小学2年の頃。学校の書道コンクールで優勝した俺は先生の勧めで書道教室に通うことになった。
俺は別に書道を習いたかったわけじゃないけど、親が乗り気だったし放課後遊ぶ友達もいなかったからとりあえず入ることにした。
今となっては書道教室を紹介してもらえたことは有難いことだし、俺の人生を大きく帰る出来事だった。
「比企谷八幡です、よろしくお願いします」
書道教室に入り、書道を習った。
生徒は十人ほどいたが、当時まだ小学2年の俺でも大半の生徒より上手に書くことができた。
「上手だね君。ね、雪乃ちゃん?」
「……うん」
俺と同い年くらいの女の子を連れた、年上の女の子がそう俺に話しかけてきた。
俺と彼女の最初の出会いだった。
ーーー
昼休み。俺は昼食スポットの一つである体育館裏の犬走りで弁当を食べていた。
時折吹いてくる潮風が心地いい。
「あ、ヒッキー!何してるの?」
「なにって、弁当食ってんだよ」
「へぇー、教室で食べればいいのに」
「お前のとこの三浦たちに目の敵にされてるし、最近流れてる俺の噂くらい聞いてるだろ?とても教室でのんびりできる境遇じゃねえんだよ」
「ヒッキーがその……女遊びしてるって話でしょ?……嘘だよね?」
「さあな、火の無いところに煙はたたねぇよ」
「え、じゃあ……」
「信じるか信じないかは貴方次第です」
「もうヒッキー、ふざけないで!」
決め顔で由比ヶ浜に指を指すと、その指を叩かれた。
痛いな。突き指したらどうするの。
「で、お前は何しにここに来てんの?」
「ゆきのんにじゃんけん負けて、罰ゲームでジュース買ってくることになったんだ」
「へぇ、あいつがそんな遊びするとは意外だな」
「なんか、勝つ自信無いんだって言ったらすぐ乗ってくれたよ」
雪乃、お前由比ヶ浜に手玉に取られてるぞ……。
背中を叩いてくる由比ヶ浜をあしらっていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。目を向けると、華奢な体をした綺麗な銀髪の生徒。
たしか、こいつはクラスメイトの戸塚彩加だったな。
「あっ、彩ちゃん!」
「こんにちわ、結衣ちゃん、比企谷くん。何してるの?」
「いまねー、ヒッキーとおしゃべりしてたんだ!」
「そうだったんだ、楽しそうだね」
しかし、この戸塚は男とは思えないほど綺麗で可愛い顔をしてる。
目が合うと、戸塚は恥ずかしそうに目をそらした。
「ひ、比企谷くん……その……僕男の子だよ……?」
そうか。俺が女誑しみたいな噂が立ってるから必然的に俺の視線は下心のあるものと捉えられてしまうんだな。
仕方ないとはいえ、これじゃ女がいる方角に顔を向けれねぇよ。
「知ってるよ。戸塚は何してたんだろうと思ってたんだよ」
「僕の名前、覚えててくれたんだ」
「クラスメイトの名前くらい覚えてるよ」
「嬉しいなぁ。僕はお昼休みを使ってテニスの自主練してたんだよ、といっても壁当てするだけだけどね」
「壁当てでも十分だろ、寧ろ一人でできる練習をしっかり熟す事が大事だ。常に練習パートナーがいるとは限らないからな」
「そっかぁ、そう言えば比企谷くん、テニス上手だもんね」
「まあ、昔付き合いでやらされてな」
「えー意外!ヒッキー運動ダメダメだと思ってたよ」
「何言ってるの結衣ちゃん、比企谷くんは去年も今年も体力テストのほとんどの競技で学年一位なんだよ」
「え!?そうだったのヒッキー?」
「まあな。……そう言えば由比ヶ浜、お前ジュース買いに行かなくていいのか?」
「あー!忘れてた!」
由比ヶ浜は急ぎ足で自販機へと向かい走り去っていった。
「比企谷くん、よかったら今度テニス教えてくれないかな?」
「一緒に練習するくらいなら」
「うん、ありがとう!」
いい子だなこいつ。
ーーー
「やっはろー!」
「元気そうで何よりね由比ヶ浜さん」
部室で本を読んでいると由比ヶ浜が遅れてやってきた。
ちなみに何を読んでいるかと言うと大物政治家の自伝だ。何故こんなつまらない本を読んでいるかと言うと、成功者と呼ばれる者たちの生い立ちと人間性を知るためである。
ちなみに俺の将来の夢は社長だ。
「今日はあたしが相談者連れてきたよ!」
「よろしくお願いします。あ、比企谷くん」
由比ヶ浜が連れてきたのは戸塚だった。
大方、テニスの練習に付き合って欲しいとかそんなところだろう。
「始めまして、戸塚くん」
「僕の名前知ってるんだ」
「ええ、全校生徒の名前を把握しているから」
「そうなんだ、凄いね」
「それで相談というのは?」
「実は、最近テニス部の内情が良くなくて……今年のキャプテンがやる気のない人で、それにつられてみんな部活に来なくなったり真面目に練習してくれなかったり……でも僕はちゃんとテニスがしたいんだ。だから練習に協力して欲しいんだけど、お願いできるかな?」
「ええ、勿論。私たち奉仕部が協力するわ」
そして奉仕部は、1週間の間戸塚のテニスの練習に付き合うこととなった。