ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
「テスト…………?」
「ああ、聞いていな…………いな。そういえば教室に居なかったか」
剣道場にて向かい合う暮人と箒。クラス代表戦が終わった今、ここに一夏は来ない。
一応、今日の放課後は一夏のクラス代表就任パーティがあるのだが、一日サボれば取り戻すのに三日掛かるため、勘を忘れない程度の鍛練を行っていた。勿論、箒はこの後パーティの方に顔を出すつもりだ。
「どうするのだ?島津。流石に、テストもダメでは、その………………」
「モルモット行きってか?テストの内容は、ISの基礎部分だろ?」
「そうらしいな。50点満点で、授業を理解していれば解ける、らしい」
「へぇー」
喋りながらも、最初とは比べ物にならないほどに鋭く切り込んでくる箒をいなしながら、暮人は気の無い返事。
そんな彼の様子に、箒は気を揉む。
恋愛感情、ではない。彼女の恋心は未だに一夏に向いているのだ。
その心配は、言うなれば弟でも見るかのようなそんな感情だ。
なんせ、彼は学園が始まって一週間の内教室に顔を出したのは、最初の一日のみ。後は全てバックレている。
立派な不良だ。そもそも、IS学園は専門学校であるが、高校だ。国数理英社の五教科やその他副教科に関しても行われている。
理解度チェックの小テストこそISの内容に絞ってあるが、期末は当然全教科だ。
更に、赤点は六十点から。エリート校である。
言ってしまえば、暮人は端から見るとおバカに見えるのである。
剣ばかり振るっており、その他はおざなり。
というか、箒の中では四苦八苦する一夏が焼き付いており、彼のように世の男はIS知識への不足が見られると思っていた。
まあ、誤りだが。
脳筋の暮人。意外にも自分の扱う道具に関しては余念無く下調べをするタイプであった。
無知というのは、恐ろしい。
知識は力なりと言うように、前提として知っている時と知らない時では対処に大きな差が出来るというものだ。
勿論、全部が全部知っていれば良いなんて事はない。むしろ、知らない方が楽しめることも多いだろう。
しかし、少なくともISは予め知っておかねば色々と困る。
例えば、クラス代表戦にて一夏が自爆した事件。千冬は、武装を知らないからだ、と言うがある意味それは当たり前だ。
彼の機体は、戦闘中に一時移行を終えて、その折に一撃必殺の零落白夜を扱える雪片弐型へと近接ブレードはその姿を変えた。
さて、彼はその時戦闘中。更にシスコンであり、尚且つ憧れの姉の装備を真似たモノを渡された形だ。
戦闘の高揚も相俟って注意力は散漫となっており、更に相手を追い詰めたような状況。
初心者が、己の武装にまで気を割ける筈もなかった。
他にも、セシリアの専用機に搭載されたレーザービット等もだろうか。これは、脳波によってマニュアル操作であるため、分割思考が出来ねばその場から動くことも出来ない。
この様に、ISの装備は癖が強い。更に、技能も癖が強い。青黴チーズとタメを張る程に癖が強い。
であれば、前もって知識を頭に詰めておくことは必要不可欠だろう。
「まあ、何とでもなるさ」
「何処から来るんだ、その自信は」
「積み上げたものから、かな」
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テスト。学生は避けられない、嫌われイベントトップスリーに入るモノではないだろうか。
あとの二つは、マラソン大会と合唱コンクール。異論は、認める。
「えっと、終わった人から退出してもらって良いですからね?あ、他のクラスは授業中ですから静かに、お願いします」
テスト用紙を配る前に、真耶がそう言い始まったIS小テスト。
成績には直接反映されないものの、理解していなければ後々困る基礎問題ばかりだ。
問題数は、一問二点の25問。記号や選択、記述など、あらゆるテスト形式を混ぜた一般的なテスト問題だ。
因みに今は、四時間目。早くテストが終われば、昼休みも長く過ごせる。
そして、テスト開始から20分と少し、最初の退席者が出た。
「も、もう終わったの?―――――島津君」
真耶の問いに答えること無く、暮人はテスト用紙を教卓に置くとさっさと教室を出ていってしまった。
その背を見送り、彼女は赤ペンを手に取った。
点数がとれていなくても気にしない。むしろ、採れていなければそれを理由に授業に来てもらうことも出来るだろう。
そんな思いを胸に、真耶はペンを走らせた。
「……………え……」
そして、小さく声は漏れる。
答案は、赤マルばかりであった。
論述式の問題など視点が違う解答も見られたのだが、大筋は外されていない。
記号や選択にも引っかけ問題があったのだが、そのどれにも掛かってはいなかった。
そして、テストというのは考える時間が無ければ、どれだけ問題が多かろうとも相当早く終わる。
彼の手には、淀みはなかった。つまり、悩まなかった。
結果、最速タイムと赤い答案が完成する。
カンニングの可能性が無いわけではない。だが、最速であるため周りを見た可能性は低い。
となると持ち込みだが、彼が使っていたのは、鉛筆二本と裸の少し小さくなった消ゴム。
上着の袖を手首より下まで捲っており、仕込みは無し。
暮人は、難癖を付けられる可能性を限り無く削っていた。
というか、性格上、カンニングは苦手なのだ。
何より、元々文武両道とまではいかずとも、武の足引っ張らない程度には勉強してきた暮人だ。地頭も悪くなく、確りと自習もする。
まあ、つまり、やることやってその上で彼はやりたいことをやっているのだ。
出席日数こそ危ういが、学力は確りと身に付いている。
答案を提出しながら、箒は一人成る程と頷いていた。
あの自信は、根拠の無いモノではなかった。実際に積み上げたものからの結果をただ言っていたのみ。
「アイツは、出来ないことがあるのだろうか」
それは、自然な疑問。
剣の腕も高く、勉強も可能。授業にこそ出ていないが、学生として欠点が他に見当たらない。
いや、サボり癖は相当な欠点に思えるがその対象は授業だけだ。学習はしている。
因みに、暮人ができないことは結構あるのだが、それはまた別の話。