ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
九州のとある山奥に存在する日本家屋。
周囲は、一部が禿げた山々に囲まれた自然一色な場所であり、その全てがこの家の所有物だ。
彼等は、剣狂いと呼ばれる。
来るもの拒まず、去るもの追わず、敵対するもの斬り殺す。がモットーだ。
とはいっても、今の世の中では最後の一つが果たせる筈もなく、八分殺しに留めていたが。
因みに八分殺しの結果は、呼吸し、心臓が動いている、というもの。その他に関しては、切り取ろうが、抉り取ろうが、穿ち取ろうが、関係無い。
そんな修羅の家。始まりは、数百年以上の歴史があった。
九州で島津と聞けば、薩摩を思い出す者も居ることだろう。
一応、関係はある。だが、そこまで大した理由はない。
彼らの、元となったのはその島津の分家のようなモノだ。表現があやふやなのは、一概に分家のみでの構成ではなく、様々な人々が集められていた為。
彼等は武人。もっとも、ジゲン流に敗れた者達であったが。
一ヶ所に集められたのは、逗留とそして研鑽のためだ。
彼等が行ったのは、試合、ではなく死合。普通は、敗者に待ち受けるのは死である。
だが、彼等は生き残った。
生き恥を晒し、命乞いをしたわけではない。
その武威によって力を示し、敗北したとしても相手に気に入られ生かされた、というものだ。
勿論、それを疎んで自害しようとする者も多かったが、敗者は勝者に逆らえない。
それこそ再戦して、勝つまでこの場所からは出られなかったのだ。
しかも、勝てるレベルに至る頃には逆に武人達がこの地を出たがらなくなる。
何故なら、自分以外にも様々な武人がおり全員が一流。更に、常に研鑽に研鑽を重ねる求道者揃いであったのだ。
無論、出ていった者も少なからず居た。だが、半年と持たずにこの地へと戻り、最期の瞬間まで研鑽に明け暮れていた。
この地は閉じており、外部の人間は入ってこない。しかしそれも、新たな時代を迎えるごとに変わっていった。
己の研鑽のみに費やした武人達は、一人としてマトモに後世へと己の技を残すことをしなかったのだ。
結果、元の本流である剣術が残り末裔である者達は、何かに追い立てられるようにして、己を磨いてきた。
それは、血だ。武人の、そして求道者としての血。或いは魂の形質か。
言うなれば、この島津の末裔達は、求道の血を濃縮された存在と言えよう。
更に面白いのが、彼等はどれかの武術に特化した様に現れる形質があった。
つまり、基礎はジゲン流でありながら、得意な武術は、槍であったり、棍であったり、過去には弓矢であったりもしたのだ。
そして、特化した武術以外には適性が無い。修めようとしても素人に毛が生えたレベルを超えないことが当たり前であった。
因みに補足をすると、このレベルはあくまでも彼等から見ての事。世間一般では十分に一流レベルであったりする。
そんな彼等が剣狂いと呼ばれるゆえんは、単純に剣を振るうものが多いからだ。それ以外は、ここ百年生まれていなかった。
彼等は、剣狂い。武を尊び、血に酔って、魂に従い、他を斬り捨ててきた者達。
忘れるなかれ。彼らの前に法はない。
彼らの刃こそが法なのだ。
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島津暮人のデータ録り、二戦目。相手は、イギリス国家代表候補生セシリア・オルコット。
彼女の機体は、第三世代ブルー・ティアーズ。
白式が近距離格闘特化であるのに対して、この機体は遠中距離に特化した射撃型。四つのレーザービットとレーザーライフルを主武装としており、場合によっては完封することも可能だ。
「漸く、相対することが出来ましたわね」
「……………」
