ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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拾一

 テストの翌日、暮人は朝から職員室へと呼び出しを受けていた。

 

「これが、お前の専用機だ」

「…………要らねぇんですけど」

「そう言うな。お前の要望は確りと踏襲しているからな」

「今渡すってことは、何かやってほしいことでも?」

「察しが良いな。まず、お前には授業の際に手本を見せてもらう」

「…………初心者に言うことじゃねぇでしょ」

「いや、手本というのは専用機によるISの動きを間近で見せるのが目的だ」

「気は、乗らないっすねぇ」

 

 渡された鈍色の細い鎖を見ながら、暮人は顔をしかめる。

 彼の専用機は、第二世代の打鉄だ。

 学園には、同じく第二世代のラファール・リヴァイヴが配備されているのだが、こちらはバランス型の銃器を得意とした機体だ。

 一応近接武器はあるのだが、それ以上に様々な銃器に目が行く。

 

「で、もう一つは何すか」

「……………お前に、試合をしてもらいたいんだ」

「お断りします」

 

 千冬の言葉を、正面から切って捨てた暮人はそのまま踵を返して去ろうとする。

 そこを彼女は止めた。

 

「まあ、待て」

「データ取りとか言わんでくださいよ?俺と織斑は似たタイプですし、あっちは第三世代。第二世代の近接攻撃データなんて山ほどあるでしょ」

「男性操縦者の―――――」

「それこそ織斑で良いじゃないっすか。あっちも刀使うって聞きましたし、ワンオフアビリティーも発現してるなら、それこそ俺要らないっすよ」

 

 ワンオフアビリティーというのは、言わばIS特有の必殺技のようなもの。

 一夏の零落白夜がその一つに挙げられる。効果は、防御無視の攻撃。代償として自分のシールドエネルギーを食われてしまうため、燃費が恐ろしいほどに悪い。

 

 だが、千冬の関心は暮人の口から出てきたワンオフアビリティーという言葉ではなく、何処からその情報を得たのかという点。

 そんな彼女の疑問に気付いたのか、暮人はニヤリと頬の端を歪める。

 

「女子ってのはお喋りが好きなんですよ。視界切って目をつぶってるだけでも色んな事が知れる」

 

 世間一般では、盗み聞きはマナーの悪い行いとされている。そして、悪化すると盗聴などになる。

 しかし、教室等でボッチの人間の主な情報源はその盗み聞きであるのだ。

 

 暮人は、正直なところ浮いている。クラスでマトモな交流があるのは、箒ぐらいだ。

 一夏は、あの放課後に行った試合が尾を引き、セシリア等も含めた女子は、今一彼の独特な雰囲気に踏み込めずにいる。

 因みに、この様なときに突っ込んでくるほんわか少女は、姉と上司に止められているため接触できていなかったりする。

 

「………………はぁ…………お前との会話は疲れるな」

「だったら、無視すれば良いじゃねぇですか。少なくとも、俺はそっちが気が楽だ」

 

 教師に無視を勧めるのはどうかとも思われるが、精神的安定を求めるために誰かを無視することは、少なくない。

 例えば、不良生徒を無視するクラスメイト達。そうせねば、絡まれるからだ。

 

 暮人としても、放置される方が望ましい。

 剣士として、そして求道者でもある彼にとって、周囲の干渉ほど煩わしいモノはないからだ。

 その筆頭は、教師だろう。彼の実家は、むしろ放任。大きな家であり、家族という括りはあれども全員が基本は個人プレーであった。

 酷いときには、一ヶ月丸々家族全員が、自分以外の家族と顔を会わせない等もあったほど。

 

 それに慣れているせいか、暮人は初めて学校に行った時には酷く驚いたものだった。

 ここまで、他人というのは自分に干渉してくるものなのか、と。

 

 面倒だった。どうしようもないほどに。

 その後、試行錯誤の末、彼はある答えを得る。

 

