光と闇は歪に絡み合う   作:シゲキ

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八話 努力の成果

 

 

 

戸塚のテニス練習協力最終日。

最初と比べたら、ほんの少しではあるが戸塚はテニスが強くなった。

俺や雪乃といった実力者とプレーすることでその環境に少し適応して実力が上がったのだろう。

 

 

「由比ヶ浜、上手く話したか?」

 

「う、うん!大丈夫……たぶん」

 

……不安になってきた。

打ち合わせ通りことが進めば良いが。

 

今は昼休み中の練習だが、訳あって雪乃には部室で待機してもらっている。

 

 

「じゃあ取り敢えずリターンの練習するか」

 

「うん、お願い比企谷くん」

 

「由比ヶ浜、お前も一応軽く走っておけ」

 

「うん、分かったよ」

 

由比ヶ浜は、俺に言われた通りテニスコートの外周を走り始めた。

 

 

「戸塚、よく攻撃は最大の防御と言われるが、それは違う。現実は高い防御力があってこそ攻撃力が発揮できるんだ。この話は何回もしたよな?」

 

「うん」

 

「だからまずは堅実なディフェンスを習得する必要がある。結構良い動きができてるからその調子で今日イメージを固めよう」

 

 

戸塚は俺に言われた通りに、ステップとラケットを引く動作の練習を繰り返す。

今の戸塚なら地区大会入賞くらいなら出来るだろう。

 

その時、テニスコートのフェンスが開かれ、誰かがテニスコートに入ってきた。

 

 

「まじでテニスしてんじゃん。あーしらも混ぜてくんない?」

 

 

現れたのは三浦とそのご一行だった。

走っていた由比ヶ浜の方を見ると、目が合ってこっちに戻ってきた。

 

 

「あー、悪いけど部外者は使用禁止なんだ。また今度にしてくれ」

 

「うわヒキオ……。部外者って、あんたテニス部じゃないでしょ?アンタだって部外者じゃん」

 

「テニス部の戸塚に練習に付き合って欲しいと頼まれたから顧問の許可を取って使ってるんだよ。使いたいなら許可取ってきてくれ」

 

「は?めんどくさいし。てかいいじゃん、あーしこう見えて中学の時県大会出てっからね。ヒキオより断然テニスうまいから」

 

 

三浦が腕を組んで、高圧的に俺をにらみながら鼻で笑った。

県大会出てんのか。見た目によらず凄いじゃないの。

 

 

「まあまあ、優美子もヒッキーも落ち着いて!」

 

「結衣〜、あんたもこいつ説得してくんない?」

 

「ちょ、ちょっとだけならダメかな?ヒッキー?」

 

由比ヶ浜、こいつ演技下手くそだな……。

嘘つけないタイプの人間なんだろう。

 

 

「いや、でもだなぁ……」

 

 

俺が再び反対しようとすると、俺の前に葉山隼人が割って入って来た。

 

 

「ここはどうかな、テニスで勝負して、その勝敗でテニスコートを使っていいかどうか決めるっていうのは?」

 

「そんな事してたら昼休み終わるだろ」

 

「そ、そうだけどさ……」

 

提案してきた葉山だが、俺に突っ込まれて苦笑いする。

が、しかし俺と由比ヶ浜が狙っていたのは葉山のこのセリフだ。

あらかじめ、由比ヶ浜にはそれとなくテニスの練習をしてることをグループで話してもらい、三浦たちがテニスコートに訪れるよう誘導してもらったのだ。

 

 

「いいじゃんヒッキー、彩ちゃんの実力を試すいい機会じゃない?」

 

「ああ、確かに。大丈夫か戸塚?」

 

「うん、僕は大丈夫だよ!比企谷くん達以外との試合なんて久しぶりだし、助かるよ」

 

「なに?試合?面白そうじゃん、やるしかないでしょ」

 

 

既にノリノリの三浦。

三浦はテニス部の備品のテニスラケットを手に取り、葉山もそれに続いた。

 

「じゃあダブルスでいいっしょ?こっちはあーしと隼人で組むから、そっちはヒキオと誰?まあヒキオなんかとくんでくれる人いないでしょ」

 

笑いながらいってくる三浦だが、俺はラケットを二本とると戸塚と由比ヶ浜にら手渡した。

 