「私としましても、貴方に恨みはありません。けれど、一夏さんの仇は討たせて貰いますわ」
セシリアは、スターライトmk.Ⅲを構えると銃口を暮人へと向けた。
「…………フゥ」
対する暮人は、蜻蛉をとる。
一夏相手には、とらなかった事だがあの時は力の差がハッキリとあることが分かっていた為だ。
彼の武装は、刀一振り。そしてISは言うなればパワードスーツ。服と何ら変わらない。アシスト機能などはあれども、その実力は本人の技量に左右される。
それ故に、前回は数秒で詰められる一夏に対して後出しで掲げて振り下ろす、という動作を以て迎撃した。
この振りは、極限まで絞られており、掲げて振り下ろす迄に一秒も掛からない。それどころか、大抵の相手では、その動作を目で追うことも出来ないだろう。
そして、今回だが暮人の警戒は相手が銃である事に起因している。
銃の利点は、その簡易性。引き金を引くだけで命を奪う、若しくは相手へと致命的なダメージを与えることが可能な点か。
更に距離があることによって、相手は精神的に乱れることが少なくなる。一方的な展開ならば尚更だ。
重要なのは、距離の詰め方。ただ、避けるのではなく、相手にプレッシャーを掛けつつ進むことで余裕を奪うことから始める。
『試合開始!』
「狙い撃ちますわ!!」
開始と同時に放たれるレーザー射撃。いや、狙撃か。
だが、今回の場合は狙撃の利点が潰されている。
本来ならば、一方的に見れる状況で一射一殺がベスト。
正直な所、セシリアの装備はスナイパーライフルではなくアサルトライフルの方が一対一の場面では脅威足り得るのではないだろうか。
迫り来るレーザーに対して、暮人は前へと一歩踏み出していた。
たったそれだけの動作で、レーザーは彼の真横を突き抜ける。
そう、彼は斜め前へと踏み出していたのだ。これにより体が踏み出した足へと引き寄せられ、レーザーをすり抜けるような形となった。
そのままジリジリと摺り足で、彼は距離を詰めていく。
焦って距離を詰めるなど、愚者のすることだ。
情報は、戦闘時に何にも勝るアドバンテージ。知っている、と知らないではその差を大きい。
情報収集を怠らない暮人は、短い時間であったが、セシリアの情報は集めている。
その上で、脅威足り得ないが、一発逆転の可能性有り、という判断を下していた。
今のところ、想定の域を逸脱していない。
対して、セシリアは焦っていた。先程から狙撃しているのだが、一向に当たる気配が無い。
「ッ!ブルー・ティアーズ!」
そこで彼女は次の手を切った。出現する四つのレーザービット。
それらは、縦横無尽に飛び交いながら、その銃口を暮人へと向けている。
しかし、狙われた当人が注目しているのはビットではない。
(動きは、無し。違和感もないから、誘いも無し)
セシリア本人の動きであった。
彼女の扱うビットは、脳波によって操るマニュアル式。つまり、複雑な動作をさせるために指令を送らねばならない。
そして、人間の頭は理知的であるほどに固くなり、思考が一極化しやすくなる。
今のセシリアは正にそれ。即ち、ビットに集中すれば動きが鈍り、逆ならばビットの動きが鈍る。
「……………もう、良いか」
「え……………」
全ての射撃を前進しながら透かしていた暮人は、ここに来て構えを変えた。
蜻蛉から、更に攻撃的な刀を担ぎ上げた形になったのだ。
この姿勢から放てるのは、振り下ろしのみ。技巧を凝らさないシンプルな一刀両断を可能としてくれる、そんな構えだ。
更にここで動きが変わる。
先程までは前進のみであったが、今は距離を詰めながら的確に全ての射撃を躱していた。
背後から、死角から、その全てを見ずに躱す。
もっとも、ISにはハイパーセンサーがあるため死角は実質無いようなものなのだが、そこは扱う人間の意識の問題。どれだけ便利な目を得ても、長年の習性はそう簡単に拭えるものではない。
