光と闇は歪に絡み合う   作:シゲキ

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二話 奉仕部

 

 

 

古い記憶が脳裏をよぎる。

 

 

「八幡くん……好き、です。私と付き合ってください」

 

「……ごめん、雪乃ちゃん。俺好きな人いるんだ」

 

 

あの時、雪乃は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

平塚先生が去ってから数分。二人きりの状態で俺たちは部屋に取り残された。

……気まずい。

 

 

「はぁ……」

 

「取り敢えず、座ったら?後ろの椅子を自由に使っていいから」

 

「ああ」

 

教室の後ろに並べられた椅子を一つ手に持ち、長テーブルの右端側に椅子を置いて座った。

 

 

「……久しぶりだな、雪乃」

 

「ええ、久しぶり。比企谷くん」

 

 

雪乃は、読んでる本を閉じて俺の方に顔を向けた。

まだどこか幼さは残るが、凛とした綺麗な顔立ち。昔から可愛かったが、当然のように美人になったな。

……胸の成長は中学生で止まってる様だが。

 

 

「ねえ、今失礼なこと考えたでしょ?」

 

「別に。……ところで、ここは何部なんだよ」

 

「さあ、当ててみたら?」

 

「……ボランティア部か何かだろ?さっき平塚先生が人助けをして競えって言ってたからそうだろ」

 

「大体合ってるけど、少し違う。正確には、ここは奉仕部よ」

 

 

なんだその卑猥な部活名は。

 

 

「生徒からの相談を解決するために協力するのを目的とする部活動なのだけれど、今のところ相談者が来たことはないわね。部員は私一人だし……いえ、今は比企谷くんと二人ね」

 

そう言って雪乃は微笑む。

……その純粋なお前の笑顔を向けられるたびに、俺は罪悪感で心が痛む。

 

 

「一応聞くけど、お前が仕組んだんじゃないよな?」

 

「なんの話?」

 

「入部の話だよ」

 

「本当に知らない。私も、貴方が来てびっくりしたもの」

 

「そうか、疑って悪かったな」

 

「別に構わないわ。それに、私は嫌じゃないもの、貴方が来てくれて」

 

「……」

 

 

俺と雪乃は、二人で居られるような仲じゃない。あくまで俺からみた場合の話ではあるが……。

 

雪乃とは小学生低学年の頃からの知り合いだ。

当時通っていた書道教室で一緒に習っていたからだ。

小学校を卒業するまで書道を習ってたから、その間そこそこ交友があった。

 

それでなぜ俺は雪乃と二人になりたくないかと言うと、当時雪乃は俺の事が好きだった。告白して来たのだ。

そして、俺はそれを断った。

 

中学に上がり、学校も違うし書道も辞めたから疎遠になっていたが、総武高校に入学して雪乃と俺は再会した。

再会した時、雪乃はまだ俺に好意を寄せていた。

雪乃の様子を見る限り、今もまだ想いは変わらないのだろう。

 

雪乃の想いには応えれないから、一緒にいても辛い思いをさせるだけだと思ってなるべく接触しないようにしてたんだが、こんな形でまた関わる事になるとは。

 

 

「できれば入りたくなかった。酷いこというけど、できればお前と関わりたくなかったよ」

 

「うん、分かってる……でも、貴方と近くにいれると思うと、嬉しかったの。……ごめんなさい……本当は断るべきだったのに……今からでも……断ってくるから……」

 

「……いや、いいよ。もう起きたことはしょーがないだろ。それに同じ学校にいるんだ、干渉しないでいるのにも限界がある」

 

「うん、ありがとう。比企谷くん。……ぐすっ」

 

「お、おい。何で泣いてんの?」

 

「ごめん、なさい。また貴方の優しさに甘える事になって……やっぱり私……まだ貴方のことが……」

 

「おい、やめろ雪乃。何も泣くことは無いだろ」

 

雪乃が泣きやむようにあやしていると、ドアが勢いよく開かれて、平塚先生が再びやって来た。

 