「いや、お前らの相手は俺じゃなくて戸塚と由比ヶ浜だ」

 

「え!?ちょっとヒッキー!?」

 

「結衣、あんたテニスできんの?」

 

「ちょ、ちょっとだけなら……1週間だけやったから……」

 

「1週間?そんなんであーしに勝てる訳ないじゃん。断れば?」

 

由比ヶ浜は弱々しい視線を俺に向けてくる。同じグループの人間だ、流石にここで対立させる理由はないか。

 

変わってやろうかと、俺がラケットを手に取ろうとした時、由比ヶ浜が急に自分の頬を両手で叩いた。

 

「やるよ!あたしだって、この1週間彩ちゃん達と頑張ったんだ!その努力の成果を見て欲しい!」

 

「へぇ。……泣いても知らないかんね」

 

こうして、戸塚と由比ヶ浜VS葉山と三浦の試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

体操着に着替えて、由比ヶ浜タッグと三浦タッグがコートに立つ。

審判は俺が務めた。

 

由比ヶ浜と三浦がジャンケンをして、勝った三浦側がサーブすることになった。

 

 

「んじゃ行くかん、ねっ!」

 

三浦のサーブがまっすぐ伸びていく。

経験者、それも県大会レベルなだけ合ってなかなかの打球が伸びていく。

 

だが、しっかり打球に反応した戸塚が、サービスリターンを返す。

もともとリターンが苦手だった戸塚が、三浦の上質なサーブをしっかり返した事から戸塚の成長が見て取れた。

 

 

しかし、前衛の葉山が由比ヶ浜とは逆の方向にボールを落とし三浦チームに得点が入った。

 

その後も必死に食いつく戸塚と由比ヶ浜だが、三浦達が着実に点を取っていく。騒ぎを聞きつけて見物に来た生徒の数と比例するように点差も広がっていく。

 

 

そして、気付けばゲームセット目前になるまで、戸塚と由比ヶ浜は追い詰められてしまった。

 

 

「意外とやるじゃん、驚いたよ結衣」

 

「うん、普通に上手いよ二人共」

 

 

三浦と葉山が、由比ヶ浜と戸塚を認めるようにいうが、ここまで実力差が開いていると嫌味に聞こえてしまう。

 

数十人規模で集まった観衆は、全員葉山達を応援している。このムードも、由比ヶ浜達の精神的なスタミナを大きく消耗させていた。

 

 

「ふっ!」

 

三浦の鋭いサーブが伸びていく。

必死に追いついた戸塚が、どうにかそれを弾き返した。

だな、その打球に力は無い。

緩く浮かび上がったボールを、三浦が強烈なストロークで返す。

追いつこうと走る戸塚だが、追い付けず勢いよく転けてしまった。

 

 

「うぅ……」

 

「彩ちゃん大丈夫!?」

 

転けた戸塚に、由比ヶ浜が駆け寄る。

俺も近くに行ってみると、戸塚の膝が擦りむけて血が出ていた。

結構強く擦ってるな。それにだいぶ疲れてるようだし、これ以上は厳しいな。

 

 

「由比ヶ浜、保健室に行って医療箱を持って来てくれないか?」

 

「で、でも試合は?」

 

「俺に任せろ」

 

「うん、分かったよ!」

 

 

由比ヶ浜は、医療箱を取りに保健室へと向かい走って行った。

……お前まで転ぶなよ。

 

由比ヶ浜の背中を見送ってから、戸塚を姫さま抱っこして審判台まで連れて行ってやる。すると、三浦グループの海老名という女子が、興奮気味に鼻血を流して倒れてしまった。

 

「戸塚、審判を任せていいか?」

 

「うん、大丈夫だけど……比企谷くんは?」

 

「選手交代だよ、こっからは俺がこいつらの相手をしてやる」

 

 

俺はテニスラケットを持って、戸塚達が立っていたコートに入る。

 

 

「やっとお出まし?つっても、これじゃあ試合どころじゃ無いでしょ、あんたのパートナーいないじゃん」

 

「少し待ってろ、今に来る」

 

 

俺がそう言うと、コートの入り口を開けて一人の少女が現れた。

綺麗で長く伸びた黒髪と透き通るよう白い肌。

テニスウェアが良く似合う綺麗な顔。

 

満を持して、雪ノ下雪乃のお出ましだ。

 