暮人が見ているのは、相手の呼吸だ。この場合は、発砲のタイミング。
人間、どれだけランダムにしているつもりでも、何処かで法則性が出来ているものなのだ。
セシリアの場合は、ビットによる発射のタイミング。番号でも振ってあるのか、1、2、3、4、と規則正しく放たれているのだ。
発射の間隔こそバラバラだが、癖なのか必ずその順番通り。
ここまで来ると相手の裏も勘繰りたくなるが、仮に発射順を変えられても暮人ならば躱せるだろう。
レーザーの嵐を抜け、距離はジワジワと詰まっていく。
そして、遂に接敵。
「くっ!ブルー・ティアーズには―――――」
「ビットは、六基だろ?知ってるさ」
セシリアの言葉を遮り、暮人は掲げた刀を振り下ろす。
ヘッドパーツ、左の鉤爪、ライフル。これらを一太刀で切り捨てられ、刀がアリーナの床に叩き付けられると同時に発生した衝撃によって、彼女の体は吹き飛ばされていた。
摺り足の移動は、思ったよりも速い。それこそ、慣れれば体勢をぶらすことなく走り抜ける事も可能となる。
これも距離を詰められた要因の一つだが、一番は殺気だろう。
彼は、セシリアが飛ぼうとする度に濃密な殺気を叩きつけていた。
飛んだら、何かある。そう思考に染み込ませて動きを封じ、派手だが細かい動きで着実に距離を詰めて斬り伏せる。
IS戦の売りである派手な空中戦こそ無いものの、堅実な立ち回りだ。
そもそも戦いに、派手さなど必要ない。殺し殺されの状況で、魅せるなど余程の馬鹿か或いは頭のネジがおかしい。
先程の斬撃も、本当ならば唐竹割りよろしく、頭の先から股下まで一刀両断となる一撃だ。
殺しはしない。相手は学生で、これは試合で、何より既に決している。
「終わりだ、英人。これ以上は、殺し合いでしか剣は振らん」
「あ、え………………?」
目を白黒とさせるセシリアに背を向けて、暮人はピットへと戻ってしまった。
試合と見れば負けだろう。だが、一人としてその様な感想は持てない。
負けた。それも完膚なきまでに負けた。
たった一太刀で力の差を、根底にまで刻み込まれたようなそんな結果が転がっていた
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「満足したか?先生さんよ。だったら返すぜ」
「出来れば持っていて欲しいのだがな」
「生憎様だ。これ以上は乗らないってのを条件に、今回はこっちが折れてやったんだから諦めな」
暗くなった寮の廊下で、一組の男女が密談を交わす。
二人の間を行き交ったのは、缶コーヒーと鈍色の鎖であった。
「で?何で今回は、あの二人を相手させたんだ?」
「私としては、経験のつもりだ。言っては何だが、認識が甘いからな」
「……………兵器ってか?」
「お前の考えは兎も角、世界の認識の問題だ。ISは兵器、そして扱う者達は―――――兵士だ」
「国家代表に代表候補生。体よく言っても、最初に最前線に立つのが決まってるしな」
「それだけではない。適性を鼻に掛ける者も居るが、あれは国が戦力を測るために導入したものだ。高い適性ほど、危険な場所へと送られる事になるだろう」
「なのに世の中、権利団体やら何やらが動いてるんだったな」
下らねぇ。中身が空になった缶を握り潰した彼は、そう呟いて壁にもたれ掛かる。
「戦争、利権、世の中どこでもそんなもんか」
「人間は、争いによってここまで来たからな」
「ま、だろうね。他人の腹の内側なんて一から百まで知れるはずもない。だったらしんじられねぇっすわ」
「………………」
「国の争いは、縄張り争い。猿と何ら変わらん」
近くのゴミ箱に缶が投げ入れられ、軽い音をたてた。
「お前は、随分と過激な思考をするな」
「事実じゃねぇか」
この夜の会話は、誰も知らない。