 即ち、教師が気にする生徒を知ったのだ。

 勉強は平均よりも若干優等生寄り。運動も平均。素行は悪くなく、大人しい。

 つまり、必要以上に目立たないというのがベスト。

 

 もっとも、この学園に来た時点でその方法は使えないのだが。

 

「兎に角、義務だ。お前のデータもとらねばならん」

「………………」

「そう睨むな。銃を使えないことは知っている。格闘戦、いや、剣士としての実力を十全に見せてくれれば良い」

「…………………………………はぁ」

 

 ため息は、降参の証。

 これ以上、駄々を捏ねても意味がないと判断し片手を振るのだった。

 

 

 /

 

 

 放課後、この日のアリーナはいつぞやのように多くの生徒が集まっていた。

 

「見世物かよ……………ダルい」

 

 請け負った手前、逃げられない暮人はピット内のベンチに腰掛け壁に凭れると大きくため息を吐き出した。

 今の彼は、ウェットスーツ型のISスーツを纏っており、その下の筋肉が荒々しく主張している様な姿だ。

 彼の他には、人影はない。反対側のピットには、今日の対戦相手が“二人”居る。

 

 戦うことは、別に良い。問題は、それにISを使わされるという点。

 気が乗らない。

 

 因みに言うと、今回限りという約束だ。この後は相当なことが無ければ、ISを扱うことは無いだろう。

 

 そうこうしている内に、時は来た。

 アリーナからは歓声が聞こえ、どうやら先に相手が出てきたらしい。

 そのまま管制塔からコールされ、暮人も打鉄を纏った。

 

「――――――気が乗らん」

 

 そう呟き彼はアリーナへと飛び立った。

 

 

 /

 

 

 アリーナに、その機体が降りてきた際に観客席から出たのは、退屈なため息と小さな敵愾心。

 第二世代機打鉄を纏った暮人は、そんな空気をモノともしないのか一瞥することもなく、呑気に欠伸をしていた。

 

 彼の打鉄には改造が一応施されている。

 まず、両肩の実体シールドが外され、全体的に装甲がパージしていた。

 言ってはなんだが、軽装甲。最早、防御特化の打鉄の面影は無いと言えそうな程にスリムで洗練された見た目だ。

 

 何より、IS独特の手足の延長、というよりも具足や籠手のように鎧のように腕や足そのものに引っ付いているような見た目となっている。

 そんな彼の手には、打鉄の近接ブレード葵が一振り握られていた。

 

 今一緊張感の無い暮人の前に相対するのは、純白。

 第三世代機、白式を纏った一夏である。

 彼の手には、雪片弐型が握られその表情はどこか強ばっている様にも見えた。

 思い出されるのは、少し前の剣道場での一件。文字通り、完膚無き迄にボコボコにされた際の事だ。

 

 正直、直視したくない過去だが、心の何処かで今回はそうはいかないと言う楽観も鎌首をもたげていた。

 彼も勉強はしている。そこで、第三世代と第二世代の戦力差を知ったのだ。

 更に言うと暮人は、試験の際に乗ったキリで今まで来ている。

 対して自分は、代表候補生と良い勝負ができる程度には戦えた、という自信が芽生えていた。

 

『それでは、試合開始ッ!』

「オオオオオッ!!」

 

 合図と同時に飛び出す一夏。白式は、近接しか攻撃手段が無い代わりにその機動力はかなりのもの。格闘戦ならば随一と言って良いほどの機動力を誇っていた。

 だが、残念なことに搭乗者が未熟者である。

 

「―――――お粗末」

「ガッ!?」

 

 速いだけの突進など、暮人にとっては自分から的が近づいてくることに変わり無い。

 さっさと、剣を掲げて振り下ろしていた。

 一夏も目は、悪くない。少なくとも迫ってくるレーザー兵器に反応できる程度には優れている。

 しかしこの瞬間。斬られるまで、彼は相手の動きを追えてはいなかった。

 

 ここには、暮人のこれまでの集大成、その一端が関係している。

 

 剣を掲げて、振り下ろす。

 