 

「比企谷くん、あたしの助けが必要のようね?」

 

「へぇ、雪ノ下さんね」

 

 

目に見えて、三浦の敵対心がむき出しになる。

俺と雪ノ下、三浦にとっては目の敵を二人同時に相手できるチャンスだろう。

ギラギラとその瞳に、隠し切れない闘志の炎が見えている。

 

 

「ポイントは引き継ぎでいいっしょ?」

 

「ええ、構わないわよ。私たちが負けるはずないもの」

 

「その自信、へし折ってやるし!」

 

 

 

俺と雪乃、葉山と三浦の試合が始まってから約10分。

由比ヶ浜は救急箱を持ってきて、戸塚は傷の治療を終えている。

 

俺と雪乃はあっという間に葉山達と同点まで追いついていた。

 

 

「な、なんなんあんたら……!?」

 

「やばいな優美子。俺たち、完全に力負けしてるよ」

 

 

結果こそ見れば俺と雪乃の圧勝だが、内容はそこそこ接戦している。

観衆のボルテージは最高潮だ。

 

 

「負けるわけにはいかないもん!これで決めるしっ!」

 

三浦の渾身のサーブ。今日1番の球威だ。

長時間の運動で疲れが出始めていた雪乃だが、持ち前の運動神経でそのサーブを弾き返してみせた。

 

「どりぁー!」

 

三浦がストロークを返して来るが、その打球を完全に見切った前衛の俺はそれをスマッシュで叩き落とそうと一歩足を踏み出す。阻止しようとブロックに入って来る葉山だが、葉山の進行の反対方向にボールを落とせば良いだけだ。

 

俺と雪乃の勝ちが確信したと思われたその時、昼休み終了のチャイムが鳴る。

俺は敢えてスマッシュを撃ち込まず、テニスボールをキャッチしてそのボールをボール籠に放り投げた。

 

 

「引き分けだな葉山」

 

「わざとトドメを決めなかったな。……正直負けるよりも屈辱的だよ、比企谷」

 

「お前のとこの女王様のいい暇つぶしにはなっただろ。それに、今回はお前達に感謝してるよ。結果はまだ分からないけどな」

 

「よく分からないが、何か企んでいたんだな。あまり優美子を虐めないでくれよ、あれでいて結構打たれ弱いんだ」

 

「そんなつもりはねぇよ……」

 

 

葉山達と、試合を見物していた生徒たちは帰っていく。

俺と雪乃と由比ヶ浜と戸塚は、備品などを片付けてから教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

休日が開けた月曜日の放課後。

奉仕部の活動時間が終わり、テニスコートの近くに俺たち奉仕部は立ち寄った。

 

テニスコートには5人ほどではあるが、戸塚以外のテニス部員が来ていた。

雪乃が探し出した総武卒業生のテニスコーチを指導員として学校に紹介したところ、平塚先生が話を付けてくれて来週から指導員としてテニス部に顔を出す事になったらしい。

 

「何人かだけど、ちゃんと来てるじゃん」

 

「この前の葉山達との試合を見たテニス部員の何人かが、戸塚の頑張りに胸を打たれたんだろ」

 

「何はともあれ、問題の解決が上手くいったなら良かったわ。……ところで、今回は誰の勝ちになるのかしら」

 

「ゆきのん、誰の勝ちって?」

 

「平塚先生が私と比企谷くんに勝負を持ちかけたのよ。より多くの問題ん解決できた方の勝ちというルールのね」

 

「なにそれ、あたしも混ざりたい!」

 

「やめておけ由比ヶ浜、万が一にもお前の勝ち目はない」

 

「ひどっ!」

 

 

コートの近くで騒いでる由比ヶ浜の声が耳に入ったのか、戸塚が駆け寄って来た。

 

「みんな!どうしたの?」

 

「お前が上手くやれてるかどうか見に来たんだよ。上手く行って、良かったな戸塚」

 

「ううん、奉仕部のみんなのおかげだよ。ありがとうね、八幡」

 

「八幡?」

 

「う、うん……名前呼び……ダメかな?」

 

「別にいいよ」

 

「うん!ありがと、八幡!」

 

 

そう言って微笑んだ戸塚は、部活の練習へと戻って行った。

 

それを見届けて、俺たちはテニスコートを後にして帰路についた。

 

 

 

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