「どーだ?上手くやっているかね……っておい、比企谷貴様!さっそく手を出しやがったな!」

 

俺と雪乃の状況を見て勘違いした平塚先生が、即座に俺を取り押さえようと向かってくる。

迫ってくる平塚先生の右拳を、掴んで受け止めた。

 

 

「むっ!私の正拳突きを受け止めるとはやるじゃないか……」

 

「待ってください、違いますよ。口喧嘩の延長で泣かせてしまって……だから俺とこいつ仲悪いって言ったじゃないですか」

 

「なんだ、襲ってるわけじゃないのか?とはいえ、そもそも女子を泣かせる事自体が問題だ比企谷」

 

「いえ……大丈夫です平塚先生」

 

急いで泣き止んだ雪ノ下が、目尻の涙をハンカチで拭う。

雪ノ下の説得とあって、平塚先生は納得したようだ。

 

 

「しかし、あの雪ノ下が泣かされるとはな……やはり面白い事になってるじゃないか!」

 

「いや、女子生徒が男子生徒に泣かされてんのにそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

 

「なに、構わん。これで負けず嫌いの雪ノ下にも火がついた事だろう!」

 

「……ところで、雪乃…ちゃんの話じゃこの奉仕部には肝心な相談者が来ないとのことらしいですが、これじゃ勝負以前の問題だと思うんですけど」

 

「ああ、だから今日は記念に相談者を連れて来てやった。入っていいよ、由比ヶ浜」

 

「こ、こんにちわ……って、何でヒッキーがここに!?」

 

 

入って来たのは、明るい茶髪に、雪乃とは正反対で胸が主張の激しい巨乳の女子由比ヶ浜結衣だった。ちなみにこいつは俺と同じクラスの生徒だ。

 

 

「何だって、さっきから平塚先生が俺の名前呼んだりしてるからその時点でわかってただろ」

 

「え!?そ、そんなことないもん!」

 

 

意地っ張りめ。

平塚先生は、まだ仕事があるとのことでそのまま職員室に帰ってしまった。

 

 

「俺がここにいる理由は俺がこの奉仕部の部員だからだ」

 

「そうだったんだ。ヒッキー、部活やってたんだね」

 

「まあ今日入ったばっかだけどな」

 

 

俺は椅子を一つ持ってきて、机を挟んだ雪乃の正面に椅子を置いて由比ヶ浜に座るように促した。

 

 

「あ、ありがと」

 

「それで、どういった相談かしら」

 

「その……あの……」

 

 

由比ヶ浜は俺の方をチラチラと見てくる。なにを気にしてるのか知らんが男、少なくとも俺には聞かれたくない話の内容なのだろう。

 

「飲み物買ってくるけど、何かいるか」

 

「あっ!じゃあ、あたしはいちごオレ!」

 

「私は、マックスコーヒーを……」

 

「マックスコーヒー?お前が?……嘘つけ。午後ティーでいいか?」

 

「うん……お願い」

 

「おう」

 

 

俺は席を立ち、奉仕部の部室を後にして自販機に向かった。

 

 

「雪ノ下さんとヒッキーって、仲良いの?」

 

「……急に、どうして?」

 

「なんだか、気心が知れたような会話だったからさ」

 

「彼とは……知り合いよ。彼と私、テストで毎回トップを競ってるから」

 

「あ〜、なるほどね。それで、相談の方なんだけど……」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

奉仕部の部室に戻ると一枚のルーズリーフが長テーブルの上に置いてあり、そこには家庭科室に居ますと書かれていた。

 

紙に書いてあった通り家庭科室に向かう。

ドアを開けると、何か焦げた匂いが鼻についた。

 

 

「あぁ〜、また焦げちゃった……」

 

「はぁ。ちゃんと一から説明してるのにどこで失敗するのやら……」

 

「うう……ごめんなさい……」

 

 

何か料理を作ってるようだが、由比ヶ浜が失敗しているようだ。

まあ無理もない、今時料理できるやつの方が少ないだろう。

 

