着けば問題ないからな。少し休みたい」
「んじゃコンビニ行ってくるけど何か欲しいものありますか?」
「お、気が効くな。アイスコーヒーと……いや、アイスコーヒーだけでいい」
そう言って平塚先生はトイレに向かって行く。
平塚先生はアイスコーヒーともうひとつ何か言いかけていたが……空になったタバコの箱を気にしていた様子だったな。
タバコが欲しいってことだろう。
俺はコンビニで全員分の飲み物と平塚先生のタバコを買って、トイレの前にあるベンチに座って平塚先生を待つ。
五分ほどして、平塚先生がトイレから出て来た。
「どうぞ」
「ああ、すまないな。……おい、これは何だ比企谷」
「煙草欲しかったんでしょ?」
「そう言う話じゃない。未成年のくせにタバコなんか買いやがって、しかも教師の前で堂々と。未成年のくせに何をしてるんだ、未成年のくせに」
未成年未成年言い過ぎでしょ。
「いいじゃないですか、俺が吸うわけじゃないし」
「お前なぁ……言ったところで聞くような奴じゃないか……」
「よく分かりましたね」
「はぁ。奴にそっくりだ」
奴にそっくり。それは陽乃さんの事を指しているのだろう。
「……陽乃さんのことですか?」
「なんだ、あいつの事を知ってるのか?」
「はい。昔からお世話になってるんです」
「そうか。……たぶん、あいつが時々話してた男の子っていうのは、お前の話だったんだろう」
平塚先生は、俺の隣に座ってタバコを吸い始める。
人がいないとはいえ、ここは喫煙席じゃない。マナー違反だ。
平塚先生も大概人のこと言えたものじゃないだろう。
「必死に後を追いかけてくる可愛い男の子がいると常々語っていたよ。直接お前の名前を聞いたことは無かったから、入学していた時は分からなかった」
「そうだったんですか……」
「お前が言っていた好きな人というのも、陽乃のことだろう?」
「そうですよ」
「それなら、お前にとって本当に嫌な事をさせたかも知らないな。陽乃の話を繋げれば答えが見える。雪ノ下はお前のことが好きで、お前は陽乃が好きだ」
「……どうせなら、もっと早く気付いて欲しかったんですけどね」
「はぁ、青春しやがって。……そろそろ行くか比企谷」
「そうですね」
「陽乃は無慈悲な女だ。アイツと結ばれるためには苦労することになるぞ」
「そんな事わかってますよ」
「ははは。確かに、今更言ったところでだな」
「ええ」
俺と平塚先生は車に戻る。どうやら小町たちは目を覚ましていたようだ。
少し車を走らせて間もなく、千葉村に到着した。
「ふぅ〜、やっと着いたねー」
「乗せてもらっていただけなのに、少し疲れたわね」
車を降りると、隣に別の車がやって来て止まる。
その車から降りて来たのは、葉山と三浦と戸部と海老名だった。
「げっ、なんでヒキオと雪ノ下さんがここにいんの?てか結衣もいんじゃん」
「優美子!なんでここに?」
「比企谷、お前も来てたのか」
「お前もって、んじゃお前らも林間学校のアレできてんのか?」
「うん、そうだよ」
同級生で集まって宿泊なんて中三の修学旅行以来だな。
まさか休日にわざわざ集まってお泊まり会することになるとは思いもしなかった。
駐車場で喋っていると、今回の林間学校合宿に来る小学校の先生であろう人が来て、俺たちを広場に案内した。
しばらくすると、小学生を乗せたバスが駐車場に入って行くのが見えた。
代表で挨拶を頼まれた葉山が、整列した小学生たちの前に出て挨拶を済ませる。
小学生キッズである女子たちへの印象はかなり良かったらしく、女子たちがなにやら盛り上がっていた。
小学校の教頭などの話が済み、俺たちは小学生たちを連れて山の上にあるキャンプ場へと向かう。
その途中で、ふと一人の少女が目に入った。
その少女を眺めていると、隣にやって来た雪乃が俺に問いかけて来た。
「どこにでもあるのね、ああいうの」
「人間……いや、生物としての本質だからな」
一人の女の子が他の子たちからハブにされていた。
年齢や性別なんて関係ない。どこにだってある、言わば日常的な光景。
この合宿も何か起きそうだ。
執筆がなかなか進みませんがこれからも書いていくので是非読んでください。