ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
壱
一撃必殺は、ロマン溢れるものだろう。そして、そんな一撃必殺には外せば終わり、というようなデメリットがある。
「ふぅ……………………チェストォーーーーーーーッッッ!!!」
ガン!ガン!と木と木が打ち合わされ、欠片が舞う。
因みに、このチェストは男性胸囲やタンス等ではなく、知恵を捨てよ、という言葉が徐々に叫び声として短くなった、という説がある。
更に、これは文学的、あるいは漫画的表現であるため、実際にはキェエエエエエーーーーッ!!!といった叫び声だ。
これを猿叫と言い、気合いと共に相手を威圧する意味合いがある。
「ハァアアアーーーーーッッッ!!!」
一際強く、力を込めて振るわれた一振り。
ズドン、と打ち込まれた瞬間に繊維の引き裂かれるような音と共に、巨木は倒れてしまう。
倒れた木には、不自然な跡があった。
左右が抉れたように凹んでいたのだ。よくよく観察すれば、その表面は毛羽だっており、何かが何度もぶつかり擦れあった事によるもの、というのが分かるだろう。
そんな木の前に立つのは、一人の少年であった。
彼の手には、一振りの粗削りな木刀が握られており、その木刀を握った手からは血が滴っている。
「…………っ、はぁ………………まだまだ…………!」
上半身裸であり、袴姿の彼は全身から湯気を立ち上らせ、それでも蒸発しきれないほどの汗をかきながら、新たな木の前へと立った。
右足を前に八相の構え。から、腕を上へとそのまま持ち上げる。
示現流、蜻蛉の構え。
ここで木刀を振るう前に、大きく息を吸い込む。
「―――――ァアアアアアアアッッッ!!!!」
再び始まる、キチガイのような乱打。
ズドドドドドッッッ、とまるでマシンガンの斉射のように人の胴ほどもある木は削り取られていってしまう。
「チェストォーーーーーーーッッッ!!!」
一際強く、先程のように木刀が振るわれ、木がへし折れる。同時に木刀も柄より先が砕けてしまった。
「……………次」
砕けた木刀を投げ捨てると、彼は踵を返した。
その先には、先程まで振るっていた木刀と同じく粗削りな木刀が幾本も地面に突き立っている。
その内一振りを抜き取った彼は、再び新たな木の前へと向かう。
「すぅーーー……………………」
息を吸い込み、再び始まるキチガイの乱打。
打ち合う音が木霊した。
/
「おう、島津。聞いたか?」
「なんが?」
「何でも男でIS動かした奴が居るってさ」
「へぇー……………そんで?それが?」
「んで、全国で他にも居ないか探すんだと」
「あっそ。それよか、そこの鞄とってくれん?」
朝の一幕。つれないなぁ、とか言いながら友人から受け取った自身の鞄から、彼、島津暮人(しまづ くれと)は財布を取り出した。
「ちょっと自販機行ってくる」
「あ、俺のも買ってきてくれ。ポッカ檸檬」
「うーい」
学ランのポケットに黒い財布を捩じ込み、暮人は教室を出た。暖房の利いた教室から、すきま風の吹く廊下に出たことにより背筋が震える。
自販機は、校舎の側に建てられた体育館の入り口に設置してある。中学校としては珍しいかもしれないが、夏場は35度を越えることもあり、熱中症対策として校長が設置を決めた次第であった。
自販機のラインナップは、無難にお茶や水など、更にスポーツドリンクに野菜ジュース、コーヒー、カフェオレ。後は季節毎にレモネード等が並ぶ。
「喉の渇きには、冷たいお茶だよな」
暮人は年柄年中冷たいお茶派であった。
500ミリのペットボトルとポッカ檸檬の缶ボトルを買い、踵を返す。
日常だ。学校に行き、家に帰れば剣を振る。
高校に上がっても変わらない――――筈だった。
【ついに発見!?二人目の男性操縦者!】
そんな見出しの記事が世界に拡散される事となった。
/
インフィニット・ストラトス。通称IS
宇宙空間における、多機能性マルチパワードスーツであり、見方を変えれば豪華な宇宙服だ。
そして、一番の特徴が女性しか使えないという点。
この結果、世界には女尊男卑の考えが蔓延し、今の社会は形成されていた。
「宇宙服で戦争か……………アホくさ」
暮人は、机に頬杖をつくと空を見上げた。
周りは、女子女子女子女子女子女子と女子ばかり。
当然か。ここは日本に建てられたISの専門学校、IS学園なのだから。
彼の他に男性と言えば、同じクラスの冷や汗を流し続けているイケメンと用務員位か。
四月の春先の日光は眠気を誘う。暮人は大きく欠伸をした。
因みに、春眠暁を覚えず、とよく言うが、これは春の夜は穏やかで眠りやすい事を意味しており、決して昼寝の事ではない。
とはいえ、春は気候が穏やかで昼寝にはもってこいなのも事実。
徐々に彼の瞼は落ちていき――――――
スパンッ! 「イッテェ…………」
脳天に加えられた衝撃によって文字通り、叩き起こされた。
いつの間にか寝てしまったらしく、目を開けて周りを確認すると視線が集まっている。
そして、目の前に鬼が居た。
「初日から寝るとは、随分なものだな」
「あー……………春の陽射しって眠くなりますし、しゃあないっすよね?」
鬼に対して大きく出たものだ。現に周りも、死ぬわアイツ、的な目で見ている。
「言い分はそれだけか?」
「来たくもない場所にぶちこまれて、真面目にするとでも?」
暮人とて、自分が誰かの合格を蹴ってこの場に居ることは分かっている。
だが、自分とて志望校に行くために剣の修行の合間に勉強は続けてきた。
そして合格したのだ。後は悠々と卒業式を待つだけ。
でありながら、急な調査によって志望校合格も取り消され、更には家から隔離、家族はバラバラ。
挙げ句の果てには、大金積んでモルモットになることを求められたほどだ。
因みにその時は、丁重にもてなして、お帰り願った。
「……………はぁ、随分と面倒な奴だ」
「そんなことねぇっすよ」
「これ以上は、時間を割けない。さっさと自己紹介しろ」
「うぃーっす」
暮人は片手を振ると立ち上がった。
「島津暮人。九州出身で、ここには無理矢理連れてこられましたぁ。趣味は剣術を少々。宜しくするかは、未定でーす」
ふざけた物言いであった。