 

「飲み物買ってきたぞ」

 

「あ、ヒッキー!」

 

「お疲れ様、比企谷くん」

 

 

雪乃と由比ヶ浜にそれぞれ午後の紅茶とイチゴオレを手渡す。

オレはもちろんマックスコーヒーだ。

 

 

「で、なに作ってんの?」

 

「クッキーよ。昔お世話になった人に恩返しをしたくてクッキーを作りたいらしいの」

 

「クッキーか……」

 

 

言われるまでわからなかったが、皿の上に盛られた黒く焦げた塊はクッキーだったらしい。

まあ料理できない奴がいくらやったところで、1日やそこらで改善するとは思えないしな。

 

 

「やっぱり私には無理なのかな……雪ノ下さんみたいに器用じゃないし……」

 

「そう言われるの、不快だからやめてちょうだい」

 

「えっ……?」

 

「最低限の努力をしない人間には才能のある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は、成功者の努力を想像できないから成功できないのよ」

 

 

雪乃は、由比ヶ浜のネガティブな態度が気に食わなかったようだ。

昔からまっすぐな子だったからな。

雪乃はこういう所で繊細な部分がある。

 

 

「かっこいい……」

 

「え?……私、今結構きついこと言ったのだけれど……」

 

「建前とか無しで、本音で語れるのは凄くかっこいいというか……そういうの、憧れる」

 

 

まじか、由比ヶ浜。俺はてっきり帰るとか言い出すのかと思ってたよ。

意外と芯のある子なんだな。

見直した。

 

 

「ちょっと廊下に出て待っててくれ。手作りの極意ってやつを教えてやるよ」

 

俺は2人を家庭科室から追い出して、由比ヶ浜が作ったクッキーの中から比較的マシなやつを選んで別のさらに取り合わせた。

 

そして2人を呼び戻して座らせて、2人の前にクッキーを出した。

 

 

「ほらよ」

 

「もう、あんなこと言っておいてヒッキーも下手くそじゃん!うえ〜、美味しくない……」

 

「……これ、本当に比企谷君が作ったの?」

 

 

雪乃はすぐ勘付いたようだ。

 

 

「ああ、そうか。美味くなかったか。……悪かった、もう捨てるよ」

 

俺が由比ヶ浜たちの前にある皿をとってゴミ箱にクッキーを捨てようとすると、由比ヶ浜が引き止めてきた。

 

 

「ま、待って!なにも捨てることないよ、せっかく作ってくれたんだし……」

 

「手作りにおいて、その気持ちが大事なんだ」

 

「え?」

 

「由比ヶ浜、これはお前が作ったクッキーだよ。俺はそれを別の皿に盛り直しただけだ」

 

「えっ、えー!?」

 

「要するに、手作りってのはその出来に関係なく、それが手作りである事が重要なんだよ。美味いクッキーを渡したいなら市販の物を送ればいい」

 

「なるほど……分かったよ!頑張ってみるね!」

 

 

由比ヶ浜は笑顔でそう言うと、元気よく走り去っていった。

 

 

「流石ね、比企谷くん」

 

「違う角度からの解釈を教えただけだ」

 

「私では、あの子の相談は解決できなかったと思う。あなたの言う通り最後は市販の物を買わせてたと思うわ」

 

「物事の捉え方の問題だ。お前は、俺のように曲がった角度から物事を見る必要が無いからな」

 

「嫌味?」

 

「そうじゃねぇよ。お前は自分をまっすぐ突き通せる人間だって言ってんだよ」

 

「……貴方の方が、私よりもずっと強いじゃない」

 

「そう思ってんのは、お前だけだよ雪乃」

 

 

翌日、由比ヶ浜から相談のお礼としてクッキーを受け取った。

相変わらず不味いクッキーだったが、俺はそれを全部食べた。

 

美味しくはないが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 




この世界では、ヒッキーは事故に遭う事なくサブレを助けた設定です。

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