 たったそれだけの事を十年以上やってきたのだ。

 最初は百回振ることすら出来なかった。しかし、努力を続けていけば百を超え、千を超え、万に届き、億へと至る。

 手の皮は、ずる剥け。足の裏は血豆だらけになり。それでも振るい続けたのだ。

 体に染み付く、とはよく言うが。暮人の振りは正にそれ。

 無駄という無駄の全てが省かれ、最短距離の往復を駆け抜ける。

 

(き、斬られた………のか?全く見えなかった…………)

 

 大きく切り裂かれた正面の装甲と、削れたシールドエネルギーの数値を見て、一夏は驚愕する。

 斬られた事は、理解した。しかし、不可視の速攻は彼の認識速度を越えていた。

 いや、正確にはISのハイパーセンサーは捉えていたのだがアラートが鳴る前に斬られたのだ。

 立ち上がった一夏だったが、そんな彼に濃密な殺気が襲い掛かる。

 慌てて顔をあげれば、暮人が蜻蛉をとっていた。

 

 剣は凶器、剣術は殺人術。

 

 有名な漫画の台詞だが、暮人達はその後に込めるは殺気と続く。

 剣を抜いた、刃を向ける、故に必ず殺す。

 

「…………チェストォオオオオオオオッッッ!!!」

 

 一瞬の溜めを作り、叫びながらの前進。その圧力は、一個師団の突撃にも引けをとらない凄みがあった。

 

 その圧力に、一夏は反射的にガードの姿勢をとっていた。

 相手の構えは、蜻蛉。この姿勢から放たれる攻撃は振り下ろしが基本だ。

 雪片弐型を横向きに持ち上げ衝撃に備えるべく足を開く。

 もっとも、それは悪手以外の何物でもないのだが。

 

「オオオオオッ!!」

「っ!?」

 

 一瞬の拮抗すらも許さない。接触と同時に、まるで大瀑布の下にでも突っ込んだ衝撃を受けて、一夏はアリーナの床へと叩きつけられていた。

 新撰組局長、近藤勇をして初太刀を必ず外せと言わしめた薩摩の太刀。

 その破壊力は、防御すると思った時点で負けている。

 

 終わった。島津の剣は、防御という前提を叩き伏せる。

 シールドエネルギーも絶対防御も関係無い。

 地に伏した相手に、最早向ける剣を彼は持ち合わせてはいなかった。

 ピットへと戻っていく彼に、観客達は化物を見るような目を向けていた。最早そこに侮りの意思はない。

 少なくとも、虎の尾を踏む度胸のある者は居なかった。

 

 

 /

 

 

 暮人の戻った反対のピットは重苦しい空気が漂っていた。

 原因は、あの一太刀。

 

 見えず、防げず、一撃必殺。

 

「…………やはり、一年ではアイツが頭一つ、いや、体一つは上か」

 

 立ち上がれない弟を見ながら、千冬は呟く。

 彼女の手元にある資料には、暮人の入試の折りに録られたデータがある。

 その一つにIS適性というものがあった。

 これは、言うなれば相性の良さと才能を可視化したようなものだ。

 例えば、一夏はB。千冬はS。セシリアはA。箒はCだ。

 ランクが高ければ高いほどに、ISを動かす際に生身と変わらずに扱うことが可能となる。

 さて、そんな適性だが暮人は、Dだ。

 起動は可能。しかし、動かし戦闘となると枷と変わらない重さが彼の全身にのし掛かるのだ。

 だからこそ、今回の打鉄は大規模な改造が施され、肉体に密着するような構造となっていた。

 つまり、手足の動きをダイレクトに反映することで、適性の低さで出てくる反応の鈍さをカバーしていた。

 

 出来ることは、何でもする。人間は何でもせねばならない。

 

 それこそ、それ以外の才能が無い、ならば尚更だ。

 

「剣狂い、か…………狂うべくして狂ったのか。狂わされて、狂ったのか」

 

 彼女の言葉に答えるモノはない。

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